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第一章 産声

第十七話 LAUGH MAKER

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大学1年生の箱根駅伝は惜しくも11位で幕を下ろした。『』この二字熟語がどれほど似合う結果だろう。
10位の東洋大学の胴上げを真横で泣きながら枯れた公孫樹いちょうの樹を見つめてる僕ら。何か必ず大きなことを成し遂げた、やり切ったのに、心が僕らそれを感じていない、感じられない…そんな僕らの箱根駅伝だった。粉雪舞う心に染みる箱根が、氷柱落ちゆる心に刺さる箱根だった。

悔し泣きの心でいた自分が寂し泣きの心になったのは、うぐいすが鳴かない少し変わった3月の半ば。
後期試験を3日前に控え、7時から14時まで自習をして完全に疲れ切った15時。
飛び出すように今から走りたい。そう思えた、箱根以来。でも走れない。
ー陸上部4年生引退式ー
があるからだ。といってもただ居酒屋でやる飲み会みたいにカジュアルな事かもしれないが。
予定があっても今日以外の全ての日の自分ならちょっとばかりでも走っていただろう。でも今日は無理なんだ。
4年生が引退するという悲しみが単なランニングではそうそう凌げないからというのが理由。青い頃の自分をここまで成長させてくれた4年生には絶大なる恩があるから。

18時に15分前、池袋駅前の居酒屋に着く。何人かの陸上部生が辺りにいつかの輪っかのようになっている。その輪っかの一つに駅伝部門の人が見えた。
その輪に入る。
快く輪に入れてもらえる。
ここの駅伝部門の一員であると認められた感じがして虹彩が潤んだ。
浜田「よ!横浜。」
「よっ。」
浜田「4年引退なんて考えられないな。」
「うん。立教の駅伝どうなるんやろーね。」
この先の不安が募った会話だったが、その中には4年生を引退させたくないという寂しさも込めていた。

『乾杯!!!』
この言葉で引退式は始まった。2、3、4年生はお酒をごくごく幸せそうに飲んでいる。1年もアルコールの代わりに炭酸をたっぷりと入れた強炭酸のコーラやサイダーをごくごく飲む。この10秒足らずの中にも、寂しさはいた。

注文した食べ物が卓に置かれる。軟骨の唐揚げ頬張りながら話す。
浜田「先輩って卒業したら、どこに行くんですか。」
西先輩「俺は就職するかな。内定決まってるし。駅伝もやりたいけどね。」
「そうなんですね。星野先輩はどうするんですか。」
星野先輩「俺か…そうだな、まだまだ駅伝やりきれてないと思うから、社会人も駅伝するかな。Subaruの実業団チームに入ることが決まったしね。」
「実業団…」
そっか、別に大学以外でも駅伝はできる。星野先輩は実業団。自分は、何になろ…
あと3年のことだし、まあいっかと放っておいた。
家や商業施設がランプで照らされて夜の池袋があらわになった。人が余計多くなるのを居酒屋の窓から哀愁漂いながら眺める。
『もうそろ俺ら2次会行くからもうここで終わりかな。』
この星野先輩の言葉には寂しさと誇らしさので会うことのないふたつの気持ちがいた。

「先輩、今までありがとうございました。」
感嘆符のつかない涙声。一歩歩いたらそこには水たまりが目に。


3月下旬。無事、単位を満たし1年生を修了する最後の授業が終わった。
あとで駅伝のみんなと遊びから、走って帰る。
桜の花吹雪なんて綺麗なものは目に見えなかった。4年生卒業のための涙で埋まってたから。
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