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四章

奴隷だった私の運命

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「暁斗!」

もう少し時間があると思っていたのに、着くのが早すぎる。透真はどうしたのか。
よく見ると暁斗の体には大量の血が付いている。

「ああ、イーラちゃん安心して邪魔者はもういなくなったから」

怯えた表情のイーラを見て、暁斗はにっこりと笑う。

「うそ……そんな……」

イーラは真っ青になってへたり込む。

「ピアーズ様!」

撤退しようとしていた兵が気が付いて、戻ろうとした。

「ダメだ!早く行け!」

ピアーズがそう言って制する。
勇者が来てしまったということは、兵器による攻撃もすぐに来るということだ。下手に人が多くなると犠牲が拡大するはめになる。

「イーラ!今は逃げるぞ!」

ピアーズはイーラを立たせて言った。

「ピアーズ様……」

勇者は今倒せなくても、また機会は作れる。今はとりあえず逃げないと。

「させるか!」
「っく!」
「きゃあ!」

二人は逃げようとしたがすぐに暁斗がピアーズに魔法で攻撃を仕掛けてきた。ピアーズは咄嗟に剣で防いだものの、威力が高く二人とも吹き飛ばされる。

「やっぱり、お前を倒さないとイーラちゃんは手に入らないってことか。まあ、中ボス倒した報酬としては妥当かな」

暁斗はそう言って、剣を抜いた。言っている意味は分からないが、戦う気は満々のようだ。

「っくそ。こんなことしている場合じゃないんだがな……」

ピアーズはジリジリと後に下がりながら言った。逃げたいが、下手に背中を見せられない。
さっきの攻撃を見ても、暁斗は確実に強くなっている。透真がどうなったかわからないがこんなに短時間でここに来れるなんて、相当な強さだと思っていい。
暁斗が剣を振り上げピアーズに切りかかる。ピアーズはなんとか受け止めたが、また凄い勢いで吹き飛ばされた。

「ピアーズ様!!」
「あ~あ、ちょっとレベル上げすぎたかな。簡単に勝ててもあんまり面白くないよな」

暁斗は苦笑しつつ言って、余裕の表情で追い打ちをかけるようにまた攻撃をする。
またもやピアーズは受け止めたものの、防ぐので精一杯だ。しかも、暁斗は本気を出していない。
このままでは、防ぐことも出来なくなるだろう。

「なんとかしなきゃ……」

イーラは見ているだけじゃダメだと思って、呪文を唱える。なんとか隙を作って、逃げなくては。
呪文を唱え終わると、地面から大きな棘が生える。屋敷でも使った魔法だ。
まさか、イーラがそんなことを出来るとは思わなかったのだろう、暁斗はよろける。

「ピアーズ様!逃げて!」
「なに?イーラちゃんまで僕の邪魔するの?」

暁斗はそう言ってイーラの方を向くと、今度はイーラに剣を向ける。

「っ……」

イーラは咄嗟に後ずさって逃げる。しかし、逃げられなかった。暁斗は素早い動きでイーラに詰め寄り、剣を振り上げる。

「イーラ!」

その時、イーラと暁斗の間にピアーズが割り込んだ。

「っぐ!」

暁斗の剣は振り下ろされる。その剣は、ピアーズの腕を切り落とした。
ピアーズの腕がぼとりと地面に落ちる。
イーラは一瞬、何が起こったのか分からなかった。しかし、切り口から血が噴き出して顔に掛かってから我にかえる。

「い、いやーーーー!!」
「っく!」

ピアーズはそのまま、切られいない方の腕で暁斗を短剣で刺した。切った後で脇がガラ空きだったこともあり短剣は暁斗に刺さった。

「っ……!」

しかし、暁斗は少しよろけただけでそれをあっさり抜いてしまう。

「痛って。あー最悪。何してくれてんだよ……」

そう言って、ちょっと顔をゆがめただけで短剣を捨てる。そうして、ため息をつくと余裕の表情で剣をかまえ直し、振り上げる。

「はぁ、もう遊びは止めないとな」

しかし、暁斗の剣が振り降ろされることはなかった。突然、強い光が辺りを照らしたのだ。

「ん?なんだ?」

暁斗がそう言って振り返る。
その光は王都の方向からこちらに向かってきた。その鮮烈な光は圧倒的なエネルギーで、全てを薙ぎ払うものだった。
それは魔族が開発した兵器の光だ。それが、まだピアーズがいるのに発射されてしまった。
やはりミュリエルの言っていた事は本当だった。

「っそんな……」
「!イーラ!」

とっさにピアーズはイーラをかばうように抱きしめ、地面に伏せた。こんなことしたらピアーズは無事ではすまない。

「ダメェーー!!っ『風よ——』」

イーラはありったけの力を使って自分たちの周りに風を起こした。
それと同時に今まで味わったことのない衝撃がおき、ピアーズとイーラは吹き飛ばされた。
視界の端では、何が起きたのかも分かっていたいであろう暁斗がその光に飲み込まれているのが見えた。
その後は、もの凄い衝撃に何がどうなっているのかも分からなくなり、イーラは意識を失った。

**********

『……ラ……イ……ラ、イーラ』

誰かがイーラの名前を呼んでいる。イーラはその声で目を覚ました。

「誰?」

イーラはぼんやりとした頭でそう言った。
起き上がると、目の前には一人の女の子が立っていた。
イーラは見覚えのない女の子だった。イーラと同じくらいの女の子で、柔らかい雰囲気を纏っている。
しかし、確かにイーラは初対面のはずなのに、誰かに似ているような気がした。
イーラはすぐに、思い出す。
透真に似ているのだ。

「もしかして、あなた沙知?」

そう聞くと、その子はにっこり笑う。笑うと本当に透真にそっくりだった。

『そう、初めましてかな?変な感じだね』

沙知はそう言ってイーラの手を握る。柔らかくて温かい可愛らしい手だった。

「本当に沙知なの……?っていうか透真の事!」

同時にイーラは透真の事を思い出した。透真はイーラを庇い暁斗と戦い、その後はどうなったかわからない。少なくとも血を大量に流しているのは事実のようだ。

『お兄ちゃんは……きっと大丈夫。結構しぶといから』

沙知は少し不安そうにしたが、すぐにそう言った。その笑顔には透真を信頼している事が伺える。
イーラはその笑顔を見ていると、不思議と気持ちも落ち着いてきた。沙知がそう言うなら大丈夫な気がしてきた。

『それよりイーラ、寝てる場合じゃないよ。起きなくちゃ』

沙知はそう言うとイーラの手をひっぱり、歩き出した。沙知の話している言葉は、おそらく異世界の言葉だと思うが、イーラには何故か意味が分かった。

「目を覚ますってどういう事?」

今イーラは起きているはずなのに、なんでそんなことを言うのか分からない。
しかし、よく見るとサチの体が半透明だという事に気が付いた。しかも、自分も同じように半透明になっている。

『ほら、まだ間に合う。起きて!』

そう言えばここはどこだろうと、イーラが思ったと同時に、沙知がなにか扉のようなものを開けた。そうしてそのままイーラその中に押し出す。

「わ!」

扉の向こうには何もなく、イーラはそのまま暗闇の中を落ちる。

『イーラ、頑張って!あなたなら大丈夫だから』

沙知がそう言ったかと思うと。
体全体に衝撃を受け、何故かイーラはもう一度、目を開いた。

「っ!!」

目を開いて最初に見えたものは水底に沈んでいくピアーズだった。そのそれと同時にイーラは兵器に吹き飛ばされた事を思い出した。
イーラは慌ててピアーズを追う。
どうやら二人は遠くに吹き飛ばされ、川に落ちたようだ。冷たい水が轟音とともに流れている。

「っく!」

なんとかピアーズの体を掴んだが持ち上がらない。鎧が重いのだ。
イーラは一度水面に出て、大きく息を吸うとまた潜った。水底にたどり着くとピアーズの鎧を脱がせる。早くしないと息が持たない。何より、ピアーズもこのままだと死んでしまう。

「もう少し……」

水底で何とかピアーズの鎧を脱がせ、引っ張り上げた。

「ぷはっ……はぁ、はぁ!」

服を着たままで動きにくい上にピアーズを抱えながらだと、浮いているのがやっとだ。
それでも、なんとか岸まで辿り着く。

「っピアーズ様!目を開けて!」

なんとか岸まで引っ張り上げたが、いまだにピアーズはぐったりしたまま意識もない。体は氷のように冷たくなっている。
イーラを庇い兵器の攻撃をうけたせいだろうか体中傷だらけだ。特に背中が酷い。特に切られた腕からは血がダラダラと流れている。

「そ、そうだ、血を止めないと」

あまりに、酷い状況に何をしていいかわからない。パニックになりながらも、なんとかそのことに思い至る。
イーラは袖をちぎってピアーズの腕の根本を縛って止血した。
しかし、こんなことをしても焼石に水だ。体はどんどん冷たくなっているし、このまま意識が戻らないと、最悪な事も考えられる。

「……駄目、ピアーズ様お願い……」

胸に耳を当てると鼓動が聞こえた。なんとかまだ生きている。
イーラは落ち着くために、ぐるりと周りを見回す。周りは真っ暗で鬱蒼とした森が広がっている。
辺りにはそれ以外に明かりも何もないようだ。

「とりあえず、体を温めないと……」

まだ体の半分は水に浸かったままだ。その所為でどんどん体温が奪われている。
なんとか引きずって川から出そうとしたが動かない。18歳の女の子のイーラには意識を失ったピアーズの体は重すぎる。

「っあ、そ、そうだ魔法を使えば……」

焦り過ぎているのかいつもならすぐに思い付くことも思い付かなくなっていた。
イーラは魔法で持ち上げようと、急いで呪文を唱える。

「ん?あ、あれ?魔法が使えない。どうして……」

魔法を使ったはずなのに発動しない。呪文は間違っていないはず、と思って思い出した。

「あ、そうか……魔力切れ……」

屋敷を襲われてからずっと魔法を使い通しだった。おそらく、最後に使った風の魔法で、ありったけの魔力を使い切ってしまったのだ。

「どうしよう……」
「……イーラ?」

その時、薄っすらとだが目を開け、ピアーズがそう言った。

「ピアーズ様!」
「ここは?」
「分かりません。とりあえず、川に落ちたお陰で助かったみたいです」
「そうか……」
「動けますか?とりあえずここから移動しないと」

意識があるなら移動もしやすい。無理をさせるが、ここにいるよりいい。そう思ってピアーズの腕を取って肩に担ごうとした。

「イーラ、俺のことはいい」

ピアーズはそう言った。

「っ!何を言って……」

こんなところに置いていくなんて出来ない。
今は大丈夫でも、すぐに死んでしまう。
その時、背後で人の足音が聞こえた。

「なんだ?何か声したぞ」
「誰だ?」

振り向くと松明を持った人がこちらに近づいてきている。暗くてシルエットしか分からないが、明らかに男で、こん棒や弓を持っているのがわかった。

「っ!」

イーラは警戒する。どこまで飛ばされたのかわからないが、戦地に近いはずだ。どこに兵がいるか分からない。魔族ならいいが人間なら、今のイーラとピアーズでは対抗出来ない。

「イーラ、俺のことは置いて行け。お前だけでも……」

ピアーズは苦しそうな表情でそう言って、弱々しい力でイーラを押した。
しかし、イーラは決意したような表情にで立ち上がる。
そうして、唯一持っていた隠し武器を取り出し、こちらに向かって来る男たちに向きなおる。
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