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第一章 産声

第四話 初夏のせい、初夏のおかげ

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6月15日、午前5時半
wake me up wake me up…
まだ音楽が流れている、一体何周した?脳は目を覚ましているけど、目がまだ追いついていない。
!!!!!
5時…半、5時半?!!!
やばいやばい、急いで支度しないと、死ぬ、都会で死ぬ…
朝ご飯なんて朝飯前のように抜きで歯磨きをせずに着替えだけして用意してあるリュック背負って池袋駅へ。
池袋駅の目の前に池袋駅の人の憎悪を足しても到底敵わなそうな人がいた。
浜田…
「遅い!!!!」
なんか可愛い声してるな、なんて考えられる暇もなく、有楽町線へジェット機のような速さで乗る。
「ごめんごめん。寝坊したわ。」
浜田「ごめんですまねぇよ、監督にキレられるぞ、マジで。」
「え、マジで!野間監督怖いもんなぁ、死んだわ。」
浜田「俺が一番死んでるよぉ」
と、言いつつ有楽町線の人混みに耐えながら新木場目指して移動している。
なんだろう、好きだな、都会。田舎も良かったけど、都会の雰囲気好きだな。ジメジメしている梅雨が高層ビルやでかいデパートなんかの華やかさでかき消されている。
僕、思うんだ、六月は初夏なのにジメジメしていて雨ばっかり降っているから、梅雨なんかいうあだ名つけられたのは。遅刻なんて一切考えなくなりながら江東区を駆け抜けていく…
「新木場、新木場です。御出口は左側です。」
着いた、改札に。
浜田「急ぐぞ!」
「あ、PASMOチャージ不足」
浜田「はぁ!?ふざけんなよマジで!40秒で支度しな。」
「ラジャーw」
のほほんと抜かしながらりんかい線へ乗り込む
6時20分、予定到着時刻まで後10分、速攻で走ったら着けるっ。
浜田「行くってこいよ、専修大学ボコボコにしたれや!?」
信号が赤になる寸前で走り込みながら、中川マラソン予行が始まった。それは本番かのような勢いで始まった。
荷物が重い。その5秒後、ふくらはぎあたりに亀裂が走る。
右足ふくらはぎが攣ってしまった。これは人生詰んだなって。
6時28分37秒62。開始地点へ着いた。浜田はこれから予定の第3区高砂小橋までバスで行くらしい。
野間監督「横浜、遅い」
「すみません。寝坊してまして。」
野間監督「寝坊か、先生もな、少し寝坊してきたんだ。」
監督の優しい一面が垣間見えた。
8時から始まる中川駅伝。専修大学と闘う中川駅伝。
僕の走る第一区は、葛西臨海公園から松島二丁目児童遊園までの約4.4km。一方相手の専修大学は一年エースの桃谷。
まず僕は工藤から教えてもらった相手を精神的に負かす術を実行した。相手を睨みつけたり、猛者のように体操をした。

7時59分、腕時計は秒針長針短針がならないのに激しく聴こえる、心臓の音だろうか。
開始!そう聞こえて始まった。
臨海公園からの東京湾の景色がより僕の足を加速させる。梅雨、初夏の湿度がより僕の居心地を良くさせる。
始めは桃谷が調子こいて出しているのでそれの約3メートル後ろをピタッとつけて走る。
1キロ通過3分48秒。中々の出来、だが、足が痛い。桃谷までその差6秒も離れてしまった。昨日走らなければ良かった。でも、それにしても、桃谷は序盤を飛ばしすぎたはず。このまま桃谷のペースに流されないように、桃谷の挑発に乗らないように、自分のペースで走る。これを第一にと教えられたので。
2キロ通過8分5秒、ここからギアをあげると見せかける。上げるのではなく、上げるように見せかけるのだ。
まず、最初200メートルはいつもよりペースを思いっきり上げ、相手の心情を揺さぶる。そして残り800メートルで一気に低速に、残り1400メートルで再度パワーを上げる。これで抜かして2区美濃へ。という作戦だ。
よし、まず最初の100メートルが通過。20秒を切る勢い。このまま200メートルを走り切り、急かされている桃谷の背後にピッタリ。そして残り800メートルで低速し、自分は体力を温存。相手は一気に上げにかかる。
よし、上手くかかった。
3キロ通過12分33秒。桃谷とは5秒差。体力は思いっきり削った。自分はというと、まだまだ残っている。江戸川区中央のほんのり香る浜風の匂い。1400メートル、ここからギアを、足が痛い。でも己の頭が覚醒しているので足など一切無視してギアを上げる。
500メートル通過14分37秒。箱根駅伝の通過タイムが5キロ17分以下なので、それまでには通過して見せようではないか。
桃谷との距離が縮まる…みるみる縮まる。
4キロ通過16分40秒。後400メートル、400メートルだけ。そして今、桃谷と並んだ。最初で最後。
抜かせる。体が桃谷の一歩前へ踏み出す。桃谷もギアをフルスロットで上げてきた。それでも身を粉にして走りまくる。
後100メートルもう本気で走る。4300メートルなんて走ったことを忘れたように。
美濃の声が聞こえる。
美濃「横浜ー一位おめでとーーー!」
一位、後ろを見て気がついた。いつのまにか桃谷との差がかなり開いていた。
立教の江戸紫の襷が今、受け継がれる。

                  ーーー横浜快斗、魂の勝利だ。ーーー
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