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あの日の出来事
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あれは大希が生まれて間もない頃だったから、28年近く前になるな。
秋晴れの清々しい陽気だった。
その日、俺と母さんは英子の見舞いに行っていた。元々虚弱だった彼女は、妊娠・出産でかなり消耗してしまっていて、体力が回復するまで退院していなかったからな。
親父は、葉物野菜の植え付け作業を手伝いに近所の家に行って不在で、この家には生後1ヶ月ちょっとの大希と当時小学生の雅志だけだった。
子供の雅志に子守を頼むのは心配だったが、父さんは隣家にいるし、俺たちも昼には戻るつもりでいたから大丈夫だと思ったんだ。
だが、甘かった。
帰ってくるなり、血相変えた親父が「大希が誘拐された」って駆け回っていたんだ。近所の人も農作業を放り出し総出で捜索してくれていて、玄関先では雅志が狂ったみたいに泣いていた。
俺にしがみついて、しゃくりをあげながら懸命にこう言ったんだ。
「猿の妖怪が大希を連れてった」
すぐに猩々の仕業だと分かった。
猩々も他の妖怪たちと同様に、俺が子供の頃からイタズラを仕掛けて遊んでいる相手だった。
大概はやられっぱなしになる妖怪たちだが、猩々は違った。こいつはいつも似たような仕返しをしてくるんだ。
それが面白くて、一番遊んでいた妖怪だった。
ずっと前にしたイタズラの中に、猩々の目を盗んで猿たちを誘導して、納屋に閉じ込めて隠したってことがあった。その頃は俺も子供で悪気はなかったが、今思えば酷いイタズラだ。
まさかその仕返しを?
俺は天狗たちに頼み、猩々の行方を探した。当時も住処が分からず、人と妖怪との山狩りは数日間に渡った。
10日後、猿の群れと一緒に山を下りてきた猩々を近所の人が見つけて、無事大希を奪還できたんだ。
猩々は、ほんの1晩連れていただけだと言った。だが、奴の住処と麓の時間経過は同じではない。俺にも経験があるから知っている。
この辺りの人がいう「神隠し」ってやつだ。
選りに選って、生まれたばかりの赤ん坊に手を出すとは!
俺たちは烈火のごとく怒り、散々仕置きをした後で山から下りて来るなと追い立てた。二度と俺たちに関わるなと誓わせてからな。
かわいそうだったのは、雅志だ。
雅志は・・・
ずっと自分のせいだと泣き続けていた。飯も食わず、ろくに眠らず、ただ「ごめんなさい」と繰り返すだけで、はつらつとした面影が別人みたいにげっそりしてしまっていた。
俺が子守を頼んだばかりに、まだ12歳の弟を深く傷つけてしまった・・・
不憫で見ていられなかった。なんとかして忘れさせてやるしかないと思ったんだ。
そこで俺たちは、大希が戻ったその日の夜、大天狗を呼び、その神通力によってここ数日間の記憶と共に雅志の目を『塞いだ』んだ。
そう、あの日まで雅志も俺たちと同じように人ではない存在が見えてたんだよ。
その後、風邪をこじらせた英子が肺炎で亡くなったことを機に、俺は大希を連れてこの家を離れることにしたんだ。
目を塞がれた雅志を残していくことは気がかりだったが、すべては大希の安全のためだった。
そう、全部お前のためだったんだ。
秋晴れの清々しい陽気だった。
その日、俺と母さんは英子の見舞いに行っていた。元々虚弱だった彼女は、妊娠・出産でかなり消耗してしまっていて、体力が回復するまで退院していなかったからな。
親父は、葉物野菜の植え付け作業を手伝いに近所の家に行って不在で、この家には生後1ヶ月ちょっとの大希と当時小学生の雅志だけだった。
子供の雅志に子守を頼むのは心配だったが、父さんは隣家にいるし、俺たちも昼には戻るつもりでいたから大丈夫だと思ったんだ。
だが、甘かった。
帰ってくるなり、血相変えた親父が「大希が誘拐された」って駆け回っていたんだ。近所の人も農作業を放り出し総出で捜索してくれていて、玄関先では雅志が狂ったみたいに泣いていた。
俺にしがみついて、しゃくりをあげながら懸命にこう言ったんだ。
「猿の妖怪が大希を連れてった」
すぐに猩々の仕業だと分かった。
猩々も他の妖怪たちと同様に、俺が子供の頃からイタズラを仕掛けて遊んでいる相手だった。
大概はやられっぱなしになる妖怪たちだが、猩々は違った。こいつはいつも似たような仕返しをしてくるんだ。
それが面白くて、一番遊んでいた妖怪だった。
ずっと前にしたイタズラの中に、猩々の目を盗んで猿たちを誘導して、納屋に閉じ込めて隠したってことがあった。その頃は俺も子供で悪気はなかったが、今思えば酷いイタズラだ。
まさかその仕返しを?
俺は天狗たちに頼み、猩々の行方を探した。当時も住処が分からず、人と妖怪との山狩りは数日間に渡った。
10日後、猿の群れと一緒に山を下りてきた猩々を近所の人が見つけて、無事大希を奪還できたんだ。
猩々は、ほんの1晩連れていただけだと言った。だが、奴の住処と麓の時間経過は同じではない。俺にも経験があるから知っている。
この辺りの人がいう「神隠し」ってやつだ。
選りに選って、生まれたばかりの赤ん坊に手を出すとは!
俺たちは烈火のごとく怒り、散々仕置きをした後で山から下りて来るなと追い立てた。二度と俺たちに関わるなと誓わせてからな。
かわいそうだったのは、雅志だ。
雅志は・・・
ずっと自分のせいだと泣き続けていた。飯も食わず、ろくに眠らず、ただ「ごめんなさい」と繰り返すだけで、はつらつとした面影が別人みたいにげっそりしてしまっていた。
俺が子守を頼んだばかりに、まだ12歳の弟を深く傷つけてしまった・・・
不憫で見ていられなかった。なんとかして忘れさせてやるしかないと思ったんだ。
そこで俺たちは、大希が戻ったその日の夜、大天狗を呼び、その神通力によってここ数日間の記憶と共に雅志の目を『塞いだ』んだ。
そう、あの日まで雅志も俺たちと同じように人ではない存在が見えてたんだよ。
その後、風邪をこじらせた英子が肺炎で亡くなったことを機に、俺は大希を連れてこの家を離れることにしたんだ。
目を塞がれた雅志を残していくことは気がかりだったが、すべては大希の安全のためだった。
そう、全部お前のためだったんだ。
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