上 下
199 / 228
四章

会場で

しおりを挟む
「おかえりなさい」

僕達が元いた部屋に戻ると、母様達は既に準備を終えて父様達と合流していたようで、僕達の帰りを笑顔で迎い入れてくれた。だけど、その変わりに、何故か陛下の姿は既に部屋からいなくなっていた。その事を不思議に思っていると、僕が口を開く前に母様が僕に話し掛けて来た。

「アルから聞いたのだけれど、みんなでお城の探検に行っていたそうね。何かご迷惑を掛けしてはいない?」

「そんな事してないよ」

「本当に?」

「本当だよ!」

念を押すように再度訪ねて来る母様に、僕がムキになって答えると、そんな僕を擁護するように兄様が口を開いた。

「母上、リュカは嘘を付いていません」

「そう、それなら良かったわ」

僕の言葉は何処か半信半疑な様子だったのに、母様は兄様の言葉に納得して安心した態度を見せていた。その様子に、少し面白くないなと思っていたら、向こうも僕と似たような状況になっていた。

「ブライト、クリス達は何も問題を起してなかった?」

「はい、問題ありませんでした」

「何で俺じゃなくて、アニ…兄さんに聞くんだよ!?」

「貴方は正直に言いそうにないからよ。それに、こういうのは日頃からの行いが物を言うのよ」

「俺だって、こんな場所で問題なんて起こさないし…」

ラザリア様の声に不貞腐れたような顔で文句を言いつつも、あまり大きな声では言えないのか、ラザリア様には聞こえないような小さく呟いていた。だけど、それでもその声が聞こえていたのか、ラザリア様の目がすうっと細くなった。そんな目を向けられた事に気付いたクリスさんは、直ぐに口を噤ん知らんかをしていた。

その後、ベルンハルト様も僕達と入れ違うように部屋を後にして、お兄さんもそれに付いて行ってしまった。部屋に残された僕達は、招待客が集まりきっる頃まで時間を潰して、それからみんなと一緒に会場へと向かった。

「それで、俺達はどうする?」

会場に入って暫くたった頃、バルドが振り返りながら僕達へと聞いて来た。

「前みたいに面倒な奴に声掛けられても嫌だし、親父達からも、あんまり側を離れるなって念押しされてるしな。かと言って、あっちは動けそうにないし…」

そう言って見た視線の先には、何時もみたいに色んな人達に囲まれてしまって、身動きが取れなさそうな兄様達の姿があった。

「それに、兄貴ももう行っちゃって、兄さんも戻って来てなさそうだしな…」

会場に入った所で知り合いを見つけたらしく、クリスさんはそっちの方へと行ってしまった。それに、警備の様子を見に行ったベルンハルト様達も、まだ戻って来てはいないのか、辺りを見渡して見ても姿が見えない。

僕達3人だけで父様達からあまり離れられない僕達が悩んでいると、辺りを見渡すように歩く見知った姿が、人混みの向かう側に見えた。

「アリアだ」

「げっ!」

僕が見つけた人物の名を呟くと、バルドが嫌そうに顔をしかめながら、うめき声のような声を上げた。

「アイツに見つかったらなんか面倒だから、少し隠れようぜ」

「もう遅いみたいですよ」

コンラットの言葉で正面を向くと、こっちに気付いたアリアがゆっくりと歩いて来ているのが見えた。バルドはアリアが苦手だからか、少し警戒したような様子でアリアの事を見ていた。そんなアリアが僕達の前で立ち止まると、僕達に向けた事がないような笑みを浮かべて一礼した。

「皆様、御機嫌よう」

アリアのきちんとした仕草と言葉遣いに僕が驚いていると、誰よりも速くバルドが声を上げた。

「どうしたんだ!?お前、何か悪い物でも食べたのか!?何時もと態度違い過ぎるだろ!」

「何をおっしゃっているのか。私には、さっぱり分かりませんわ」

バルドの声で周囲からの視線を集つまると、アリアは取り繕ったような笑みを浮かべながら笑っていた。だけど、その目からは笑みが消えていて、怒っているような目に見せた。そんな目を向けられたからか、バルドはまるで怖い物でも見たかのような顔を浮かべて、一歩距離を取っていた。

「そんな事よりも、皆様、カレン様はお見かけになられませんでしたか?」

バルドの様子には何の関心もないようで、アリアは会場を見渡しながら僕達へとそう問いかけて来た。だけど、僕達の話しを聞かない所が何時も通りだったためか、僕は何となくその事に安心してしまった。

「父様に聞いてみたけど、カレン様は今回も参加はしてないって言ってたよ」

「はぁあ゛?」

僕の言葉を聞いた途端、アリアはドスが聞いたような声を上げて、顔も豹変した。

「何で来てないのよ!?来るって言ってたでしょ!?」

「たぶんって言っただけで、僕は来るなんて言ってないよ!」

周囲に聞こえないようにしているためなのか、小声で怒鳴るという器用な事をしながら文句を言って来た。だから、僕が少し大きな声で反論を口にすると、アリアは周囲には聞こえないような小さな舌打ちして来た。

「声落としてよ!周りに聞かれるでしょ!」

僕の声で再び周囲からの視線が集まると、アリアは張り付けたような笑顔を浮かべながら小声で怒鳴って来た。

「はぁ…アンタ達のせいで、せっかくの時間を無駄にしたわ」

未だに外見は取り繕ったままなのに、言葉使いは普段学院で使っているような感じに戻っていた。

「それにしても、せっかく帰って来られたのに、今回も参加されないなんて」

「パーティーみたいな堅苦しい場所が元々嫌いなんだって、それに、今回は何だか色々あって忙しいみたいだよ」

「クソ帝国が……」

父様に聞いた時の事を思い出しながら僕がアリアに説明すると、アリアはドス黒い気配を漂わせ始めた。

「ア…アリア…」

「はっ!ま、まぁ、バーティがお嫌いなら仕方ないかもしれないわよね。私も、無駄にドレスにお金が掛かるから、あまり私も参加したくないし、そう考えれば私達は似た者同士になるのかしら」

僕が声を掛けた事で、アリアは周囲に人がいる事を思い出したのか、少し落ち着きを取り戻したようだった。それと一緒に、敢えて周囲に聞こえるような明るい声で上げる事で、さっきまでの様子を誤魔化しているようだった。

横にいる2人も、そんなアリアの様子に、何とも言えないような顔を向けていた。

「でも、今回は何時よりドレスにお金を掛けたのに、それが無駄になっちゃったわね」

アリアのドレスに目を向けると、落ち着いた紺色を貴重にした、少し大人っぽい雰囲気のドレスを来ていた。そのドレスを見ながら、少し気落ちしているように見えていたアリアが、急に僕に無茶振りを言って来た。

「今度はアンタが、カレン様を責任持って連れて来なさいよ」

「そんなの無理に決まってるだろ!」

「貴方には頼んでないわよ」

横槍を入れるなとでもいうように、バルドを人睨みしたアリアが、僕の方へと視線を向けて来た。

「僕にも無理だからね!」

アリアが僕に何か言う前に、僕も慌てて否定の言葉を口にする。何かあるとアリアは僕に言って来る所があるから、本当に止めて欲しい。

「愛想と愛嬌でも使って頼みなさいよ。どうせそんな感じで、何時もお願い事とか聞いて貰ってるんでしょ?」

「そんな事ないよ!人聞きが悪い事言わないで!!」

アリアの物言いに僕が憤っていると、アリアは何を言われたのか分からないようなキョトンとした顔を一瞬浮かべた後、少し呆れが混ざったような視線を向けて来た。

「それは、自分が気付いてないだけだと思うけど?でも、それを素でやってるなら、ある意味才能あると思うわよ」

そんな才能があると言われても、全く嬉しくもなんともない。褒めているのか、それとも貶しているのか分からない言葉に、僕はそんな事はないはずだと過去を振り返っていると、バルドが口を開いた。

「それにしても、何でリュカだけに言うんだよ」

「アンタに言っても無理だからだからよ。アンタがそんな事を急にしだしたら、周りにただ疑われて終わりよ」

「確かに、バルドならそうなるでしょうね」

「何でだよ!?俺だって、たまにはそんな時があるかもしれないだろ!!」

「ありませんね」

「ないわね」

「ないかな」

「ふんッ!」

僕達が揃って否定の言葉を口にすると、1人納得がいってなさそうな顔でそっぽを向いた。

「でも、アリアは何時も大人相手にそんな事をやってたりするの?」

「当然でしょ。大人になんて、時間が経てば嫌だろうと誰でもなるんだから、子供の特権は今のうちに使えるだけ使っておかなきゃ損でしょ?大人になってそんな見え透いた媚で喜ぶのは、馬鹿な男だけよ」

僕に言うって事は、本人が実際にやっている事なのかと思って訪ねたら、当たり前みたいな顔をされた。そんなアリアに、若干いじけていたバルドが、皮肉るように言った。

「何だか、お前とは相性良さそうだな」

「止めてよ!そういう馬鹿って、痛い目みても懲りずに人のせいにするから関わりたくないわ!そういうのは、他人事で見てるのが一番楽しいのよ!」

バルドの投げた言葉に、アリアは顔を歪めながら反論すると、付き合いきれないみたいな顔でため息を突き出した。

「はぁ…時間もだいぶ無駄にしたし、此処に居ても意味がないから、私はもう行くわね。何せ、このドレスに掛けたお金を取り戻すためにも、生地の宣伝しに行かなくちゃいけないから。じゃあ、カレン様の件頼んだわよ!」

「えっ!?僕やるなんて言ってないよ!」

去り際に言った言葉に、僕は慌てて言葉を返すけど、アリアはドレスを着ているとは思えないような身軽さで、縫うように人の間をすり抜けて行ってしまった。僕は、そんなアリアの後を追い掛けられなかった。

「身のこなしは、リュカよりも上だな」

「アリアは前に、鍛えてるような事を言っていましたからね」

アリアの身のこなしを見たバルドが、感心したような様子でアリアを褒めていて、僕と似たようなはずのコンラッドも、何故か一緒に褒めていた。

「僕も、もう少し鍛えようかな…」

「本当か!?それなら俺が付き合うぞ!!何時が良い!?」

何となく情けなくなって言った言葉に、バルドがやたら楽しげな声を上げるから、僕は少しだけため息を付きたくなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】 宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。 異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。 元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。 そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。 大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。 持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。 ※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆

ナユタ
恋愛
十歳の誕生日のプレゼントでショッキングな前世を知り、 パニックを起こして寝込んだ田舎貴族の娘ルシア・リンクス。 一度は今世の幸せを享受しようと割りきったものの、前世の記憶が甦ったことである心残りが発生する。 それはここがドハマりした乙女ゲームの世界であり、 究極不人気、どのルートでも死にエンド不可避だった、 自身の狂おしい推し(悪役噛ませ犬)が実在するという事実だった。 ヒロインに愛されないと彼は死ぬ。タイムリミットは学園生活の三年間!? これはゲームに全く噛まないはずのモブ令嬢が推しメンを幸せにする為の奮闘記。 ★のマークのお話は推しメン視点でお送りします。

私の愛した召喚獣

Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。 15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。 実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。 腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。 ※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。 注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。

処理中です...