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ホテルデュボア
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この業界に入って五年目、私は駆け出しのフラワーコーディネーターとして働いている。
今日はホテルデュボアで仕事の日だ。
ホテルデュボアは老舗の高級ホテルで世界のホテルランキングでも常に上位に入る誰もが憧れるホテル。なんと、そんな凄いホテルに数年前からロビーと廊下を飾る花のコーディネートを依頼されている。
こういった格式の高いホテルから依頼を頂けるのは師匠の仕事が高く評価されている証拠だ。師匠はフラワーコーディネートの世界ではカリスマ的な存在で、私も彼女に憧れ今の職業を目指したのだから。
しかし、師匠は三人目を妊娠中でもうすぐ産休に入る。ギリギリまで仕事をこなすと言っていたが、私としては産休も育休もしっかり取って欲しいと思っていた。
私がもう少し頼りになるようでないと師匠も安心して休めないだろう…頑張らねば。気合を入れてホテルデュボア用の花と花器の確認に取り掛かる。
ホテルでの作業はお客様の迷惑にならないよう深夜に行なわれる。
色とりどりの花を車に積み、交通量の少ない深夜の道をアシスタントと共にホテルに向かった。
師匠は支配人との打ち合わせのため先に到着していた。
「リディ、私が産休中はデュボアのコーディネートはあなたに任せるからそのつもりでね」
「はっ?…え?!……う、嘘ですよね。冗談はやめてください」
師匠に直に仕事を教わってきたとはいえ、この世界に入って五年目の私には大き過ぎる仕事だ。流石にそれはないだろう…。
はははっと豪快に笑う師匠
「萎縮してるの?リディのお花の良いところは上品ながらも、どこかのびのびとしているところよ!委縮したらその良さが消えちゃうわ!」
「む、無理ですよ…」
慌てて師匠の腕を掴み縋る。
「あなたの仕事ぶりをホテル関係者の方も褒めてくださっているのよ」
なだめるようにポンポンと肩を叩く。
「大丈夫、私もサポートするから。何事も経験よ?」
もう決定事項だと伝えられ、嫌とは言えない状況が出来上がっていた。
「は、はい…よろしくお願いします…頑張ります…」
私は動揺を隠しきれないまま仕事に取り掛かった。
今日のコーディネートに使われるメインの花は芍薬と白薔薇だった。ホテル側から指定された花だ。毎年この時期になると芍薬と白薔薇を指定される。
この季節の花なので適した花ではあるのだが…………この花を扱う時、必ず五年前の初夏を思い出す。
もう会うこともない相手を………。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
五年前のあの夜…深い眠りに落ちた私は、翌朝まだ薄暗い時間に目覚めた。私の横でフェリクスは穏やかな寝息をたてながらあどけない顔で眠っている。
見れば見るほど美少年…いや、童顔美青年。
ずっと見ていられるなぁ。
ほうっと溜息が漏れる。
昨日の夜のことを思い出すと、じんわり体の熱が上がる。こんな美少年たる顔を快楽に歪ませた。女の子みたいに喘ぐフェリクスの声が耳に残る。
「くぅ……」
両手で顔を覆い突っ伏した。
突っ伏したまま、ふと考える。この後、私達どうなるんだろう?
フェリクスが目覚めたら……酒の勢いでいたしてしまったのは事実だ。酒で記憶がないとか…こんな地味女とするなんて酒の力があったからだとか……要は間違いだったってことになりかねないのでは…。
彼が目覚めるのが急に怖くなった。最悪の結末をこの童顔美青年の口から聞かされるなんて堪えられない。
私は身支度を整えるとオーナーにバスの運行について確認した。
土砂崩れの道路は未だ通行は出来ないらしい。急遽、観光客の為に臨時のバスが運行されるのだが、来た時とは違うルートで、来た時の駅とは違う駅へ降ろされるという。スマホで調べると何駅か先で乗り換えれば家まで辿り着きそうだった。
最初のバスが七時に出ると聞き、そのバスに乗ることを決めた。
第二便は九時の予定だと聞いたので、八時にはフェリクスを起こしてもらえるようにお願いすると部屋に戻った。
フェリクスはまだ寝息を立てていた。
挨拶もせずにいなくなるのは心苦しかったが、目が覚めた彼と向き合う方がもっと怖かった。メモ用紙に急用を思い出したので朝一番のバスで帰ると書き残した。
フェリクスのあどけない寝顔をもう一度見てベッドを離れると、私はそっと部屋の扉を閉め逃げるように去った。
今日はホテルデュボアで仕事の日だ。
ホテルデュボアは老舗の高級ホテルで世界のホテルランキングでも常に上位に入る誰もが憧れるホテル。なんと、そんな凄いホテルに数年前からロビーと廊下を飾る花のコーディネートを依頼されている。
こういった格式の高いホテルから依頼を頂けるのは師匠の仕事が高く評価されている証拠だ。師匠はフラワーコーディネートの世界ではカリスマ的な存在で、私も彼女に憧れ今の職業を目指したのだから。
しかし、師匠は三人目を妊娠中でもうすぐ産休に入る。ギリギリまで仕事をこなすと言っていたが、私としては産休も育休もしっかり取って欲しいと思っていた。
私がもう少し頼りになるようでないと師匠も安心して休めないだろう…頑張らねば。気合を入れてホテルデュボア用の花と花器の確認に取り掛かる。
ホテルでの作業はお客様の迷惑にならないよう深夜に行なわれる。
色とりどりの花を車に積み、交通量の少ない深夜の道をアシスタントと共にホテルに向かった。
師匠は支配人との打ち合わせのため先に到着していた。
「リディ、私が産休中はデュボアのコーディネートはあなたに任せるからそのつもりでね」
「はっ?…え?!……う、嘘ですよね。冗談はやめてください」
師匠に直に仕事を教わってきたとはいえ、この世界に入って五年目の私には大き過ぎる仕事だ。流石にそれはないだろう…。
はははっと豪快に笑う師匠
「萎縮してるの?リディのお花の良いところは上品ながらも、どこかのびのびとしているところよ!委縮したらその良さが消えちゃうわ!」
「む、無理ですよ…」
慌てて師匠の腕を掴み縋る。
「あなたの仕事ぶりをホテル関係者の方も褒めてくださっているのよ」
なだめるようにポンポンと肩を叩く。
「大丈夫、私もサポートするから。何事も経験よ?」
もう決定事項だと伝えられ、嫌とは言えない状況が出来上がっていた。
「は、はい…よろしくお願いします…頑張ります…」
私は動揺を隠しきれないまま仕事に取り掛かった。
今日のコーディネートに使われるメインの花は芍薬と白薔薇だった。ホテル側から指定された花だ。毎年この時期になると芍薬と白薔薇を指定される。
この季節の花なので適した花ではあるのだが…………この花を扱う時、必ず五年前の初夏を思い出す。
もう会うこともない相手を………。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
五年前のあの夜…深い眠りに落ちた私は、翌朝まだ薄暗い時間に目覚めた。私の横でフェリクスは穏やかな寝息をたてながらあどけない顔で眠っている。
見れば見るほど美少年…いや、童顔美青年。
ずっと見ていられるなぁ。
ほうっと溜息が漏れる。
昨日の夜のことを思い出すと、じんわり体の熱が上がる。こんな美少年たる顔を快楽に歪ませた。女の子みたいに喘ぐフェリクスの声が耳に残る。
「くぅ……」
両手で顔を覆い突っ伏した。
突っ伏したまま、ふと考える。この後、私達どうなるんだろう?
フェリクスが目覚めたら……酒の勢いでいたしてしまったのは事実だ。酒で記憶がないとか…こんな地味女とするなんて酒の力があったからだとか……要は間違いだったってことになりかねないのでは…。
彼が目覚めるのが急に怖くなった。最悪の結末をこの童顔美青年の口から聞かされるなんて堪えられない。
私は身支度を整えるとオーナーにバスの運行について確認した。
土砂崩れの道路は未だ通行は出来ないらしい。急遽、観光客の為に臨時のバスが運行されるのだが、来た時とは違うルートで、来た時の駅とは違う駅へ降ろされるという。スマホで調べると何駅か先で乗り換えれば家まで辿り着きそうだった。
最初のバスが七時に出ると聞き、そのバスに乗ることを決めた。
第二便は九時の予定だと聞いたので、八時にはフェリクスを起こしてもらえるようにお願いすると部屋に戻った。
フェリクスはまだ寝息を立てていた。
挨拶もせずにいなくなるのは心苦しかったが、目が覚めた彼と向き合う方がもっと怖かった。メモ用紙に急用を思い出したので朝一番のバスで帰ると書き残した。
フェリクスのあどけない寝顔をもう一度見てベッドを離れると、私はそっと部屋の扉を閉め逃げるように去った。
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