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メイドは超絶可愛かった
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部屋に入ってきたのは、美しい人間の姿の女性のメイドだった。陶器のような滑らかな肌と色素の薄いブロンドヘアは美しく、彼女を輝かせていた。左分けの前髪と、私から見て右に垂らした三つ編みは、彼女がキッチリとしたメイドである、という印象を私に与えた。
「そろそろ人魚様には御子息様と面会していただきます故、御召し物をお持ちして参りました」
そう言う彼女は、しかし、どこかがおかしい。声質は鉱物のような無機質で硬い響き。凛とした表情は無表情で隙が無く、動きもカクリカクリと奇妙で、なんだか気味が悪く感じた。私は「ありがとう」と苦笑いをして、彼女の持つ水色に光る綺麗な衣装に目を移し、あることに気が付いた。
「あなた、もしかしてお人形なの?」
視界に入った衣装を持つ彼女の手は、陶器のように滑らかで、しかし指の関節部分が糸で結ばれた、人形のそれだったのだ。
私は、人形が動いて話しているということに、気味の悪さよりもワクワクが勝った。それ故に心が踊って、先ほどエーリオに「喋るべきじゃなかった」とか「命の保証はない」とか言われたのにも拘らず、不用意にも言葉を発してしまった。後悔しても後の祭である。それよりも今は、思わずついて出た自分の言葉が、人形メイドに対してもしかしたら無神経だったのではと心配になっていた。何故なら私がその質問をすると、途端に彼女はその手をスッと隠してしまったからだ。恐る恐るメイドの顔を覗いてみたが、しかし、その表情は相変わらずのものだった。
「答えはイエスです。ご子息様に命を与えられました。」
彼女は淡々と私の言葉に返答するだけである。彼女に心があるのかどうか、私はよく分からなかった。それにしても、
――この人形のメイドに命を与えたのは、私がこれから会う予定のご子息様なのか……。優しい方だと良いのだけれど。
彼女の淡々とした口調に、私はなんだか少し不安な気持ちが過った。
私がこれから会う予定の「ご子息様」は、一体どんな人なのだろうか。というか、つまるところ「ご子息様」って「王子様」のことだよね? だって馬のお医者さんが「『陛下の』ご子息様」と言っていたのだから。王子様なら「きっとイケメンで優しい人に違いない」と私は願った。そして、
「ご子息様って優しい人なのかしら?」という言葉が私の口を突いて出た。
何気ないこの言葉を、私はまたもや不用意だったと間もなく思い知る。
何故なら、人形メイドの長い長いご子息様語りが始まってしまったからだ。でも彼女のその語りによって、ご子息様はこの城でどれだけ愛されているのか良く分かったし、淡々とした言葉の中にとても深い暖かみが感じられて、この人形メイドにも暖かな心があることを知れた。
「あなたの名前はなんて言うの?」
私はこの人形のメイドの名前が気になって、尋ねてみた。
「ミーシャです」
彼女はやはり、無表情に無機質な声で答えてくれたのだが、今度は彼女が少しだけ微笑んでいるように私には思えた。
そうこうする間に、ミーシャは化粧台の前の椅子を引いて、そこへ座るように私に促した。髪を梳く手つきは優しく、私はこの世界に来てやっと肩の力が抜けた気がする。
ふと窓の外を眺めると海が見えた。水平線の向こうの空が綺麗な朱色に染まっていた。
「そろそろ人魚様には御子息様と面会していただきます故、御召し物をお持ちして参りました」
そう言う彼女は、しかし、どこかがおかしい。声質は鉱物のような無機質で硬い響き。凛とした表情は無表情で隙が無く、動きもカクリカクリと奇妙で、なんだか気味が悪く感じた。私は「ありがとう」と苦笑いをして、彼女の持つ水色に光る綺麗な衣装に目を移し、あることに気が付いた。
「あなた、もしかしてお人形なの?」
視界に入った衣装を持つ彼女の手は、陶器のように滑らかで、しかし指の関節部分が糸で結ばれた、人形のそれだったのだ。
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「答えはイエスです。ご子息様に命を与えられました。」
彼女は淡々と私の言葉に返答するだけである。彼女に心があるのかどうか、私はよく分からなかった。それにしても、
――この人形のメイドに命を与えたのは、私がこれから会う予定のご子息様なのか……。優しい方だと良いのだけれど。
彼女の淡々とした口調に、私はなんだか少し不安な気持ちが過った。
私がこれから会う予定の「ご子息様」は、一体どんな人なのだろうか。というか、つまるところ「ご子息様」って「王子様」のことだよね? だって馬のお医者さんが「『陛下の』ご子息様」と言っていたのだから。王子様なら「きっとイケメンで優しい人に違いない」と私は願った。そして、
「ご子息様って優しい人なのかしら?」という言葉が私の口を突いて出た。
何気ないこの言葉を、私はまたもや不用意だったと間もなく思い知る。
何故なら、人形メイドの長い長いご子息様語りが始まってしまったからだ。でも彼女のその語りによって、ご子息様はこの城でどれだけ愛されているのか良く分かったし、淡々とした言葉の中にとても深い暖かみが感じられて、この人形メイドにも暖かな心があることを知れた。
「あなたの名前はなんて言うの?」
私はこの人形のメイドの名前が気になって、尋ねてみた。
「ミーシャです」
彼女はやはり、無表情に無機質な声で答えてくれたのだが、今度は彼女が少しだけ微笑んでいるように私には思えた。
そうこうする間に、ミーシャは化粧台の前の椅子を引いて、そこへ座るように私に促した。髪を梳く手つきは優しく、私はこの世界に来てやっと肩の力が抜けた気がする。
ふと窓の外を眺めると海が見えた。水平線の向こうの空が綺麗な朱色に染まっていた。
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