サラダ

貪欲ちゃん

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肉じゃが

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慎治の心打ちとは裏腹に土砂降りの雨だった。
地面を叩きつける騒音と屋根に雨粒が当たり奏でる不気味な音楽。
雨の寒さで結露した水滴が流れるのを何となく見つめていた。
いつもならソファの上で映画を見ているところだが今日は何故か部屋の端に慎治がいた。
部屋の隅(ホコリがいそうな場所)にひっそりとギターを弾いていた。
そんな今日を淡々と風が攫っていき。
気づいたら暗くなっていた。
いつもの様に整頓された愛しいキッチンに立つ。
外の寒さと中の温かさのギャップにまだ驚いている窓が永遠と音楽会を開いている。
それに合わせるように響いていた心地の良いギターの音もいつしか止み
食卓には温かな肉じゃがが並んでいた。
私はまだ熱いじゃがいもを箸にとり
口の中に放り込んだ。
「あっ......ぽ!!」
熱いとわかっていても口に入れたくなる
それが肉じゃがだと勝手に錯覚していた。
さっきの静けさとは打って変わって
慎治は明るく話し始めた。
私がいない時にあったことや
大学での話。
レポートが難しいから手伝ってくれとか
他愛のない本当に生活の一部でしかない
愛しい話。
それに笑顔で返答する。
口から口へと言葉を流していく。
とめどなく流れる会話はいつしか口付けに変わった。
慎治はこちらを向き笑うとレポートをし始めた。
慎治がレポートをしてる間に私は洗濯物を畳んだ。
慎治のポケットに硬い細長い何かがあった。
それは私の口紅だった。
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