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三章

昔の

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「父様、おかえりなさい!今日、友達に泊まりに来ないか誘われたんだけど、行って来て良い!?」

父様が帰って来るのを、玄関で待ちわびていた僕は、父様に駆け寄りながら聞いた。

「……誰の所に行くんだ?」

「バルドの所!」

「今の時期に……」

「駄目なの…?」

浮かない顔をしながら言う父様に、僕は、少し落ち込みながら聞いた。

「駄目ではないが…。時期を、少しずらせないのか?」

「今ね、バルドのお父さん達が遠征に行ってて、屋敷にいないんだって!行ってもいいでしょ!?」

「だからなのだが……。分かった…。気を付けて行ってきなさい…」

父様の顔が晴れる事はなかったけれど、泊まりに行く許可だけは貰えた。

「ラザリア様の所なら安心ね」

「知ってるの?」

夕食の席で、泊まりに行く事を伝えると、母様は笑いながら答えた。

「ラザリア様には、よくお茶会に誘って頂いたり、相談事とかにも、乗って頂いたりしているの」

どうやら、2人は顔見知りで、仲が良いみたいだ。

「私も、お茶会を開いて招待しようとしたけれど、遠慮されて来て下さらないの…」

「遠慮ではなく、私と顔を合わせたくないだけだと思うが…」

「何で?」

何とも言えない顔で話す父様を不思議に思って聞いたら、母様がきょとんとした顔で言った。

「あら?リュカは、知らなかったかしら?ラザリア様は、アルの婚約者だった方なのよ」

「えーー!!」

僕が、驚きながら父様の方を見れば、そっぽをむくように僕から視線を逸らした。

「昔の話だ…」

居心地悪そうな父様の変わりに、母様が教えてくれた。

「ラザリア様は、アルの婚約者で、公爵令嬢だったのだけれど、身分の低い私にも、気兼ねなくに接して下さるような優しい方なの。アルとの婚約が破談になって、私がアルと結婚する時も、嫌な顔一つなさらないで祝福して下さたのよ」

「優しい…アレが…?」

父様は、信じられないような顔をしながら、母様の事を見ていた。

「そもそも、あれは…」

父様は、納得いかなそうな顔で、何かを言い掛けて、止めてしまった。

「どうしたの?もしかして、その人の事、好きだったの?」

「それはない」

僕の問いかけに、父様は急に真顔になって、きっぱりと否定した。

「家が決めた相手だっただけで、恋愛感情などはいっさいなかった。それは、相手も同じだ。なにせ、婚約を破棄して来たのは、あちらからだからな。私と結婚するのは、死んでも御免だそうだ…」

「え!?父様が振られたの!?」

父様の言葉が信じられなくて、苦笑いを浮かべる父様に聞いてみた。

「そ、そうだね…。その言葉で、正しいのか分からないが…」

父様は、何処か歯切れ悪そうに言った。

「父様でも、振られたりするだね?」

「そうだね…。リュカ…。悪いがその言葉を言われると、昔の事を思い出すから、止めてもらえないか…?」

落ち込んでいる様子の父様を、母様が苦笑しながら見ていた。

「兄様は、会った事あるの?」

父様達から視線を外した僕は、兄様へと視線を向けた。

「何度か会った事はあるが、私は、苦手だ…」

「何で?」

「女性への贈り物がちゃんと出来ない男は駄目だと、母上と共に一日中、服や装飾品の買い物に付き合わされた事があった…。それは、過酷としか、言いようがなかった…」

兄様は、何かを思い出すようにに、遠くを見つめながら言った。

「私は、オルフェと買い物が出来て楽しかったのだけれど…。やっぱり、女性物は見ててつまらなかったかしら?なら、今度は、3人でオルフェの物でも買いに行きましょう!」

「え……?」

「オルフェも、今後、社交界に出る事が増えて来るんだし、服とかもあるに越した事はないわよね!」

「い、いえ、今ある物で十分です!」

「遠慮しなくてもいいのよ。こうしてはいられないわ!早速、ラザリア様にお誘いの手紙を書かなくちゃ!」

「は、母上!本当に、必要ありません!」

席を立つ母様を止めるため、兄様が慌てたように声を上げる。

「大丈夫よ。オルフェなら、どんな服でも似合いそうだから!今から選ぶのが楽しみだわ」

「そ、そうではなくて!」

兄様が、慌てたように腰を上げるも、母様は返事を待たずに、部屋の外へと行ってしまった。

横で力なく席に座った兄様は、こちらを静かに振り向きながら、僕に言ってきた。

「リュカ、泊まりに行くのなら、ラザリア様には気を付けろ。対応を間違えて、社交界にいられなくなった者もいるくらいだ。私は、人からの評価には興味ないから気にはしないのだが……」

「兄様も…何かあるの?」

「そういった事はまだないが、母上に頼まれて、お茶会に同行した時、紳士としての行動を解かれた…。それに、女性の変化に気付かないようでは駄目だと、合う度に、何処が変わったかのかを聞かれ事もあった…」

お茶会は、じっとしていなきゃいけないから、母様に誘われても行かなかったけど、兄様の顔を見ていると、そんな昔の僕を褒めて上げたくなった。

「オルフェ、すまない…」

父様が、顔を伏せるように、兄様に何故か謝罪していた。

「兄様には、婚約者とかいないの?」

部屋へと戻りながら、何気なく兄様に聞いてみた。

「聞いていないのか?私のもそうだが、縁談の手紙等は、リュカの分も含めて、父上が全て焼却処分しているぞ」

「え!?」

今まで、そう言った話がないのは、僕がまだ子供だからなのかと思っていた。でも、そうではなかったようだ。

「父上から、結婚相手は自分で見付けろと言われている。そして、爵位や人脈で選ぶのは駄目だとも…」

「気になる人とかいないの?」

「いない」

兄様なら、いくらでも女性が寄って来そうなのに?

「話しかけたり、誘ったりもしないの?」

「しない。女性の買い物に付き合うのは、軍事訓練をこなすよりも過酷だ。それに、話の内容が急に飛ぶ事があって、話しを合わせるのにも苦労する。相手を見つけるのは、家を継ぐためにも、必要な事だとは分かっているのだが…。私には、とてもじゃないが無理だ…。」

疲れたように言った兄様が、何か閃いたようにこちらを見てきた。

「リュカが、この家を継ぐか?」

「無理だから!」

僕の、兄様の言葉を即座に否定する。僕がこの家を継いだりしたら、没落する未来しか見えてこない。だから、兄様に、頑張って貰わなきゃ困る!継ぐ気がない事をはっきり伝えると、兄様は少しがっかりした様子だった。
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