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三章
独壇場
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その後に開かれた夕食会は、ネアの独壇場みたいになっていた。
「夫人が、首から下げていらっしゃるのは、滅多に手に入らない、ピンクダイヤモンドですね」
「あら、見ただけで分かるのね」
「はい。夫人の手元に渡ったからか、さらに輝きを増しているように見えます」
「ありがとう。ちゃんと気付いて、褒めて貰えるのは、やっぱり嬉しいわ」
「いえ、滅多にお目にかかれない品でしたので。ですが、どんな宝石も夫人の美しさの前では敵いはしません」
「フフッ、お上手ね。息子の友人に、こんな子がいるなんて思わなかったわ」
楽しげに話す夫人に、軽く会釈をしてから、口元に笑顔を浮かべる。
「社交界の花である夫人に褒めて頂くなど、とても光栄です」
「……」
2人の会話に混ざる事なく、みんな無言で夕食を食べていた。
「おい、ネアがあんなに話す所なんか、俺は見た事ないぞ!」
バルドは身を寄せながら、信じられないような物を見る顔で、僕達に小声で言って来た。
「それにしても、敬語を話せたんですね…」
「僕は、話に付いていけないから助かるけど…。本人だよね…?」
僕の変わりに、色々気付いてくれるおかげで、こちらに話が振られない。だけど、笑顔を浮かべている所を見慣れないせいか、感謝よりも別な感情がわく。
「人が変わったようですよね…」
「いや、あれはどう見ても、完全に別人だろう!」
「そうなのか?でも、凄い奴だな。母さんがあんなに機嫌が良いなんて、滅多にないぞ」
二人の会話を聞きながら、僕達4人でこそこそと様子を伺いながら密談する。
「この話は、何時まで続くの?」
夕食が始まってしばらくたつのに、話しが終わる気配が全くしない。さすがに居心地が悪くなって来たから、どうにかして欲しくて2人に聞いたのに、どちらも困ったような顔を浮かべている。
「何時もは、親父や兄貴に任せてるけど、今、どっちもいないからな…」
「え…。じゃあ…いない時はどうしてたの…?」
「…知り合いの所とか、寮暮らしの奴の所に行ってた」
「…コンラットの所にいた」
僕の問いかけに、2人は視線を逸らしながら答える。外見は違っても、気まずそうに視線をそらす仕草がそっくりだ。
「そういえば、何かと理由を付けては、泊まって行く時がありましたね…」
コンラットが、思い出したように言ったけれど、その顔は暗い。
「じゃあ、何で、今年はいるの?」
今まで、帰って来る事を避けていたのに、なんでわざわざ僕達を屋敷に呼んだ意味が分からない。
「親父に釘さされたんだよ…。母さんを1人屋敷に残して出歩くなってさ…」
「親父の言う事も分かるんだけど…。俺達2人だと、確実に不味いと思って…」
「私達を道連れにしたと…」
バルドの言葉を拾うように言ったコンラットは、憮然とした顔をしていた。僕も、楽しみしていた分、裏があった事が面白くない。
「ち、違うぞ!たしかに、母さんの相手を手伝って欲しいとは思ったけど、遊びに来て欲しかったのは本当だ!そもそも、兄貴が屋敷に帰って来ないからだろ!」
「お前だって屋敷にいないだろ!」
2人が揉めるかと焦りそうになった時、手を叩く音が部屋に響いた。それは大きな音ではなかったが、僕には大きな音に聞こえた。
言い争いになりそうになっていた2人も黙りこみ、誰も話す事がなくなった部屋は静まり返っていた。ただ、視線は一つに集まっていた。
「さっきからコソコソと話をしているようだけど、少しはこちらに混ざろうという気はないのかしら?それと、騎士を目指したいなら、言いたい事は堂々と言いなさい」
「「ハ、ハイ!!」」
冷ややかな視線を向けられて、バルドとお兄さんが姿勢を正しながら、声を揃えて返事をしていた。その様子は、まるで上官の命令に従う兵士のようだった。
僕は、話しを降られないように、そんな2人からそっと目を逸らしながら、静かに夕食を口へと運ぶ。
誰が一番強いのか、はっきりと力関係が分かる光景を見たせいか、兄様達の意見が正しかったなと、密かに心の中で思った。
「夫人が、首から下げていらっしゃるのは、滅多に手に入らない、ピンクダイヤモンドですね」
「あら、見ただけで分かるのね」
「はい。夫人の手元に渡ったからか、さらに輝きを増しているように見えます」
「ありがとう。ちゃんと気付いて、褒めて貰えるのは、やっぱり嬉しいわ」
「いえ、滅多にお目にかかれない品でしたので。ですが、どんな宝石も夫人の美しさの前では敵いはしません」
「フフッ、お上手ね。息子の友人に、こんな子がいるなんて思わなかったわ」
楽しげに話す夫人に、軽く会釈をしてから、口元に笑顔を浮かべる。
「社交界の花である夫人に褒めて頂くなど、とても光栄です」
「……」
2人の会話に混ざる事なく、みんな無言で夕食を食べていた。
「おい、ネアがあんなに話す所なんか、俺は見た事ないぞ!」
バルドは身を寄せながら、信じられないような物を見る顔で、僕達に小声で言って来た。
「それにしても、敬語を話せたんですね…」
「僕は、話に付いていけないから助かるけど…。本人だよね…?」
僕の変わりに、色々気付いてくれるおかげで、こちらに話が振られない。だけど、笑顔を浮かべている所を見慣れないせいか、感謝よりも別な感情がわく。
「人が変わったようですよね…」
「いや、あれはどう見ても、完全に別人だろう!」
「そうなのか?でも、凄い奴だな。母さんがあんなに機嫌が良いなんて、滅多にないぞ」
二人の会話を聞きながら、僕達4人でこそこそと様子を伺いながら密談する。
「この話は、何時まで続くの?」
夕食が始まってしばらくたつのに、話しが終わる気配が全くしない。さすがに居心地が悪くなって来たから、どうにかして欲しくて2人に聞いたのに、どちらも困ったような顔を浮かべている。
「何時もは、親父や兄貴に任せてるけど、今、どっちもいないからな…」
「え…。じゃあ…いない時はどうしてたの…?」
「…知り合いの所とか、寮暮らしの奴の所に行ってた」
「…コンラットの所にいた」
僕の問いかけに、2人は視線を逸らしながら答える。外見は違っても、気まずそうに視線をそらす仕草がそっくりだ。
「そういえば、何かと理由を付けては、泊まって行く時がありましたね…」
コンラットが、思い出したように言ったけれど、その顔は暗い。
「じゃあ、何で、今年はいるの?」
今まで、帰って来る事を避けていたのに、なんでわざわざ僕達を屋敷に呼んだ意味が分からない。
「親父に釘さされたんだよ…。母さんを1人屋敷に残して出歩くなってさ…」
「親父の言う事も分かるんだけど…。俺達2人だと、確実に不味いと思って…」
「私達を道連れにしたと…」
バルドの言葉を拾うように言ったコンラットは、憮然とした顔をしていた。僕も、楽しみしていた分、裏があった事が面白くない。
「ち、違うぞ!たしかに、母さんの相手を手伝って欲しいとは思ったけど、遊びに来て欲しかったのは本当だ!そもそも、兄貴が屋敷に帰って来ないからだろ!」
「お前だって屋敷にいないだろ!」
2人が揉めるかと焦りそうになった時、手を叩く音が部屋に響いた。それは大きな音ではなかったが、僕には大きな音に聞こえた。
言い争いになりそうになっていた2人も黙りこみ、誰も話す事がなくなった部屋は静まり返っていた。ただ、視線は一つに集まっていた。
「さっきからコソコソと話をしているようだけど、少しはこちらに混ざろうという気はないのかしら?それと、騎士を目指したいなら、言いたい事は堂々と言いなさい」
「「ハ、ハイ!!」」
冷ややかな視線を向けられて、バルドとお兄さんが姿勢を正しながら、声を揃えて返事をしていた。その様子は、まるで上官の命令に従う兵士のようだった。
僕は、話しを降られないように、そんな2人からそっと目を逸らしながら、静かに夕食を口へと運ぶ。
誰が一番強いのか、はっきりと力関係が分かる光景を見たせいか、兄様達の意見が正しかったなと、密かに心の中で思った。
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