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一章

冬の楽しみ

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「リュカ様!リュカ様!朝ですよ!起きて下さい!!」

「う~~ん……」

体をゆり起こされても、今日は何時もよりも寒くて、布団の中から出たくない。それでも、眠い目を擦りながら頑張って起きる。僕が、眠気と戦っている間に、リカがどんどんと朝の身支度を終わらせていき、ある程度の眠気が覚める頃には、ほとんどの身支度が終わっていた。

「リカ、おはよう」

「おはようございます。リュカ様、昨日の夜は、ちゃんと眠れましたか?昨夜は珍しく雪が降ったようで、その影響で朝から…」

「ほんとう!!」

僕は、リカの話を最後まで聞かずに、テラスへの扉を開けて外へと出る。扉を開けた時に、寒さを感じはしたが今は少しも気にならない。

「わぁ~!」

外は、1センチくらいの薄い雪が積もり、庭全体を白銀の世界へと変えていた。王都では、冬でも雪が降る事は滅多になく、雪が積もる事もない。

雪と聞いて、色々な遊びが頭を過ぎったけれど、積もった雪が少な過ぎて、そこまで遊べそうにない。まあ、今日もフェリコ先生との予定があるから、遊べないのだけど……。

「リュカ様、薄着で外にいたら風邪を引いてしまいますよ。それに、皆様もお待ちですよ」

リカに、言われて時計を見れば、何時も、部屋を出る時間を少し過ぎていた。急いで残りの支度を終わらせて食堂へ向かう。

「おはようございます!」

食堂のドアを開ければ、すでに3人共、それぞれの席に座って僕が来るのを待っていた。

「おはよう。今日は、少し遅かったね?夜、寒くて眠れなかったかな?」

「おはようリュカ。私も、朝起きたら雪が積もっていたから心配していたのよ?」

「……おはよう」

それぞれと朝の挨拶交わしながら、自分の席に座ると、さっそく朝食が運ばれてきた。

「夜はちゃんと眠れました。でも、降った雪が少なくて、遊べそうにないのが残念です…」

「……雪で…遊ぶ?」

父様が、不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。僕は、変な事言ったかな?と思い周りを見れば、兄様も僕の方を横目で見ていた。

「雪で遊んだり…しないの?」

「そうだね…。雪が降ると、馬車の車輪が滑って、事故などが起こりやすくなったりする事もあるから、雪が降る事を嫌がる人ばかりで、遊ぶ人はいないかな…」

「そうね。溶けてぬかるんだ水が跳ねて、服が汚れたりしやすいから、歓迎はされないわね…」

「でも、雪を楽しい物とするのはいい事だと思うよ。リュカは、雪で遊びたいの?」

「はい!遊べるなら、雪うさぎとかも作りたいです!!」

僕は、朝食を食べながら、雪の遊び方を両親に話した。両親が楽しそうに聞いてくれるのは、何時もの事だけど、今日は兄様も、僕の話を聴いてくれていたと思う。だって、食事を食べ終わると、すぐに部屋に戻ってしまう兄様が、食べ終わった後も、そのまま座っててくれたんだから!

少しでも兄様が、僕の話を聞いてくれていると思うと、嬉しくて夢中で話をしていた。しかし、途中でドミニクからストップがかかった。どうやら、話をしている間に、だいぶ時間がたっていたらしく、父様の出勤時間が迫っていたようだった。

ドミニクに急かされながら、食堂を出ていく父様は、もの凄く残念そうな顔をしていた。兄様も、学院の登校時間が近いのか、父様を追うように食堂を出て行ってしまった。

母様と二人だけになった食堂は、何だかさっきよりも広く感じた。

「リュカ。二人が帰って来たら、話の続きを聞かせてね。二人共喜ぶと思うわ」

少し寂しくて、しょんぼりしていたら、母様が声をかけてくれた。

「はい!僕も、今日の勉強頑張ってきます!!」

母様に、手を振りながら食堂を飛び出して部屋に向かっていたら、廊下を歩いていたドミニクに見つかり、廊下を走らないようにと朝から怒られた……。

夕食の時間になるのが楽しみで、授業の間もそればかり考えていたら、フェリコ先生から不思議そうに聞かれた。

「今日は、何だかご機嫌ですね?何か良い事でもあったんですか?」

「朝、雪が降ったんです!」

朝に少しだけ振り積もった雪は、日中の日差しや気温で、ほとんど溶けて消えてしまった。今では、日陰にある雪が消えずに、少しだけ残っているくらいだ。

「雪…ですか?」

フェリコ先生も、僕の話を聞いて、父様と同じように不思議そうな顔をしていた。

「はい!それで、朝食の時に話をしたら、父様と母様だけじゃなくて、兄様も僕の話を聴いててくれたんです!!」

「それは、雪の話?なのですか?」

「はい!雪の遊び方に付いて話したんです!!」

その後も、興奮していて、話がまとまらない僕の話を、質問を交えながら根気よく、最後までフェリコ先生は聞いてくれた。

「それなら、今から夕食の時間が楽しみですね」

「はい!!」

話を聞き終わった後、笑顔で言ってくれたフェリコ先生に、僕は元気よく返事を返した。その後も、文字の練習や絵を描いたりしたけど、ずっとそわそわしながら、一日授業を受けていた。

授業が終わった後は、待ち遠しくて、窓から父様や兄様が乗った馬車が見えないか、何度も部屋と窓の往復ばかりをしていた。夕方になって、兄様が帰って来たのが窓から見えたけれど、突撃して行ってもいいのか分からず、窓の前をウロウロしながら悩んでいると、父様が帰って来たのが見えたので、すぐさま玄関に走っていく。

「おかえりなさい!!」

「リュカ、ただいま。今日は何時もよりも元気だね」

「はい!それでね父様!」

突撃して行った僕を、父様はそのまま抱き上げてくれた。抱き上げられたまま、朝の続きを話そうする僕を、父様は優しく止める。

「リュカ。その話は、夕食の時にでも聞こうかな。私だけが、楽しい話を聞くわけにはいかないからね?」

「はい!!」

父様と一緒に、母様がいるリビングへと向かった。リビングにいる間も、夕食の時間が待ち遠しくて、時計の針とにらめっこをしていたら、父様が、夕食の時間を速めるようにドミニクに頼んでくれた。

「それでね!凍った氷の上を滑ったり、氷を割って歩くのも楽しいんですよ!」

夕食の時間に僕は、雪の遊び方の他にも、冬の遊び方なども一緒に話をした。ある程度、僕が話を終え、落ち着いたのを確認した後、父様が話し始めた。

「今年の新年祭からは、リュカも一緒に行けるから、留守番してなくて大丈夫だよ」

「留守番しなくていいの?」

「うん。学院に入学出来る歳になったら、パーティーとかに参加出来るようになるからね」

「やったー!」

何かある時は、何時も僕だけ留守番だったから、新年祭とかも嫌いだったけど、今度は一緒に行けるんだ!

そんなふうに、ウキウキしていた僕に、父様がさらに嬉しくなる事を言った。

「新年祭の後にはなるが、数日だけ休みがとれそうなんだ。だから、家族で出掛けないかな?」

「ほんとう!!」

「アル…大丈夫なの?」

僕の興奮とは違い、母様は何処か心配そうに父様に聞いていた。

「数日ならね。だけど、新年祭が終わるまでの間は、夕食の時間までに帰って来れない日が続きそうなんだ…」

父様の言葉を聞いて、さっきまでの興奮が、何処か落胆したような気持ちに変わる。父様と一緒に夕食を食べれないのは嫌だけど、大人になった僕は、我儘を言ったりなんてしない…。

「うん…。父様…お仕事頑張ってね…」

「ごめんね…。新年祭が終わった後は、一緒に遊ぼうね。オルフェは、どうかな?」

「…はい」

兄様もいいと言ったので、四人での旅行が決まった。さっそく何処に行くのかを聞けば、前の夏に行った、ラクスと言う近くの町だった。そこなら、朝に出れば夕方には向こうに付く距離なので、ここからそこまで遠くない。

「アル?ラクスは避暑地で、大きな湖があるだけだから、今の季節には合わないんじゃないかしら?」

「少し試してみたい事があってね。でも、上手くいくか分からないから、今の所は何も言えないな…」

「僕、一緒なら何処でも楽しいです!」

「そうだね。一緒なら何処でも楽しいね。なんとしてでも、仕事を終わらせてくるから、待っててね?」

「はい!!」

外に遊びに行くのが楽しみで、今から年明けが待ち遠しいな!
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