落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります！

一章

どうしよう……

そうか…僕は…召喚の儀に失敗したのか…。

教会で何が起こったのかをすべて思い出した僕は、どうすれば良いのかと途方に暮れながらも、何処か他人事のように感じていた。そんな頭で、僕は今の自分の状況を冷静に分析していた。

たぶんだけど、五歳の僕にはショックが大き過ぎて、精神が耐えられなかったんだと思う。もしかしたら、それに耐えられるように、無意識に前世の記憶を思い出したのかもしれない。

その証拠に、リュカとして過ごしてきた記憶を思い出すと、さっきまで鮮明に思い出す事が出来た前世の記憶が、霞がかかったように思い出せなくなった。日本という国で過ごしていた記憶は朧気にはあるものの、自分の名前や両親の顔などの人物に関する記憶は、はっきりと思い出す事が出来ない。まるで長い夢から覚めた後のようだった。だからだろうか、両親や故郷に対しても哀愁の思いなどを感じる事もなかった。

だだ、前世の記憶を思い出した影響なのか、前よりも精神年齢が少しだけ上がったような気がする。そのせいか、儀式の失敗に対するショックはだいぶ和らいではいるけれど、不安だけは残ったままだった。

「僕は…これからどうなるんだろう……」

フェリコ先生は、貴族の者で失敗した者はいないと言っていた。つまり、貴族の者で失敗したのは、僕一人だけだということだ…。

昔は兄様みたいな人に有名になってみたいと、少し憧れていた所は合ったけど、こんな理由で有名になりたかったわけじゃない……。

僕の両親は優しいから、たとえ召喚獣を持たない落ちこぼれであろうとも、この屋敷から追い出したりするような事はしないだろうけど、僕を嫌っている様子の兄様が、どんな反応をするのか分からない…。父様が当主をしている間は大丈夫だとしても、兄様が当主になった後も変わらず、この屋敷で過ごせる保証がない。

前までは、兄様が何で僕に冷たい態度をとるのか、その理由が分からなかった…。たが、今なら何となく理由が分かっるような気がする…。勉強もろくにせずに遊んでばかりで、両親さえも１人じめにしていたら、何も面白いわけがないよね……。

「はぁ……」　

無意識のうちに、僕の小さな口からは、ため息が溢れていた。

今までは、周りの事を考えずに自分の都合ばかり優先して周りを振り回してばかりいた。子供だったからと言えば、それまでかもしれないが、今の状況を考えると、今までのようにはもう過ごせないだろう。

そして、今後の事を考えるならば、この屋敷を追い出される可能性も考慮するべきだろう。前世の記憶を思い出した事で、下町で働いたりする事には何の抵抗感も感じないから、そこは問題はない。問題なのは……僕が物の価値などが、全く分からない事だ……。

はっきり言って、僕はこの世界のお金を今まで見た事がない…。

店に行った事があっても、店先でこれが欲しいと言えば、簡単に物が手に入っていたし、屋敷に商人達が物を売りに来ても、両親がお金を渡している所を見た事がなかった。きっと、付き人や使用人達が代わりに払っていたのだろうけど、それを見た事がなかったため、物を手に入れるためにはお金を払うという当たり前の事さえも、前の僕は分かっていなかった。

今更ながら、自分自身の知識のなさに頭を抱えたくなる。

興味がある事なら、ある程度は真面目にやっていたけれど、興味がわかない科目を前にすると、直ぐに外に遊びに出かけていた。父様がそれを許していたのか、勉強をさぼったとしても、フェリコ先生を含めた誰一人からも、一度だって叱られた事がなかった。

とうさま…少し甘すぎませんか……？

自分自身への甘すぎる対応に、そっと心の中で、此処にはいない父様へと語りかける。

父様、どうか、どうかその甘さを少しでいいので、兄様にも分けてあげて下さい……。

そんな事を心で念じながら、僕は少しの間、時間をやり過ごしていた。

「う～ん……」

現実逃避を終えて、今後どうするべきなのか考えてみても、５歳児である今の僕に出来る事なんて、ほとんど言って良いほど何もない……。とりあえずは、この世界の常識を知る必要があるだろうと思うけど、僕が非常識な事をしても、僕の事を叱らなそうな両親を思い出し、ため息が出そうになった。

それ以外に何か出来そうな事といえば、今の兄様との関係を修復するしたり、自分一人で生きて行ける力を付けるくらいだ。

もし、兄様との関係が修復出来たなら、兄様が当主になったとしても、此処を追い出されずに、そのまま置いて貰えるかもしれない。だけど、追い出される可能性もある以上、力を身につける事も大切だ。まずは、今の僕に出来る事を、一つずつやって行こう。

僕が鏡の前で、静かに今後の方針を固めていると、誰かが部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「リュカ、入るよ」

聞き慣れた人の声で扉の方を振り返れば、僕の父様達が部屋の扉を開けて入って来る所だった。