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6.そして向きあう

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 直哉が私を大事に?
「なに、それ」
 思わず笑ってしまう。
 確かにいっぱい助けてもらってるし、そこに感謝はしているけどね。

「男女の友情だって大切に思うんじゃないの?」
 チッチッチッと、コントで見るような手ぶりをオーバーにした千歌は、胸を張って私を見る。
「夕映は学校の成績はいいけど、恋愛偏差値低いからね。気づかないんでしょ、人の気持ちにも、自分の気持ちにも」
「自分?」
「そ。その直哉くんのこと、本当に友達だと思っているの? あたしや、学校のお友達と同じ枠組みに、彼は入っているの?」
「そんなの、考えたこともないよ。そもそも直哉は腐れ縁だもん」
「その“腐れ縁”って、そう言えるほどお互いが近いんだって、考えたことある?」

 お互いが近い……。
 確かに直哉との関係は他の誰とも違う特別なものだと思う。
 でもそれが、千歌や真夏ちゃんたちが思っているような意味合いかどうかは、わからない。
 考え込んでしまった私に、千歌が小さく息を吐いて笑った。

「ごめん、余計なお節介だったかな。忘れて」
「え?」
「つい面白がって突っ込んじゃったけど、彼が夕映にとってどういう存在かは、お互いが納得していればそれでいいんだし」
 私にとって直哉がどんな存在か、か。
 考えたことなかったな。子供の頃もだし、再会してからも、そこにいるのが当たり前すぎるんだもん。

「千歌は、彼とか、いるの?」
「あたし? いるわけないじゃん」
「ちょっ、いないのにあんな偉そうに言ったわけ?」
「でも、好きな人はいるよ」
 ふふっと頬を赤らめながら、千歌が笑った。
 千歌のその表情は今まで見たことがなくて、いつもより可愛く見える。

「気がついたらその人の姿を探しているし、一言でも話せたらその日は一日中、空を飛べるんじゃないかってくらい、ふわふわするの。逆に彼が他の女の子と仲良くしていたら、胸が締め付けられるくらい苦しくなるし、彼の姿を見つけられなかった日は、一日つまらないの」
 中学生時代、恋の話なんてしたことがなかったから、千歌のこんな表情は見たことがなかった。
 バスケ以外ではテレビの俳優やアイドルの話はしたけれど、リアルにはまったく触れてこなかったのに。

 それにしても、千歌の今の話を聞くと、直哉に当てはまるところはほとんどなかった。
 直哉と話せるのは当たり前のことだし、直哉が『カスミ』に毎日来ていたわけじゃないから、会えない事もそれなりにあったし。他の女の子とか……。
「そういえば直哉が他の女の子と話しているの、みたことがないなぁ」
 女友達とか、いるのかな? 逆を聞かれれば私は男友達いないんだけどさ。

「やっぱり、夕映は特別なんじゃない」
「特別? 私が?」
「大事にされているのよ。ちゃんと向き合ってごらんなさいな」
「なによ、急にお姉さんぶって」
「少なくともこの面では、あたしの方がお姉さんよ。さ、そろそろ帰ろう。もう外、真っ暗になっちゃったよ」
 千歌に言われて窓の外を見れば、陽は完全に落ちていた。

「やばっ、遅くなりすぎるとお母さんに怒られる」
 慌てて身支度を整えてレジへと向かいながら、この店に来た夕方の自分を思い出す。
 あんなに強張っていたのが嘘みたいに、自然と話せていることが嬉しくて仕方がない。

「千歌、今日は本当にありがとうね」
 背中越しにぽそっと声をかければ、千歌は振り返って柔らかく微笑んだ。
「こっちこそ、だよ。でも、今日で終わりじゃないよね?」
「……もちろん!」
 もう繋がれないと思っていた絆を取り戻せたこの日は、大げさに聞こえるかもしれないけれど、私にとってはきっと忘れられない一日になる。
 逃げ出した過去にちゃんと向き合えた今、私は少しだけ自分のことを好きになれた。
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