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6.そして向きあう
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今まで会えなかった分を取り戻すかのように、私たちはお互いのことを話し続けた。
千歌は藤咲のレベルが高くて大変だってこと。それでも毎日充実しているんだって楽しそうに話してくれた。
私は『カスミ』でのバイトのこと、真夏ちゃんや渚沙ちゃんっていう新しい友達ができたこと。それから、ミニバスのボランティアコーチを時々していること。
「へぇ~、夕映がコーチね」
「おかしい?」
「ううん。らしいなって思うよ。だって夕映、教えるの上手だもん」
「そうかな」
千歌が瞳をキラキラせて褒めてくれるから、なんだか照れくさくなる。
そういえば、私が一番最初に人にバスケを教えたのって千歌だった。
あっという間に抜かれちゃったけどね。
「夕映は、もう、自分がプレーヤーになろうとは、思わないの?」
意を決したみたいに、真面目な顔をして千歌が聞いてくる。
多分、聞くタイミングをずっと伺っていたんだろうな。
「うん、戻らない」
「それは、あたしのせい?」
「違うよ。それだけは絶対に違う」
確かにキッカケは千歌だった。
どんなに努力しても追いつけない、敵わない。絶望を思い知らされたのは、千歌の存在だった。
だけどそこから逃げ出したのは私の弱さだし、千歌よりもっと上手な人がたくさんいる人を知っている今、あの場所で自分が頑張れるとは到底思えない。
「バスケからずっと逃げていてね、もう向き合えないと思っていたの。だけどミニバスの臨時コーチをやって、子供たちと一緒にバスケをしていたらね、あぁ、バスケってこんなに楽しかったんだなって思い出したの。今の私には、ミニバスで子供たちと一緒に触れあっている方が、好きなんだ」
「そっか。うん、わかった!」
千歌は、どこかで思っていたのかもしれない。また一緒にバスケしたいって。
ごめんね、その気持ちには応えられなくて。
ごめんね、一緒に同じ道を進めなくて。
「ところでさ」
しんみりとした雰囲気から一転、千歌がなんだか目を輝かせている。
なんかそんなに楽しい話題ってあったっけ?
「この前、コンビニで一緒にいたのって、彼氏?」
「――っっ!」
「もう、めちゃくちゃイケメンで優しそうじゃん。いいなー」
「ちがっ、直哉は違うっ! っていうか、あの一瞬でなんで直哉の顔がわかるのよ」
一生懸命否定するものの、千歌は完全に面白がっている。
口元に手を当てながらも、ニヤニヤした口元が隠せていないんだから。
「あの時さ、夕映に逃げられてあたしショックだったんだけど、気がついたら同じように立ち尽くしていたのが彼だったわけ。で、思わず見上げたらイケメンでしょ? そのうえ、まじまじと見ちゃったあたしの視線に気づいたのに、小さくお辞儀して去っていったのよ。かっこよすぎるでしょー!」
「直哉は幼なじみで腐れ縁みたいなものなの。ミニバス時代の仲間で、偶然同じ高校で再会したのよ。ミニバスのボランティアコーチも最初は直哉に引っ張っていかれて、あの日もミニバスの帰りだったのよ」
「ふぅ~ん。引っ張って、ね」
千歌の詮索する瞳は、真夏ちゃんや渚沙ちゃんから向けられたものと同じものを感じる。
「なんでみんな、直哉をそうだと思うのよ」
今日は真夏ちゃんとも同じようなやり取りをしたのを思い出した。
「男女が一緒にいるからって、そうとは限らないでしょ」
「ってことは、学校のお友達からもそう見られているんだね」
そこについては否定できないから、素直に頷いておく。
「確かにさ、男女の友情って成立するし、幼なじみなら尚更、恋愛には発展しないことだってあるよね。でもね」
意味ありげに言葉を区切って、テーブルを挟んでいるのに身を乗り出してきた千歌は、自信たっぷりに言い切った。
「彼が夕映を大事にしているのが、目に見えてわかるからよ。あれは絶対に友情じゃないんだから!」
「って、人に向けて指ささないでよ」
顔すれすれに人差し指を向けられてから、思わず振り払うような仕草をすれば「ごめんごめん」と、千歌は笑って座り直した。
千歌は藤咲のレベルが高くて大変だってこと。それでも毎日充実しているんだって楽しそうに話してくれた。
私は『カスミ』でのバイトのこと、真夏ちゃんや渚沙ちゃんっていう新しい友達ができたこと。それから、ミニバスのボランティアコーチを時々していること。
「へぇ~、夕映がコーチね」
「おかしい?」
「ううん。らしいなって思うよ。だって夕映、教えるの上手だもん」
「そうかな」
千歌が瞳をキラキラせて褒めてくれるから、なんだか照れくさくなる。
そういえば、私が一番最初に人にバスケを教えたのって千歌だった。
あっという間に抜かれちゃったけどね。
「夕映は、もう、自分がプレーヤーになろうとは、思わないの?」
意を決したみたいに、真面目な顔をして千歌が聞いてくる。
多分、聞くタイミングをずっと伺っていたんだろうな。
「うん、戻らない」
「それは、あたしのせい?」
「違うよ。それだけは絶対に違う」
確かにキッカケは千歌だった。
どんなに努力しても追いつけない、敵わない。絶望を思い知らされたのは、千歌の存在だった。
だけどそこから逃げ出したのは私の弱さだし、千歌よりもっと上手な人がたくさんいる人を知っている今、あの場所で自分が頑張れるとは到底思えない。
「バスケからずっと逃げていてね、もう向き合えないと思っていたの。だけどミニバスの臨時コーチをやって、子供たちと一緒にバスケをしていたらね、あぁ、バスケってこんなに楽しかったんだなって思い出したの。今の私には、ミニバスで子供たちと一緒に触れあっている方が、好きなんだ」
「そっか。うん、わかった!」
千歌は、どこかで思っていたのかもしれない。また一緒にバスケしたいって。
ごめんね、その気持ちには応えられなくて。
ごめんね、一緒に同じ道を進めなくて。
「ところでさ」
しんみりとした雰囲気から一転、千歌がなんだか目を輝かせている。
なんかそんなに楽しい話題ってあったっけ?
「この前、コンビニで一緒にいたのって、彼氏?」
「――っっ!」
「もう、めちゃくちゃイケメンで優しそうじゃん。いいなー」
「ちがっ、直哉は違うっ! っていうか、あの一瞬でなんで直哉の顔がわかるのよ」
一生懸命否定するものの、千歌は完全に面白がっている。
口元に手を当てながらも、ニヤニヤした口元が隠せていないんだから。
「あの時さ、夕映に逃げられてあたしショックだったんだけど、気がついたら同じように立ち尽くしていたのが彼だったわけ。で、思わず見上げたらイケメンでしょ? そのうえ、まじまじと見ちゃったあたしの視線に気づいたのに、小さくお辞儀して去っていったのよ。かっこよすぎるでしょー!」
「直哉は幼なじみで腐れ縁みたいなものなの。ミニバス時代の仲間で、偶然同じ高校で再会したのよ。ミニバスのボランティアコーチも最初は直哉に引っ張っていかれて、あの日もミニバスの帰りだったのよ」
「ふぅ~ん。引っ張って、ね」
千歌の詮索する瞳は、真夏ちゃんや渚沙ちゃんから向けられたものと同じものを感じる。
「なんでみんな、直哉をそうだと思うのよ」
今日は真夏ちゃんとも同じようなやり取りをしたのを思い出した。
「男女が一緒にいるからって、そうとは限らないでしょ」
「ってことは、学校のお友達からもそう見られているんだね」
そこについては否定できないから、素直に頷いておく。
「確かにさ、男女の友情って成立するし、幼なじみなら尚更、恋愛には発展しないことだってあるよね。でもね」
意味ありげに言葉を区切って、テーブルを挟んでいるのに身を乗り出してきた千歌は、自信たっぷりに言い切った。
「彼が夕映を大事にしているのが、目に見えてわかるからよ。あれは絶対に友情じゃないんだから!」
「って、人に向けて指ささないでよ」
顔すれすれに人差し指を向けられてから、思わず振り払うような仕草をすれば「ごめんごめん」と、千歌は笑って座り直した。
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