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三話 残酷※
しおりを挟むイエリンに用意されたのは王と王妃の私室が並ぶ宮殿から美しい回廊で繋がった建物。花々が咲く温室が併設された花の館だった。
身を隅々まで清められたイエリンは胸元が大きく開き体の線を拾う夜着を纏うと大きなベッドの淵に腰掛け王の到着を待っていた。
皮肉にも王太子妃候補として受けてきた教育が役に立つ。これから、どんなことが王の手によってなされるのかも教えられていた。十代の年若い令嬢でもない。震えることもなければ怯えることもない。国王陛下のすることを全て受け入れる。ただそれだけだ。
扉の開く音で立ち上がり礼をとった。
王も寛いだ夜着姿だ。久し振りに間近で見る国王の姿には流石に緊張が走る。
王太子妃候補として幼い頃から面識があったトビアス国王は真面目で実直な方だ。
くすんだ金色の髪に薄いブルーグレーの瞳。まだ二十七歳にも拘わらず彼は年齢よりずっと落ち着いて見えた。幼少期からは想像もつかないくらい身長も伸び、筋肉に覆われた逞しい体は通常の男性よりも一回りは大きい。
「ああ、畏まらなくていい」
王と並んでベッドに腰を掛ける。
「さっそくだが、君にお願いがある」
初夜でいきなりお願いされることに戸惑うも、全て受け入れ従うのが閨事の正しき姿と教えられたイエリンは国王に向き直る。
「なんなりと」
「大したことじゃない。これからは俺のことを名前で読んでくれ」
「畏まりました。トビアス様……」
「トビーだ」
「と、トビーで、ございますか?」
戸惑いはしたものの、とてつもないお願いでなくて良かったと胸を撫で下ろした。
「ああ。君のことも愛称で呼ぼう。イエリンだから……リンではどうかな?」
リンと呼ばれてピクリと微かに肩が揺れた。
「え、ええ……リン……嬉しいですわ」
曖昧に微笑む。
「それともう一つ。これは、お願いではなくて提案なんだが」
「なんでしょう?」
「君との閨事はもう少し先延ばししようと思う」
イエリンは絶句し王のブルーグレーの瞳を凝視した。
「リン……」
ハッと我に返り、驚きのあまり忘れた呼吸を取り戻す。
「な、何故でございますか? 何か私に至らぬ点がございましたでしょうか……」
「いいや、そうではない。側妃と言えども夫婦になるのだから、もう少し時間をかけて互いを知ってからでも良いと思って」
イエリンの手は怒りで震えた。何を言っているのだ、このボンクラ王。心の中で王を罵倒しながらも微笑みを絶やさない。
王妃との間に子が出来ないことが側妃を娶る理由なら、もっと若い令嬢でも良かった筈だ。実際に年若い令嬢を薦める向きも強かったと聞く。それでも王が側妃選びについては一歩も引かなかったという。
周囲の意見も受け入れず、私を側妃に望んだ理由はこの容姿に他ならない。
人々から向けられる視線は、王のお好みは一貫していらっしゃるなんて微笑ましいものではない。明らかな好奇の視線だ。王妃と酷似した容姿で行き遅れの自分が側妃となることで向けられた周囲の視線がどれだけ痛かったか。
私は正真正銘、王妃の代用品だ。
それほど王は王妃を愛しているのだ。
断ることも出来ず。恥を忍んで側妃となった。
子が出来なければ自分の立場が危ういことくらい理解して、ここにいるというのに。王妃に遠慮して私との関係を先延ばしにしたいのか。それとも、いくら似た容姿でも王妃以外は抱きたくないというのだろうか。
「トビー、では少し……お酒でも召し上がりながらお話などいたしましょうか? お互いを知るのにも良いかと」
王太子妃に選ばれず、四十九回も見合いに失敗し、行き遅れと言われ途方に暮れた自分を慰めてくれたのは酒だ。こんな荒んだ令嬢を側妃に迎えたのだから覚悟を決めて欲しい。優し気に微笑んでいる瞳の奥には激しい炎が宿る。
侍女を呼び、酒を用意させると二人は並んでソファに座った。グラスの中のブランデーを口に含むと華やかな香りが鼻を抜ける。
飲んでいる素振りをし、トビーに自分の倍の量を飲ませ一時間が経過した。トビーの顔色は変わらないものの、とろんとした目はこちらを見て満足気に細められた。
「リンは本当に聡明で気品がある。そして可愛らしい……」
「まぁ、そんなに褒めていただけるなんて嬉しいですわ。でも、なんだか気恥ずかしい」
聡明?気品?当たり前だ。全て王太子妃候補としての教育の賜物だ。
「そんなにお褒めくださるなら、少しくらいご褒美が頂きたいですわ」
「褒美?」
「ええ……」
イエリンはそっとトビーに顔を寄せ唇を重ねた。勿論これはイエリンのファーストキスだ。ファーストキスはとびきりロマンチックに……なんて十代の小娘のような幻想など持ってはいない。
実践はしなかったものの、男を喜ばせる術も教えられているのだ。
少し顔を離しトビーの様子を窺うと、ポカンとしたまま動かないが……みるみる頬が染まっていく。
『いける』確信したイエリンはトビーの頬に手を添え、さっきより唇の弾力を感じさせるようにゆっくりと口づけトビーの唇を優しく食んだ。
「もっと、ご褒美をいただいても?」
「だ、だが……もう少し互いを知ってからだな……」
トビーは頬を染め、さっきと同じ言葉を続けるものの歯切れが悪く言葉尻も弱い。
「これも、互いを知る方法の一つかと」
こつんと額と額をくっつけると甘えた声色で囁いてみる。
トビーの厚い胸板に手を置くと服の上から胸の中央の可愛らしい突起にさり気なく指で触れた。
「私に教えて下さらないのですか? トビーをもっと知りたいのに。あなたとするキスがどんなに素敵なのか……私に教えてください。ね、トビー?」
トビーの喉仏が上下したのがわかった。
初めてがソファと言うのは如何なものかと思ったが、今はそうも言っていられない。この雰囲気のまま、一気に奪わなくては。
トビーをソファに押し倒すとシャツのボタンを外した。半裸になったトビーを見下ろしながらイエリンは見せつけるようにゆっくりと胸元のリボンを解く。胸元の布はハラリと落ち、膨らみの先端に引っ掛かると辛うじて夜着を纏った状態になった。そのまま脱いでも良かったのだが、焦らすことで興奮を高めると学んでいたイエリンは早速実践する。
小首を傾げ笑みを深めた。
トビーの上に乗った状態で夜着の裾を持ち、下から手繰り上げ胸の前で腕をクロスすると、そのまま上に引き上げた。腰からウエストにかけて露になる瞬間にワザと腰をくねらせ曲線を見せつけた。
夜着を脱ぎ捨てると白い肌にトビーの熱い視線が纏わりつく。とろんとしていた瞳は、既に男の熱を孕み覚醒したかのようにギラリと光る。
上体を倒し彼に覆い被さると、二つの膨らみを厚い胸板に押しつけた。柔らかな膨らみは卑猥に形を変える。キスを寸でのところで止めたままトビーの欲を滲ませた瞳を見つめる。
「悪い子だ……」
グッと眉間に皺を寄せたトビーの声は掠れていた。ゴツゴツした両手で頭を掴まれ噛みつくように唇を奪われた。
早急に舌が差し入れられ、口内を弄られるとイエリンの小さな舌は激しく吸い上げられた。互いの唾液を交換する濃密なキスを繰り返す。やっと唇が離れた頃には唇はすっかりふやけていた。
キスの間中、太腿に硬いものが当たっていることに気づいていた。それが何かも理解している。苦しそうに押し込められているモノを開放してあげたくて、ズボンに手をかけ下履きごと一気に降ろした。
ぶるんっと勢いよく跳ね出た陰茎はイエリンの太腿を打ち、陰茎の先を濡らしていた透明な液体がイエリンの太腿に飛び散った。
初めてみる男根に衝撃を受け目を見開く。肌とは異なる赤黒い色だけでも驚きなのに表面はボコボコとした血管が浮き立つ。しかも、つるりとした先端のすぐ下の出っ張りは傘のようだ。これが通常は小さくなり下履きの中に収まっていると言うのだから不思議でならない。
「そんな見つめられると流石に恥ずかしいな」
トビアスはイエリンの腰を掴み持ち上げると簡単にソファに寝かせた。形勢が逆転しイエリンは自分の上にのしかかるトビーを見上げる。
「素敵なキス以外にも、教えることは沢山あるんだが?」
トビーはフッと小さく笑った。
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