曙光ーキミとまた会えたからー

桜花音

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5.だれしも過去を抱えている

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「ま、そんなわけで、私って中学生時代、あんまりいい思い出ないのよ。その中でも一番残念だったのか、部活動できなかったこと」
「……部活、やりたかったんだね」
 私の言葉に、小さく頷いた真夏ちゃんは、もう空っぽになったフラッペの容器を指先でゆらゆらさせた。

「でも中学ではね、集団の中に入るのがもう怖くて。渚沙が一緒にいてくれるようになってから、少しずつ風向きが変わっていったけど。それでもなんか避けられたりとか陰口叩かれたりとか、そういうのがずっと続いていたから」
「告白してきた先輩が、振られた腹いせに色んな噂振りまいたらしいんだよねぇ。わたしもいくつか聞いたけど、プライドが高いとか、クラスメイトをバカにしているとか、男好きとか。ないことないこと、ないことずくめ。みっともない先輩だよねぇ。とばっちりだよ、真夏は」
「ひどい……」
 人気があった先輩だって言ってたし、そんな人が悪意を持って振りまいた噂は、面白おかしく広がっていったんだろう。
 じゅうぶんな嫌がらせだ。

「中学では諦めたけど、高校では部活に入りたかったんだ。それでも最初は怖かったから、体験入部だけ渚沙に付き合ってもらってね」
「そっか、そうだったんだね」
 知らなかった。
 真夏ちゃんが中学生時代にいっぱい悲しい思いをしてきたこと。
 きっと人見知りっていうのも、その時の体験が影響している部分もあるんだろうな。

「だからね、試合に出られなくても、今、部活ができているっていうのが、私にとっては幸せなことでもあるんだよね。今の部員はみんないい人ばかりだし」
 部活ができることが幸せ、か。
 私はそう思えなくなっていたから、逃げてしまった。
 バスケだってチームプレーなのに、私は自分、自分になっていたんだなぁ。
 司令塔のPGが自己中になっていたら、そりゃパスも通らないはずだし、連携なんてとれるわけないね。
 真夏ちゃんの話を聞きながら、自分の中学時代を思い返してしまう。

「真夏ちゃん、よかったね」
 この言葉が正しいのかわからないけど。それでも中学生時代を経て、逃げずに高校で居場所をつかみ取った真夏ちゃんをすごいと思う。
「うん。よかった。だから……夕映ちゃんも、なにかあったら話してね」
「え……?」
 話すって……。
 驚いて真夏ちゃんを見ると、渚沙ちゃんと二人でニヤッと笑う。

「無理には聞かないけどね。最近明るくなってきたし」
「なんか、河原くんとも、意味ありげだしぃ?」
 え? なんでここで直哉?
 いや、そこもだけど、明るくなってきたって……。
 思わずオロオロと二人の顔を見るばかりになる私に、真夏ちゃんが、ふっと息を吐いた。

「気になってたんだよ。入学してからずっと死んだような瞳をしてたんだもん。あぁ、この子もきっと何か抱えてるんだなって。だけどいきなり話しかけたりできないじゃない? そう思っていたら、まさか夕映ちゃんから話しかけてくれるとは思わなかったから、このチャンス逃すまい! って思ったんだよね」
 そう、だったんだ。
 きっかけはノートで、あの時はちょうど私の中で変化があった時だったんだけど。仲良くなれたのは、真夏ちゃんの方でも気にかけてくれていたからだったんだ。

「……ありがとう、気にかけてくれて」
 自分だけの気持ちじゃない。お互いが歩み寄ろうとしていたから、今の私たちがあるんだね。
 そんな私の言葉に真夏ちゃんは、太陽の光を受けた満開の向日葵みたいな、明るい笑顔を向けてくれた。
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