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二章
冒険者ギルド(べナルト視点)
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私は、王都で冒険者ギルドのマスターをやっている。
昔は、少し名が通った冒険者だったが、やはり歳を重ねるにつれて、だんだんと全盛期のような動きは出来なくなり、引退を考え初めている時に、王都でギルドマスターをやってみないかという話が来た。
その当時、多くの場所で、不正が見つかったギルドマスターが、辞める事態になっていた。そのため、マスター不在の場所が多くあり、この王都も例外ではなかった。さすがに、王都のギルドマスターが不在なのは、些か不味いのは明らかだったのと、私も、ギルドには度々、世話になった事もあった事もあり、悩んだ末にその話を受けた。
しかし、冒険者を引退した今でも体を鍛え、腕が鈍らないようにしている。書類仕事に嫌気が指した時は、王都の外に、魔物を狩りに出かけたりもしていた。しかし、今は、執務室で、大量の書類の整理に追われていた。
その書類の殆どが、ある依頼から発生したものだった。だが、その依頼が出るたびに、ギルドも街も大きく賑わっていた。それも、依頼主であるレグリウス家のおかげだ。
彼等は、定期的に王都の外へと外出する事がある。その際には何時も、目的地周囲と、そこに行くまでの道に出る、魔物や盗賊の討伐依頼をギルドに出してくれている。
その依頼に、参加するだけでも金貨1枚、討伐した内容によって、さらに報酬が出るうえに、依頼中に武器が破損した場合も保証してくれる。
だから、冒険者達は、より多くの魔物や盗賊を躍起になって狩り、金を稼ごうとする。そして、魔物や盗賊がいなくなれば、商人は護衛を雇う事なく、そこの町まで移動する事が出来るため、物流も盛んになる。
武器屋は、冒険者達からの修理依頼も増えて潤い。冒険者達が稼いだ金は、飲食店などの店に落ちて、それぞれの街全体が賑わっていく。
つまり、レグリウス家が出掛けるだけで、大勢の者に大きな恩恵が得られるため、是非、私達の町に旅行に来て欲しいと、各地から特産品などが贈られて来たりもするらしい。だから、レグリウス家は、街の連中から、福の神のように扱われているような所がある。
まあ、今回は、人の往来が少ない時期のラクスな事もあって、前回よりも書類は少なくてすんだ。ようやく冒険者達に支払う金の精算が終わって、次の仕事に取り掛かろうとした時、扉の外から騒がしい声が聞こえて来た。
「お待ち下さい!私が先に…」
バーン
勢いよく開かれた扉の向こうには、アルノルド・レグリウスがそこにいた。
「私がお前に依頼した内容は何だ…」
「アルノルド様!!」
開口一番に告げられた言葉に混乱しながらも、椅子から立ち上がり出迎える。
「お越し下さりありがとうございます。それと、依頼…ですか…?」
「2度も言わせるな…。依頼はなんだ…?」
アルノルド様が、こちらに一歩踏み出す事に、部屋全体が冷えて温度が下がっていく。ただならぬ怒りの気配を感じた私は、慌ててアルノルド様の前まで向かい、依頼された内容を言った。
「魔物と盗賊の討伐依頼です!」
「なら…何故…盗賊がラクスにいる…?」
「へ?」
思いもよらない言葉に、思わず私の口から、間の抜けたような声が出た。不味いと思った時には既に遅く、部屋全体が凍り付いた。
「ヒッ!」
「…私は幾らお前に渡した?」
「前金で金貨1000枚!経費なども別途で貰っています!」
毎度、この依頼から発生する大金のおかげで、新人冒険者達も安定して金を稼ぐ事ができ、無茶な依頼を受ける事が減った。その事で、依頼の失敗率や、死者が減っている。
「それでは足りなかったか?それとも…私に喧嘩を売りたかったか…?」
「滅相もありません!!」
レグリウス家を敵に回したら終わりだ!!最近も、使用人が何人か追い出されて、悲惨な目にあっていた。
街の住民は、レグリウス家から多大なる恩恵を受けているため、レグリウス家に害をもたらす者に容赦しない。
店では、食べる物さえ買う事が出来ず、貸し家ならば家主から、家を追い出される。スラム街に行っても、孤児院を作ったり、働ける者には仕事を回したりもしているので、スラム街でも相手にされない。裏社会の人間さえも、報復を恐れて近付く事もないだろう。
レグリウス家を敵に回した者は、王都での居場所が完全に無くなる。街を出ようにも、冒険者達も護衛依頼を受けたりなどしない。魔物が出る森や平地を運よく抜けて、他の町に付けたとしても、商人達の情報も速く、恩恵を受けた事のある町なら、そこも直ぐにいられなくなるだろう…。
王都周囲で、恩恵を受けた事がない町など、皆無だろう…。だから、飢えに苦しみながら餓死するか、魔物に脅えながら森をさまよって、魔物に食い殺されるしか道がない。
「冒険者達が…この依頼以外で、破損した武器や、新品に買い替えた装備の金も、不正に請求している事を…私が気付いてないとでも…」
それには、俺も気付いていたが、冒険者達の事情も分かるため、黙認していた所がある…。
武器は冒険者の必需品だが、修理したり、買い替えたりするのには、かなりの金がかかり、破損した状態で依頼に出る事もあった。だが、その金を出して貰う事で、万全な状態で依頼をこなす事が出来るようになり、依頼達成率も上がっている。それもこれも、全てレグリウス家からの恩恵だ。
「申し訳ありません!!直ちに原因を調査します!!」
いつの間にか俺は、アルノルド様の足元で土下座をしていた。暖炉に燃えていた火は、とっくに消え失せ、部屋全体が氷に覆われ、俺が吐く息も白くなっていた。
「それには及ばない…。原因の、ラクスのマスターは捕まえた…。お前には、再発防止をして貰う…いいな…」
「はい!分かりました!!」
「二度目は…ないぞ…」
そう言うと、アルノルド様は、開け放された扉から部屋を出ていった。俺は、氷付いた部屋で、その後ろ姿をただ見送っていた。
震える足で立ち上がれば、部屋はすっかり変わり果てていた。ドアは壁に張り付くように氷付いており、窓も開けられそうにない。机に目を向ければ、インクを入れていたガラス瓶が、凍って割れていた。何故か、それが自身に起こり得た未来のようで、恐怖がわいてくる。
しかし、ラクスのマスターは余計な事をしてくれた!!ただ1人の馬鹿のせいで、この国の冒険者達全てが損害を被った!
冒険者は、信用があるから依頼が来るのだ。街の住民から、信頼の厚いレグリウス家から依頼を無下にしたとならば、街の住民からの信用もなくなる。そうなれば、依頼がなくなり、仕事や生活が出来なくなる。そうなれば、自然と治安が悪くなり、その影響は、街全体に広がっていく。そうして、原因を作った冒険者ギルドに、街の住民から批判が殺到する事になる事は明白だ!何としてでも、信頼を回復しなければ!!
「マスター…見送らなくて良いのですか…?」
扉の向こうから、受付嬢の1人が控えめに言って来た。確かに、このまま見送りもせずに返すのは不味い。家族に謝罪して、少しでも許して貰わなければ…。しかし、アルノルド様に会う事には、正直、恐怖を感じるが、冒険者全体のためだと思い、身を奮い立たせて後を追った。
まず、ご子息の2人には謝罪させて貰った。だが、上の方は、前と変わる様子もなく、相変わらずだった。しかし、下の方の子は、俺の事を心配してくれる優しい子だった。
「どうかそのままでいてくれ…」
俺は、本当にそのままでいて欲しいと、切に願った。しかし、そんな願いとは裏腹に、その子の一言で恐怖の言葉を聞いた。
「もっと強くなろうかな?」
それは、今まで聞いて来た言葉の中で、一番恐ろしい言葉だった…。
昔は、少し名が通った冒険者だったが、やはり歳を重ねるにつれて、だんだんと全盛期のような動きは出来なくなり、引退を考え初めている時に、王都でギルドマスターをやってみないかという話が来た。
その当時、多くの場所で、不正が見つかったギルドマスターが、辞める事態になっていた。そのため、マスター不在の場所が多くあり、この王都も例外ではなかった。さすがに、王都のギルドマスターが不在なのは、些か不味いのは明らかだったのと、私も、ギルドには度々、世話になった事もあった事もあり、悩んだ末にその話を受けた。
しかし、冒険者を引退した今でも体を鍛え、腕が鈍らないようにしている。書類仕事に嫌気が指した時は、王都の外に、魔物を狩りに出かけたりもしていた。しかし、今は、執務室で、大量の書類の整理に追われていた。
その書類の殆どが、ある依頼から発生したものだった。だが、その依頼が出るたびに、ギルドも街も大きく賑わっていた。それも、依頼主であるレグリウス家のおかげだ。
彼等は、定期的に王都の外へと外出する事がある。その際には何時も、目的地周囲と、そこに行くまでの道に出る、魔物や盗賊の討伐依頼をギルドに出してくれている。
その依頼に、参加するだけでも金貨1枚、討伐した内容によって、さらに報酬が出るうえに、依頼中に武器が破損した場合も保証してくれる。
だから、冒険者達は、より多くの魔物や盗賊を躍起になって狩り、金を稼ごうとする。そして、魔物や盗賊がいなくなれば、商人は護衛を雇う事なく、そこの町まで移動する事が出来るため、物流も盛んになる。
武器屋は、冒険者達からの修理依頼も増えて潤い。冒険者達が稼いだ金は、飲食店などの店に落ちて、それぞれの街全体が賑わっていく。
つまり、レグリウス家が出掛けるだけで、大勢の者に大きな恩恵が得られるため、是非、私達の町に旅行に来て欲しいと、各地から特産品などが贈られて来たりもするらしい。だから、レグリウス家は、街の連中から、福の神のように扱われているような所がある。
まあ、今回は、人の往来が少ない時期のラクスな事もあって、前回よりも書類は少なくてすんだ。ようやく冒険者達に支払う金の精算が終わって、次の仕事に取り掛かろうとした時、扉の外から騒がしい声が聞こえて来た。
「お待ち下さい!私が先に…」
バーン
勢いよく開かれた扉の向こうには、アルノルド・レグリウスがそこにいた。
「私がお前に依頼した内容は何だ…」
「アルノルド様!!」
開口一番に告げられた言葉に混乱しながらも、椅子から立ち上がり出迎える。
「お越し下さりありがとうございます。それと、依頼…ですか…?」
「2度も言わせるな…。依頼はなんだ…?」
アルノルド様が、こちらに一歩踏み出す事に、部屋全体が冷えて温度が下がっていく。ただならぬ怒りの気配を感じた私は、慌ててアルノルド様の前まで向かい、依頼された内容を言った。
「魔物と盗賊の討伐依頼です!」
「なら…何故…盗賊がラクスにいる…?」
「へ?」
思いもよらない言葉に、思わず私の口から、間の抜けたような声が出た。不味いと思った時には既に遅く、部屋全体が凍り付いた。
「ヒッ!」
「…私は幾らお前に渡した?」
「前金で金貨1000枚!経費なども別途で貰っています!」
毎度、この依頼から発生する大金のおかげで、新人冒険者達も安定して金を稼ぐ事ができ、無茶な依頼を受ける事が減った。その事で、依頼の失敗率や、死者が減っている。
「それでは足りなかったか?それとも…私に喧嘩を売りたかったか…?」
「滅相もありません!!」
レグリウス家を敵に回したら終わりだ!!最近も、使用人が何人か追い出されて、悲惨な目にあっていた。
街の住民は、レグリウス家から多大なる恩恵を受けているため、レグリウス家に害をもたらす者に容赦しない。
店では、食べる物さえ買う事が出来ず、貸し家ならば家主から、家を追い出される。スラム街に行っても、孤児院を作ったり、働ける者には仕事を回したりもしているので、スラム街でも相手にされない。裏社会の人間さえも、報復を恐れて近付く事もないだろう。
レグリウス家を敵に回した者は、王都での居場所が完全に無くなる。街を出ようにも、冒険者達も護衛依頼を受けたりなどしない。魔物が出る森や平地を運よく抜けて、他の町に付けたとしても、商人達の情報も速く、恩恵を受けた事のある町なら、そこも直ぐにいられなくなるだろう…。
王都周囲で、恩恵を受けた事がない町など、皆無だろう…。だから、飢えに苦しみながら餓死するか、魔物に脅えながら森をさまよって、魔物に食い殺されるしか道がない。
「冒険者達が…この依頼以外で、破損した武器や、新品に買い替えた装備の金も、不正に請求している事を…私が気付いてないとでも…」
それには、俺も気付いていたが、冒険者達の事情も分かるため、黙認していた所がある…。
武器は冒険者の必需品だが、修理したり、買い替えたりするのには、かなりの金がかかり、破損した状態で依頼に出る事もあった。だが、その金を出して貰う事で、万全な状態で依頼をこなす事が出来るようになり、依頼達成率も上がっている。それもこれも、全てレグリウス家からの恩恵だ。
「申し訳ありません!!直ちに原因を調査します!!」
いつの間にか俺は、アルノルド様の足元で土下座をしていた。暖炉に燃えていた火は、とっくに消え失せ、部屋全体が氷に覆われ、俺が吐く息も白くなっていた。
「それには及ばない…。原因の、ラクスのマスターは捕まえた…。お前には、再発防止をして貰う…いいな…」
「はい!分かりました!!」
「二度目は…ないぞ…」
そう言うと、アルノルド様は、開け放された扉から部屋を出ていった。俺は、氷付いた部屋で、その後ろ姿をただ見送っていた。
震える足で立ち上がれば、部屋はすっかり変わり果てていた。ドアは壁に張り付くように氷付いており、窓も開けられそうにない。机に目を向ければ、インクを入れていたガラス瓶が、凍って割れていた。何故か、それが自身に起こり得た未来のようで、恐怖がわいてくる。
しかし、ラクスのマスターは余計な事をしてくれた!!ただ1人の馬鹿のせいで、この国の冒険者達全てが損害を被った!
冒険者は、信用があるから依頼が来るのだ。街の住民から、信頼の厚いレグリウス家から依頼を無下にしたとならば、街の住民からの信用もなくなる。そうなれば、依頼がなくなり、仕事や生活が出来なくなる。そうなれば、自然と治安が悪くなり、その影響は、街全体に広がっていく。そうして、原因を作った冒険者ギルドに、街の住民から批判が殺到する事になる事は明白だ!何としてでも、信頼を回復しなければ!!
「マスター…見送らなくて良いのですか…?」
扉の向こうから、受付嬢の1人が控えめに言って来た。確かに、このまま見送りもせずに返すのは不味い。家族に謝罪して、少しでも許して貰わなければ…。しかし、アルノルド様に会う事には、正直、恐怖を感じるが、冒険者全体のためだと思い、身を奮い立たせて後を追った。
まず、ご子息の2人には謝罪させて貰った。だが、上の方は、前と変わる様子もなく、相変わらずだった。しかし、下の方の子は、俺の事を心配してくれる優しい子だった。
「どうかそのままでいてくれ…」
俺は、本当にそのままでいて欲しいと、切に願った。しかし、そんな願いとは裏腹に、その子の一言で恐怖の言葉を聞いた。
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