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二章

学院へ

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学院の休みも終わり、次の日から兄様も、学院へと通う日々が始まった。

僕も、兄様が学院に行っている間は、フェリコ先生と勉強して過ごし、兄様が休みの日は、兄様と一緒に過ごす事が多くなった。母様からも、兄様と仲良くなって良かったと言われた。どうやら、ずっと僕達の仲を心配していたようだった。まあ、少し寂しいとも言われたけれど…。

そんな日々の中、変わった事もあった。それは、あれ以来、兄様が笑うようになった事だ。最初は、分かり難かったけど、笑顔も段々と分かりやすくなってきた。最初は、使用人達も、驚いて手を止めてしまう事もあったけれど、しだいに慣れてくると、それも徐々になくなっていった。

そうして、暖かくなって、春の陽気が訪れる頃、兄様が学院を卒業する日がやってきた。

本当は、学院まで、兄様も一緒に行くはずだったのだが、卒業生の代表挨拶の件で、学院に呼ばれたらしく、兄様は先に学院に行っていた。それにしても、代表挨拶に選ばれるなんて、やっぱり兄様は凄いと思う。でも、選ばれた事を知ったのは、卒業式の1週間前くらいだった。

「オルフェ。レクスから、代表挨拶に選ばれたと聞いたが、本当か?」

「それは…」

「兄様代表なの!?」

「え…いや…」

「オルフェ、凄いわね!卒業式には、皆で行くから楽しみだわ」

「はい!兄様!僕も、卒業式で話す兄様を楽しみにしてますね!!」

「うっ…そう…だな……。レオン…後で覚えていろ…」

「?」

最後に何か言っていたけれど、兄様の声が小さ過ぎて、よく聞こえなかった。

「わぁ~」

学院に付くと、その広大さに思わず声が出た。

学院の門をくぐると、目の前には、広大な中庭が広がり、その中庭には、様々な花が植えられていた。そして、その中庭を囲うように、左右対称に建物が立っている。正面に見える渡り廊下は、アーチ状の空洞になっており、奥の建物が見えるようになっていた。

大多数の人間が過ごすとあって、学院は王都一の広大さを誇っていた。そのため、王都の外れの郊外に建っており、一部分は、森と繋がっていて、境目が分からなくなっている場所さえある。

今、僕がいる場所からは、学院の入口部分しか見えないけれど、講堂などの他にも、学生寮、食堂など多くの建物もあるらしい。

僕も、もうすぐこの学院に通うかと思うと、白を基調に建てられている建物が、さらにキラキラ輝いているように見えた。

「父様!兄様がいる講堂は何処ですか!?」

「リュカ、落ち着きなさい。講堂は、もう少し奥にある建物だよ。迷子になるといけないから、ちゃんと付いて来るんだよ」

「はい!」

それでも、僕がキョロキョロと、周りを見渡しながら進むせいで、歩みはどうしても遅くなる。両親は、そんな僕を途中、立ち止まりながら、待っていてくれた。そんな僕達に、賑やかな声が聞こえて来た。

「お父様~速く!速く!」

振り返ろうとした時には既に遅く、後ろからの衝撃で前に倒れ込んだ。

「うぁわ!」

「きゃあ!」

僕は、地面にぶつかる前に、駆けつけた父様に支えて貰ったけれど、ぶつかってきた相手は、そのまま尻もちを付いたようだった。

「いった~い。ちゃんと前を見て歩いてよ!!」

少しムッとした気持ちで後ろを振り向けば、僕と同じくらいの女の子が、痛そうにお尻を触りながら、こちらを睨んでいた。

その青い瞳の女の子は、薄いピンク色の髪を2つに結っており、それを赤いリボンで止めていた。大きな二重瞼で、睨んでいなければ、可愛らしく映っただろう。

「そっちが…!」

「大丈夫かい?手を貸そうか?」

僕が何か言う前に、父様は、相手の女の子へと手を差し出していた。

「え!?は、はい!手を、借りてもいいですか…?」

僕の時と違って、父様には顔を赤らめながら、しおらしく振る舞っていた。

「アリア!大丈夫かい!?」

女の子の後ろから、グレーの髪に緑色の目をした20代後半くらいの若い男性が、こちらに走って来るのが見えた。

「お父様!!」

手を借りて立ち上がった後、父親と思われる男の元へと駆けて行った。

「レグリウス公爵、申し訳ありません。私の娘が、ご迷惑をおかけ致しました」

「アルテルガ辺境伯…。今後、気を付けて貰えるならば、それでいい…」

「ちゃんと、娘には言って聞かせます。レグリウス公爵は、ご子息の卒業式に来られたのですか?」

「それ以外に何がある…。貴公は、何故、此処にいる?」

「娘が、学院に通う前に、見てみたいと言うので、見学させて貰っているんです」

「わざわざ卒業式に…?」

「今日なら、わざわざ学院に許可を取らなくても、簡単に入れるかと思いましてね」

「関係ないものは、あまり彷徨うろつかない事だな…。場所によっては…その関係者だと思われるぞ…」

「肝に銘じておきます。では、私は、お邪魔のようなので、失礼させていただきます」

男は、女の子を連れてその場を去っていった。

「父様?知り合い?」

「…一応な。最近、家督を継いだばかりの若い貴族だが、あまりいい噂を聞かない。だから、近付かない方が……いいと思うかな?」

最初は、睨むように相手を見ていたのに、僕と視線があった途端、その表情は消えていた。

たしかに、さっきの男の人は、父様の笑顔と違っていた。顔は笑っているのに、目だけが笑っていないように見えて、何だか怖い印象に感じた。だから、僕としても近付きたくない…。

でも、その若い貴族と並んで立っても、同じような歳に見える父様っていったい…。
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