僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

文字の大きさ
上 下
39 / 66

カブトムシが欲しい

しおりを挟む
7月19日夜


「カブトムシを捕まえに行きたい」

「はい?」

定位置の三枚重ねのザブトンの上から、姫様は家来に突飛な使命を申しつけた。

「立派な角を持つ大きな雄が良い」

そう言いながら両腕を思いっきり広げて、巨大な角を表現している。
そんな常識外れにデカいカブトムシ、いたら危険すぎて山歩けないよ。そのサイズ、絶対肉食じゃない?

「ほら、行くぞ。早う、支度せい!」

「ちょっと待ってよ。どうしたの?なんで突然カブトムシ欲しくなったの?」

顔を紅潮させて興奮している松姫ちゃんは、夕方起きてきた時にテレビで観た、ローカルニュースの内容を話し出した。

「虫同士で力強く相撲をしておったのじゃ!こう、相手を下から突き上げて、ポンと投げて土俵から放り投げてな。妾もそれがしたくてたまらぬ」

「カブト相撲がしたいってこと?」

「そうじゃ」

小さな拳を握りしめ、僕の膝に座っている清蟹くんに「清も相撲好きじゃろう?」と仲間に取り込もうとしている。

「大希殿、我も相撲しとうござる!お供つかまつる!」

「え!マジで今から探しに行くの?夜だよ?明日ホームセンターで買えばいいじゃん」

「何を戯けたことを申すか!」

僕の言葉に松姫ちゃんの顔色が変わった。

「養殖の温室育ちの虫では話にならん!荒野で逞しく、己の力だけで生き抜いた虫でなければ、良き力士になれぬのじゃ!」

「荒野って・・・」

「今宵見つけられねば、手討ちにしてくれようぞ!」

手打ちって、何なの?お仕置きのこと?

座布団から飛び降りて僕の背中をドスドス蹴りつける松姫ちゃんは、なにがなんでもカブト相撲をしたいようだ。欲求が果たされるまで、諦める気配はないっぽい。

「我が案内いたそう。谷川沿いに良きクヌギの木が繁っている森がある故」

嘘でしょ?この状況で、清蟹くんまで遣る気になちゃったの?いやだな、真っ暗な夜の山の中を歩き回るなんて。

「そ、そうだ。闇雲に捜索したって強いカブトムシを上手く見つけられないかもよ?ちゃんと下準備してからにしてみない?」

馬鹿にしたように目を細めて僕を見る松姫ちゃんは、フンと鼻で笑った。

「臆したか。夜の山が怖いのであろう?」

「違います!効率よく行動したいだけです。昔の合戦だって、事前に情報集めて戦略を練るでしょ?」

確か、カブトムシを捕まえるトラップを仕掛けて早朝確認に行く方法があった気がする。そうすれば、夜の山に僕の悲鳴が響くことは避けられる。

「なるほど、戦にたとえるとは賢いな。見直したぞ、大希」

「それで、どういう手法で捕らえるでござるか?参謀殿」

「清蟹くんが教えてくれたポイントに明日の昼間に罠を仕掛けて、一晩経ってから捕まえに行くんだよ」

「相分かった!」

僕たちはさっそく、ノートパソコンでカブトムシの捕まえ方を検索して、ペットボトルを使ってトラップの仕掛けを作り始めた。
バナナで餌を作るって、初めて知ったよ。

こんなこと、子供の頃にもやったことない。

カブトムシやクワガタは飼ったことあるけど、みんな買ってきたものだけで自分で捕まえたことは一度もなかった。兄弟もいないし、父さんはこういうことを面倒くさいってやりたがらなかったから、スゴく新鮮で面白い。

もう大人だけど、夏休みがもう一回やってきたみたいで、ちょっとわくわくした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

あやかし猫の花嫁様

湊祥@書籍13冊発売中
キャラ文芸
アクセサリー作りが趣味の女子大生の茜(あかね)は、二十歳の誕生日にいきなり見知らぬ神秘的なイケメンに求婚される。 常盤(ときわ)と名乗る彼は、実は化け猫の総大将で、過去に婚約した茜が大人になったので迎えに来たのだという。 ――え⁉ 婚約って全く身に覚えがないんだけど! 無理! 全力で拒否する茜だったが、全く耳を貸さずに茜を愛でようとする常盤。 そして総大将の元へと頼りに来る化け猫たちの心の問題に、次々と巻き込まれていくことに。 あやかし×アクセサリー×猫 笑いあり涙あり恋愛ありの、ほっこりモフモフストーリー 第3回キャラ文芸大賞にエントリー中です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...