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42 思考を弱らせる

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湯あみを済ませると頭からかぶるだけの白い簡素なワンピースに着替えさせられる。

鎖の付いた手枷を嵌められたまま薄暗い部屋に連れて来られた。

ソファには蛇目の男が足を組み座っており、その後ろにゴードンとシェノビアが立っていた。

平静を装い、シェノビアの姿を視界に入れないように努めた。

「まあ、見られるようにはなったな。…用意はできているのか?」

ちらりとゴードンに視線を送る。

ゴードンは持っていた小さな箱の中から茶色の小瓶を取り出した。

鎖を掴んでいた兵士がアレッサを乱暴に跪かせる。

「つっ……!」

床に膝を強打し顔を顰めた。
兵士は頭と顎を押さえアレッサの顔を強引に上向かせた。

「うっ…何する…のよっ!」

ゴードンは薄笑いを浮かべながら近づくと小瓶の蓋を開け、アレッサの口に無理矢理宛がう。
得体のしれない何かを飲まされて堪るものか。
必死に口を閉じると、鎖で一つにまとめられた両手を振り動かし男の手から小瓶を弾き飛ばした。

ガシャン!小瓶は床で砕け散り、液体が床を濡らした。

「この、女!なめやがって!」

顔面を床に抑えつけられアレッサの顔が苦痛に歪む。

「――――代われ。小娘相手に手古摺るな。飲ませるくらい造作ない、この女は俺に夢中だからな」

箱の中からもう一つ小瓶を手に取るとシェノビアはゆっくりと近づく。

アレッサから兵士とゴードンの手が離れた。

床に這いつくばったままの状態から、どうにか上半身を起こす。

「あなたは最低よ…」

軽蔑の言葉をぶつける。
眉間に皺を寄せ、嫌悪の視線を向けた。

シェノビアの口元は弧を描き薄く笑うと、浅く息を吐き小瓶の中身を呷った。

アレッサの顔を引き寄せ上向かせると口づけた。
両手で顔を固定され唇を避けられない。

「ぅぐ……ん……」

あらん限りの力で胸を叩き続けるが、彼はびくともしない。
唇の横から液体が溢れ首筋をつたう。
こくりと液体が喉を通るのがわかった。

瞬間、ガリっとシェノビアの唇を噛んだ。

「く…」

漸く顔を離したシェノビアの唇には血が滲む。

ゴホッゴホ……咳き込み必死に液体を吐き出した。
青ざめ、喉を押さえる。
一体何を飲まされたのか…………恐怖で指先が震える。

「ふふっ。安心しろ、毒ではない。おまえは大事な道具だ、まだ殺す訳にはいかないからな。少しばかり大人しくなってもらおうと思ってね……思考を弱らせる薬だ。毎日飲み続けることで意思を持たない人形の様になれる」

荒い息を整えながら鋭く睨む

「道具、道具って…うるさい……私を道具として使うなら…最低限、使用用途は教えてもらいたいわね…さぞかし上手に使ってくれるんでしょうね」

「生意気な小娘だな……道具にお喋りは必要ないからね…次からはもう少し薬の量を多くしようか」

さげすんだ笑いを浮かべた。

「用途を示せというなら…そうだな、教えてやってもいいだろう」

口元で指を組む。

「おまえのような魔力の強い女を我国では魔女と呼ぶのだよ。……その魔力に魅せられながらも…手にすることの出来ない圧倒的な力に驚愕し、いつしか脅威の念を抱く。だが…いつまでも怖気づいてばかりもいられない。そう、対抗できる道具を持たないとね」

くくくくっとさも可笑しいと言うように笑う。

「おまえは兵器だ。魔女のお嬢さん」


血の気が引き、カタカタと震えが止まらない自分の身体を抱きしめた。


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