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目覚め
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気が付いたら、俺は真っ暗な場所にいた。
冷たく静かで何もない。体は動かないし何も考えられないし、どうしてここにいるのかも分からなくなっていた。
何も出来ないし何をすればいいのかもわからない。焦った方がいいのはわかるのだが、意外にも何故か気持ちは平穏だった。
(出来れば、もうこのまま眠ってしまいたい……)
どちらにしても何も出来ないのだから変わらない。それでもまともに、何も考えられなかった。
その時、突然目の前が強烈な光で照らされる。
なんだ?と思っていたらそれと同時に、体に強烈な痛みが走った。
「がっああああああああああああ!!!」
それは、狼に噛みつかれた時の比ではなかった。体が引き裂かれバラバラにされているような感覚がした。
「っぐ、がはっぐぐぐぐぐぐあああああ!!」
痛すぎて意味のある言葉を口にできない、のたうち回ってもがく。
どうして、一体何がと思ったがその途端、また更に強烈な痛みが襲ってきた。痛すぎて考えをまとめることも出来ない。
「っ………………!!!!!」
もう声も出せない、動くこともままならない。むしろ体の感覚も無くなって自分がどうなったのかも分からなくなった。
バラバラになった体を、両手で掻きまわされているような感覚がする。
痛みが酷すぎて、いっそのこと殺してくれとさえ思う。
どれくらい痛みが続いたのだろうか。一瞬のような永遠のような時間がたった後、突然痛みが引いていった。
次に、体に温かみと感覚が段々戻ってきた。じんわりとだるさはあるものの、あんなに酷かった痛みは嘘のようになくなった。
そうなって俺は自分が目を閉じていたことに気が付いた。
ゆっくりと目を開く。
「あ!目が開いた!上手くいったのね……良かった……もう大丈夫よ」
目の前には気を失う前に見た若い女性がいた。俺が目を開いたことに気が付くとホッとした表情で言った。
彼女が助けてくれたのだろうか?ぼんやりと思ったが、いまいち頭が回らない。
すると女性がふわりと頭を撫でた。
「まだ、怪我が治りきってないわ。今はゆっくり休んで」
撫でる手はとても温かかった。今はどこにいてどんな状況なのか知りたかったが、彼女が休んでと言った途端、その言葉に操られるように、瞼が重くなったと思うと俺はそのまま意識を失った。
**********
「寝てくれた……良かった」
黒猫は一度開いた目をゆっくり閉じ、規則正しく寝息を立て始めた。傷はまだ残っているが命にかかわる傷はもうない。
「それにしても本当に成功するとは思わなかった……」
ミルは落ち着くために椅子に座った。自分でも気が付かないうちに、緊張していたみたいだ。
「使役の術を使ったのは学生の時以来だ。こんなにあっさり……」
一つ一つ思い出しながらだったが、手順も呪文も完璧にこなせたと思う。
そして、今まで出来なかったのが嘘のように、あっさりと使役はできてしまった。
「なんで、今回は出来たんだろう……」
ミルは自分の手をじっと見つめる。
以前は呪文を唱えても何も反応が無かった。普通は使役する対象の動きが止まり、少し時間が経てば術者にも使役動物の感覚が流れ込んで来るものだ。でも、ミルは今まで一度もそんな感覚を味わったことが無かった。本当に自分に魔力があるのか疑ったこともある。
でも、今ははっきりとこの黒猫と魔力の繋がりが分かる。今回は、何か殻のような物が割れたような感覚がして、その後この黒猫と繋がったような感覚がした。
「必死で、何も考えなかったのが良かったのかな……」
今まで味わったことがない不思議な感覚だ。
原因ははっきり分からない。しかし、ミルは何となく心当たりがあった。
「怖かったんだよね……」
実を言うと、ミルは動物を使役することが怖かった。
使役動物は、動物の大きさや知能の高さ、それに相性によって能力も変わる。なので、より良い動物がいれば、その動物に変えることが推奨されている。
問題なのは使役する動物を変える場合、元居た使役動物は絶対に殺さないといけないのだ。
「そんな事、想像するだけで恐ろしいもの……」
能力や魔力が高ければ、何匹も使役できるが、基本的に魔法使い一人に一匹か二匹が普通だ。
小さい個体であれば多数の動物でも使役できるが、数が多くなればなるほど、今度は制御するのが難しくなるのだ。
最初は、小さなネズミやリスを使役して少しずつ使える魔法を増やし、成長すると他の動物に変えていく。
魔法使いにとって使役動物はある意味使い捨てに近く、魔法使いによっては餌も与えず乱暴に扱って、必要なくなったら残酷に殺してしまったりする者もいる。
「魔法学校に入って、初めて知った時衝撃だったな……」
ミルは元々気が弱くて優しく、小さな虫すら殺せない性格だった。一度使役しても変えたりせず殺さずにいればいいのだろうが、そもそも自由に生きていた動物を自分の利益のためだけに縛りつけるのも罪悪感があって嫌だった。
「本当言うと、使役出来なかった時は少しホッとしたのよね……」
目の前で眠っている黒猫をそろりと撫でて、ミルは言った。
落ちこぼれと言われるのは辛かった。教師からもがっかりしたような目で見られていたのでなんとか使役したいとは思っていたが、それでも目の前の小さな動物を使役するのは恐ろしいという気持ちがずっとあった。
でも、今回はどうにかしなきゃという気持ちと、助けたいということしか考えていなかった。
「本当にこれが原因か分からないけど……」
でも、落ち着いてくるとミルは少し不安になってきた。なにか大きな間違いを犯してしまったような気がしてきたのだ。
「この猫は狼に襲われていた……狼が獲物を追うのは当然だし自然の節理だ……助けてしまってよかったのかな……」
死ぬことは避けられたが、使役獣になる事が猫にとっていい事だとは分からない。
そのとき、黒猫が少し苦しそうな顔をして身じろぎをした。ミルはもう一度そっと撫でてやる。
何度か撫でてやると、黒猫の表情は柔らかくなり力を抜いて寝息を立て始めた。黒猫は温かくて柔らかかった。手触りの良い毛並みも、ずっと触っていたいと思うくらい艶やかで滑らかだ。
「可愛い……」
じっと見ていたら愛おしさが湧き上がって来た。初めての使役獣だというのもあるだろうが、小さくて温かいこの猫を何としても守りたいと思った。
「本当は定期的に使役獣を変えたりするものだけど、私はそんな事しないから……大丈夫だよ」
猫は使役獣としてはレベルがかなり低い。若い魔法使いが練習のために使役するものという印象しかなく、あまり人気もない。
特に犬のように力が強いわけでもないし、ネズミのように小回りがきくわけでもない。
愛玩動物という認識も強いという側面もあった。
でも、ミルはこれまで使い魔がいなくてもなんとかやってこれたのだ。小さな猫が使役出来ただけでもありがたいし、大きな進歩だ。
「あなたの事は私が幸せにするからね……」
使役が成功した時、身体に不思議な感覚は今も続いている。なんだか世界が一つ広がったような気がする。
話には聞いていたが、実際に体験してみると本当に不思議な感覚だった。
「魔力が何だか安定したような……でも、上手く使いこなせるかな……」
使役獣ができるのは腕が一つ増えるようなものなのだ、慣れて使いこなすまで時間がかかるだろう。
「あ、そうだ」
ふと、ミルは思い出した。
「使役獣が出来たって事は、魔法も今までより上手く使えるようになってるはず……試してみよう」
ミルは思い立って自分の作業場に入る。
今日は村に商品を納品し、その帰りに薬草を摘んでいたのだ。その時に黒猫を見つけた。
「よし、じゃあ。一番簡単な回復薬から作ってみよう」
今まで使っていた魔法なら、使い慣れているから慣れる必要はない。
使役できると、今までより多くの魔力を効率良く使えるようになる。
使役に成功したのなら、上手く魔法薬を作れるようになっているはずだ。
大きな鍋で水を沸かし、その間に採ってきた薬草をちぎったり、あらかじめ乾燥させておいた薬草を準備する。
水が沸いたので適切な順番で入れていく。薬の分量はその日の気温や月の満ち欠けにも関係する。周期表を参照して細心の注意を払い、温度とタイミングを計って火を強める。
「後は……魔力を込めるだけ……」
ミルは一つ息を吐いて、気合いを入れる。ここまでの事は覚えてしまえば、誰でも簡単に出来る。しかし、この魔力を込める作業は魔法使いの技量と魔力に左右される。
ミルは使役獣がいなかったので、それが不安定で失敗することが多く、成功しても品質がそこまでよくないものしか出来なかった。
今までは薬草の質と手順に手間をかけることでなんとか品質を上げていた。
「でも……使役獣を持てたんだから、今までより上手くいくはず」
ミルはそう呟いて、手に魔力を込めながら呪文を唱える。鍋に入った薬がふわりと波打って光った。
そしてすぐに綺麗な透明になった。
「……うそ……一発で出来た……」
薬は最初の一回で出来上がってしまった。酷い時は、何時間もかかることがあるのに今回はものの数分で出来てしまった。
ミルはしばらく信じられなくて、じっと出来上がった魔法薬を見つめる。それでも、魔法薬はそこに存在していた。
「これならいつもより量も作れるし、新商品も試作できるかも」
そう思ったら、ミルは張り切って魔法薬を作り始める。あっという間に大量の魔法薬は出来た。いつもの半分の時間もかからなかった。
いつもは必要な分だけつくるので精一杯で余剰な分もできないし、新しい商品なんてそれこそちょっとづつしか進められなかった。
「使役獣を持っただけでこんなに変わるなんて。本当にあの子のおかげだ……」
ミルはそう言って黒猫がいる方を振り返る。そっと様子を見に行くと、まだぐっすり眠っていた。
「あ、そうだ……」
ミルは思いついて、棚を探してもう使っていない籠を探し、余っている布と藁で寝床を作る。
そうして、黒猫をそっと持ち上げてそこに寝かせた。猫は少しもぞもぞ動いたが、すぐに丸くなって寝てしまった。
「いい子だね……よし、この調子で残りも作っちゃおう」
ミルはそう言ってまた作業場に戻った。
冷たく静かで何もない。体は動かないし何も考えられないし、どうしてここにいるのかも分からなくなっていた。
何も出来ないし何をすればいいのかもわからない。焦った方がいいのはわかるのだが、意外にも何故か気持ちは平穏だった。
(出来れば、もうこのまま眠ってしまいたい……)
どちらにしても何も出来ないのだから変わらない。それでもまともに、何も考えられなかった。
その時、突然目の前が強烈な光で照らされる。
なんだ?と思っていたらそれと同時に、体に強烈な痛みが走った。
「がっああああああああああああ!!!」
それは、狼に噛みつかれた時の比ではなかった。体が引き裂かれバラバラにされているような感覚がした。
「っぐ、がはっぐぐぐぐぐぐあああああ!!」
痛すぎて意味のある言葉を口にできない、のたうち回ってもがく。
どうして、一体何がと思ったがその途端、また更に強烈な痛みが襲ってきた。痛すぎて考えをまとめることも出来ない。
「っ………………!!!!!」
もう声も出せない、動くこともままならない。むしろ体の感覚も無くなって自分がどうなったのかも分からなくなった。
バラバラになった体を、両手で掻きまわされているような感覚がする。
痛みが酷すぎて、いっそのこと殺してくれとさえ思う。
どれくらい痛みが続いたのだろうか。一瞬のような永遠のような時間がたった後、突然痛みが引いていった。
次に、体に温かみと感覚が段々戻ってきた。じんわりとだるさはあるものの、あんなに酷かった痛みは嘘のようになくなった。
そうなって俺は自分が目を閉じていたことに気が付いた。
ゆっくりと目を開く。
「あ!目が開いた!上手くいったのね……良かった……もう大丈夫よ」
目の前には気を失う前に見た若い女性がいた。俺が目を開いたことに気が付くとホッとした表情で言った。
彼女が助けてくれたのだろうか?ぼんやりと思ったが、いまいち頭が回らない。
すると女性がふわりと頭を撫でた。
「まだ、怪我が治りきってないわ。今はゆっくり休んで」
撫でる手はとても温かかった。今はどこにいてどんな状況なのか知りたかったが、彼女が休んでと言った途端、その言葉に操られるように、瞼が重くなったと思うと俺はそのまま意識を失った。
**********
「寝てくれた……良かった」
黒猫は一度開いた目をゆっくり閉じ、規則正しく寝息を立て始めた。傷はまだ残っているが命にかかわる傷はもうない。
「それにしても本当に成功するとは思わなかった……」
ミルは落ち着くために椅子に座った。自分でも気が付かないうちに、緊張していたみたいだ。
「使役の術を使ったのは学生の時以来だ。こんなにあっさり……」
一つ一つ思い出しながらだったが、手順も呪文も完璧にこなせたと思う。
そして、今まで出来なかったのが嘘のように、あっさりと使役はできてしまった。
「なんで、今回は出来たんだろう……」
ミルは自分の手をじっと見つめる。
以前は呪文を唱えても何も反応が無かった。普通は使役する対象の動きが止まり、少し時間が経てば術者にも使役動物の感覚が流れ込んで来るものだ。でも、ミルは今まで一度もそんな感覚を味わったことが無かった。本当に自分に魔力があるのか疑ったこともある。
でも、今ははっきりとこの黒猫と魔力の繋がりが分かる。今回は、何か殻のような物が割れたような感覚がして、その後この黒猫と繋がったような感覚がした。
「必死で、何も考えなかったのが良かったのかな……」
今まで味わったことがない不思議な感覚だ。
原因ははっきり分からない。しかし、ミルは何となく心当たりがあった。
「怖かったんだよね……」
実を言うと、ミルは動物を使役することが怖かった。
使役動物は、動物の大きさや知能の高さ、それに相性によって能力も変わる。なので、より良い動物がいれば、その動物に変えることが推奨されている。
問題なのは使役する動物を変える場合、元居た使役動物は絶対に殺さないといけないのだ。
「そんな事、想像するだけで恐ろしいもの……」
能力や魔力が高ければ、何匹も使役できるが、基本的に魔法使い一人に一匹か二匹が普通だ。
小さい個体であれば多数の動物でも使役できるが、数が多くなればなるほど、今度は制御するのが難しくなるのだ。
最初は、小さなネズミやリスを使役して少しずつ使える魔法を増やし、成長すると他の動物に変えていく。
魔法使いにとって使役動物はある意味使い捨てに近く、魔法使いによっては餌も与えず乱暴に扱って、必要なくなったら残酷に殺してしまったりする者もいる。
「魔法学校に入って、初めて知った時衝撃だったな……」
ミルは元々気が弱くて優しく、小さな虫すら殺せない性格だった。一度使役しても変えたりせず殺さずにいればいいのだろうが、そもそも自由に生きていた動物を自分の利益のためだけに縛りつけるのも罪悪感があって嫌だった。
「本当言うと、使役出来なかった時は少しホッとしたのよね……」
目の前で眠っている黒猫をそろりと撫でて、ミルは言った。
落ちこぼれと言われるのは辛かった。教師からもがっかりしたような目で見られていたのでなんとか使役したいとは思っていたが、それでも目の前の小さな動物を使役するのは恐ろしいという気持ちがずっとあった。
でも、今回はどうにかしなきゃという気持ちと、助けたいということしか考えていなかった。
「本当にこれが原因か分からないけど……」
でも、落ち着いてくるとミルは少し不安になってきた。なにか大きな間違いを犯してしまったような気がしてきたのだ。
「この猫は狼に襲われていた……狼が獲物を追うのは当然だし自然の節理だ……助けてしまってよかったのかな……」
死ぬことは避けられたが、使役獣になる事が猫にとっていい事だとは分からない。
そのとき、黒猫が少し苦しそうな顔をして身じろぎをした。ミルはもう一度そっと撫でてやる。
何度か撫でてやると、黒猫の表情は柔らかくなり力を抜いて寝息を立て始めた。黒猫は温かくて柔らかかった。手触りの良い毛並みも、ずっと触っていたいと思うくらい艶やかで滑らかだ。
「可愛い……」
じっと見ていたら愛おしさが湧き上がって来た。初めての使役獣だというのもあるだろうが、小さくて温かいこの猫を何としても守りたいと思った。
「本当は定期的に使役獣を変えたりするものだけど、私はそんな事しないから……大丈夫だよ」
猫は使役獣としてはレベルがかなり低い。若い魔法使いが練習のために使役するものという印象しかなく、あまり人気もない。
特に犬のように力が強いわけでもないし、ネズミのように小回りがきくわけでもない。
愛玩動物という認識も強いという側面もあった。
でも、ミルはこれまで使い魔がいなくてもなんとかやってこれたのだ。小さな猫が使役出来ただけでもありがたいし、大きな進歩だ。
「あなたの事は私が幸せにするからね……」
使役が成功した時、身体に不思議な感覚は今も続いている。なんだか世界が一つ広がったような気がする。
話には聞いていたが、実際に体験してみると本当に不思議な感覚だった。
「魔力が何だか安定したような……でも、上手く使いこなせるかな……」
使役獣ができるのは腕が一つ増えるようなものなのだ、慣れて使いこなすまで時間がかかるだろう。
「あ、そうだ」
ふと、ミルは思い出した。
「使役獣が出来たって事は、魔法も今までより上手く使えるようになってるはず……試してみよう」
ミルは思い立って自分の作業場に入る。
今日は村に商品を納品し、その帰りに薬草を摘んでいたのだ。その時に黒猫を見つけた。
「よし、じゃあ。一番簡単な回復薬から作ってみよう」
今まで使っていた魔法なら、使い慣れているから慣れる必要はない。
使役できると、今までより多くの魔力を効率良く使えるようになる。
使役に成功したのなら、上手く魔法薬を作れるようになっているはずだ。
大きな鍋で水を沸かし、その間に採ってきた薬草をちぎったり、あらかじめ乾燥させておいた薬草を準備する。
水が沸いたので適切な順番で入れていく。薬の分量はその日の気温や月の満ち欠けにも関係する。周期表を参照して細心の注意を払い、温度とタイミングを計って火を強める。
「後は……魔力を込めるだけ……」
ミルは一つ息を吐いて、気合いを入れる。ここまでの事は覚えてしまえば、誰でも簡単に出来る。しかし、この魔力を込める作業は魔法使いの技量と魔力に左右される。
ミルは使役獣がいなかったので、それが不安定で失敗することが多く、成功しても品質がそこまでよくないものしか出来なかった。
今までは薬草の質と手順に手間をかけることでなんとか品質を上げていた。
「でも……使役獣を持てたんだから、今までより上手くいくはず」
ミルはそう呟いて、手に魔力を込めながら呪文を唱える。鍋に入った薬がふわりと波打って光った。
そしてすぐに綺麗な透明になった。
「……うそ……一発で出来た……」
薬は最初の一回で出来上がってしまった。酷い時は、何時間もかかることがあるのに今回はものの数分で出来てしまった。
ミルはしばらく信じられなくて、じっと出来上がった魔法薬を見つめる。それでも、魔法薬はそこに存在していた。
「これならいつもより量も作れるし、新商品も試作できるかも」
そう思ったら、ミルは張り切って魔法薬を作り始める。あっという間に大量の魔法薬は出来た。いつもの半分の時間もかからなかった。
いつもは必要な分だけつくるので精一杯で余剰な分もできないし、新しい商品なんてそれこそちょっとづつしか進められなかった。
「使役獣を持っただけでこんなに変わるなんて。本当にあの子のおかげだ……」
ミルはそう言って黒猫がいる方を振り返る。そっと様子を見に行くと、まだぐっすり眠っていた。
「あ、そうだ……」
ミルは思いついて、棚を探してもう使っていない籠を探し、余っている布と藁で寝床を作る。
そうして、黒猫をそっと持ち上げてそこに寝かせた。猫は少しもぞもぞ動いたが、すぐに丸くなって寝てしまった。
「いい子だね……よし、この調子で残りも作っちゃおう」
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