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三章

帰宅

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「助かった」

「これくらいなら、僕にも出来るからね」

回復魔法を使って治しながら、ネアへと返答を返していると、後ろで誰かの足音が聞こえた。

「2人共おはようございます」

「……おはよう」

後ろを向くと、コンラッドと、その影に隠れるようにバルドが立っていた。

「2人で、何をしていたんですか?」

「ネアが、愛想笑いしすぎて顔が痛いって言うから、治してたんだ」

もう痛くないはずなのに、何処か表情が硬い表情のネアと近寄りながら、気まずそうにしているバルドの様子を伺う。

「そうなんですか。バルド。言いたい事があるなら、何時もみたいに言えばいいでしょう」

「ああ…」

コンラットの言葉を受けて、バルドが罰が悪そうな顔をしながら、おずおずと前へと出て来た。

「ネア。昨日は、悪かった。ネアが難なくこなしているように見えたから、思った事をそのまま言ったんだ…。ちょっとした冗談はあったけど、悪気はなかった。ただ…ネアがそこまで本気で嫌だったとは、考えてなかったんだ…」

たしかに、バルドは自分の気持ちに素直に行動してしまう所があるからな…。

「別にいい。俺も、子供みたいな態度を取ってしまった」

「いや、お前も子供だろ」

「俺は、大人だ」

堂々と得意げに言うネアには、先程まで筋肉痛で弱っていた様子はない。そんなネアを、ぽかんと口を開けながら見ていたバルドが、小さく吹き出した。

「ぷっ!そ、そうだな。ネアは、大人だな」

肩を震わせながら笑うバルドを、ネアは不機嫌そうな顔で見ていた。

「ネアも、私達とそんなに変わらない身長なんですけどね」

「そうだよね」

「……笑うな」

バルドに釣られて、横で笑っている僕達に気付いたネアが、こちらを不機嫌そうに睨んっで来たけれど、少しも怖くなかった。愛想良く振る舞えても、冗談とかは苦手みたいだ。

朝食の席では、昨日とは違う席順になっていた。

昨日は、バルド達が先に一番端の席に座ったから、僕達は空いた2人分席に座って、ネアは反対の席に座った。だけど、今はバルド達が手前の両側に座って、ネアが端の席に座っているから、昨日とは逆の位置なっている。

「母上、おはようございます」

「ラザリア様。おはようございます」

「おはようございます。ラザリア様」

「おはようございます…」

みんなに合わせて挨拶をすれば、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「おはよう。息子の友人なのだから、もっと気軽に接して貰っていいわよ」

「さすがにそれは…」

コンラットの後に続いて真似したけれど、気軽にと言われてもどうしたらいいか困る。横目で見たコンラットは、少し困ったような顔をして、ネアは、目を合わせようともしていない。

「困らせる気はないから、話せるようになったらでいいわ」

その後の朝食の席は、最後まで穏やかなまま時間が過ぎて行った。

「普通、だったね」

朝食が終わって、部屋に戻る途中の廊下で、何気なく言った言葉に、コンラットが頷くように答えた。

「私が、前に来た時と同じような感じでした」

「親父がいる時とかはあんな感じだけど、いないとストレス貯まるのか、性格がきつくなるんだよ。昨日のでストレスが和らいだからなのか、少し治ってたな。これも、ネアのおかげだな!あ!いや、今のも、悪気があって言ったわけじゃないぞ!ただ、感謝を伝えたくて言っただけで!」

昨日の事を気にしているのか、慌てたように自分の言った事を訂正していた。

「分かっている」

少し煩そうな顔をしたネアの言葉に、バルドはほっと息を付きながら安堵していた。その後も、他愛ない話しをしながら廊下を歩きながら戻って来た僕達は、自分達の荷物を纏めるためにそれぞれの部屋へと戻った。

「今度は、コンラットの屋敷で遊ぶぞ!」

少なくなった荷物を馬車に積んで貰っていると、見送りのために外に出てきていたバルドが、さり際の僕達に言った。

「何で、貴方が決めるんですか…」

「駄目なのか?」

「駄目じゃないですけど…」

「なら、決定な!」

「だから、何で勝手に決めるんですか!!」

冬近くになって寒くなったこの時期に、何時ものやり取りが始まってしまった。

「先、帰ろうか」

「そうだな」

「近くまで送ろうか?」

「助かる」

こうなると長いのを知っている僕達は、先に屋敷を後にした。馬車に乗り込みながら、2人が風邪を引かないようにだけ祈ったけど、玄関前だし大丈夫だよね?

「やっぱり、自分の部屋の方が一番落ち着くな」

「ふふっ、ご友人とのお泊りは楽しかったですか?」

「うん!」

夕食の時間まで、リタと話しながら過ごした僕は、父様達にも話して聞かせた。みんな、僕の話しを楽しそうに聞いてくれた。

「それでね!バルドの所は、色々な物が廊下に飾られてて、見てても楽しかった!」

「なら、屋敷の飾りを元に戻そうかな」

「戻す?」

「ああ、昔は色々飾っていたんだけど、諸事情で最低限の物以外は片付けたんだよ」

「ふーん。どんな物を飾ってたの?」

「そうだな。絵画や壺とかの骨董品とかが多かったかな」

バルドの屋敷では、剣に関わる物が多く飾ってあった。やっぱり、屋敷によって飾っている物とかも違うんだな。

「……客間とかにもインテリア用の宝石とかも飾ってありましたよね」

「そうだったね。それらは、装飾品にして有効活用したから、気にしなくて良い」

「……わかりました」

そう言った兄様の表情が、少し暗い気がして、僕は話題を変えた。

「ラザリア様は、ピンク色の宝石が付いた装飾品付けていたよ」

「ピンク色……。もしかして、ピンクダイヤモンかな…?」

「うん。そんな名前だった」

「そ、そうか…。何か、言っていたかな…」

今度は、父様の様子がおかしくなったけど、特に父様が気にしそうな事は言っていなかったと思う。でも、僕が気付かなかっただけで、何か大事な事を言っていたのかな?

「何かって、何?」

「いや、何も言っていないのならそれでいいんだ。それよりも、彼女の相手は大変だっただろう」

「アル。ラザリア様に対して、そんなふうに言うなんて酷いわ」

「え!あ…す、すまない。ただ、壁…ベルンハルトがいないから…」

「そればっかりね。そんなに気にするなら、昔みたいに一緒にいればいいじゃない」

「いや…一緒にいたいわけではないのだが……」

「仲が良かったの?」

「腐れ縁みたいなものだ。レクスの護衛で側にいたから、自然と顔を合わせる回数が多かった」

「ふふっ、3人並んでいるだけで、それは絵になるほどだったのよ。女生徒からの人気も凄かったんだから!」

恍惚とした表情で話す母様。バルドのお父さんは見た事ないけど、父様と陛下が並んでいる所は見た事があるから、絵になるのは分かる気がする。それに、今でも人気がありそうだ。

「褒められているのだろうが、何も嬉しくはないな…」

複雑そうな顔を浮かべながら、1人苦笑いしていた。
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