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屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話

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宿屋のベッドの上。

 巨体と言える屈強な肉体を押し倒して白い肌の青年がその太い首筋に犬歯をたてる。昨夜から何度も愛され鋭敏になり果てた肌を震わせ、屈強な冒険者は喘いだ。

「あぁっ……いい加減にしろっ!遊びったって限度がある……ひうっ!」

「遊び?」

 青年の顔に明け方の光が差す。すっと伸びた鼻梁。サファイアのような瞳に大天使のような直毛の銀髪。何かの意図があって作られたのではないかと思わせるほど蠱惑的な美貌が冒険者を見下ろしながら嗤った。

「こんなに真剣なのにまだ分かってくれないんですか?貴方は、僕と結婚するんです。運命の人」

 長い舌が男の乳首を下からなぞりあげ、同時に巨体にビリビリと快感が奔る。

「あぁああっ!それ、やめぇっ」

「まだ出会って日が浅いのに随分敏感になってしまいましたね。どこもかしこも甘くて困る」

指先で乳輪の縁をなぞるとベロりと満足そうに舌なめずりをする青年。

「貴方には才能がある。僕に愛されると言う唯一無二の才能だ」

 ずっと中に納まったままじっとしていた肉杭をわずかに前後させると冒険者がのけぞった。イかされることなく焦らされ熟れた肉が主の意志とは反して悦びわななく。

「ぐうぅっ……!!」

 なぜこんな事になってしまったのか。

 冒険者の脳裏に事の発端が浮かぶ。

                       ◇


 いつものように仕事を終え、いつものように宿屋の一階にある飲み屋で遊び相手を探していた。その日は偶々人が少なくて「ああ、きょうはハズレかねえ」と帰ろうとした所に声をかけてきた目もくらむような美貌。

 気おされ気味の自分に「お暇では?僕が楽しませてあげましょうか」と挑発してきたのがコイツ……。


面白がって部屋に入れたとたんベッドに押し倒され、気が付けば抱かれていた。

一晩の遊びだというのに繰り返し愛している、結婚しましょうと囁き続け、そういう趣向なのかと頷いていたのが悪かったのか。翌朝になっても手放す様子はなく。


「い、いい加減に!しやがれ!」

とドロドロの身体でキレて服をひっつかんで逃げ出したのが『初日』。


「とんでもねえのにあたっちまった、やっぱりハズレの日だ」と日常に戻ったはずだった。それなのに行く先々にあの青年は現れ事あるごとに熱烈に口説いては押し倒してくる。

 同性同士の結婚どころか異種族婚も珍しくないお国柄とはいえ、結婚自体をするつもりのない冒険者はひたすら逃げ回るがどういう訳かちっとも逃げ切れない。

 いよいよ国をでるしかないかとゲンナリしている所にあの男の出自を聞いて仰天した。

 この国ではその名を知らない者は居ない超上流貴族の出奔した御子息らしい。

「そういう事ならなおさら自分なんか相手にしねえだろ。いっそご実家にご協力いただいて速やかに御子息を回収願おう」

冒険者は決心するとダメ元でその実家に手紙を書いたのだった。


                        ◇


 敷地の広大な貴族邸にやってきた冒険者。

 こんな場末の冒険者のおっさんを入れてもらえるか不安だったが手紙の件と入口の門番に話すと「話は聞いております」と丁重に通される。

 とにかく豪奢な館。しかしあちこちに侵入者を拒むような堅牢さがみえ、「なんか要塞みてえだな」という感想を抱いた。


「奥様がお待ちでございます」

 通された応接間には長身の壮年女性。気の強そうな風貌もあり身構えてしまうが、ここで嫌われておけばちょうどいい。

「貴方ね」

と頷く壮年女性。粗雑な冒険者の出で立ちにも眉を顰める事はない。肝は座っているようだ。

「どうぞ座って頂戴」

「はあどうも」

 いわれるがままに銀とシルクで作られたソファに恐る恐る巨体の腰を下ろす冒険者。対面した貌にはとんでもない美貌というほどではないが、確かにあの青年の面影があった。

「初めまして。私があの子の母親です。父親は今この家にいないのだけど、とりあえず私で我慢してくださいね」

 メイドの手により、繊細な細工のカップが良い香りの湯気を立て二人の前に並べられる。

 冒険者は緊張を感じ一気にそれを飲み下した。味は分からない。

「それで。御用をうかがいましょうか」

 優美に微笑む母親から目をそらしながら、冒険者は言った。

「ええとですね……御子息がその、言いにくいんですが……その……」

 いざとなると貴方の息子に求婚されて困っていますとは言い出しづらく、口の中でごにょごにょしていると母親が当たり前の様に尋ねた。

「うちの息子が貴方に求婚している。そうでしょう?」

「え?!は、はい」

 戸惑う冒険者はしかし話が早いと気を取り直した。

「あのっ!俺も自分で信じられねえんです。耳を疑いましたがどうもご本人は気が違っちまったみてえに話が通じず……俺の方はそんな大それた事考えてねえんです!ホントに!日々気ままに冒険者やって偶に遊んで……そういう人生を送れたらそれで。だから今更こんな事いうのはアレなんですが」

「それはあの子との結婚に反対してほしい……と言う事かしら?」

「はあ。まあそういう感じです」

 貴方の息子が俺に一方的に求婚してきて困ってるからなんとか止めてくれ。

 普通こんな屈強な冒険者のおっさんがそんな事を言い出したら相手の親は笑うか怒り狂うかするだろう。我が事ながら随分不遜な事をいっているなあと思いつつ頭を掻く冒険者。

 しかし母親は真顔で手をひらめかせメイドを下がらせると。手ずからお代わりの茶を入れ冒険者に差し出した。

「あ、ども」

「ご存じの通り彼の一族は代々優秀。国の要職につき投資や戦で名をあげ金銭的にも権力的にも抜きん出ている。加えてあの容貌……欲しがる者は後を絶ちません」

「なら俺なんかなおさら本来相手にしねえでしょう。あいつ……いや、あの方はどういう訳か今混乱しているだけで」

 黙って首をふる母親。

「彼らの一族はね、けして間違えません。見初める一瞬はただ一度。その代りけして逃がさない。自分で見初めた運命の相手だけを一生束縛し、一生守り、一生愛しぬくのが彼らの血筋」

 母親の目は昏い。その瞳にぞっとしたものを感じて冒険者が否定する。

「はは……そんな大げさな」

「貴方。月丘街道ぞいであの子に出会ったでしょう?」

「え?ええまあ」

 出会ったのは確かに月丘街道にあった宿だった。

「あの子ね。月丘街道の先の修道院に出家する途中だったの」

「出家ぇ?!」

 あの絶倫が?!とは寸でで漏らさずに済んだ。

「彼の父方一族が代々性別種族を問わず相手を見初め、半ば強引に嫁とりをするのをずっと見てきてウンザリしたのね……小さい頃からの夢は独身を貫く事。嫁とりの悲劇を繰り返さないで一生を終える事だった。禁欲的で、フィクションであっても恋愛を取り上げた作品を毛嫌いし、降るほどの縁談も告白の類も全てその場で断っていたわ」

「じゃあなんで!なんで俺にあんな!」

 母親が当たり前の様に答える。その声は重い。

「貴方が運命だったから。それだけよ」

「運命……?!」

 そんなばかな。そう冒険者が言おうとしたその時。

トントン。

ノックの音が響く。

「どうしましたか」

 母親がドア越しに尋ねるとドアが開き執事らしき男が頭を下げた。

「お坊ちゃまがいらしたようで。お通ししてもよろしいでしょうか」

ガタッ!

冒険者が立ち上がる。母親が指示を出した。

「できるだけ足止めしておきなさい。……冒険者さん。今は裏口からお逃げなさい。それとこれを」

 母親が革袋を冒険者に握らせた。

「これは?」

「逃亡資金です。これをすべて使ってでもできるだけ遠くへお逃げなさい。食べる事も寝る事も今は忘れてどこまでもできるだけ遠くへ。ここは私が食い止めます」

「お、お母さん」

 母親が背後からすっと出てきた年かさのメイドに頷くと冒険者を促す。

「このメイドの後へついていって。はやく!」

 冒険者は決意の瞳と無言で頭を下げ、メイドと裏口へ向かった。

「……奥様よろしいのですか」

 執事が咎めるように言った。

「いいのよ。万一にでも逃げ切れたら大したものだわ。それに、早めに捕まって逃げても無駄だと言う事を思い知っておいた方が傷も少なくてすみます」

「昔の奥様を思い出しますな」

「ええ。実家も仕事も友人も捨てて、船を馬を飛竜を使って逃げ回った」

「奥様の記録はたしか」

「二か月。あの時はまだ逃げ切れると信じていたわ」

「旦那様から二か月……大記録でございました」

 ふ……と母親が自嘲ぎみに笑うと振り向いて言った。

「さ、あの冒険者さんがさらなる記録を伸ばせるように頑張りましょうか。……あの子を通しなさい」

 そこに別のメイドが駆け込んできた。

「奥様!」

「どうしました」

「坊ちゃまが居ません!ドアを破られました!」

執事が首筋の冷や汗をハンカチで拭った。

「まさかこの館の特注ドアを破られるとは……」

「暴力が嫌いで積み木さえ崩すのを嫌がっていたあの子が……時間は流れるものですね」

「如何なさいますか奥様」

「追手をかけなさい。私の私兵団を動かします」

「はっ」

 パタパタと急いで走り去る執事とメイド。その背を見送りながら母親は力なく呟いた。

「無駄でしょうけれどね……」




                   ◇

「考え事ですか?余裕ですね」

 数日前に思考を飛ばしていた冒険者を責める青年。粘液と汗で密着した肌がずるりと冒険者に今の状況を突き付ける。

巨体は逃げようともがくが、その度に快楽に抑え込まれ果たせずベッドに沈む。何度誤解だ。思い違いだと喘ぎながら叫んだ事だろう。

 この青年に抱かれるたび体が違うものに作り替えられていく。今まで遊んでいた相手達との夜がまるで本当の意味での児戯のようで脳みそがクラクラした。

 青年はうっとり耳元に囁く。

「いい声で鳴くようになりましたね」

 はっとして唇を噛む冒険者の額にかかった髪を愛おし気によける。

「大丈夫。今この宿にいるのは僕達だけです。母の所へ行った貴方を連れ戻し抱くのにいささか粗末だとは思いましたが、僕の我慢が限界でした。結婚式はきちんと挙げるので許してくださいね」

「だ……れが結婚なんてするかぁ……っ」

「ああ可愛い。まだそんな口がきけるなんて。貴方は本当に私を誘うのが上手い」

堪らず冒険者の顎をとり一気に深く口づける青年。

「むぐっ!」

唇を重ね、口腔のを味わい尽くすように侵す。熱い舌が怯える冒険者の舌を絡めとり自分の領地へ引き寄せた。粘膜と粘膜が擦れる淫らな感覚が甘く冒険者の脳髄をとろかしていく。

 冒険者家業の育てた剛腕でむりやり引きはがしてしまえばいいと理性では判っている。しかし体がこの青年の与える快楽に蕩かされ言う事を聞いてくれない。

「……ぷはっ……あぁ」

 ようやく口づけから解放され喘ぐ冒険者。体をそらして逃げようとするが中心に穿たれた肉杭がそれを許さない。もがくことで却って快楽が這い上がってきてしまう。

「抜け……これ、ぬいてぇ…」

 粘膜のイヤらしい音に耳まで犯される。

 青年は豊かな冒険者の胸を揉みしだきながら吐息をつく。

「抜いて欲しいですか?」

コクコクと頷く冒険者。そっとその屈強な肩を抱きゆっくりと腰を引いた。

ず……っ。

巨大な質量を持った凶悪なそれが引いていくのと同時に冒険者の腰が揺れた。

「あぁんっ!」

「どうしました?抜いて欲しいのでしょう?そんなに締め付けられては動けませんよ」

「そんな……しめつけて、……なんて……ああっ!」

ズクズクと小刻みに前後されて冒険者の太い喉が反らされる。

「でもここはキツキツですよ?ほら、気づいてますか?ほら?」

「や……っ。それ、やめろぉ……っ!」

 ずぷん!

「かふっ!」

一気に奥を犯す動きに冒険者の喉が開く。

 青年がワザとらしく謝罪する。

「ああ、すみません。貴方があんまりかわいらしく誘うものだから奥に引き込まれてしまいました。ほら、力をぬいて。動いちゃだめですよ?」

「あっ!ああっ!」

無意識に青年の腰に逞しい脚を絡める冒険者。

「動いちゃダメだって言ってるのに。どうしてそうやって僕を誘惑するんです?悪い子ですね」

しかし冒険者の耳には届かない。甘い快楽に身体ごと溶かされ口の端には忘我の涎が光る。

 青年が動く度、快楽に浮かされた声が上ずっていく。

「あんっ!あああっ、そこ、そこだめ……っ!ゴリゴリしちゃだめ……っ!!」

 涙目で希う冒険者。だが青年は良い所に当てはするものの、決定的な快感を与えてはくれない。深く引いて浅く貫き、冒険者の中に波がくるのを察知すると動きを止めてしまう。

「んんっ!なんでぇ……っ」

「ほら。どうしてほしいんです?言ってみせてください」

「ふぎゅぅっ!うご、くなぁ……っ」

「おや、おかしな事をおっしゃる。僕は今動いてませんよ?」

「ほへ?」

「動いているのは貴方の方だ」

 無意識にくねる太い腰。脚を青年に絡ませもっともっとと強請っているようだ。それを初めて自覚したのか冒険者の耳が赤くなる。

「う、嘘だ……っ!こんな……あああっ!止まらない……っ」

 もどかしそうに低く喘ぐ。接合部からは粘液の混ざる音。しかしあと少しで届きそうになると青年はまた身を引いてしまう。

「うぎゅう……っ!ちく、しょう……!」

 恨めしそうに見上げる冒険者。その視線にぞくぞくしながら青年は嗤う。

「なんてかわいらしい……。これが恋。これが運命なのですね……貴方を知らない頃の自分がいっそ哀れだ。貴方と出会えて初めて僕はこの世に生まれたんです」

 青年が冒険者の乳首の先端を爪先で弾く。撓んでいた枝が放たれるように走る悦楽に悲鳴が上がる。その指で鎖骨をなぞれば悩ましくいっそう色づく。すっかり熟した身体はどこに触れてもビクビクと反応した。

「さあ。愛しい方。僕の運命。僕にどうして欲しいんです?」

 耳たぶを食みながら囁く。まるでその貌は悪魔のそれだ。だが悪魔の前に捧げられた屈強な肉体はすでに忘我の表情で身体を開ききっている。

キュウキュウとしめつけ軽く痙攣しながら、それでもとどめを刺してもらえず喘ぐ哀れな生贄がはくはくと口を開閉する。

「……っ」

「ん?なんです?」

「せて……いか、せてくれ……っ」

うつろな目で死に勝る快楽に漬け込まれた冒険者が命乞いをする。

 青年は猫の様に目を細めると

「いい子ですね」

と頷いて深く冒険者に杭を打ち込んだ。

「あぁあああっ!!」

 冒険者は白くなっていく意識の端で自分が巨大な竜に喰い殺される幻を見た。



                      ◇


「奥様」

 執事が銀の盆を差し出す。

母親はそこに置かれた手紙を手に取り開くとため息をついた。

「あの方は……」

「ええ。捕まったようです。あの方のご両親にお詫びに行かねばなりません……支度を」

「はっ」

 執事は一礼して下がる。

 母親は窓ごしに空を見上げると

「お義母さまもこんな気持ちだったのかしらね」

としみじみ呟いた。


 その数週間後。壮麗なる華燭の典が開かれたのは言うまでもない。

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