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二章

兄としての威厳(オルフェ視点)

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学院を卒業してからは、父上の仕事を任せて貰えるようにもなっていた。

私も、資料や書類だけを相手にするならば、何の問題もなくこなす自信がある。だが、店の経営ともなれば、人を相手にする事は避けられない。

たが、私は人を相手にするのは、苦手と言っていい。周りからも、何を考えているのか分からないや、雰囲気が怖くて近寄り難いと言われる事が多い。はっきり言って、気軽に話す相手など、レオンくらいなものだ。

だからなのか、初めて店の者達に会いに行った時も、皆の表情はあまり良いとは言えなかった。父上からは、辞めたければ何時でも辞めて良いとは言われたが、私がそんな事を言われて、父上は引き下がるとでも思っているのだろうか?

むしろ、仕事を見事にこなして見せようという気持ちの方がわいてくる。それに、兄として不甲斐ない姿を、リュカに見せるわけにはいかない。私は、リュカの兄なのだから、見せるなら格好いい姿がいい。

徐々に仕事に慣れて来ると、ドミニクから父上が残して行った仕事も、回して貰えるようにもなった。父上の仕事を片付けていると、父上を見返す事が出来たような気がして楽しくもあった。

私は、慣れない仕事をこなしながらも、リュカと過ごす時間だけは、確保出来るように努めていた。週明け、一緒に過ごせる僅かな時間は、私の楽しみの1つだった。

そんな時、父上からリュカの事を頼まれた。もちろん私には異議はなく、すぐに提案を受け入れた。そして、私は何時ものように、週明けにでも時間を作ろうと考えていた。しかし、リュカから思いもよらない言葉を聞いた。

「週末、クラスメイトを屋敷に呼んでも良い?」

その日は、外に出る用事を全て片付けるつもりで、外出の予定を入れていた。だが、何だか弟を取られたような気になってしまったせいか、リュカから書庫の本を読んで良いかを聞かれた時に、少し咎めるような物言いになってしまった。父上には、私が不満に思っている事がばれていたらしく、リュカの前でたしなめられてしまった…。

屋敷に帰って来てから、その日の出来事をリュカに聞けば、勉強を教えて貰う約束までしているという。

「勉強なら、私が教えるのに……」

「何か行った?」

「何も…」

リュカのクラスメイトに嫉妬するなど、格好が悪くて言えたものではない…。

「明日は何か予定はあるか?」

クラスメイトが明日来ない事に安堵しつつ、明日の予定に付いて尋ねてみれば、リュカは予定はないと答えた。私は、他の予定が入る前に、予定を開けて貰えるように頼んでおいた。

次の日、昼間まで終わらせようと思っていた仕事がなかなか終わらず、時計を見れば12時になろうとしていた。昼食を抜けば、無駄な心配をかけるので、行かないという選択肢がない。私は、すでに来ていたリュカに断わりを入れて、急いで食事を済ませると食堂を後にした。

仕事がもう少しで終わりそうな時、部屋をノックする音が聞こえてきた。その後に、リュカの遠慮がちな声が聞こえて来たので、私は入室の許可を出し、リュカに少し待っていて貰えるように頼んだ。すると、リュカが何か出来る事はないかと尋ねて来た。

本来は、私が保管庫に教本を探しに行くつもりだったのだが、暇がなくて行けていなかった。なので、リュカに頼んだのだが、私は途中である事を思い出した。

「私も一緒に行こう!」

私は、やりかけていた仕事を急いで片付け、引き出しへとしまうと、リュカが待つ扉へと急いだ。私の様子を、リュカは不思議そうに見ていたが、同じ失敗をするわけにはいかない私にとっては、多少、疑問に思われたとしても、付いて行かないという選択肢はなかった。

以前、レオンがやって来た時に、保管庫の本を取り行かせたら、その絵を見られて笑わた事があった。それ以来、ギャラリーに飾られていた絵は片付けられて、もう飾られてはいないはずだ。だが、万が一という事がある。

だからこそ、リュカがギャラリーの扉を開けた時は、すぐに絵が飾ってあった場所へと視線を向け、絵がないかを確認してしまう程には焦っていた。

「良かった…。ちゃんと片付けられている…」

私は、心の中で安堵のため息を溢していたが、リュカが不思議そうに尋ねて来た言葉でその思考が止まる。

「何で絵がないの?」

リュカにとっては、当然の疑問なのだろうが、聞かれた私は頭が真っ白になってしまった。普段であれば、幾らでも思い付きそうな言い訳が、何も浮かんで来ない。

「そ、それは…」

「それは?」

「……私は先に行って本を探して来る」

結局、言い訳すら思いつかずに、私は逃げるようにギャラリーを後にした。もちろん、リュカがそれで納得するわけもなく、保管庫に向かう間もしきりに理由を尋ねられたが、私が答えられるわけもなかった。その後のリュカの様子見る限り、両親にも口止めをしておかなければならなそうだった。

私は、兄としての威厳を守るため、嫌われるのを覚悟で口を閉じる事にしたが、本心を言うのであれば、リュカに嫌われるのは避けたい。

あの場で、それらしい言い訳を思い付くことが出来ていたら、それも防げていただろうが、既にもう遅い。何で私は、まともな言い訳すら話せないのかと、己の未熟さを痛感しながら、保管庫へと急ぐのだった。
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