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四章
締まりがない (アルノルド視点)
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「災難で御座いましたね」
「全くだ。それで、どうだった?」
「大体の部屋や物は確認できましたが、それらしい物は見つかりませんでした」
「そうだろうな」
子供達には聞こえない距離まで離れると、共に歩いていたドミニクから軽口にも似た言葉が出たが、私はそれに答えながらもそれ以上は付き合う気はないと早々に要件を切り出せば、飄々としていた態度は鳴りを潜め、事務的な答えだけが返って来る。実際、直ぐに見つかるような場所に隠しているとは私も思っていないため、特に何かを期待していたわけではない。
「やはり、暖炉があるあの部屋か」
「はい。入室に関してもですが、家具類に触る事さえも否定的でした」
「しかし、存外分かりやすい位置に作ったな」
「此処ならば、一目を憚る必要はないと判断されたのでしょう」
「愚かだな」
悪事を行うための部屋を自身の部屋の隣に作るなど、自ら自身が首謀者だと自白しているものだ。
「しかし、古くなった屋敷の修繕を理由に改修工事費用を渡してやってはいたが、こうも分かりやすく造るとは」
「はい。外から見ても分かるような造りにするとは、私も思ってもおりませんでした」
この屋敷に存在していた隠し部屋は私が全て把握しているため、悪事を隠すための新たな部屋を造るだろうとは予見はしていた。だが、秘密裏の部屋を新たに造るとなれば、歪みが生じて屋敷が歪になりやすい。普通はそれを隠すよう、外観を調整しながら設計するのだが、それすらもした形跡がない。
「魔法で部屋の場所は分かってはいたが、確証が持てたのは大きい。それに、事前に部屋に入れたおかげで、大体の開け方も理解できた」
「はい。簡単な造りでしたので、一目もなくなる夜でしたら何時でも大丈夫かと。しかし、シェリア様もこのような回りくどい事をなさらなくても宜しかったでしょうに…」
「姉上も知らぬ振りをして泳がせている分、自身が動く所を此処の者達に見せたくないのだろう」
背後から嘆きにも近い声が漏れ聞こえて来るが、姉の性格を考えれば無理に近いものがある。そもそも、わざと付け入る隙をみせ、相手を勘違いさせて自滅させようとしている人間の性格に期待するだけ無駄だ。それに、楽だっただろうと言うあの口振りから考えれば、この屋敷を大手を振って調べられる理由を私に与え、手助けしたつもりなのだろう。だが、子供達の前という事も考慮して貰いたい。
「それに、私が赴けば話しが速いという利点もあったのだろう。私が相手なら、正当な理由なく入室を断る事など出来ないだろうからな」
「確かに、アルノルド様が相手では、入室を断る理由を考えるのも困難でしょうね。そう考えれば、あの方達には少し哀れみを感じてしまいます」
「あれ等にも哀れみを感じるなど、お前も優しいものだな」
「使える者を間違えた者達への同情心くらいは、私とて持っておりますので。ですが、私を優しいと仰るのでしたら、アルノルド様の方がお優しいかと思いますが?」
「…そんな訳がなかろう」
皮肉を込めて言えば、奴から何とも理解しがたい返答が返ってきた。私は不快感を隠すような事もせず、不躾な者を見るような視線を投げつける。そうすれば、嫌な笑顔を浮かべだした。
「ですが、ティ様がお作りになった落とし穴の上を、わざわざ通って差し上げていたではないですか?」
「……見てたのか?」
「はい。微笑ましい光景だと思い、上から見ておりました」
「はぁ…あれはただ単に、こんな事をしても無意味だと見せた方が速いと思っただけだ。そもそも、あれを落とし穴と言うには些か語弊がある」
あれは落とし穴などではなく、ただの穴だ。なにせ、30センチ程の深さしかなく、あの頃の私でさえ膝まで埋まればいい程度。お粗末だと言う他ない。
「そうなのですか?その割には、その後も色々と手を焼かされていたように見受けれれたのですが?」
「……」
奴のせいで、忘れかけていた苦い記憶が蘇る。
毒にも体制を付けよう毒を飲んでいたあの頃の私には、辛さなどさしたる問題にもならなければ、他も気に掛ける必要も感じなかった。だが、あの女は何かあれば直ぐに使用人をクビにするため、アレが起こす騒動のせいで罪なき者が露頭に迷わぬよう、後始末をさせられるのは何時も私だった。時には無能な者を排除する口実に使う事はあったが、利益よりも損害の方が大きかった。普段であれば軽く流すのだが、先程まで散々使われていた事もあり、奴の軽口が何時も以上に気に障る。
「しかし、あれ程一目で分かる落とし穴と言うのも、私は初めて見ました」
「……そうだな」
綺麗に整えられ、雑草すら生えていない庭園の道の真ん中に、不自然なくらい大量の小枝や葉が一箇所に置かれていれば、誰であろうと何かあると不審に思う。そのうえ、姉上と話す声は大きく、その後ろ姿は丸見えだった。しかし、姉上が手を貸していた事もあり、アレが乗っただけでも壊れるように調整されて作られていた所は見事だった。しかし、あんな罠に本気で掛かる馬鹿等などいる訳が…
「……いたなぁ」
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない。それよりも、連中の動きはどうだ」
「動き出したようです」
「あの女もアレを見ていたようだったからな」
私の口から溢れ落ちた呟きに、直ぐに疑問の言葉を投げ掛けられるが、それを言葉で制して話題を元に戻す。そうすれば、直ぐに報告が上がって来た。私も屋敷から感じた視線を思い出し、返答を返しながら言葉を続ける。
「前回、此処で貴重な素材が取れていたという情報を帝国側に売っていたのも、間違いなくあの女の仕業だろう。それに、アレの姿を見た以上は、今回もまた情報を売って利益を得ようとするはずだ」
「ティ様が見つからないよう、わざわざ憎まれ役で買ってまで道を壊したと言うのに、無駄に終わってしまいましたね」
「憎まれ役を買ったのではない。あの女が騒ぎそうで、それが面倒だっただけだ」
アレ等を愛玩目的に買う連中もいるようだが、私からすれば騒がしいだけの存在に金を掛ける意味が理解出来ない。だが、寂れた生活に嫌気が指しているあの女には、アレが金のなる木に見えるのだろう。その証拠に、私が屋敷に戻った途端、アレを此処に連れて来いと私の部屋までやって来ては捲し立てていた。
初日の夜にもやって来ていたが、この女は何時まで勘違いをしていられるのかと正気を疑う程だった。最初から学習能力がないとは分かっていたが、先に部屋を分けておいて正解だったと痛感せずにはいられなかった。さすがに目に余ったため多少灸は据えたが、それで懲りるような人間でないのは分かっている。
「アレには自身の立場を理解して、自重した行動して貰いたいものだ」
「そうですね。もう少し人を疑って然るべき所はあるかもしれませんね」
姉と過ごしている様子を見ているだけでも分かるが、アレの迂闊過ぎる行動には本当に目も当てられない。現に、アレが作った穴の上を通った際に、魔法で補強くらいはしてやったのが、後ろで響いた悲鳴を聞く限り、それさえも無駄に終わったのだと直ぐに分かった。
しかし、アレの事を考えていると嫌でも頭が痛くなって来る。そのため、私は別の事へと意識を巡らす。
「しかし、這いつくばるように帝国の巣を見つけてくれた事だけは、あの女に感謝しなければならないな」
これまでも裏社会の情報を得るのには役に立っていたが、今回は穢らわしい帝国の巣を根こそぎ排除出来るという事実に、自然とニヤリとした笑みが私の顔に浮かぶ。そんな私を、やれやれと言った様子で見てくる気配が背後から感じるが、その後ろから私達に近寄って来る気配を感じた。
「父上。私も、何か手伝える事はないでしょうか?」
振り向けば、私達を追い掛けて来ただろうオルフェが、真剣な顔をしてそこに立っていた。どうやら感の良いオルフェには、既に気付かれていたようだ。
「お前はこの件に関わらなくても良い。それよりも、エレナ達が気付いた様子はあったか?」
「いえ、父上の昔話の方に意識が向いており、こちらの様子には気付いていない様子でした。私が1度屋敷に戻ったのも、本を取りに戻ったと思っているようです」
「…そうか」
オルフェの言葉に安堵しながらも、目を眩ませる手段としては何とも複雑な所はある。それに、この何とも言えない落ち着きようがない衝動をどうすれば良いか分からず、判断が鈍りそうになる。
「私にも手伝わせて頂けないでしょうか?」
「今も言ったが、お前が関わる必要はない」
再度問い掛けて来たオルフェに、私は譲る気はないときっぱりとした態度で応じるが、向こうも譲る気はないようだった。
「次期当主としても、今から色々な経験を積みたいと私は考えております。ですので、今回の件もいい勉強にさせて頂きたいです。もし、父上が此処で拒否なされるようでしたら、後は私個人で動かせて頂きます」
「……分かった。ならば、ある人間が屋敷を出るようならその後を追尾しろ。だが、中に入る必要はない。それと、場所が分かりしだい屋敷に戻ると約束しろ」
「分かりました」
目を見て直ぐに本気だというのが分かった。だが、あの女と関われせるつもりは毛頭ない。しかし、勝手に動かれては擁護し難いと考え、比較的監視がしやすい者の監視を頼む事にした。そうすれば、私の気が変わるのを恐れたためか、肯定の返事を返すと直ぐに踵を返して私の前から去って行った。その後姿を苦い思いで見つめながら、ため息に近い言葉が溢れ落ちる。
「…感が良いと言うのも考えものだな」
「そこは、アルノルド様に似たのかと」
「……」
「我らの方も、早々に片付けを終われせねばなりませんね」
「……そうだな」
褒められているのか、それとも皮肉られているか判断がつき難い言葉を言われ、私が無言のまま見つめていれば、先程までとは違った砕けた態度を見せながら煙に巻く。私も、手の中にある何とも締まらない使い終わった食器類を前に、内心ため息を付きそうになった。
「全くだ。それで、どうだった?」
「大体の部屋や物は確認できましたが、それらしい物は見つかりませんでした」
「そうだろうな」
子供達には聞こえない距離まで離れると、共に歩いていたドミニクから軽口にも似た言葉が出たが、私はそれに答えながらもそれ以上は付き合う気はないと早々に要件を切り出せば、飄々としていた態度は鳴りを潜め、事務的な答えだけが返って来る。実際、直ぐに見つかるような場所に隠しているとは私も思っていないため、特に何かを期待していたわけではない。
「やはり、暖炉があるあの部屋か」
「はい。入室に関してもですが、家具類に触る事さえも否定的でした」
「しかし、存外分かりやすい位置に作ったな」
「此処ならば、一目を憚る必要はないと判断されたのでしょう」
「愚かだな」
悪事を行うための部屋を自身の部屋の隣に作るなど、自ら自身が首謀者だと自白しているものだ。
「しかし、古くなった屋敷の修繕を理由に改修工事費用を渡してやってはいたが、こうも分かりやすく造るとは」
「はい。外から見ても分かるような造りにするとは、私も思ってもおりませんでした」
この屋敷に存在していた隠し部屋は私が全て把握しているため、悪事を隠すための新たな部屋を造るだろうとは予見はしていた。だが、秘密裏の部屋を新たに造るとなれば、歪みが生じて屋敷が歪になりやすい。普通はそれを隠すよう、外観を調整しながら設計するのだが、それすらもした形跡がない。
「魔法で部屋の場所は分かってはいたが、確証が持てたのは大きい。それに、事前に部屋に入れたおかげで、大体の開け方も理解できた」
「はい。簡単な造りでしたので、一目もなくなる夜でしたら何時でも大丈夫かと。しかし、シェリア様もこのような回りくどい事をなさらなくても宜しかったでしょうに…」
「姉上も知らぬ振りをして泳がせている分、自身が動く所を此処の者達に見せたくないのだろう」
背後から嘆きにも近い声が漏れ聞こえて来るが、姉の性格を考えれば無理に近いものがある。そもそも、わざと付け入る隙をみせ、相手を勘違いさせて自滅させようとしている人間の性格に期待するだけ無駄だ。それに、楽だっただろうと言うあの口振りから考えれば、この屋敷を大手を振って調べられる理由を私に与え、手助けしたつもりなのだろう。だが、子供達の前という事も考慮して貰いたい。
「それに、私が赴けば話しが速いという利点もあったのだろう。私が相手なら、正当な理由なく入室を断る事など出来ないだろうからな」
「確かに、アルノルド様が相手では、入室を断る理由を考えるのも困難でしょうね。そう考えれば、あの方達には少し哀れみを感じてしまいます」
「あれ等にも哀れみを感じるなど、お前も優しいものだな」
「使える者を間違えた者達への同情心くらいは、私とて持っておりますので。ですが、私を優しいと仰るのでしたら、アルノルド様の方がお優しいかと思いますが?」
「…そんな訳がなかろう」
皮肉を込めて言えば、奴から何とも理解しがたい返答が返ってきた。私は不快感を隠すような事もせず、不躾な者を見るような視線を投げつける。そうすれば、嫌な笑顔を浮かべだした。
「ですが、ティ様がお作りになった落とし穴の上を、わざわざ通って差し上げていたではないですか?」
「……見てたのか?」
「はい。微笑ましい光景だと思い、上から見ておりました」
「はぁ…あれはただ単に、こんな事をしても無意味だと見せた方が速いと思っただけだ。そもそも、あれを落とし穴と言うには些か語弊がある」
あれは落とし穴などではなく、ただの穴だ。なにせ、30センチ程の深さしかなく、あの頃の私でさえ膝まで埋まればいい程度。お粗末だと言う他ない。
「そうなのですか?その割には、その後も色々と手を焼かされていたように見受けれれたのですが?」
「……」
奴のせいで、忘れかけていた苦い記憶が蘇る。
毒にも体制を付けよう毒を飲んでいたあの頃の私には、辛さなどさしたる問題にもならなければ、他も気に掛ける必要も感じなかった。だが、あの女は何かあれば直ぐに使用人をクビにするため、アレが起こす騒動のせいで罪なき者が露頭に迷わぬよう、後始末をさせられるのは何時も私だった。時には無能な者を排除する口実に使う事はあったが、利益よりも損害の方が大きかった。普段であれば軽く流すのだが、先程まで散々使われていた事もあり、奴の軽口が何時も以上に気に障る。
「しかし、あれ程一目で分かる落とし穴と言うのも、私は初めて見ました」
「……そうだな」
綺麗に整えられ、雑草すら生えていない庭園の道の真ん中に、不自然なくらい大量の小枝や葉が一箇所に置かれていれば、誰であろうと何かあると不審に思う。そのうえ、姉上と話す声は大きく、その後ろ姿は丸見えだった。しかし、姉上が手を貸していた事もあり、アレが乗っただけでも壊れるように調整されて作られていた所は見事だった。しかし、あんな罠に本気で掛かる馬鹿等などいる訳が…
「……いたなぁ」
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない。それよりも、連中の動きはどうだ」
「動き出したようです」
「あの女もアレを見ていたようだったからな」
私の口から溢れ落ちた呟きに、直ぐに疑問の言葉を投げ掛けられるが、それを言葉で制して話題を元に戻す。そうすれば、直ぐに報告が上がって来た。私も屋敷から感じた視線を思い出し、返答を返しながら言葉を続ける。
「前回、此処で貴重な素材が取れていたという情報を帝国側に売っていたのも、間違いなくあの女の仕業だろう。それに、アレの姿を見た以上は、今回もまた情報を売って利益を得ようとするはずだ」
「ティ様が見つからないよう、わざわざ憎まれ役で買ってまで道を壊したと言うのに、無駄に終わってしまいましたね」
「憎まれ役を買ったのではない。あの女が騒ぎそうで、それが面倒だっただけだ」
アレ等を愛玩目的に買う連中もいるようだが、私からすれば騒がしいだけの存在に金を掛ける意味が理解出来ない。だが、寂れた生活に嫌気が指しているあの女には、アレが金のなる木に見えるのだろう。その証拠に、私が屋敷に戻った途端、アレを此処に連れて来いと私の部屋までやって来ては捲し立てていた。
初日の夜にもやって来ていたが、この女は何時まで勘違いをしていられるのかと正気を疑う程だった。最初から学習能力がないとは分かっていたが、先に部屋を分けておいて正解だったと痛感せずにはいられなかった。さすがに目に余ったため多少灸は据えたが、それで懲りるような人間でないのは分かっている。
「アレには自身の立場を理解して、自重した行動して貰いたいものだ」
「そうですね。もう少し人を疑って然るべき所はあるかもしれませんね」
姉と過ごしている様子を見ているだけでも分かるが、アレの迂闊過ぎる行動には本当に目も当てられない。現に、アレが作った穴の上を通った際に、魔法で補強くらいはしてやったのが、後ろで響いた悲鳴を聞く限り、それさえも無駄に終わったのだと直ぐに分かった。
しかし、アレの事を考えていると嫌でも頭が痛くなって来る。そのため、私は別の事へと意識を巡らす。
「しかし、這いつくばるように帝国の巣を見つけてくれた事だけは、あの女に感謝しなければならないな」
これまでも裏社会の情報を得るのには役に立っていたが、今回は穢らわしい帝国の巣を根こそぎ排除出来るという事実に、自然とニヤリとした笑みが私の顔に浮かぶ。そんな私を、やれやれと言った様子で見てくる気配が背後から感じるが、その後ろから私達に近寄って来る気配を感じた。
「父上。私も、何か手伝える事はないでしょうか?」
振り向けば、私達を追い掛けて来ただろうオルフェが、真剣な顔をしてそこに立っていた。どうやら感の良いオルフェには、既に気付かれていたようだ。
「お前はこの件に関わらなくても良い。それよりも、エレナ達が気付いた様子はあったか?」
「いえ、父上の昔話の方に意識が向いており、こちらの様子には気付いていない様子でした。私が1度屋敷に戻ったのも、本を取りに戻ったと思っているようです」
「…そうか」
オルフェの言葉に安堵しながらも、目を眩ませる手段としては何とも複雑な所はある。それに、この何とも言えない落ち着きようがない衝動をどうすれば良いか分からず、判断が鈍りそうになる。
「私にも手伝わせて頂けないでしょうか?」
「今も言ったが、お前が関わる必要はない」
再度問い掛けて来たオルフェに、私は譲る気はないときっぱりとした態度で応じるが、向こうも譲る気はないようだった。
「次期当主としても、今から色々な経験を積みたいと私は考えております。ですので、今回の件もいい勉強にさせて頂きたいです。もし、父上が此処で拒否なされるようでしたら、後は私個人で動かせて頂きます」
「……分かった。ならば、ある人間が屋敷を出るようならその後を追尾しろ。だが、中に入る必要はない。それと、場所が分かりしだい屋敷に戻ると約束しろ」
「分かりました」
目を見て直ぐに本気だというのが分かった。だが、あの女と関われせるつもりは毛頭ない。しかし、勝手に動かれては擁護し難いと考え、比較的監視がしやすい者の監視を頼む事にした。そうすれば、私の気が変わるのを恐れたためか、肯定の返事を返すと直ぐに踵を返して私の前から去って行った。その後姿を苦い思いで見つめながら、ため息に近い言葉が溢れ落ちる。
「…感が良いと言うのも考えものだな」
「そこは、アルノルド様に似たのかと」
「……」
「我らの方も、早々に片付けを終われせねばなりませんね」
「……そうだな」
褒められているのか、それとも皮肉られているか判断がつき難い言葉を言われ、私が無言のまま見つめていれば、先程までとは違った砕けた態度を見せながら煙に巻く。私も、手の中にある何とも締まらない使い終わった食器類を前に、内心ため息を付きそうになった。
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