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真っ白なモフモフ
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7月14日夜更け
「妾は何も知らん」
三段重ねの座布団の上にふんぞり返った松姫ちゃんはそう言い切った。
「昼間に起こった出来事は、昭夫や文代が教えてくれねば分からん」
「そうだよね。やっぱり」
僕はため息をつきながら、削り終わった色鉛筆を置き、芯の丸いものと替えた。
昼間、大天狗に言われたことが気になって松姫ちゃんに訊いたけど、予想通りの返しだった。何か知っていそうな天狗も、夕方までのらくらかわしているうちに、お兄さんたちが乗りこんで来て強制的に山に帰っていった。
他に過去の話を知っている可能性があるのは、あんご爺ちゃんだろうけど今日は行水に来なかった。蟒蛇は井戸から出てこない。
後は父さんたちに訊くしかないか・・・
そう考え事しながら色鉛筆を削っていると、威勢のいい挨拶と共に清蟹くんがやって来た。初日にビビらされた叔父さんが出て行ったことで安心して遊びに来たらしい。
「年に一回しかここへ来ない清蟹くんに訊いても分かんないよね」
「何のことでござるか?」
「ううん。なんでもないよ」
「これ!無駄口たたかずに、早う道具の支度をせい」
どこから持ち出したものなのか、松姫ちゃんは紙の筒で僕を小突いて急かした。
「無地の紙って言ったけど、それ何の紙?」
「障子紙じゃ」
「え!半紙じゃないの?無地の紙とは言ったけど、障子紙なんてちゃんと絵が描けるの?」
「贅沢だ。かけ出しの絵師にもなっておらぬ半端者にはこれで充分じゃ」
「・・・そうですね」
今夜は、ご主人様が絵師としての才能を判別したいということで、絵の道具をあれこれ用意させられた。
今削っているのは、父さんが子供の頃に使っていた年代物の色鉛筆。その他にも、マジックや筆ペンなども揃っている。
「大希殿は絵を嗜まれるのでござるか?」
「そうじゃ。ゆくゆくは絵師として食っていきたいと申しておる」
「おぉ!それは志が高うござるな」
子供たちはキャッキャとはしゃいでいる。まったく、僕の気持ちも知らないで。
今から何かを始めるには年齢的に遅いと気がする。それに絵に対する情熱が、今の僕にはもう・・・
「松姫ちゃん、準備できたよ。紙をちょうだ・・・え?何、その肩の白いやつは?」
絵を描く無地に紙を差し出す松姫ちゃんの両肩に何かが乗っている。ふわふわで真っ白なそれは、スルッと動いて彼女の頭に登った。
「稲荷じゃ。初見か?」
「初めて見るよ。コイツらが僕に悪夢を見せてたお稲荷さん?」
キュッとこっちを見る2つの顔はそっくりで可愛らしい。長いしっぽを揺らし方がシンクロしてる。
「可愛いね」
思わず手を伸ばすと、サッと松姫ちゃんの背後に隠れた。
「妾と文代には懐いておるが、他の者には触れはせぬよ」
餌付けした人が一番強いのか。そりゃ、僕は油揚げつくれないけどさ。
お稲荷さんは小さな狐だった。それぞれ額に紅い模様があって、細く鋭い目でじっと僕のことを観察している。
くそ!触りたい。こんな可愛い妖怪とふれ合えないなんてもったいない!
これで父さんから託された作業一覧にある妖怪たちとの出会いをコンプリートできた 。どうせならもっと仲良くなりたいな。
「ここにいるうちに、絶対モフモフしてやるからね」
そんなことを考えながら、僕はお子様たちにリクエストされるままにイラストを描きまくって夜を過ごした。
「妾は何も知らん」
三段重ねの座布団の上にふんぞり返った松姫ちゃんはそう言い切った。
「昼間に起こった出来事は、昭夫や文代が教えてくれねば分からん」
「そうだよね。やっぱり」
僕はため息をつきながら、削り終わった色鉛筆を置き、芯の丸いものと替えた。
昼間、大天狗に言われたことが気になって松姫ちゃんに訊いたけど、予想通りの返しだった。何か知っていそうな天狗も、夕方までのらくらかわしているうちに、お兄さんたちが乗りこんで来て強制的に山に帰っていった。
他に過去の話を知っている可能性があるのは、あんご爺ちゃんだろうけど今日は行水に来なかった。蟒蛇は井戸から出てこない。
後は父さんたちに訊くしかないか・・・
そう考え事しながら色鉛筆を削っていると、威勢のいい挨拶と共に清蟹くんがやって来た。初日にビビらされた叔父さんが出て行ったことで安心して遊びに来たらしい。
「年に一回しかここへ来ない清蟹くんに訊いても分かんないよね」
「何のことでござるか?」
「ううん。なんでもないよ」
「これ!無駄口たたかずに、早う道具の支度をせい」
どこから持ち出したものなのか、松姫ちゃんは紙の筒で僕を小突いて急かした。
「無地の紙って言ったけど、それ何の紙?」
「障子紙じゃ」
「え!半紙じゃないの?無地の紙とは言ったけど、障子紙なんてちゃんと絵が描けるの?」
「贅沢だ。かけ出しの絵師にもなっておらぬ半端者にはこれで充分じゃ」
「・・・そうですね」
今夜は、ご主人様が絵師としての才能を判別したいということで、絵の道具をあれこれ用意させられた。
今削っているのは、父さんが子供の頃に使っていた年代物の色鉛筆。その他にも、マジックや筆ペンなども揃っている。
「大希殿は絵を嗜まれるのでござるか?」
「そうじゃ。ゆくゆくは絵師として食っていきたいと申しておる」
「おぉ!それは志が高うござるな」
子供たちはキャッキャとはしゃいでいる。まったく、僕の気持ちも知らないで。
今から何かを始めるには年齢的に遅いと気がする。それに絵に対する情熱が、今の僕にはもう・・・
「松姫ちゃん、準備できたよ。紙をちょうだ・・・え?何、その肩の白いやつは?」
絵を描く無地に紙を差し出す松姫ちゃんの両肩に何かが乗っている。ふわふわで真っ白なそれは、スルッと動いて彼女の頭に登った。
「稲荷じゃ。初見か?」
「初めて見るよ。コイツらが僕に悪夢を見せてたお稲荷さん?」
キュッとこっちを見る2つの顔はそっくりで可愛らしい。長いしっぽを揺らし方がシンクロしてる。
「可愛いね」
思わず手を伸ばすと、サッと松姫ちゃんの背後に隠れた。
「妾と文代には懐いておるが、他の者には触れはせぬよ」
餌付けした人が一番強いのか。そりゃ、僕は油揚げつくれないけどさ。
お稲荷さんは小さな狐だった。それぞれ額に紅い模様があって、細く鋭い目でじっと僕のことを観察している。
くそ!触りたい。こんな可愛い妖怪とふれ合えないなんてもったいない!
これで父さんから託された作業一覧にある妖怪たちとの出会いをコンプリートできた 。どうせならもっと仲良くなりたいな。
「ここにいるうちに、絶対モフモフしてやるからね」
そんなことを考えながら、僕はお子様たちにリクエストされるままにイラストを描きまくって夜を過ごした。
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