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四章

城の中を

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レオン殿下に連れられた僕達は、パーティーの準備で忙しそうな人達や、警備をしている人達とすれ違いながら城の廊下を歩いていた。

「とりあえず、俺が知っている場所からでも案内するか?」

「案内して良い場所は考えて選べよ」

「分かってるって!俺も、王族しか知らない場所なんか案内したりしないから!」

「それなら良いが…」

兄様はレオン殿下の言葉に頷きはしたものの、何処か信用しきれていないような顔を浮かべていた。

「なぁ?兄貴は、隠し通路の場所を全部知ってたりするのか?」

レオン殿下に案内されながら歩いていると、僕の前を歩いていたクリスさんが後ろを振り返った。

「警備上、ある程度は何処にあるかは知っているが、王族だけが知り得ない場所もあるため全てではない。それに、まだ団長でしかない私では、そこまでの情報開示はまだされてはいないな」

「じゃあ、親父なら知ってるのか?」

「父上なら全てご存知だろう」

「でも、父上も最初から全部教えておいてくれたらいいのにな」

「お前が、仕事もせずにそれを抜け出すからだろ」

「だってよ。無駄にぞろぞろ引き連れて歩くのは、症に合わないんだよ」

「私の立場としては、殿下には護衛を撒くような行動を控えて頂きたいものなのですが?」

「うッ…いるの忘れてた…」

視線を交互に動かしながら、僕を挟むように交わされていた会話を聞いていると、殿下は何とも苦い顔へと変わった。そして、細くなったお兄さんの視線から逃れるように、前へと視線を戻していた。そんな殿下の様子に、兄様はため息混じりに口を開いた。

「はぁ…それで、これからどうするつもりなんだ?」

「まずは、俺が知っているのを案内するつもりだ!行くぞ!」

兄様の言葉を受けて、レオン殿下はさっきの事を誤魔化すように僕達の事を呼んだけど、お兄さんの目は細いままだった。

「身近な所からだと、まずは此処だな」

そう言って開いた部屋は、本棚や書類みたいな物も置いてあって、まるで書斎のようだった。

「おぃ、此処はお前の執務室だろう。それに、何故こうも書類が出したままになっているんだ…」

僕が書斎だと思った部屋は、どうやらレオン殿下の執務室だったようで、この部屋の様子を見た兄様が鋭い視線を向けていた。

「大丈夫だって!大して重要な書類でもないから、見られても平気な奴…」

「成否に関わらず、書類はしっかりと閉まっておけ」

「痛い!痛いから!」

少し怒ったような顔をした兄様が、レオン殿下の顔を締め上げるようにして握れば、何だか大袈裟なくらい痛そうな声を上げていた。

「なぁ?隠し通路は何処にあるんだ?」

「こっち!こっちにあるぞ!」

そんな兄様達にクリスさんが疑問の声を上げると、兄様の意識がこちらに向いた。殿下はその隙を見逃さないようにその手をすり抜けると、僕達に声を掛けながら足早に部屋の奥へと入って行った。そんな殿下の後ろ姿を見て、兄様が小さく舌打ちしたような微かな音が聞こえた。

「見ろよリュカ!ここを弄ると本棚が動くぞ!お前もやってみろよ!」

「うん!やりたい!」

殿下に教えて貰った仕掛けを、クリスさんと一緒に何度も仕掛けを動かしていたバルドが、興奮気味に僕を誘って来たから、僕も2つ返事で頷いて側による。

「うわぁー!」

仕掛け1つで重そうな本棚がすんなり動く様子は、後ろで見ているだけでも楽しかったけれど、自分で動かしてみるともっと楽しい。僕も、さっきのバルド達みたいに何度も仕掛けを動かして開け閉めをしていたら、横で見ていたバルドが大きな声を上げた。

「コンラット!お前も、そんな所にいないでこっち来いよ!」

「あ…っ…はい…」

バルドの声に、僕も一緒になって後ろを振り返れば、離れた方で一人立っていたコンラッドが、おずおずとした足取りで、僕達の方へとやって来るのが見えた。その間も、近くにいる殿下の方を仕切りに気にしていて、何度も視線を向けていた。それに、何だか距離も少し置いているように見える。

「まだそんなの気にしてんのか?」

「そんな事を言われても、私の家は王族なんかと関わるような事がないので、こればかりはしょうがないでしょう…」

「ネアならそんなの気にしたりで、良いって言われたら普通にしてると思うぞ」

「いや…ネアと一緒にされても…」

バルドの言葉に、コンラットはどんな顔をして良いか分からないような複雑そうな顔をしていた。だけど、物怖じしないネアなら、確かに王族相手でも遠慮なんてしなさそうだ。

「それに、敬語でなくても良いと言われても、やはり私には…」

そう言いながら、コンラットはクリスさんが殿下と一緒に会話している様子を見ていた。

「やっぱり、本棚の裏は定番だよな!他にも、床下に隠してあったり、壁が動いたりするのもあるんだぞ!」

「そっちも見たい!」

「だよな!なのに、オルフェはこういうのに興味も持ってくれねぇんだよ」

敬語を使わなくても良いと言われたから、クリスさんやバルドも、途中から普通の話し方になっていた。性格も何処か似ているせいか、クリスさんとはすっかり意気投合したように話していた。

「でも、何で1人で離れた場所に立ってるんだ?」

「それは…だって…あの間にいるのは…さすがに…」

コンラットは言葉を詰まらせながら、今度はこっそりと後ろの方へと視線を向ける。僕達も一緒になって視線を向けると、僕達を後ろで見守るように見ているお兄さんや、興味なさそうに立っている兄様の姿があった。コンラットとしては、殿下の近くにいるのも気不味いけれど、2人の間に立っているのも嫌なようだった。

その後も、みんなと一緒に2,3ヶ所を周っていると、お昼時を少し回っていて、夕方からはパーティーもあるため、一度、ご飯を食べる事にした。

「この後はどうするの?」

僕がバルド達に尋ねると、クリスさんが何処か楽しげなニンマリした顔を浮かべた。

「殿下ともさっき話したんだけど、俺達だけで見つけられたら、また楽しいんじゃねぇかと思ってよ」

「だけど兄貴、こんなに広い城の何処を探すんだ?」

午前中に歩いただけだけど、この広い城の中で隠された場所を探すのは大変そうだと思っていると、勢いよく席を立ち上がる人影があった。

「それなら俺に任せてとけ!!」

僕の視線の先には、自信満々に胸を張って立っている殿下がいた。

「こっちだ!」

分かれ道に付く度に、殿下が選んだ道に従って歩いていたけれど、何を根拠に選んでいるのか分からない。

「何でそっちにあると思うの?」

「感!」

不思議に思って訪ねてみると、レオン殿下からはそんな答えが帰って来た。

「行くなら、さっさと行くぞ」

「おぅ!」

僕が答えに迷って立ち止まっていると、兄様は殿下に声を掛けながら指さした方に歩き出し、殿下はそれを嬉しそうな顔で追い掛けて行っていた。

「なぁ?大丈夫なのか?」

「兄様が何も言わないなら、たぶん大丈夫じゃないかな?」

殿下が相手でも、遠慮なんて見せた事がない兄様が、何も言わないのなら大丈夫だろうと思って、こっそり耳打ちするように、話しかけて来たバルドにそう返事を返していると、クリスさんとお兄さんの会話が聞こえてきた。

「今から行くのは、兄貴は知ってる所か?」

「おそらく、私も把握している場所だ」

「なら、絶対に言うなよ!俺達が見つけるんだから!」

「分かった。だが、城側からしか開かない構造になっているから、例え見つけたとしても、1人で勝手には入るのは駄目だ」

「了解!」

お兄さんに注意されながらもクリスさんは終始楽しげで、何処か意気込んでいるようにも見えた。

「多分!此処ら辺にある!」

そう言って殿下が立ち止まったのは、パーティー会場にも程近い廊下の行き止まりだった。

「何もねぇけど?」

キョロキョロと辺りを見渡しながら、クリスさんが疑問の声を上げると、自信満々のような顔をしながら僕達の方を無理向いた。

「場所は合っていると思う!だからオルフェ!後は頼む!」

「頼むと言われても、私も開け方など知らないぞ」

「大丈夫だって!オルフェなら開けられるって!」

「……」

期待に満ちた目を向けられた兄様は、何とも頭が痛そうな顔をしながらも、渋々といた様子で頷いていた。

「これか?」

兄様が仕掛けがありそうな場所を暫く触っていると、ガコンと言う音と共に壁が僅かに動いた。

「本当にあった!スゲェー!!」

殿下が言ったように、本当にあった事に僕も驚いていると、お兄さんの静止の声が上がった。

「中に入るのは駄目だ」

「分かってるって!外からは開かないんだろ!」

身を乗り出しながら興奮気味に覗き込んでいたクリスさんが、不満そうな顔で振り返った。

「でも、閉まっても兄貴達がまた開けてくれたら良いじゃん」

「そういう話ではない」

抗議の声を上げながら不貞腐れているクリスさんに、お兄さんは諌めるように声を掛けていた。そんな2人を前に、殿下は何かを思い出したように声を上げた。

「そういえば、前に俺等で行った時は、俺等しかいなくて困ったもんなぁ」

「それは、お前が開かなくなる事を事前に教えなかったからだろう。それに、実際に中がどうなっているのか確認したいからと言って無理矢理付き合わせるから、城の中にまた戻って来るのに無駄に時間が掛かったうえ、散々な目にあった…」

「そういえば、あの後勝手に使った事がばれて、2人で父上に怒られたっけ。でも、アルノルド様が止めて下さったから、何時もより短くて済んで助かったけどな」

「笑い事じゃない…」

ため息混じりに言う兄様の横で、殿下は楽しそうな笑顔を浮かべていた。そんな僕達の耳に、人の声が聞こえて来た。

「招待客も来始めたようだ。そろそろ戻ろう」

お兄さんの掛け声で、僕達は母様達も戻って来ているだろう部屋に、みんなで引き返す事にした。
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