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何に対して言われているのか分からなくて、遼は首を傾げる。だが自分が本を落とした大きな音で彼を起こしてしまったことを思い出す。
「大丈夫だ。ちょっと手が滑って教科書落としただけだし」
そう言うと、遼は落とした本を拾うためにその場にしゃがみこんだ。
「いや......そうじゃなくて............自分じゃ気づいてないんだな」
そんな遼に対して、彼が言いにくそうに口ごもる。最後の方は独り言のように呟いたので遼には聞こえなかった。
「それにしても何でこんなところにいたの?」
「............」
彼と遼がいる場所は中庭の真ん中で、ベンチが置いてある端の方ならともかく普段はあまり人がいない場所だった。
考えごとをしていて気付いたらこんな場所に来ていた。その上彼の姿があまりに綺麗で見惚れていたなんて言えなくて遼は口ごもる。
「別に......それを言えばそっちこそ何でこんなとこにいるんだよ」
本当のことを素直に言えなくて、言われた言葉をそのまま彼に突き返す。
(しまった、ちょっと言い方きつかったか......)
彼は何も悪くないのに、ましてや初対面の相手に対して、つい強い言葉を返してしまって遼は内心慌てる。昔から思ったことをすぐ口に出し、その上物言いがはっきりして遠慮のない遼は、昔から勘違いされやすかった。特に悪気があるわけじゃないのだが、遼の言い方がきつく聞こえると言われることがよくあった。
遼の言葉に黙った彼を見て、ハァとため息を吐きそうになるが。
彼はそんな遼に対して、ふっと瞳を和らげた。
「ほんとだね。俺こそこんなとこで何してるんだって感じだよね。しかも寝てるし」
そう言うと彼はふふふと柔らかに笑った。
遼の言い方なんて少しも気にしていないという彼の様子に、吐きそうになったため息を飲み込む。
「てか、なんでこんなとこで寝てんだよ」
「空が綺麗で......一時間ぐらい見つめてたら知らないうちに寝ちゃった」
ぶっきらぼうに聞く遼に、彼は相変わらず穏やかな口調でそう答えた。
「一時間...⁉」
「うん」
驚く遼に彼が普通に頷く。そのあまりにも当たり前だというような彼の答え方に遼は思わずプッと吹き出した。
「ふふっはははっ......なんだよ空見てたら寝てたって、しかも一時間も!」
遼は口を押えてくくっと笑うと空を見上げた。
「確かに今日は空が綺麗だもんな」
そういえば遼もさっき空があまりにも綺麗で癒されたことを思い出す。
「これだけ綺麗だったら、時間を忘れちゃうかもな......」
見上げた空はやはり綺麗で、そう言うと遼は彼を見て笑顔になった。
「......」
遼の笑顔を見て彼が眩しそうに目を細めた。そして嬉しそうに顔を綻ばせると、遼に向かって微笑み返した。
「......優しいね」
とてもとても優しい声だった。
「っ......!」
その言葉に、遼の鼓動がトクンと跳ねる。
そのままトクトクと鼓動が音を刻んで、体がポカポカと温かくなってくる。
高鳴る胸が、なぜか分からなくて遼は戸惑った。
その時チュンチュンと鳴き声を上げながら先程彼にとまっていた小鳥が帰ってきた。小鳥は彼の近くに降りるとチュンチュンと彼に向かって声を上げる。かまって欲しいというような仕草に彼が小鳥に向かって手を伸ばした。その手に小鳥がとまる。
「よしよし」
そう言うと彼が小鳥の体を撫でた。それを遼はジッと見つめる。
撫でている彼の手から視線が離せない。小鳥はとても心地よさそうに彼の手にその身を預けていた。
(いいな......)
急に遼の心の奥底から気持ちが湧き上がる。
撫でられている鳥が羨ましいと思う、そしてその手は自分の物だとも。
(俺も撫でて欲しい......)
そう思って遼はハッとした。
(今......俺......何を考えた......)
「大丈夫だ。ちょっと手が滑って教科書落としただけだし」
そう言うと、遼は落とした本を拾うためにその場にしゃがみこんだ。
「いや......そうじゃなくて............自分じゃ気づいてないんだな」
そんな遼に対して、彼が言いにくそうに口ごもる。最後の方は独り言のように呟いたので遼には聞こえなかった。
「それにしても何でこんなところにいたの?」
「............」
彼と遼がいる場所は中庭の真ん中で、ベンチが置いてある端の方ならともかく普段はあまり人がいない場所だった。
考えごとをしていて気付いたらこんな場所に来ていた。その上彼の姿があまりに綺麗で見惚れていたなんて言えなくて遼は口ごもる。
「別に......それを言えばそっちこそ何でこんなとこにいるんだよ」
本当のことを素直に言えなくて、言われた言葉をそのまま彼に突き返す。
(しまった、ちょっと言い方きつかったか......)
彼は何も悪くないのに、ましてや初対面の相手に対して、つい強い言葉を返してしまって遼は内心慌てる。昔から思ったことをすぐ口に出し、その上物言いがはっきりして遠慮のない遼は、昔から勘違いされやすかった。特に悪気があるわけじゃないのだが、遼の言い方がきつく聞こえると言われることがよくあった。
遼の言葉に黙った彼を見て、ハァとため息を吐きそうになるが。
彼はそんな遼に対して、ふっと瞳を和らげた。
「ほんとだね。俺こそこんなとこで何してるんだって感じだよね。しかも寝てるし」
そう言うと彼はふふふと柔らかに笑った。
遼の言い方なんて少しも気にしていないという彼の様子に、吐きそうになったため息を飲み込む。
「てか、なんでこんなとこで寝てんだよ」
「空が綺麗で......一時間ぐらい見つめてたら知らないうちに寝ちゃった」
ぶっきらぼうに聞く遼に、彼は相変わらず穏やかな口調でそう答えた。
「一時間...⁉」
「うん」
驚く遼に彼が普通に頷く。そのあまりにも当たり前だというような彼の答え方に遼は思わずプッと吹き出した。
「ふふっはははっ......なんだよ空見てたら寝てたって、しかも一時間も!」
遼は口を押えてくくっと笑うと空を見上げた。
「確かに今日は空が綺麗だもんな」
そういえば遼もさっき空があまりにも綺麗で癒されたことを思い出す。
「これだけ綺麗だったら、時間を忘れちゃうかもな......」
見上げた空はやはり綺麗で、そう言うと遼は彼を見て笑顔になった。
「......」
遼の笑顔を見て彼が眩しそうに目を細めた。そして嬉しそうに顔を綻ばせると、遼に向かって微笑み返した。
「......優しいね」
とてもとても優しい声だった。
「っ......!」
その言葉に、遼の鼓動がトクンと跳ねる。
そのままトクトクと鼓動が音を刻んで、体がポカポカと温かくなってくる。
高鳴る胸が、なぜか分からなくて遼は戸惑った。
その時チュンチュンと鳴き声を上げながら先程彼にとまっていた小鳥が帰ってきた。小鳥は彼の近くに降りるとチュンチュンと彼に向かって声を上げる。かまって欲しいというような仕草に彼が小鳥に向かって手を伸ばした。その手に小鳥がとまる。
「よしよし」
そう言うと彼が小鳥の体を撫でた。それを遼はジッと見つめる。
撫でている彼の手から視線が離せない。小鳥はとても心地よさそうに彼の手にその身を預けていた。
(いいな......)
急に遼の心の奥底から気持ちが湧き上がる。
撫でられている鳥が羨ましいと思う、そしてその手は自分の物だとも。
(俺も撫でて欲しい......)
そう思って遼はハッとした。
(今......俺......何を考えた......)
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