上 下
142 / 228
三章

あの日

しおりを挟む
「この料理も美味いな!」

「行儀悪いですよ。それと、口元が汚れています」

生誕祭の料理を頬張りながら話すバルドに、コンラットがハンカチを差し出して注意する。

「しかし、アリアがこっちに来ないと分かっていると、生誕祭も安心して楽しめますね」

「おい!!名前出すなよ!来たらどうするんだ!?」

しみじみと言ったと言ったコンラッドの言葉に、バルドは警戒するように辺りを見渡しながら、アリアの姿が見えないかどうかを確認し始めた。

あの一件以来、バルドはすっかりアリアに苦手意識が出来たようで、クラスの中にいても全く目を合わせようとしない。

まあ、彼女の方も最近は無理に近寄って来る事がなく、他の生徒に対しても、今は干渉を控えているようだった。

「……この様子を見ると、余程凄い子なんだな」

今回も僕達に付き添ってくれているお兄さんが、バルドの様子を見ては憂鬱そうな表情を更に暗くして言った。

「はぁ…。今回…何も問題がなく無事に終ってくれるなら、それでもう良い…」

前回の事があったせいで、少し神経質になっているようのか、さっきから時おり辺りを見渡してはため息を付いていた。

「この前の事で、誰かに何か言われたの?」

「何もお咎めがなかった分、逆に気にしているみたいなんですよね…」

お兄さんに気付かれないように、コンラットに小声で訪ねている間も、不安そうにキョロキョロと周囲を見渡していた。

別にお兄さんが悪いわけじゃないから、怒られなかったのなら気にしなくても良いような気もするけれど、お兄さんはそうじゃないみたいだ。

バルドの方を見ると、全く周囲を気にする様子もなく、まるで嫌な事を忘れようとしているかのように、会場に置いてある料理を食べる続けていた。

「そういえば、彼女が大人しくている分、他の生徒が騒ぎ出したって、あの担任も嘆いてましたね」

コンラットから不意にあの日の事を持ち出され、僕は教室での出来事を思い出した。

「問題を起こさすなと言う簡単な指示が、何故理解出来ない?」

僕達が演習場で色々あったその日、別の場所では数人の怪我人が出ていたらしく、朝からクラス全員に事情説明と聞き取りが行われていた。

本人達は転んだと主張しているらしいが、明らかに殴られたような痕跡もあり、教師陣達がその事を追求しても、本人達は頑固としてそれを認めようとしないらしい。そのせいで、僕達にまで被害が来るのはいい迷惑だ。

「はぁ…。何故…私がこんな…」

何処か苛ついたように片手で頭をかきながら、何か不満を口にしていたけれど、声が小さすぎて上手く聞き取れない。

「……私が言えたぎりではないが、規律を守って行動しろ。いいな」

それだけ言うと、伝える事は伝えたとでもいうように、少し足取り荒く先生は教室を出て行くと、先生から聞いた話題をネタに雑談を交わしたりして、段々とクラスの中が少し騒がしくなっていく。

去年からいる人にとっては、リータス先生の態度は何時も事として、慣れっこになって来ていた。

「俺達が犯人扱いされなくて良かったな!」

僕達も例に漏れず、バルドが何処かほっとしたように話す。

「その可能性があるのは、貴方だけです」

「うっ…!」

揉め事に首を突っ込んだりするため、そういったトラブルが珍しくないバルドは、真顔で淡々と話すコンラットの言葉に、図星を疲れたような顔で表情を歪めた。

「話しは変わりますが、もうすぐ生誕祭開かれる生誕祭、リュカは大丈夫なんですか?昨日、彼女から紹介するように頼まれていたようですが…?」

そんなバルドを気にする素振りもなく、僕の事を心配そうな顔で見ているコンラットの横で、バルドは驚いたように声を張り上げた。

「アイツも生誕祭来るのか!?」

「当然来るでしょう…」

若干煩そうに顔を歪めながらも、何を当たり前な事を言っているんだと言う目で、バルドに視線を投げる。

「勘弁してくれよ!!」

コンラットの言葉を受けて、頭を抱えるようにして項垂れているバルドに、何と言っていいか分からず、とりあえず前向きになれそうな事を言ってみる。

「えっと…ほら…アリアも用事があって来ないかもしれない…でしょ…?」

「絶対だな!?」

「ごめん…今の言葉はなかった事にして…」

バルドの真剣な顔を受けて、僕は視線をそらしながら、さっき言った事を直ぐに撤回した。

「本人に直接聞いてくれはいいだろう?」

「じゃあ!ネアが聞いてこいよ!!」

「俺は参加しないから関係ない」

バルドの言葉に、ネアは興味なさそうにそっぽを向いて、完全拒否の姿勢を取った。

「……僕が聞いてくるよ」

「ホントか!?」

昨日の去り際に言っていた事も聞きたかったのもあって、僕は自分から彼女に聞きに行くと提案すると、バルドは嬉しそうに顔を綻ばせる。

バルドの声援を後ろに受けながらアリアの所に行くと、僕は思い切って声を掛けた。

「あ、アリア…。ちょっと…いい…?」

「何?貴方の方から私に声かけて来るなんて初めてよね?何か凄い問題でも起きたの?」

「そ、そういうわけじゃないけど…。アリアは…生誕祭…来るんだよね…?」

「当たり前じゃない?」

深刻そうな顔から、何処か肩透かしを受けたような表情で、予想していた言葉を同然のように言う。それを聞いて、僕は固唾を飲んで続きの言葉を口にする。

「そ、それでね…。その日、兄様を紹介させるために…僕達の所にやって来るのかなぁ~?って…」

「行かないわよ」

「えっ!?」

さも当然のように予想とは違う言葉を言うアリアに、僕は驚きと疑問の声を上げた。

「お父様がいる前で、私がそんな真似するわけないでしょう。それに、貴方のお兄様とは仲良くしておきたいけど、私のお父様と貴方の父親とは仲が良いわけじゃないみたいだし近寄らないわ。そもそも、押しかける気があるなら去年に押しかけてるわよ」

「え…?仲悪いの…?」

僕が疑問の言葉を口にすれば、アリアは呆れたような表情を浮かべていた。

「はぁ?貴方と初めてあった時の様子覚えてないの?あの様子見れば分かるじゃない?お兄様くらいなら、父親とかを味方にすれば何とかなるかもしれないけど、父親同士が悪いなら無理でしよ。そんな2人を鉢合わせさせて、せっかくの商談の場をわざわざ台無しにしないわ」

「そ、そう…」

「用事はそれだけ?ならもう行って良い?」

「ちょ、ちょっと待って!」

教室長を去って行こうとするアリアを、僕は慌てたように引き止めた。

「何?」

「ア、アリアって、本性隠す気あるのかなって思って…?」

「はぁ?」

わざわざ引き止めてまで、そんな質問をされると思っていなかったのか、アリアは怪訝そうな顔を浮かべていた。

「いきなり何?まあ、別に隠そうと思えば出来るけど、良い所だけ見せてたら私が疲れるし、その後の評価が落ちるだけでしょ?だけど、先に悪い所を見せてそれを受け入れて貰えたなら、後は上がるだけの方が楽だし、その方が私の性にも合ってるのよ。まあ、お父様達がいる前くらいでは、ちゃんと少しおバカで可愛い娘やってるけどね。もう行って良い?」

「あ、あとね…」

「まだ何かあるの!?」

少し苛立ったような視線を受けて、僕は聞きたかった事を口にした。

「き、昨日の最後の言葉って、バルドの事を言ってたの…?」

今思いだすと、途中までは淑女のような振りをしていたのに、途中から少し態度が変わっていたように思う。

「昨日?ああ、あれは黙っててくれてたお礼になればと思っただけよ。みんな、私の事を好きに言いふらすのに、彼、周りに何も言わなかったみたいだったから。私、借りを作ったらその日のうちに必ず返すようにしているのよ」

アリアはそこで言葉を一旦止めると、ニンマリとした笑みを浮かべながら先を続ける。

「沈黙って本当に大事よね?さすがにまた呼び出しされるのは嫌だったから、女相手に負けたって風潮しない連中で助かったわ。だから、しばらくは大人しくしてるつもりだから安心してって、彼に伝えておいて!」

軽く手を振りながらクラスを後にするアリアの背を見送った僕は、思いがけず昨日の犯人を知って、彼女にだけは喧嘩は売らないでおこうと思った…。

「……ュカ!聞い…ますか?リュカ!」

「え!?何!?」

「何じゃないですよ。途中からボーっとして、どうしたんですか?何度も呼んだんですよ?」

「そ、そうだったんだ…ごめん…」

あの日の時の事を思い出したせいで、少し思考が止まっていたようだ。

「ですか、事件があったから大人しくしているとは、彼女の中にも常識があるようで少し安心しましたね」

「そうだね…」

バルドの事や、事件の犯人の件に付いてはみんなには言わないでおいた。口は災いのもととも言うから、沈黙が1番だ…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】 宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。 異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。 元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。 そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。 大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。 持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。 ※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

処理中です...