上 下
15 / 62
一章

奴隷だった私と魔法の本2

しおりを挟む
「私、魔法を使ったの?」

驚いてそう聞き返すと、ピアーズが説明する。

「ああ、そのようだな」
「え?でも私はハーフだよ?」

イーラは不思議そうに聞き返す。ハーフは魔法が使えない。少なくともイーラはハーフがそんなことができるなんて聞いたことがなかった。

「あまり知られていないがハーフも魔力はある。魔族も人間も魔力があるのだから、ハーフが魔力があるのは当然だ」
「でも、魔法を使ってるハーフなんて見たことないし……」
「魔法を使うにはそれなりの訓練と知識が必要なんだ。ハーフにそれを得る機会はほとんどない。だから、使えないと思われてる」
「そうなんだ……」

イーラは自分の手を見下ろす。確かにハーフが魔法を使ったところは見たことがないが、魔力が無いと言われた事もない。

「それでも、少し不可解な事がある」

ピアーズが難しい顔で言った。イーラはそれを見てまた不安になる。

「ヴィゴ!」

そう言ってピアーズが誰かを呼んだ。

「はい。お呼びですか?」

すると、誰かが部屋に入ってきた。眼鏡をかけていて真面目そうな顔をしている。イーラはこの屋敷にきてしばらく経つが、見たことがない顔だった。
不思議そうな顔をしていると、ピアーズが気が付いた。

「ああ、イーラはこいつと会ったことがなかったな。俺の秘書のヴィゴだ」
「ピアーズ様、この子は……以前おっしゃっていた。拾ってきたハーフの子供ですか?」
「ああ、少し調べたい事が出来た。今日は急ぎの予定はないよな?この後の予定は後に回してくれ」
「それは、構いませんが。何があったんですか?」

ヴィゴが不思議そうに聞く。それはそうだろう、突然拾ってきた子供がこんなところに来て、上司が仕事を後回しにしたいと言うのだ。イーラはまたもや何か大事になってしまって申し訳なくなった。
ピアーズは簡単にイーラに起こった事を説明し始める。

「確かに、不思議な状況ですね」
「そうなんだよ……」
「しかし、今は急ぎの予定はありませんが、あまり時間をかけすぎないで下さいよ。あなたは一度熱中すると、他が見えなくなることがありますから」
「分かってるって」

そう言って、ピアーズはイーラを連れてどこかに向かった。
ピアーズは何か色々な道具が置かれている部屋に、イーラを連れて入る。

「ピアーズ、何するの?」
「とりあえず、お前の魔力量を測ってみる」

ピアーズはそう言って何か古びた道具を取ってきた。
それは、大きな杯でその中心辺りにももう一つ小さな器が杯から生えたようになっている何かの容器だ。ピアーズはそこに、水を持ってきて小さな器の方に入れた。

「イーラ、手を」

ピアーズがそう言ってイーラに手を出すように言う。

「はい」
「少し、痛いが我慢しろ」

そう言ってピアーズはイーラの手を取って指に針を刺した。

「っ!」
「少し、血をもらうぞ」

そうして、流れた血を小さな器の方にたらす。水の中に血が滲んで広がった。
何だろうと見ていると、一瞬間が空いた後小さな器から水が溢れた。
その勢いは止まらず、あっという間に杯が満たされていく。

「凄い……イーラの魔力がこれほどとは……」

一緒に付いて来ていたコンラートが驚いた顔でそう言った。

「え?どういう事?これなあに?」
「これは、魔力を測る道具だ。この器に血をたらすことで、その人物の魔力の量を測れるんだ。水の量が多ければ多いほど魔力も高い」

ピアーズがそう説明した。

「えっと……じゃあ、私の魔力の量は多いの?」
「ああ、かなり多い。しかも普通の魔族より多い」
「そんなに?」
「これはあり得ないですよ……」

コンラートが言った。

「でも……あの……そもそも、魔族とハーフはどれくらい魔力の違いがあるの?」

イーラは分からない事ばかりで混乱してきた。すると、今度はコンラートが説明する。

「魔力は個人差がありますが、基本的に魔族が一番魔力が高く、人間はその十分の一ほどの魔力しかありません。ハーフに関してはそもそも、はっきり調査した訳ではありませんが、魔族と人間の間くらいらしいです」
「え?人間より多いんだ……」
「ええ、それでも魔族の半分くらいです。でも使えないと思われているのは、さっきピアーズ様が言ったとおり、使うのは訓練や勉強が必要だからです」
「しかし、この結果を見るとイーラは平均的な魔族より魔力が高いことになる」

ピアーズが後を継いで言った。

「なんでだろう?何か間違いじゃ……」

イーラは困惑する。イーラには奴隷だったということ以外何にも特徴がない。それなのに突然そんなことを言われても理由がわからない。

「いや、その可能性は低い。この道具に間違いは滅多にないんだ」

ピアーズがそう言ってさっきの魔法の本を取り出し、続ける。

「そもそもイーラがさっき使った魔法は、かなり高い魔力がないと発動しない魔法なんだ」
「そのために、魔力の測定をしたんですね」

コンラートが言った。

「ピアーズはどれくらいだったの?」

イーラは聞いてみた。話ではピアーズは魔族の国で一番高い魔力と言われていた。

「ピアーズ様の時は杯から溢れました」
「ああ、懐かしいな」
「あの時はみんな驚いてちょっとした騒ぎになりましたね」
「凄い……」

イーラは改めてピアーズの凄さを確認した。

「しかし、それでも分からない事はある」

ピアーズはまた考えこむように手を顎にあてる。

「どういう事?」
「この呪文が読めたことだ」
「あ……そうだ。なんでなんだろう?」
「この呪文は、過去に強大な魔力を持つ者が作った魔法なんだ。独特の言葉で構成されていて正しい発音と一定以上の魔力がないと発動しない。しかし、その分短い詠唱で強力な魔法が使える」
「同じ効果のある魔法を使おうとすると、もっと長い詠唱が必要になるんです」

コンラートが言い添える。

「そう、俺もこの魔法は勉強してみたが、魔力は足りたがこの独特の言語が壁になって諦めたんだ」
「ピアーズでも無理だったのに、なんで私は出来たんだろう……」
「うーん、これに関しては、イーラにもわからないなら。流石に俺も分からないな……」

ピアーズがまた考え込むように言った。

「魔力に関しては個人差があるので、イーラの魔力がたまたま異常に高いだけと説明出来なくないですが、これに関しては説明がつきません」

コンラートも考え込みながら言う。
二人ともとても賢い人だ。それなのにわからないなんて、イーラはまた不安になってくる。
それに気がついたのか、ピアーズが安心させるように笑ってイーラの頭を撫でた。

「大丈夫だ。これから、詳しく調べてみよう。それに今まで普通に暮らしてきて害はなかったんだ。すぐに、なにかあることはないだろう」

まだ少し不安はあったものの、ピアーズの言葉でイーラは少しホッとした。
そして、ピアーズは続けて言った。

「それに、この状況は不可解ではあるが面白い」

ピアーズはそう言ってニヤリと笑った。

「ピアーズ様、また何か変な事を始めるつもりじゃないでしょうね」

コンラートが少し警戒するように言った。
しかし、ピアーズはそんな言葉耳に入っていないようだ。

「イーラの能力をそのままにしておくのはもったいない。それに、以前からハーフの可能性についても調べてみたいと思っていたところなんだ」

ピアーズは面白い遊びを思いついた子供みたいな表情で言った。その顔にイーラはまた少し不安になってきた。

——それから数日後。
イーラはピアーズの仕事している執務室に呼び出され向かった。
そこに行くと、ピアーズとヴィゴの他に、また知らない人物が待っていた。

「ピアーズ、この人誰?」

ピアーズはニコニコ笑っていて、この間と同じく楽しそうだ。

「イーラに家庭教師を付けることにした」
「……へ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...