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一章

奴隷だった私の始めての友達2

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「そろそろ、出口を探すか」

しばらく休憩していたカイがそう言って立ち上がった。

「そうだね」

イーラもそう言って立ち上がる。

「ちょっと、休憩したから今度こそ大丈夫!……たぶん」

カイはイーラの手を取ると、ちょっと自信なさそうに言った。

「うん、頼りにしてる」

そうして二人はまた歩き出した。
カイが言った通り、休憩したおかげか落ち着て自分達の状況を見れるようになった。

「えーっと、ここはさっき通ったから……」
「うん、あっちはまだ試してないかも」 

二人でそんな風に話し合って進む。二人で協力して歩くと気も紛れて段々と楽しくなってきた。薄暗い回廊や、長い階段を登ったり降りたりしながら進んでいく。
しばらくすると、なんとか見知った場所に出ることに成功した。

「カイ!ここにいたのか!」
「あ!父上!」

ホッとしたところで丁度カイの父親のルカスがそう言って現れた。どうやら、ルカスは心配して探しいたようだ。
カイはホッとしたようにルカスに駆け寄った。少し泣きそうな表情なのは気のせいだろうか。

「どこ行ってたんだ。また、迷ったのか?」
「え?ち、違うよ」

カイは目線を逸らしながら誤魔化す。どうやら、カイが道に迷ったのはこれが初めてじゃないようだ。

「迷ってたのは私だよ。カイはここまで連れてきてくれたんだよ」
「お前は……ピアーズ様が拾った……イーラだったか。カイ本当なのか?」
「う、うん」

気まずそうな表情をしつつもカイは頷いた。さすが、父親だそれを見て怪しいなという顔をする。

「まあ、いいか。どっちにしても戻ってくるのに時間が掛かり過ぎだとは思うけどな……」
「ほ、本当だって……」
「ほら、やることはまだあるんだ行くぞ」
「はーい。あ、ちょっとまって……」

カイはそう言ってイーラのところに戻った。

「どうしたの?」
「本当のこと言わないでくれて、ありがとうって言おうと思って……」

カイはこそっと小声で言った。

「いいよ。それより、また遊ぼう?楽しかった」

イーラがそう言うとカイは嬉しそうに笑う。

「うん、約束」

カイはそう言うとルカスの元に戻った。
イーラは小さく手を振った後、お昼を食べに急いでキッチンに向かった。
ヘンリーには案の定怒られた。
結構心配させたようで、イーラは申し訳なくなった。
部屋に戻り一休みしていると歩き疲れたのか、イーラはいつのまにか眠っていた。
その夜、いつも通りイーラはベッドでピアーズに今日あったことを話す。

「屋敷で迷ったのか。まあ、広いからな、イーラの足では仕方がないな」
「まさか、こんなところで迷うなって思わなかったよ」

外から見ると屋敷は複雑には見えない。それなのに、少し歩いただけで、自分がどちらから来たのかもわからなくなってしまった。

「この建物は代々ここの領主が住んできた屋敷なんだ。人間の国とも近いから襲撃に備えてこんな作りになっているんだ」
「でも、なんであんなに複雑なの?」
「万が一建物の中に入られた時に混乱させるためだ。そうやって時間を稼いで、使用人を逃がしたり反撃したりする」
「なるほど……」

ピアーズの説明にイーラは頷く。

「それに、裏の森に通じる隠し通路なんてものもある」
「そんなのもあるんだ……」
「ああ、探してみろ」
「うん」

イーラはなんだかわくわくして頷いた。今度、カイと遊ぶ時に一緒に探そうと思った。

「まあ、そんな感じだから、自力で道を覚えてもらうしかないんだ」
「そっか、だからカイはああやって道を覚えてたのかな?」

カイは騎士としてしゅうれんしていると言っていた。もしかしたらあれも訓練の一環だったのかもしれない。

「カイ?」
「今日、一緒に遊んだの。迷ってた時に会って一緒に迷っちゃった。ルカスの息子なんだって」
「ああ、あいつの息子か。たまに話を聞くよ。将来騎士になるって威勢はいいが、たまに空回りしてて困るって言ってたな」

ピアーズは思い出すように言って苦笑した。

「手伝いもしてるって言ってた」
「ルカスは案外子煩悩だからな、ちょくちょく連れてきて雑用を手伝わせたりしてる。文句を言いつつも可愛がってるみたいだな」
「そうなんだ……」
「それにしても。良かったな、動物以外にも友達が出来て」
「うん、また遊ぼうって約束したよ」

イーラがそう言うと、ピアーズは微笑みイーラの頭を撫でた。イーラはちょっとくすぐったくて笑った。
途中で恐ろしげな甲冑に驚いたり。何故か高い塔の上まで登ってしまったりしたが、そこから見えた風景はとても綺麗だった。今日はカイと二人で冒険したみたいでとても楽しかった。

「他には何があった?」
「えーっとね。あとはお昼に遅れたからヘンリーに怒られたんだけど、その後は部屋でお昼寝したよ」

イーラは思い出しつつ言った。それにしても、本当に何もせずにただ遊んでいただけだなと思う。
怒られるのではないかと思ったが、ピアーズは気にした様子はなかった。

「今日は、それくらいか。じゃあ、もうそろそろ寝るか」
「うん……あ、そうだ。ピアーズ、両目の色が違うと世界を滅ぼすって本当?」

イーラはいつも通りベッドの隅で丸くなりなろうと思ったが、カイとの会話を思い出して聞いてみた。
ピアーズはその言葉に、少し驚いた顔をする。

「カイに聞いたのか?」
「うん、カイはそんな事ないって、でもピアーズ様はそんな噂をはねのけたから凄いんだって言ってた」
「なるほど……」

ピアーズはそう言って少し考えるような表情になる。

「本当にそんな“でんしょう”あるの?」
「ああ、『色の違いし瞳を持つ者、天を貫く光と共に世界を滅ぼす』って言葉が古い伝承に残っているらしい、ただ本当に古い伝承だ。その出典になった本も古すぎて何を書いた本なのか、ボロボロになっていて解読できないんだ」

イーラは首を傾げる。ピアーズの話は難しすぎてよくわからない。
しかし、そう言う伝承は一応あるということはわかった。

「そうなんだ……私も目の色が違うけど大丈夫かな?」

カイは大丈夫と言っていたが、イーラはなんだか急に不安になってきた。すると、ピアーズは笑いだす。

「お前は俺が世界を滅ぼすより、自分が滅ぼす方を心配するんだな」
「え?だって……ピアーズはしないよ」

そう言うとピアーズはまた可笑しそうにクスクス笑う。そうして、またイーラの頭を撫でた。

「そうだな。俺もしないしお前もしないよ。でも、サーシャが世界を滅ぼすって可能性もある」

ピアーズがそう言うと名前を呼ばれたと思ったのか、ウトウトしていたサーシャが顔をあげてこちらを見た。

「サーシャが?」
「サーシャも目の色が違うじゃないか。それにあんなに鋭い牙も持っているし。怒ったら怖いぞ」

ピアーズはそう言いながらまた笑う。イーラもそれにつられて笑った。

「だから、イーラはサーシャが世界を滅ぼさないように見張っておいてくれ」
「わかった」

イーラが頷くとピアーズはイーラを引き寄せぎゅっと抱きしめ、頭を撫でた。イーラはまたなんだかくすぐったい気持ちになった。

「じゃあ、もう寝ろ」
「うん」

そうして二人は眠りにつく。イーラはこの日、初めてピアーズにくっついて眠った。
何度も眠った同じベッドなのに今までの何倍も心地がよかった。
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