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四章
父様との出会い
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「リュカ、少し良いかしら?」
「な、何!?母様!?」
屋敷に帰って来た僕は、真っ直ぐに部屋へと行こうとしていた廊下の途中で、母様に呼び止められた。
「少し、私の話しに付き合ってくれる?」
「えっ?う、うん?」
母様の言葉に誘われるがまま、僕は母様の部屋まで付いて行った。部屋へと着くと、母様からソファーに座るように促され、母様と一緒に並ぶようにして座る。そうすると、母様は何処か改まった様子で、静かに話しだした。
「私…アルに頼りにされてないのかしら…?」
「急にどうしたの?」
深刻そうに話す母様の姿を見て、僕は驚きと戸惑いを感じながら聞き返せば、母様は少し項垂れた様子で口を開いた。
「昨日、アルから少し家族の事を話して貰えたの…」
「それがどうかしたの?」
昨日、父様が母様にも話すって言っていた事を思い出しながら、母様へと疑問の声を上げる。
「結婚する前もそうだけど、アルは私に、何時も何も話してくれないから…」
「母様に、心配掛けたくなかったんじゃないの?」
父様と話していた様子を思い出しながら、母様へと声を掛けるけれど、少しも表情が晴れる様子はない。
「確かに、結婚したばかりの頃は、王都での生活や、公爵家の夫人としての教養、社交会での振る舞いを覚えるのに必死で、周りに気を配る余裕がなかったの。だけど、そのせいでアルは何も言わなくなったのかもと思ったら、何だか自信がなくなっちゃって……。私なんかよりも、もっと頼りになる人の方が、良かったんじゃないかとか…アルもそう思ってたらどうしようとか考えちゃって…」
父様はあまり話したくないとは言っていたけれど、不安そうな顔で話す母様を見ていると、父様も、もう少し母様に話して上げたら良いんじゃないかなと思いつつ、僕は母様を安心させようと声を掛ける。
「父様は、そんな事思ってないと思うよ?」
「そうかしら…?」
「うん。だって、父様が母様の事を悪く言った所なんて、今まで聞いたことないもん」
不安そうにしている母様に、僕は迷いなく頷きながら答える。父様は、時々困ったような顔をする時はあるけれど、母様を悪く言った事が本当になかった。
「だけど、昔のアルを思い出すと、どうして私の事を好きになって貰えたのか、未だに分からないのよね…」
「昔の父様って、どんな感じだったの?」
「昔のアル?そうね、オルフェよりも表情が動かないから、歩く彫刻様って呼ばれていたわね」
僕が尋ねると、母様は目を瞬かせながら、昔を思い出すように、視線を上に上げながら言った。だけど、そんな母様の言葉を聞いて、僕はそれにすんなりと納得していた。
「後は、鬼とか冷血漢とか、悪魔とか呼ばれていて、私が入学した時には、学院で怖い噂を知らない人がいないくらい有名だったわ」
「そうだったの!?」
次に出て来た母様の言葉は、今の父様からは全く想像出来ないような言葉だった。僕はそれに目を見開きながら聞き返せば、母様はその頃の事を思い出すように、静かに話し出す。
「そうなのよ。だから、私も関わり合いにならないようにしていたんだけど、私の召喚獣のフィーが、何故か急に走り出しちゃって、それを慌てて追いかけていたら、ちょうど廊下の角を曲がろうとしていたアルにぶつかっちゃったのよ」
普段僕に、廊下を走らないように言っているせいか、母様は居心地悪そうに、視線を少しずらしながら言葉を続ける。
「でも、顔を見た瞬間、もの凄くびっくりしちゃって、そのまま脇目も振らずにその場を走って逃げたわ」
「逃げちゃったの!?」
母様の話しを静かに聞いていた僕が、驚きながら母様に聞き返すと、母様は静かに頷き返しながら話し続ける。
「ええ、髪の色で、直ぐに誰だか分かったから、目を付けられる前に逃げなくちゃと思って逃げたのよ。だけど、何故かその後、それまで合わなかったような場所でも、アルに頻繁に会うようになっちゃって…」
「なっちゃって?」
「アルが視界に映る度に、走って逃げたわ」
「えぇーーッ!!」
母様達の馴れ初めの話しが始まるのかと、少し期待していただけに、僕の口からは非難するような声が出た。その声に、母様は何処か焦ったような様子で僕に言う。
「だ、だって、あの頃のアルは!笑う事なんかなかったし、何時も不機嫌そうな顔をしていたから怖かったんだもの!!」
父様の不機嫌そうな顔が想像が出来なくて、母様の気持ちがよく分からなかったけれど、兄様が不機嫌そうな顔を思い出したら、何となくだけど母様の気持ちが僕にも理解出来た。
「それじゃあ、何時、父様と知り合ったの?」
「ある日を境に、アルとぱったりと出会わなくなって、それから暫く続いた頃、私宛に陛下からお茶会の招待状が届いたのよ。その頃から、身分関係なく周囲にも別け隔てなく接する方だったから、驚きとかよりも、どうしてっていう疑問の方が大きかったの。だけど、手紙に指定された場所に行ったら、何故か、陛下じゃなくてアルが来たのよ」
不思議に思って尋ねたら、何故か、途中から怪訝そうに眉を寄せ始めた。
「その時は、アルも何処か頭が痛そうにしていたから、本人の意志ではないようだったわ。それでも、アルが席に座ってしまったから、私も勝手に帰る訳にもいかなくて、席に着くしかなかったの。だけど、周りには使用人とかが誰もいなくて、それに、自分より上だったアルに、お茶を入れさせる訳にもいかなかったから、私が入れようとしたんだけど、どうしても手が震えてしまって…」
その時を思い出したのか、母様は話している途中で手を擦りながら、何だか落ち着かなさそうにしていた。
「だけど、失敗しちゃって、アルが私の代わりに紅茶を入れて直してくれたんだけど、その後、時間が経つまで何か話せってアルが言うから、勢いだけでアルに文句言っちゃったのよ」
「文句?」
「だって、私が最初に入れた紅茶、アルたら花壇に捨てるんですもの!アルが入れた紅茶より不出来なのは、手際を見ていても直ぐに分かったから、捨てれれるのはしょうがないけど、熱湯を掛けらて花が萎れていたし、なにより庭師の方にも失礼でしょ!だから、その事に文句言ったのよ!」
母様は、物凄く怒ったような顔をしていた。花が好きな母様にとっては、父様のした事は、とても許せない事みたいだった。
「その時のアルにも言われたけれど、今にして思えば、自分でも無謀な事をしたな思うわ。でも、その時は混乱してたのもあって、深く何も考えてなかったのよね。だけど、そんな私の言葉にも、アルは直ぐに否を認めて謝ってくれたうえ、平民の庭師にも謝るって言ってくれたのよ」
「それって、普通の事じゃないの?」
父様は、自分が少しでも悪いと思ったら、何時でも謝ってくれるから、普通の事じゃないかな?と不思議に思っていたら、母様は少し困ったような顔をしていた。
「そうね。だけど、あの頃は、そんな人には思えなかったのよ。でも、それがあったから、噂で聞いたよりも、怖い人じゃないって分かったのよ。その後も、少し一緒にお話ししたんだけど、思っていたよりも可愛いらしい所もあって、思わず笑ってしまったわ」
途中から楽しそうに笑う母様は、まるで恋する乙女のような顔していた。
「もしかして、母様はその時に父様の事を好きになったの?」
「ふふっ、そうね。アルの事を怖い人だと思っていたから余計にね。でも、私なんかとは、縁もゆかりもない人だと思っていたから、叶わないと思っていたのよ。だけど、陛下やラザリア様から頂く手紙を通して、アルとも会う機会が増えていってね。少しつづだけど、アルも笑顔を見せてくれるようになったり、2人で会ったりする事も多くなっていったの」
「それで?」
「アルが卒業する時、一緒になってくれって言われてたわ」
「母様は、父様になんて答えたの!?」
「直ぐに断ったわ」
「何でーッ!?」
思ってもいなかった言葉に、僕は驚きから大きな声を上げる。断られた父様を思って、少し攻めるような目線で母様を見ていると、母様は何処か慌てた様子だった。
「しょうがなかったのよ!それまで、アルにそんな素振りとかもなかったし!それに、アルとは身分の差が大きかったうえに、その頃はまだ、ラザリア様との婚約関係が解消されていなかったんですもの!幾らラザリア様からは、双方合意で解消する予定だから、私の事は気にしなくて良いと前持って言われていても、やっぱり気になるわ…」
途中から、項垂れたように俯き、上目遣いで僕を見てくる母様に、僕はなんと言って良いのか分からなくて、こちらも少し伺うよう尋ねる。
「その後は、どうなったの?」
「アルはそのまま卒業して行ったから、それまでだと思っていたのだけれど、私が卒業する日に、後2年で全て終わらせるから、少し待ってて欲しいって手紙だけが届いたの。訳も分からず、その手紙を持ったまま実家に帰ったら、アルが私の両親にも既に話しを付けた後だったみたいで、両親からどういう事かと質問攻めにされて、凄く大変だったのわ…」
その時の事を思い出したかのように、母様は、少し疲れたような顔をしていた。
「それに、他の所にも根回しが終わっていたから、周りの人達も、私がアルと結婚するって思ってて、子供の頃に両親が結んでいた婚約も、既に解消されちゃってたのよね。だから、私はもうアルを待つしかなかったわ」
「でも、父様はちゃんと迎えに来たんでしょ?」
「そうね。だけど、迎えに来たアルは、人が変わったように笑うようになってて、最初は本当に同一人物なのかと思って驚いいてしまったわ。だけど、それ以上に驚いたのは、アルが最年少で宰相に就任していた事を、ラザリア様に聞いた時よ」
「なんで、母様は父様から何も聞いてなかったの?」
「えぇ!陛下が即位していたのは知らせで知っていたけれど、アルが何も言ってくれなかったから、私は何も知らなかったのよ!だから、ラザリア様に挨拶に行った時に、初めて知ったのよ!!」
何気なく聞いた僕の言葉で、母様はさっきまでとは打って変わったように、声を荒げて怒っていた。
「陛下が即位する際、一緒に就任してたみたいだけど、即位式が急遽だったから、王都周辺にいる人しかそれに参加出来なかったよ。だから、私の実家には、即位したという情報しか届かなかったから、ラザリア様から教えて貰うまで、私だけ何も知らなかったのよ!」
「そ、そうなんだ…」
「アルに聞いたら、私が既に知っているかと思っていたみたいで、意外そうな顔をされたわ!だけど、毎月届いていたアルの手紙にも、書いてすらいなかったのよ!大事な事だと思わない!?」
「そう…だね…」
「昔も今も、アルは何かあった後も何も話してくれないのよ!私から聞けば答えてくれる時もあるけど、何も話してくれないから、そもそも聞こうにも聞けないのよ!!」
「う、うん…」
「だから、何時も私だけが蚊帳の外にいて、後から周りに教えて貰ってばかりなの!」
今まで溜まっていたものを吐き出すようにして怒る母様に、僕は戸惑いながらも頷き続けるしかなかった。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…少し取り乱したわ…」
「う、ううん…、それは…別に良いよ…」
「だけど、リュカに少し愚痴をこぼしたら、気持ちが楽になったわ。聞いてくれて、ありがとう」
「それじゃあ…僕…宿題があるから…そろそろ部屋に戻るね…?」
息を整え終わった母様は、不満を口にして少しスッキリしたようだった。そんな母様を前に、僕はこの部屋を出るため、適応な理由を口にする。
「そうね。宿題は、速めに終わらせておいた方が良いわね」
「うん…」
母様の気が変わらないうちに出ようと、部屋の扉のノブに手を掛けた時、後ろから、母様の声が聞こえた。
「そういえば、リュカ。今日の試験範囲は、アルから教えて貰ってたの?」
「うん……あっ!」
母様に問い掛けられ、素直に返事を返した僕は、少ししてから不味い事を言った事に気が付いた。
「やっぱり、アルに教えて貰ってたのね」
振り返って見た母様の顔は、何時も以上に怒った顔をしていた。
その後、何時も通り帰って来た父様に、僕は知らせようと思ったけれど、僕が伝える前に、母様に捕まっていた。だけど、
「今回はやけにエレナの機嫌が悪かったが……私は…何かしただろうか…?」
訳が分からなそうに悩む父様を見て、少し不憫に感じたけれど、昼間の母様の様子を思い出した僕は、何も言わない事にした。
「な、何!?母様!?」
屋敷に帰って来た僕は、真っ直ぐに部屋へと行こうとしていた廊下の途中で、母様に呼び止められた。
「少し、私の話しに付き合ってくれる?」
「えっ?う、うん?」
母様の言葉に誘われるがまま、僕は母様の部屋まで付いて行った。部屋へと着くと、母様からソファーに座るように促され、母様と一緒に並ぶようにして座る。そうすると、母様は何処か改まった様子で、静かに話しだした。
「私…アルに頼りにされてないのかしら…?」
「急にどうしたの?」
深刻そうに話す母様の姿を見て、僕は驚きと戸惑いを感じながら聞き返せば、母様は少し項垂れた様子で口を開いた。
「昨日、アルから少し家族の事を話して貰えたの…」
「それがどうかしたの?」
昨日、父様が母様にも話すって言っていた事を思い出しながら、母様へと疑問の声を上げる。
「結婚する前もそうだけど、アルは私に、何時も何も話してくれないから…」
「母様に、心配掛けたくなかったんじゃないの?」
父様と話していた様子を思い出しながら、母様へと声を掛けるけれど、少しも表情が晴れる様子はない。
「確かに、結婚したばかりの頃は、王都での生活や、公爵家の夫人としての教養、社交会での振る舞いを覚えるのに必死で、周りに気を配る余裕がなかったの。だけど、そのせいでアルは何も言わなくなったのかもと思ったら、何だか自信がなくなっちゃって……。私なんかよりも、もっと頼りになる人の方が、良かったんじゃないかとか…アルもそう思ってたらどうしようとか考えちゃって…」
父様はあまり話したくないとは言っていたけれど、不安そうな顔で話す母様を見ていると、父様も、もう少し母様に話して上げたら良いんじゃないかなと思いつつ、僕は母様を安心させようと声を掛ける。
「父様は、そんな事思ってないと思うよ?」
「そうかしら…?」
「うん。だって、父様が母様の事を悪く言った所なんて、今まで聞いたことないもん」
不安そうにしている母様に、僕は迷いなく頷きながら答える。父様は、時々困ったような顔をする時はあるけれど、母様を悪く言った事が本当になかった。
「だけど、昔のアルを思い出すと、どうして私の事を好きになって貰えたのか、未だに分からないのよね…」
「昔の父様って、どんな感じだったの?」
「昔のアル?そうね、オルフェよりも表情が動かないから、歩く彫刻様って呼ばれていたわね」
僕が尋ねると、母様は目を瞬かせながら、昔を思い出すように、視線を上に上げながら言った。だけど、そんな母様の言葉を聞いて、僕はそれにすんなりと納得していた。
「後は、鬼とか冷血漢とか、悪魔とか呼ばれていて、私が入学した時には、学院で怖い噂を知らない人がいないくらい有名だったわ」
「そうだったの!?」
次に出て来た母様の言葉は、今の父様からは全く想像出来ないような言葉だった。僕はそれに目を見開きながら聞き返せば、母様はその頃の事を思い出すように、静かに話し出す。
「そうなのよ。だから、私も関わり合いにならないようにしていたんだけど、私の召喚獣のフィーが、何故か急に走り出しちゃって、それを慌てて追いかけていたら、ちょうど廊下の角を曲がろうとしていたアルにぶつかっちゃったのよ」
普段僕に、廊下を走らないように言っているせいか、母様は居心地悪そうに、視線を少しずらしながら言葉を続ける。
「でも、顔を見た瞬間、もの凄くびっくりしちゃって、そのまま脇目も振らずにその場を走って逃げたわ」
「逃げちゃったの!?」
母様の話しを静かに聞いていた僕が、驚きながら母様に聞き返すと、母様は静かに頷き返しながら話し続ける。
「ええ、髪の色で、直ぐに誰だか分かったから、目を付けられる前に逃げなくちゃと思って逃げたのよ。だけど、何故かその後、それまで合わなかったような場所でも、アルに頻繁に会うようになっちゃって…」
「なっちゃって?」
「アルが視界に映る度に、走って逃げたわ」
「えぇーーッ!!」
母様達の馴れ初めの話しが始まるのかと、少し期待していただけに、僕の口からは非難するような声が出た。その声に、母様は何処か焦ったような様子で僕に言う。
「だ、だって、あの頃のアルは!笑う事なんかなかったし、何時も不機嫌そうな顔をしていたから怖かったんだもの!!」
父様の不機嫌そうな顔が想像が出来なくて、母様の気持ちがよく分からなかったけれど、兄様が不機嫌そうな顔を思い出したら、何となくだけど母様の気持ちが僕にも理解出来た。
「それじゃあ、何時、父様と知り合ったの?」
「ある日を境に、アルとぱったりと出会わなくなって、それから暫く続いた頃、私宛に陛下からお茶会の招待状が届いたのよ。その頃から、身分関係なく周囲にも別け隔てなく接する方だったから、驚きとかよりも、どうしてっていう疑問の方が大きかったの。だけど、手紙に指定された場所に行ったら、何故か、陛下じゃなくてアルが来たのよ」
不思議に思って尋ねたら、何故か、途中から怪訝そうに眉を寄せ始めた。
「その時は、アルも何処か頭が痛そうにしていたから、本人の意志ではないようだったわ。それでも、アルが席に座ってしまったから、私も勝手に帰る訳にもいかなくて、席に着くしかなかったの。だけど、周りには使用人とかが誰もいなくて、それに、自分より上だったアルに、お茶を入れさせる訳にもいかなかったから、私が入れようとしたんだけど、どうしても手が震えてしまって…」
その時を思い出したのか、母様は話している途中で手を擦りながら、何だか落ち着かなさそうにしていた。
「だけど、失敗しちゃって、アルが私の代わりに紅茶を入れて直してくれたんだけど、その後、時間が経つまで何か話せってアルが言うから、勢いだけでアルに文句言っちゃったのよ」
「文句?」
「だって、私が最初に入れた紅茶、アルたら花壇に捨てるんですもの!アルが入れた紅茶より不出来なのは、手際を見ていても直ぐに分かったから、捨てれれるのはしょうがないけど、熱湯を掛けらて花が萎れていたし、なにより庭師の方にも失礼でしょ!だから、その事に文句言ったのよ!」
母様は、物凄く怒ったような顔をしていた。花が好きな母様にとっては、父様のした事は、とても許せない事みたいだった。
「その時のアルにも言われたけれど、今にして思えば、自分でも無謀な事をしたな思うわ。でも、その時は混乱してたのもあって、深く何も考えてなかったのよね。だけど、そんな私の言葉にも、アルは直ぐに否を認めて謝ってくれたうえ、平民の庭師にも謝るって言ってくれたのよ」
「それって、普通の事じゃないの?」
父様は、自分が少しでも悪いと思ったら、何時でも謝ってくれるから、普通の事じゃないかな?と不思議に思っていたら、母様は少し困ったような顔をしていた。
「そうね。だけど、あの頃は、そんな人には思えなかったのよ。でも、それがあったから、噂で聞いたよりも、怖い人じゃないって分かったのよ。その後も、少し一緒にお話ししたんだけど、思っていたよりも可愛いらしい所もあって、思わず笑ってしまったわ」
途中から楽しそうに笑う母様は、まるで恋する乙女のような顔していた。
「もしかして、母様はその時に父様の事を好きになったの?」
「ふふっ、そうね。アルの事を怖い人だと思っていたから余計にね。でも、私なんかとは、縁もゆかりもない人だと思っていたから、叶わないと思っていたのよ。だけど、陛下やラザリア様から頂く手紙を通して、アルとも会う機会が増えていってね。少しつづだけど、アルも笑顔を見せてくれるようになったり、2人で会ったりする事も多くなっていったの」
「それで?」
「アルが卒業する時、一緒になってくれって言われてたわ」
「母様は、父様になんて答えたの!?」
「直ぐに断ったわ」
「何でーッ!?」
思ってもいなかった言葉に、僕は驚きから大きな声を上げる。断られた父様を思って、少し攻めるような目線で母様を見ていると、母様は何処か慌てた様子だった。
「しょうがなかったのよ!それまで、アルにそんな素振りとかもなかったし!それに、アルとは身分の差が大きかったうえに、その頃はまだ、ラザリア様との婚約関係が解消されていなかったんですもの!幾らラザリア様からは、双方合意で解消する予定だから、私の事は気にしなくて良いと前持って言われていても、やっぱり気になるわ…」
途中から、項垂れたように俯き、上目遣いで僕を見てくる母様に、僕はなんと言って良いのか分からなくて、こちらも少し伺うよう尋ねる。
「その後は、どうなったの?」
「アルはそのまま卒業して行ったから、それまでだと思っていたのだけれど、私が卒業する日に、後2年で全て終わらせるから、少し待ってて欲しいって手紙だけが届いたの。訳も分からず、その手紙を持ったまま実家に帰ったら、アルが私の両親にも既に話しを付けた後だったみたいで、両親からどういう事かと質問攻めにされて、凄く大変だったのわ…」
その時の事を思い出したかのように、母様は、少し疲れたような顔をしていた。
「それに、他の所にも根回しが終わっていたから、周りの人達も、私がアルと結婚するって思ってて、子供の頃に両親が結んでいた婚約も、既に解消されちゃってたのよね。だから、私はもうアルを待つしかなかったわ」
「でも、父様はちゃんと迎えに来たんでしょ?」
「そうね。だけど、迎えに来たアルは、人が変わったように笑うようになってて、最初は本当に同一人物なのかと思って驚いいてしまったわ。だけど、それ以上に驚いたのは、アルが最年少で宰相に就任していた事を、ラザリア様に聞いた時よ」
「なんで、母様は父様から何も聞いてなかったの?」
「えぇ!陛下が即位していたのは知らせで知っていたけれど、アルが何も言ってくれなかったから、私は何も知らなかったのよ!だから、ラザリア様に挨拶に行った時に、初めて知ったのよ!!」
何気なく聞いた僕の言葉で、母様はさっきまでとは打って変わったように、声を荒げて怒っていた。
「陛下が即位する際、一緒に就任してたみたいだけど、即位式が急遽だったから、王都周辺にいる人しかそれに参加出来なかったよ。だから、私の実家には、即位したという情報しか届かなかったから、ラザリア様から教えて貰うまで、私だけ何も知らなかったのよ!」
「そ、そうなんだ…」
「アルに聞いたら、私が既に知っているかと思っていたみたいで、意外そうな顔をされたわ!だけど、毎月届いていたアルの手紙にも、書いてすらいなかったのよ!大事な事だと思わない!?」
「そう…だね…」
「昔も今も、アルは何かあった後も何も話してくれないのよ!私から聞けば答えてくれる時もあるけど、何も話してくれないから、そもそも聞こうにも聞けないのよ!!」
「う、うん…」
「だから、何時も私だけが蚊帳の外にいて、後から周りに教えて貰ってばかりなの!」
今まで溜まっていたものを吐き出すようにして怒る母様に、僕は戸惑いながらも頷き続けるしかなかった。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…少し取り乱したわ…」
「う、ううん…、それは…別に良いよ…」
「だけど、リュカに少し愚痴をこぼしたら、気持ちが楽になったわ。聞いてくれて、ありがとう」
「それじゃあ…僕…宿題があるから…そろそろ部屋に戻るね…?」
息を整え終わった母様は、不満を口にして少しスッキリしたようだった。そんな母様を前に、僕はこの部屋を出るため、適応な理由を口にする。
「そうね。宿題は、速めに終わらせておいた方が良いわね」
「うん…」
母様の気が変わらないうちに出ようと、部屋の扉のノブに手を掛けた時、後ろから、母様の声が聞こえた。
「そういえば、リュカ。今日の試験範囲は、アルから教えて貰ってたの?」
「うん……あっ!」
母様に問い掛けられ、素直に返事を返した僕は、少ししてから不味い事を言った事に気が付いた。
「やっぱり、アルに教えて貰ってたのね」
振り返って見た母様の顔は、何時も以上に怒った顔をしていた。
その後、何時も通り帰って来た父様に、僕は知らせようと思ったけれど、僕が伝える前に、母様に捕まっていた。だけど、
「今回はやけにエレナの機嫌が悪かったが……私は…何かしただろうか…?」
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