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6.莉菜の危機感
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昨日はうっかり莉菜と繋がることを忘れて眠ってしまったから、今日は急いで夕食とお風呂を済ませた。
「莉菜、ごめん!」
鏡に向かって話しかけるけれど、何故だか反応がない。
「莉菜? 怒ってるの?」
卓上鏡に顔を近づけてみるけれど、そこにはわたしの姿が映るだけ。
おかしい……なにより入れ替わってからこの鏡は、小さな粒子がずっとキラキラ光っていたのに、今は普通の鏡と変わらない。
どうしたんだろう?
「莉菜ーっ。起きてるー?」
『……ナ』
か細く声が声が聞こえたと思ったら、鏡が少しずつ光りはじめた。
それとともに、鏡に映るのがわたしの姿から莉菜の姿にかわった。
「あ、よかった! ごめんね、昨日はうっかりしちゃって……って、莉菜!? どうしたの?」
莉菜の姿が映し出されたと思ったら、莉菜はぽろぽろと泣き出してしまった。
『あ、あた、あたしっ、怖かった! すごく怖かった!』
「怖い? なにがあったの?」
鏡の中には危ないこととかは何もないはず。そこにいて怖いことってなにがあったの?
莉菜は最初こそ泣き崩れたものの、少しずつ落ち着いてきたみたいで、大きく深呼吸をして話しはじめた。
『昨日ね、リナが戻ってきてから、あたしは一生懸命鏡に向かって話しかけていたの』
「え!?」
確かにわたしはうっかり莉菜に話しかけるのを忘れたけど、莉菜が話しかけてくれていたならさすがに気づくはず。
でも昨日、鏡からはなんにも声は聞こえなかった。
『どんなに呼んでも、あたしの声はリナに届かなかった。でもそれは、たまたまなのかな? って思っていたの。でも、今朝になってもダメで、さっきもあたしは必死にリナの声に答えているのに、リナには全く聞こえてなかったみたいで』
「莉菜、返事してたの?」
『うん。なのに聞こえていないみたい。それどころか、こっちであたしが必死に呼びかけて鏡を叩いたりしているのに、それがまったくリナに伝わっていなくて』
「鏡を、叩いた……?」
そんな衝撃は、こっちにはまったく伝わらなかった。
鏡は、驚くくらい普通の鏡としてそこにあったから。
『そしたらあたし、怖くなったの。このまま、このまま繋がらなかったら、あたしはもう、ずっとこのままなんじゃないかっって。もうっ、戻れないんじゃないかって!』
莉菜が自分の身体を抱きしめるようにしながら、震えて泣いている。
わたしが昨日から色々楽しいと思っている間に、莉菜は孤独に怯えていたんだ。
「ごめん、気づいてあげられなくて」
どこかで、思ってしまっていた。
楽しい、このままもっといたいって。
だけどそれは、本来のこの世界にいるべき莉菜を追い出してしまっているんだ。
今のこの時間は、入れ替わりのひとときの夢だってこと。
わかっているようで、忘れてしまっていたのかもしれない。
「莉菜、ごめん!」
鏡に向かって話しかけるけれど、何故だか反応がない。
「莉菜? 怒ってるの?」
卓上鏡に顔を近づけてみるけれど、そこにはわたしの姿が映るだけ。
おかしい……なにより入れ替わってからこの鏡は、小さな粒子がずっとキラキラ光っていたのに、今は普通の鏡と変わらない。
どうしたんだろう?
「莉菜ーっ。起きてるー?」
『……ナ』
か細く声が声が聞こえたと思ったら、鏡が少しずつ光りはじめた。
それとともに、鏡に映るのがわたしの姿から莉菜の姿にかわった。
「あ、よかった! ごめんね、昨日はうっかりしちゃって……って、莉菜!? どうしたの?」
莉菜の姿が映し出されたと思ったら、莉菜はぽろぽろと泣き出してしまった。
『あ、あた、あたしっ、怖かった! すごく怖かった!』
「怖い? なにがあったの?」
鏡の中には危ないこととかは何もないはず。そこにいて怖いことってなにがあったの?
莉菜は最初こそ泣き崩れたものの、少しずつ落ち着いてきたみたいで、大きく深呼吸をして話しはじめた。
『昨日ね、リナが戻ってきてから、あたしは一生懸命鏡に向かって話しかけていたの』
「え!?」
確かにわたしはうっかり莉菜に話しかけるのを忘れたけど、莉菜が話しかけてくれていたならさすがに気づくはず。
でも昨日、鏡からはなんにも声は聞こえなかった。
『どんなに呼んでも、あたしの声はリナに届かなかった。でもそれは、たまたまなのかな? って思っていたの。でも、今朝になってもダメで、さっきもあたしは必死にリナの声に答えているのに、リナには全く聞こえてなかったみたいで』
「莉菜、返事してたの?」
『うん。なのに聞こえていないみたい。それどころか、こっちであたしが必死に呼びかけて鏡を叩いたりしているのに、それがまったくリナに伝わっていなくて』
「鏡を、叩いた……?」
そんな衝撃は、こっちにはまったく伝わらなかった。
鏡は、驚くくらい普通の鏡としてそこにあったから。
『そしたらあたし、怖くなったの。このまま、このまま繋がらなかったら、あたしはもう、ずっとこのままなんじゃないかっって。もうっ、戻れないんじゃないかって!』
莉菜が自分の身体を抱きしめるようにしながら、震えて泣いている。
わたしが昨日から色々楽しいと思っている間に、莉菜は孤独に怯えていたんだ。
「ごめん、気づいてあげられなくて」
どこかで、思ってしまっていた。
楽しい、このままもっといたいって。
だけどそれは、本来のこの世界にいるべき莉菜を追い出してしまっているんだ。
今のこの時間は、入れ替わりのひとときの夢だってこと。
わかっているようで、忘れてしまっていたのかもしれない。
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