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5.だれしも過去を抱えている
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「再会するまでは、ずっと気になっていたんだ。夕映はどうしてるかな。頑張っているのかな。藤咲で俺がいないことを、夕映はどう思うのかな、って」
「そうだね。もし、藤咲に行ってて、そこに直哉がいなかったら……ぶっ飛ばしたいって思っているかな」
「まじか」
「ふふっ。嘘だよ。多分、直哉が考えることと一緒だと思うよ」
きっと心配しただろうな。どうしたんだろう? 怪我したのかな。元気かな? って。
それで悩むんだ。連絡してもいいかな? それとも、もう忘れちゃったのかな? って。
「もし藤咲に通うくらい私がバスケに対してなんの悩みもない頃なら、直哉がバスケを辞めているっていう発想はしなかっただろうなぁ」
なんだろう? 絶対的な自信があったんだよね。
それくらい、小学生時代の私たちってバスケが大好きで、当たり前のものだったんだ。
「だよな。それがまさか二人とも辞めているなんてな」
「不思議だよね。そして杜野で再会するなんて。私は地元の子は誰も杜野を選ばないと思っていたのに」
だって、うちからだと本当に遠いんだ、杜野って。
うちは県の中央あたりに位置するんだけど、杜野方面よりは反対方面の方が都会的でみんな行きたがる。
学校の選択肢もそっちの方が多いしね。
ちなみに藤咲も反対方面。それもあって私は杜野を選んだから。
「ね、直哉はもう、進路を決めているの?」
さっき、杜野を選んだ理由に進学率って言っていた。
それに三者面談の話をした時にも、直哉はそれほど憂鬱そうじゃなかった。
私みたいに逃げる選択肢で杜野にきたわけじゃないなら、その先も考えてるってこと?
「そうだな。行きたい大学は決まっていないけど、なんとなく将来なりたいものは、あるよ」
「聞いても、いい?」
「あぁ。スポーツトレーナーって、わかるか?」
「うん。プロチームに帯同したりして選手のケアしたりする人だよね?」
昔、まだ藤咲を目指していた頃は、プロのバスケチームの試合も観に行っていた。
SNSもチェックしていたりすると、時々選手のSNSでトレーナーさんが出てきたりしていたから。
「自分でプレーすることは諦めたけどさ。やっぱりバスケは好きだから、なにか関わる職業につきたいなって思ったんだよ」
「そっか、それでスポーツトレーナーか」
人に尽くす、スポーツ選手にとって大切なパートナーとなる職業で、それは直哉に合っていると思った。
なによりきっと、自分が痛みを経験したから、その職業を選んだんだろうな。
自分の経験から、その先の未来へと繋げようとする。
渚沙ちゃんにしても、直哉にしても、すごすぎるよ。
今が精一杯の私には、その先まで見据えている二人が眩しすぎる。
ぶらんこを揺らしながら、つい、足元に目線が下がっていく。
「別に、焦らなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
私の心を見透かしたように欲しい言葉が投げられたから、驚いて直哉を見ると、ニッといたずらっぽく白い歯を見せて笑った。
その笑顔は、小学生の頃によくみた、懐かしい表情だった。
「今時点でなりたいものが決まっている奴なんて一部だし、そもそもそれだってなれるかどうかわからないだろう? 俺だってまた叶わないかもしれない。努力が必ず実るわけじゃないのは、よく知っているだろう」
努力が実るわけじゃない。確かによくわかっている。
どんなに頑張っても、練習を繰り返しても上達しなかったあの頃。
自分が必死に足掻いているその先へ、軽々と羽ばたいていく人の背中を見ることしか出来なかったことも。
「……いじわる」
つい先を見据えている直哉を羨ましいと思ってしまった私に、釘を刺すように辛かったことを引き合いに出してきた直哉を恨めしく睨むと、かつての悪ガキはニヤリと笑った。
「そうだね。もし、藤咲に行ってて、そこに直哉がいなかったら……ぶっ飛ばしたいって思っているかな」
「まじか」
「ふふっ。嘘だよ。多分、直哉が考えることと一緒だと思うよ」
きっと心配しただろうな。どうしたんだろう? 怪我したのかな。元気かな? って。
それで悩むんだ。連絡してもいいかな? それとも、もう忘れちゃったのかな? って。
「もし藤咲に通うくらい私がバスケに対してなんの悩みもない頃なら、直哉がバスケを辞めているっていう発想はしなかっただろうなぁ」
なんだろう? 絶対的な自信があったんだよね。
それくらい、小学生時代の私たちってバスケが大好きで、当たり前のものだったんだ。
「だよな。それがまさか二人とも辞めているなんてな」
「不思議だよね。そして杜野で再会するなんて。私は地元の子は誰も杜野を選ばないと思っていたのに」
だって、うちからだと本当に遠いんだ、杜野って。
うちは県の中央あたりに位置するんだけど、杜野方面よりは反対方面の方が都会的でみんな行きたがる。
学校の選択肢もそっちの方が多いしね。
ちなみに藤咲も反対方面。それもあって私は杜野を選んだから。
「ね、直哉はもう、進路を決めているの?」
さっき、杜野を選んだ理由に進学率って言っていた。
それに三者面談の話をした時にも、直哉はそれほど憂鬱そうじゃなかった。
私みたいに逃げる選択肢で杜野にきたわけじゃないなら、その先も考えてるってこと?
「そうだな。行きたい大学は決まっていないけど、なんとなく将来なりたいものは、あるよ」
「聞いても、いい?」
「あぁ。スポーツトレーナーって、わかるか?」
「うん。プロチームに帯同したりして選手のケアしたりする人だよね?」
昔、まだ藤咲を目指していた頃は、プロのバスケチームの試合も観に行っていた。
SNSもチェックしていたりすると、時々選手のSNSでトレーナーさんが出てきたりしていたから。
「自分でプレーすることは諦めたけどさ。やっぱりバスケは好きだから、なにか関わる職業につきたいなって思ったんだよ」
「そっか、それでスポーツトレーナーか」
人に尽くす、スポーツ選手にとって大切なパートナーとなる職業で、それは直哉に合っていると思った。
なによりきっと、自分が痛みを経験したから、その職業を選んだんだろうな。
自分の経験から、その先の未来へと繋げようとする。
渚沙ちゃんにしても、直哉にしても、すごすぎるよ。
今が精一杯の私には、その先まで見据えている二人が眩しすぎる。
ぶらんこを揺らしながら、つい、足元に目線が下がっていく。
「別に、焦らなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
私の心を見透かしたように欲しい言葉が投げられたから、驚いて直哉を見ると、ニッといたずらっぽく白い歯を見せて笑った。
その笑顔は、小学生の頃によくみた、懐かしい表情だった。
「今時点でなりたいものが決まっている奴なんて一部だし、そもそもそれだってなれるかどうかわからないだろう? 俺だってまた叶わないかもしれない。努力が必ず実るわけじゃないのは、よく知っているだろう」
努力が実るわけじゃない。確かによくわかっている。
どんなに頑張っても、練習を繰り返しても上達しなかったあの頃。
自分が必死に足掻いているその先へ、軽々と羽ばたいていく人の背中を見ることしか出来なかったことも。
「……いじわる」
つい先を見据えている直哉を羨ましいと思ってしまった私に、釘を刺すように辛かったことを引き合いに出してきた直哉を恨めしく睨むと、かつての悪ガキはニヤリと笑った。
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