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2.逃げた過去
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確かに少し、油断していたところはあったと思う。
このチームの中なら私はPGとして一番だと、心のどこかで思っていた部分があったんだ。
それが覆されたあの日。千歌のプレーは、目を覚まさせてくれた。
初心を思い出すかのように練習に取り組んだ。
誰よりも早くコートに行って、走り込みもいっぱいやって。
このままでは終われない。千歌よりもっともっと上手くなるんだ。
そう、思っていた。
努力は裏切らない。
そんな言葉は嘘っぱちだ。
だって、私はあの後いっぱい努力した。
誰より練習したし、誰よりも熱意があったと思っている。
だけど、千歌との差は埋まらなかった。
それどころか、どんどんと離されていった。
なんど一対一をしても勝てないし、チーム形式でプレーしても私のボールはカットされてしまう。
そして千歌よりも私はドリブルで突破する力がなかった。
徐々にチームメイトとも上手くコミュニケーションがとれなくなっていった。
励ましてくれる子もいた。みんな優しかった。だけどどこか腫れ物のように扱われている気がして、辛かった。
どこがいけなかったんだろう? なんでこんなにうまくいかないんだろう?
そう思っているうちに四月になり、新一年生が入った頃。
私はとうとうユニフォームすら貰えない立場に落ちてしまった。
あぁ……もう努力しても、どうにもならないんじゃない。
ユニフォームを着れないということは、コートに立てないということ。
三年最後の夏を、ただ指をくわえて応援する立場になってしまったということ。
その瞬間、私の中で張りつめていたものが、ぷつん、と切れた。
もう、やめよう。
応援するために私はバスケをやっていたんじゃない。
コートの端から端まで駆け抜けたかった。ボールを追いかけたかった。
それができないなら、もう辞めよう。
そこからは早かった。
顧問の先生に退部の意思を伝えておしまい。部活にも二度と顔を出さなかった。
噂で夏の大会は県大会準優勝だったと聞いた。だけどもう、私には関係ない。
部活をやめた私はすぐに塾に通いだした。受験勉強しなくちゃいけないというもっともな理由に縋って、何も考えないで済むくらい集中したかったから。
塾の授業がなくても自習室に通い詰めた。塾の先生からは「部活とかやってた子は集中力がすごいね」と言われたけど、私にとってその言葉は誉め言葉じゃない。
だけど皮肉にも、成績は上がっていった。
なに? 私、バスケより勉強の方が向いてるの? 模試結果を見て思わず笑ってしまう。
学校のテストの結果も上々。そんな中迎えた三者面談の待ち時間、廊下で、久々に千歌と顔を合わせた。
同じ学校にいても、面白いもので避けようと思ったら避けられるんだね。
部活を辞めてから面と向かうのはこの時が最初だった気がするから。
「夕映、第一志望、藤咲だよね?」
上擦る声で聞いてきた千歌のスカートの裾をキュッて握る手が震えている。「だよね」と言っておきながら、本当は信じていないんじゃない。
「なわけないじゃん。もうバスケなんてやらないから」
「なんで? 約束したじゃん。一緒に行こうって!」
「……あの時とは違う。私は中学でさえユニフォームに届かなかったんだよ。藤咲に行ったって何もならないじゃん」
突き放すような言葉に、千歌が泣きそうな顔をしていた。
……なんで千歌が泣くの?
苦しいのは私なのに。バスケを諦めなくちゃいけなくて辛いのは私なのに。
「千歌は藤咲でもきっと活躍できるよ。じゃあね」
精一杯の強がりだった。
そうでもしないと、私も泣いてしまいそうで。
通り過ぎた後、千歌が私を呼ぶ声が聞こえたけど、私は聞こえないふりをし続けた。
このチームの中なら私はPGとして一番だと、心のどこかで思っていた部分があったんだ。
それが覆されたあの日。千歌のプレーは、目を覚まさせてくれた。
初心を思い出すかのように練習に取り組んだ。
誰よりも早くコートに行って、走り込みもいっぱいやって。
このままでは終われない。千歌よりもっともっと上手くなるんだ。
そう、思っていた。
努力は裏切らない。
そんな言葉は嘘っぱちだ。
だって、私はあの後いっぱい努力した。
誰より練習したし、誰よりも熱意があったと思っている。
だけど、千歌との差は埋まらなかった。
それどころか、どんどんと離されていった。
なんど一対一をしても勝てないし、チーム形式でプレーしても私のボールはカットされてしまう。
そして千歌よりも私はドリブルで突破する力がなかった。
徐々にチームメイトとも上手くコミュニケーションがとれなくなっていった。
励ましてくれる子もいた。みんな優しかった。だけどどこか腫れ物のように扱われている気がして、辛かった。
どこがいけなかったんだろう? なんでこんなにうまくいかないんだろう?
そう思っているうちに四月になり、新一年生が入った頃。
私はとうとうユニフォームすら貰えない立場に落ちてしまった。
あぁ……もう努力しても、どうにもならないんじゃない。
ユニフォームを着れないということは、コートに立てないということ。
三年最後の夏を、ただ指をくわえて応援する立場になってしまったということ。
その瞬間、私の中で張りつめていたものが、ぷつん、と切れた。
もう、やめよう。
応援するために私はバスケをやっていたんじゃない。
コートの端から端まで駆け抜けたかった。ボールを追いかけたかった。
それができないなら、もう辞めよう。
そこからは早かった。
顧問の先生に退部の意思を伝えておしまい。部活にも二度と顔を出さなかった。
噂で夏の大会は県大会準優勝だったと聞いた。だけどもう、私には関係ない。
部活をやめた私はすぐに塾に通いだした。受験勉強しなくちゃいけないというもっともな理由に縋って、何も考えないで済むくらい集中したかったから。
塾の授業がなくても自習室に通い詰めた。塾の先生からは「部活とかやってた子は集中力がすごいね」と言われたけど、私にとってその言葉は誉め言葉じゃない。
だけど皮肉にも、成績は上がっていった。
なに? 私、バスケより勉強の方が向いてるの? 模試結果を見て思わず笑ってしまう。
学校のテストの結果も上々。そんな中迎えた三者面談の待ち時間、廊下で、久々に千歌と顔を合わせた。
同じ学校にいても、面白いもので避けようと思ったら避けられるんだね。
部活を辞めてから面と向かうのはこの時が最初だった気がするから。
「夕映、第一志望、藤咲だよね?」
上擦る声で聞いてきた千歌のスカートの裾をキュッて握る手が震えている。「だよね」と言っておきながら、本当は信じていないんじゃない。
「なわけないじゃん。もうバスケなんてやらないから」
「なんで? 約束したじゃん。一緒に行こうって!」
「……あの時とは違う。私は中学でさえユニフォームに届かなかったんだよ。藤咲に行ったって何もならないじゃん」
突き放すような言葉に、千歌が泣きそうな顔をしていた。
……なんで千歌が泣くの?
苦しいのは私なのに。バスケを諦めなくちゃいけなくて辛いのは私なのに。
「千歌は藤咲でもきっと活躍できるよ。じゃあね」
精一杯の強がりだった。
そうでもしないと、私も泣いてしまいそうで。
通り過ぎた後、千歌が私を呼ぶ声が聞こえたけど、私は聞こえないふりをし続けた。
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