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四章

綺麗に

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「援助するくらい大した手間でもないから、今日のうちに色々と手配させておくよ」

「うん!」

屋敷に帰った僕は、夕食の席で父様達に相談すると、父様は二つ返事で頷いてくれた。最初は、店ごと買取ろうと言った父様だったけど、僕が店の店主であるオスカーさんの意向を伝えると、それを尊重して引いてくれた。

「リュカ、そのお店は何処にあるの?私もあまり南街の方には詳しくはないけれど、そんなお店を見かけた事がないような気がして?」

「え、えっと…」

相談している途中で、路地裏なんて言ったら母様に怒られそうだと気付いた僕は、お店の大まかな場所しか伝えていなかった。だから、改めてそれを聞かれると、あのお店の場所をどうやって説明しようかと悩んでしまう。そんな僕の空気を察したのか、父様が助け舟を出してくれた。

「その周辺は建物に囲まれていて、馬車に乗ったままでは見え難いから、エレナは知れないかもね」

「そうなの?でも、アルが知っている場所なら、そんなに危ない場所ではないのね」

何処かホッとした様子の母様に見えないよう、父様が僕へと目配せをしながら、小さな笑みを浮かべていた。

「それにしても、私相手に援助だけで良いと言うとはね」

少し楽しげな様子の父様と違って、兄様は何処か真剣な面持ちをしていた。

「しかし、父上。今の現状を考えると、資金を渡した所で焼け石に水ではないですか?それよりも、経営基盤を作る援助をした方が良いのではないでしょうか?」

「そうだね。だけどそれは、従魔の飼育環境の改善した後でも遅くはないからね」

「何をしようとお考えですか?」

「試験的に従魔だけの部隊でも作ってみるつもりだ」

「それをするには、陛下や軍部の承認も必要になるうえ、小煩い貴族連中が騒ぎませんか?」

「レクスさえ許可を出せば、奴は拒否しないさ。一定の成果さえ出せば、国の事業として予算も組めるから、私の援助がなくとも成り立つだろう。小バエ共には、利権でも渡しておけば大人しくなるさ」

「今年度の予算案は既に決まっているはずですが、その予算は何処から捻出するつもりですか?」

「それなら問題ないよ。こんな時のために、ある程度の汚職や脱税を見逃しているんだ。だから、帰りの道中にでも、奴から搾り取って来て貰うとしよう」

僕が口を挟む隙きがないまま、父様達だけで話しが進んでいく。その後も、父様達は密猟者対策などの話しを初めて、だんだんと難しい話しになっていって、僕にはよく分からなくなっていた。

「だけど、父様達に任せておけば、後は大丈夫だと思うよ!」

昨日の父様達の会話を思い出しながら、バルド達に夕食での出来事を報告すれば、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「なら、一先ず良かったな!親父がまだ帰って来てないから、兄さんには俺からも頼んでみたけど、親父の代理をしているみたいで、少し忙しそうだったんだよな。まあ、親父が帰って来たら、また頼んでみるな!

あれから半月くらい経ったけれど、まだ帰って来ていないようだった。

「後、どれくれいで帰って来そうなの?」

「機嫌しだいだってよ」

「誰の?」

「さぁ?」

バルド本人も分かっていないようで、小首を傾げていた。

「それで、誰がその店に行くんだ?」

「何が?」

「はぁ…援助するにしても、それなりの契約が必要だろ。そんな書類を一介のメイドなんかに任せるわけがないだろうから、行くとした契約をする当人か、それを任せられるような信用が厚い者だけだろう」

物わかりが悪い者に説明するように、ネアが僕に言ってきたけれど、僕の頬に汗が流れる。

「あれ…?本当に、誰が行ったんだろう…?まさか…父様が行ったりしてないよね…?」

父様は、あの周辺を知っているような物言いだったけれど、実際にあの店の中に入るとなると少し話しが変わって来る。

「本当に父様が行ってたら…どうしよう…?」

「ど、どうするって言われても、路地裏にあるだけで、別に危ない場所じゃないぞ」

「路地裏という時点で不味いですよ…」

「それよりも、急に公爵家の当主なんかが現れたら、あの店主、腰でも抜かすんじゃないか?」

「「「……」」」

ネアの言葉で、僕達の間に少し気不味い沈黙が降りた。

「帰りに少し、寄って行きましょうか…?」

「う、うん…」

「どうなったのかも、聞かないといけないしな…」

少しの心配が過った僕達は、学院が終わると昨日と同じ道を通って、オスカーさんの店へと向かった。

「本当に、ここ?」

昨日とは違った意味で、その言葉を口にしながら立ち止まる。昨日までは、所々ボロボロで廃墟みたいになっていたけれど、今は建物が綺麗に修繕され、雑草が生い茂っていた場所も整備されていた。あまりにも綺麗にされすぎていて、逆の意味で周りの建物から浮いているように見える。

「と、とりあえず入ってみようぜ!」

バルドの掛け声と共に僕達は門を潜り、店の方の扉を開けた。すると、店の中には、呆けたような、何処か疲れきったような態度で座っているオスカーさんの姿が見えた。だけど、扉が開く音で僕達が来た事に気付いた途端、慌てたように立ち上がった。

「!?ッ!ッタ!」

「だ、大丈夫か!?」

「はっ!はい!」

「派手に転んでいたようですけれど、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です!」

心配して駆け寄った僕達に、オスカーさんは昨日とは違った他人行儀な様子で、かなり緊張したような様子だった。

「どうしたの?」

「昨日は!大変失礼な態度をお取りして申し訳御座いません!!」

僕が声を掛けると、とても恐縮した様子で頭を下げられた。

「そ、そんなの良いよ!」

「そうだぞ!そんなの気にしないで、昨日みたいに普通の話し方で良いって!」

「そんなわけには…」

「俺は貴族じゃないが、こいつ等と普通に話しているぞ。それに、こんな場所にも平気で来る奴らだから、貴族扱いするだけ無駄だ」

「ネアの言う通り、貴族扱いなんてしなくて良いぞ!」

「貴方の場合は、少しで良いので気にして下さい…」

どちらに言っているのかは分からないけれど、コンラットはため息でも付きそうな視線を2人に向けていた。

「ですが、本当に公爵家の人間だったん…ですね」

ネア達の様子を見て、少し緊張が取れたのか、苦笑を浮かべていたオスカーさんが僕に声を掛けて来た。

「嘘だと思ってたの?」

「こんな場所に貴族が来るなんて、やっぱり信じられませんからね。だから、都合の良い夢か、からかわれたのかと思ったんですよ。それに、銀髪は確かに珍しいけれど、いないわけではないからね」

そこで一端言葉を止めると、そっと天井を見上げ、呟くように言った。

「しかし、朝方に公爵様ご本人様や、お付きの人みたいな方達が大勢こんな店に来られた時は、どうしようかとおもったよ…」

その時の事を思い出したのか、オスカーさんは何処か遠くを見つめるような目をしていた。だけど、僕にはそれよりも、まず大事な事があった。

「それで…とうさまは…?」

「公爵様は、従魔達の様子を見た後、他に行く場所があると言って帰られたよ。残ったお付きの人達も修理などが終って、少し前に帰えられたしね」

「ああ、だから、建物とかが綺麗になっていたんですね」

「父様、何か言ってた?」

「何かって言われても…契約の事で色々と言われた事は記憶にあるけれど、あまりに緊張しすぎて、それ以外は何を話したのかまでは覚えてないですね…」

少し申し訳なさそうなに言うオスカーさんの言葉を聞きながら、昨日の父様の様子を思い出す。父様はこの周辺を知っているようだったし、怒っている様子はなかった。だから、オスカーさんが特に覚えていないなら、勝手に路地裏に行った事を怒られる心配はなさそうだ。僕が安堵していると、ネアが昨日と同じような質問を口にした。

「それにしても、やっぱり店ごと買って貰えば良かったんじゃないか?」

「そうだね。店を売れば経営は楽なんだろうけど、これは自分がやりたくて初めた事だからね。だから、他人に頼ってばかりなのは、何だか違うような気がしたんだよ」

父様と会っても、オスカーさんの意見は昨日と同じで変わらないようだった。

「そんなので、やって行けるのか?」

「此処までも何とかなったし、何とかするようにするよ」

父様から援助して貰ったお金も、幾つかは返したいみたいな事を言っていたけれど、店が潰れないかだけが少し心配になって来る。

「最初は金貨1枚でも援助して貰えればと良いと思ってたんだけど…まさか1日も経たずに此処まで綺麗になるなんてね…」

まるで、まだ夢でも見ているような目線で、店の中を見渡していた。だけど、嬉しそうな笑顔を受けべているのを見て、父様に相談して良かったと思った。

「父様!今日は、ありがとう!」

屋敷に帰って来た父様を玄関ホールで向い入れながら、お礼の言葉を口にすれば、一瞬、驚いたような顔をした後、笑顔を浮かべていた。

「リュカのお願いなら、聞かない訳にはいかないよ。だけど、あんな場所に子供だけで行くのは、あまり感心出来ないな」

「ご、ごめんなさい…」

笑顔のまま、少し厳しめの口調で言う父様に謝れば、何処か困ったように目尻を下げた。

「エレナが心配するから昨日と同じように内緒にしておくけれど、今後は、人気がないような場所には行かないように気を付けるんだよ」

「はい…」

「だけど、あの店の周囲になら言っても良いよ」

「良いの!?」

みんなと一緒に、あの店にはもう行けないのかと思って落ち込んでいると、父様は僕の考えでも読んだかのようにそう言ってくれた。

「話しは付けて来たからね。だけど、あれより奥に行くのは駄目だよ」

「うん!」

許可を貰えて嬉しかった僕は、仕方がないものを見るような顔で笑う父様に、元気に返事を返していた。
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