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 はーははっ!「最後に思い出が作りたい」という甘言に騙されて馬車に乗るからこうなるんだ。どこに連れて行こうとしているか? フフフ、俺の城に決まっているだろう。暴れても無駄だ。その手錠は王国一の錠前師に作らせた逸品だからな。



 さあ、着いたぞ。……フッ、驚いて声も出ないか。まあ、そうだろうな。このアルカナイト城はかつてこの国を建国した王が築城した由緒ある城でこの城にある物は全て国宝級の価値を持っていてこの城を代々受け継ぐ者は…………あっ、待て!手錠を嵌めたまま歩くな!



 どうだ?俺の城は凄いだろう?フフッ、そうか。ずっと住みたいほど気に入ったか。それは良かった。これから一生暮らすことになる場所を気に入ってくれて…………い、いや。何も言ってないぞ。



 やっと支度が終わったか。待ちくたびれ……た…………な、なんて格好をしているんだ!?「レオンハルト様こういう趣味だったんですね……」じゃない!俺はこんな事を指示してなんか……!お、おい!従女長を呼べ!!



 全く勘違い甚だしい!お前を愛人だと思ってあんな服を着せるなんて……! え? 俺好みの服だと言われた?……い、いや、全然好みじゃないが…………なんだその目は。



 フフフ、喜んで貰えて何よりだ。まあ、王国一の料理人が作った食事が不味い訳ないんだがな。……おい、そろそろ例の物を持って来い……ん?……ああ、父上から頂いた三十年ものの葡萄酒を持って来るように言っただけだ。そうか、楽しみか。フフッ……俺も楽しみだ。



 ようやく薬が効いてきたようだな。何をするつもりか? ハッ、決まっているだろう。お前をこれから……痛ッ!? な、何故、いきなり頭突きをした!?「結婚前にこういう事をしてはいけません」って、確かにその通りだが……こういう時は空気を読んで大人しく身を委ねるものだろう!? クッ、この強情者め!優しくしようと思ったが、もう手加減しな……痛ッ!?



 いいか。昨晩はお前がどうしても嫌だと言うから止めてやったんだからな。……おい、なんだその顔は。言いたい事があるならハッキリ言え。……「何で私をここに連れて来たんですか?」だと? ……そ、それは…………お前を……あ、あ……い……愛玩動物のように愛でたいと思ったからだ!! な、なんだその目は!言いたい事があるならハッキリ言え!



 何度言えば分かる?お前はもうここから出られないんだ。食事を運んで来た侍女の隙を付いて逃げたり、引き結んだシーツを窓から垂らして逃げたり、衣装箪笥に隠れて使用人達が騒いでる内に逃げたりしてもここからは出られない。……おい、いま何か背中に隠しただろう。



 ……分かった。月一回の帰省は認めよう。ただし、あの男と会う事は許さない。何故? 何故って……あの男がお前に好意を持っているからだ。冗談などではない。お前を見るあの男の目は間違いなく恋慕の……「出来る限りここにいますよ」? ……出来る限り、か。出来る限りではなくずっと側にいて欲しいんだが……ああ、聞こえなかったならいい。



 どうした?今日は随分と大人しいじゃないか。フフフ、そんな恨めしそうな目で見るな。折角の美しい顔が台無しだぞ? フ、フフッ……いや、笑ってしまってすまない。高価なドレスと高価な宝飾品で着飾れば流石に無茶な真似はしまいとは考えたが、まさか深窓の令嬢のように大人しくなるとは思っていなくてな。フフフ、そうしていると本当に貴族令嬢みたいだ。



 なぁ、いい加減止めないか?俺に十回も負けて悔しいのは分かるが、そろそろに執務の時間が……後一回?後一回相手をしてくれたら止める? まあ、後一回だけなら構わないが……お前は見かけによらず負けず嫌いなんだな。



 ええい!離せ!俺はこれから王位継承の譲渡について条件を詰めに王城へ行かなければいけないんだ!チェス盤片手に「レオンハルト様行かないで下さい」と言われても全然嬉しくないぞ!それに懇願するならもっとか弱い乙女のように……あっ、上着を取るんじゃない!



 それじゃあ行ってくる。明後日までには戻ってくるが……くれぐれも逃げ出したりしないように。まあ、尤もこの部屋の鍵は俺が持っているから逃げられないとは思うが、な。



 ……目を覚ましたか。ああ、喋らなくていい。それよりも早くここから逃げるぞ。 …………フン、どうするもこうするも俺はここでお前と焼け死ぬつもりは無い。じゃあどうするのか、って……勿論ここから飛び降りて逃げるに決まっているだろう。俺が死ぬ? ハッ、死ぬかどうかは俺が決める。お前は黙って俺の体に掴まっていろ。飛び降りるぞ。



 なんだ、驚いた顔をして。俺が生きている? ハァ……まだ寝惚けているのか。この地を平定した建国王アルカナイト・ヴィレッジの血を受け継ぐ者があの高さから飛び降りて死ぬわけないだろう。……「あの高さから飛び降りて大丈夫なのは兄上だけです」? ………そ、そうなのか。



 看病してくれるのは嬉しい。嬉しいが……何故、使用人の格好をしているんだ?新調したドレスを何点かお前に送った筈だが……「レオンハルト様から貰ったドレスを汚したくなくて使用人の服を借りました」……か。 全く、俺の妃になるんだからそんな事を気にしなくてもいいのに……痛ッ!?お、おい!もう少し丁寧に消毒しろ!



 ……まさか俺が林檎の皮を剥かれる立場になるとはな。利き手を怪我して良かった……い、いや、何も言ってないぞ。それよりも早く林檎を食べさせてくれないか。いや、フォークを使わずそのまま俺の口に……、…………ロベルタ。いつからそこにいた。



 なんだ突然不機嫌になって帰って行ったぞ。 ん? 不機嫌そうには見えなかった? ああ、まあ……ロベルタは昔から感情を隠すのが上手いからな。おい、待て。勘違いするなよ。ロベルタとは幼少の頃から婚約者として交流を持っていたから何を考えてるのか目を見れば分かるだけで……「つまりレオンハルト様はあの人の事が好きなんですね?」って……なんでそうなるんだ!?あんな人を見下してくるような女なんか好きなわけないだろう!ま、待て!人の話を聞け!



 中庭には薔薇を植えて、広間には彫刻を……む、丁度良いところに来たな。ほら、見てみろ。アルカナイト城の再建の設計図だ。どうだ?中々悪くないだろう?……フフフ、そうか。お前もそう思うか。それで、ついでに礼拝堂も作ろうかと思うんだが……え?俺が優しい? …………。……フン、故意で城を燃やした訳でもないのに血で償わせるのは夢見が悪いと思っただけだ。別に優しくなんかない。 それでも優しい? 俺が……優しい……か。



 ……見れば分かるだろう。溜まっていた書類を片付けているんだ。ああ、王位継承権を譲渡すると言ってもまだ俺が王太子だからな。怪我をしていても公務はこなさなければならない。まあ、無事に王位継承権が譲渡出来ればお前と……、……なんだ騒々しい。今、大事な話をして……は?父上が倒れた?



 王宮医師曰く、父上はもう政治を行える体ではないらしい。どうやら前から体調が悪かったみたいでな…………ああ、そうだ。恐らく、王太子教育を受けている俺が王位を継ぐ様に宰相から進言されるだろうな。…………。……ああ、すまない。少し……少しだけ一人にしてくれないか。



 おい、いつまで寝てるんだ。今日は帰省する日だろう? そうでしたっけ……って、もう一ヶ月前に交わした約束を忘れているのか。はあ……全く、仕方無いやつだな。ほら、待っていてやるから早く帰る準備をしろ。 ? どうした?早く荷物を纏めないか。



 おかしい?何がおかしいんだ?ただお前を故郷に帰らせようとしているだけだろう。……それがおかしい? ……一体何を言っているんだ。俺はただ約束を守ろうと……、…………いや、もうこれ以上嘘を吐いても仕方無いな。……あまり手荒な真似はしたくなかったが……仕方無い。おい、ギルバート。ジュリアを拘束しろ。



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