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茶色い団子と黒いモノ
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7月9日午前
「18時28分・・・これでよし」
日没時刻の30分前にスマホのアラームをセットした。こうすれば松姫ちゃんが目覚める頃まで秋香さんと話し込むヘマはしないと思う。
「女の人の嫉妬は怖い・・・」
松姫ちゃんに懐かれるのは嬉しいけど、あんなにヤキモチ焼きだとは思わなかった。模造刀で打たれた背中は痣だらけになっている。
「さて、始めますか」
遅めの朝食を済ませて、作業を片づけるために外へ出た。
「昨夜はすまなかったでござる」
「あ、いらっしゃい。清蟹くん」
しょんぼりしている清蟹くんに「僕の自業自得だから、気にしないで」と慰めながら、蟒蛇に日本酒を届けに行く。
「お~い、蟒蛇。お酒ばっかりで大丈夫?夏バテしてない?」
「・・・」
人見知りの大蛇は相変わらず井戸から出てこないけど、御神酒が減るってことは元気なのだろう。
「あ!」
僕は、面白いことをひらめいた。
ここでの作業の裏には妖怪や神様がいるらしい。
と言うことは、他の人外のモノにも会うことができるってことだよね。蟒蛇とか清蟹くんみたいな奴なら、一人きりの留守番もたいくつしないかも。
「試してみよう」
「何を試すのでござるか?」
清蟹くんも年に1度しか集落に来ないから、松姫ちゃん以外には会ったことがないようだ。
田畑に仕掛けた猿避けの電柵チェックだけやって、裏庭の木桶をひっくり返して水をこぼし、枡の小豆をジャガイモに入れ替えておいた。
さて、どんなモノが出てくるかな・・・
のんびり庭に打ち水をしながら待っていると、納屋の方から奇声が上がった。
「やった!清蟹くん、行ってみよう」
「おう!」
水まきのバケツを放って納屋へ駆けつけると、そこには茶色い物体がうごめいていた。
一塊になっているモコモコには、ところどころに黒い縞模様があって、手や足が見え隠れしている。
この生き物は・・・
「大希殿、これは狸でござるぞ」
「うん。狸だ」
小さい狸の群れが、枡に入ったジャガイモを取っては投げ取っては投げしていた。そのたびにキィ!と鳴いている。
転がったジャガイモには、ちっちゃな噛み跡が残ってるけど食べてはいない。
「祖父ちゃん、野生の狸に餌づけしてたのか?」
ジャガイモを投げまくる狸の群れの、もぞもぞする動きがさらに激しくなった。もしかして怒ってる?
「空腹で殺気だってるのかな」
狸たちはジャガイモは嫌いらしい。意地悪して悪かったな。
「イタズラしてゴメンね。ほら、いつもの小豆だよ」
僕は小豆を入れた枡をキィキィ騒ぐ狸たちの近くに置くと、茶色い団子のもぞもぞがピタッと止まった。
「マメ」
「まめ?」
そう言ったように聞こえた。
「マメ、マメ!」
!?
「今、絶対『豆』って言ったよね?」
この狸たちもやっぱり妖怪?
僕を押しのけドバッと小豆の枡に飛びついた狸たちは、一塊になってボリボリむさぼり食い始めた。見た目はどう見ても狸だ。
じゃ、しゃべった思ったのは僕の勘違い?奇妙なことが起こりすぎて感覚が麻痺してて、動物の鳴き声が人語に聞こえたとか?
「病んでるのかな、僕・・・」
ぼんやりと茶色い団子が小豆を食う様子を見つめていると、清蟹くんがスゴい勢いで手を引っ張った。
「だ、大希殿!後ろ、後ろ!」
「どうしたの?」
怯える清蟹くんが裏庭の方を指さしている。そこには真っ黒い何かがいて、ズルっズルッと這っていた。
「久志ぃ・・・久志ぃ・・・」
「な、何?何?」
黒い何かが通った砂利の上は濡れている。伸ばされた手足には水掻きがあって、丸い体を重そうに引きずって近づいて来る。
ちょっと待って!こっちはどう見ても妖怪じゃない?しかもヤバいタイプじゃない?
「大希殿、わ、我は急用を思い出したので、これにて御免!」
「あ!清蟹くん、また逃げるの?ズルい!」
ジリジリとこっちに向かって来る黒い何かにビビって動けなくなった僕は、作業に手を加えたことを心から後悔した。
祖父ちゃん言いつけ破ってゴメン!僕、もうすぐ食われるかも?
「18時28分・・・これでよし」
日没時刻の30分前にスマホのアラームをセットした。こうすれば松姫ちゃんが目覚める頃まで秋香さんと話し込むヘマはしないと思う。
「女の人の嫉妬は怖い・・・」
松姫ちゃんに懐かれるのは嬉しいけど、あんなにヤキモチ焼きだとは思わなかった。模造刀で打たれた背中は痣だらけになっている。
「さて、始めますか」
遅めの朝食を済ませて、作業を片づけるために外へ出た。
「昨夜はすまなかったでござる」
「あ、いらっしゃい。清蟹くん」
しょんぼりしている清蟹くんに「僕の自業自得だから、気にしないで」と慰めながら、蟒蛇に日本酒を届けに行く。
「お~い、蟒蛇。お酒ばっかりで大丈夫?夏バテしてない?」
「・・・」
人見知りの大蛇は相変わらず井戸から出てこないけど、御神酒が減るってことは元気なのだろう。
「あ!」
僕は、面白いことをひらめいた。
ここでの作業の裏には妖怪や神様がいるらしい。
と言うことは、他の人外のモノにも会うことができるってことだよね。蟒蛇とか清蟹くんみたいな奴なら、一人きりの留守番もたいくつしないかも。
「試してみよう」
「何を試すのでござるか?」
清蟹くんも年に1度しか集落に来ないから、松姫ちゃん以外には会ったことがないようだ。
田畑に仕掛けた猿避けの電柵チェックだけやって、裏庭の木桶をひっくり返して水をこぼし、枡の小豆をジャガイモに入れ替えておいた。
さて、どんなモノが出てくるかな・・・
のんびり庭に打ち水をしながら待っていると、納屋の方から奇声が上がった。
「やった!清蟹くん、行ってみよう」
「おう!」
水まきのバケツを放って納屋へ駆けつけると、そこには茶色い物体がうごめいていた。
一塊になっているモコモコには、ところどころに黒い縞模様があって、手や足が見え隠れしている。
この生き物は・・・
「大希殿、これは狸でござるぞ」
「うん。狸だ」
小さい狸の群れが、枡に入ったジャガイモを取っては投げ取っては投げしていた。そのたびにキィ!と鳴いている。
転がったジャガイモには、ちっちゃな噛み跡が残ってるけど食べてはいない。
「祖父ちゃん、野生の狸に餌づけしてたのか?」
ジャガイモを投げまくる狸の群れの、もぞもぞする動きがさらに激しくなった。もしかして怒ってる?
「空腹で殺気だってるのかな」
狸たちはジャガイモは嫌いらしい。意地悪して悪かったな。
「イタズラしてゴメンね。ほら、いつもの小豆だよ」
僕は小豆を入れた枡をキィキィ騒ぐ狸たちの近くに置くと、茶色い団子のもぞもぞがピタッと止まった。
「マメ」
「まめ?」
そう言ったように聞こえた。
「マメ、マメ!」
!?
「今、絶対『豆』って言ったよね?」
この狸たちもやっぱり妖怪?
僕を押しのけドバッと小豆の枡に飛びついた狸たちは、一塊になってボリボリむさぼり食い始めた。見た目はどう見ても狸だ。
じゃ、しゃべった思ったのは僕の勘違い?奇妙なことが起こりすぎて感覚が麻痺してて、動物の鳴き声が人語に聞こえたとか?
「病んでるのかな、僕・・・」
ぼんやりと茶色い団子が小豆を食う様子を見つめていると、清蟹くんがスゴい勢いで手を引っ張った。
「だ、大希殿!後ろ、後ろ!」
「どうしたの?」
怯える清蟹くんが裏庭の方を指さしている。そこには真っ黒い何かがいて、ズルっズルッと這っていた。
「久志ぃ・・・久志ぃ・・・」
「な、何?何?」
黒い何かが通った砂利の上は濡れている。伸ばされた手足には水掻きがあって、丸い体を重そうに引きずって近づいて来る。
ちょっと待って!こっちはどう見ても妖怪じゃない?しかもヤバいタイプじゃない?
「大希殿、わ、我は急用を思い出したので、これにて御免!」
「あ!清蟹くん、また逃げるの?ズルい!」
ジリジリとこっちに向かって来る黒い何かにビビって動けなくなった僕は、作業に手を加えたことを心から後悔した。
祖父ちゃん言いつけ破ってゴメン!僕、もうすぐ食われるかも?
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