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22 セドリックと街へ
しおりを挟むいつもより早く目覚めてしまった。
待ち合わせの時間まで、たっぷり余裕があるのに…何かに急かされるように落ち着かない。
昨晩決めておいたワンピースを鏡の前で合わせてみる。
淡い若草色のワンピースはウエストラインがすっきりとしたシルエットだ。
深緑色のリボンがくるりとウエストを回り背中で結ばれ、白い襟と袖口が清純な印象を与える。
アレッサは髪をハーフアップにしてサイドに編み込むと、ワンピースと同色のリボンを結んだ。
余裕をもって約束の時間より少し前に神殿の門の前に着くと、既にセドリックは馬車の前で待機していた。
「ごめんなさい!お待たせしました」
慌てて走り寄る。
振り向いたセドリックは、目を見開いて驚いた後、嬉しそうに笑う。
「アレッサ、凄く可愛い!いつもの黒いローブも似合ってるけど。こっちも素敵だ」
「セドリックも…いつもの、きちんとした紳士の着こなしも似合ってるけれど…今日の服は、あなたのスタイルの良さが一層際立って素敵よ」
お互い褒め合うと、セドリックは少し照れながら、優雅に手を差し出し馬車に乗せてくれる。
いつもはフロックコートにアスコットタイという装いをきっちりと着こなしているセドリックだが、今日は白シャツに黒のショートジャケットをはおり、黒のパンツにブーツというカジュアルな装いだ。
文官としては意外なほど肩幅も広く、がっちりとした体躯のセドリックがシンプルな服装になると、より男らしさが増すような気がした。
彼はいつからか、自分のことを『俺』と言うようになった。
実家は街で輸入品を取り扱う商家だと聞いていた。
庶民出身だし、二人の時は堅苦しいのは苦手だから『様』は付けずにセドリックと呼んでくれと言われ、私も同じことをお願いしてお互いに名前で呼び合うようになっていた。
町の入り口付近の教会で馬車を下りると、ゆっくりと並んで歩き始めた。
今日は街で春の到来を祝うお祭りが催されていた。
久し振りの外出に気分が上がり、ずらりと並ぶ露店から漂ってくる美味しそうな匂いにワクワクが止まらない。
魔法玩具のお店や骨董品、外国からの珍しい布地を並べる店、気になる店に足を止めながらゆっくりと並んで歩いく。
広場に辿り着くと、新鮮な果物をその場で絞り販売しているジューススタンドがあった。
沢山並んでいる果物の中から、何種類か好きなものを選んでミックスジュースに出来るらしい。
見たことのない果物に視線が釘付けになる。
「美味しそうだね。丁度、喉も乾いてきたな。並ぼうか」
そっと私の手を引いてジューススタンドの列に並んだ。
「種類も沢山あって組み合わせに悩みますね。うーん、ベースにベリーは外せないかなぁ。あ、でもピーチもいいかな……リンゴも赤くて美味しそうだし…ん?この長くて黄色の果物は何だろう、凄く甘い匂いがする!」
「ああ、それはバナナという南国の果物だよ。濃厚な甘さが癖になる」
「え!これがバナナ?聞いたことはあったけど、実物を見たのは初めてです!私、バナナ食べたみたいです」
「そうだな、じゃあ、君がバナナをベースにするなら、俺がベリーベースにしてリンゴを入れてみようか…レモンも少し入れてもらった方が爽やかかな。俺のを少し飲むといいよ」
何て素敵な提案!セドリックが他人と飲み物や食べ物を共有するのが嫌ではないみたいで良かった。
「じゃあ、私のも飲んでくださいね!」
アレッサはバナナにピーチ、ミルクを加えたジュースにしてもらった。
私がジュースを受け取っている際にお会計はセドリックがさっさと済ませてくれていた。
お互いにジュースの紙コップを手に噴水近くのベンチに並んで座る。
肩にかけたポシェットから代金を取り出そうとすると、私の手にそっと自分の手を重ね首を横に振るセドリック。
ここでお金を出しても無粋というもの。アレッサは丁寧にお礼を言ってご馳走になることにした。
ストローから流れ込む甘いジュースが乾いた喉を潤した。
「んっ。甘くて美味し~い!」
はははっ
「うん、こっちも美味い。レモンを足して正解だったな」
感想を言い合いながらジュースを堪能する。
ジュースの堪能している私の顔に影ができた。
ストローを咥えたまま視線を上げるとセドリックの顔がすぐ目の前にある。
彼は自分のストローをアレッサのカップの中に入れ甘いジュースを啜っていた。
目を伏せた彼のまつ毛の長さに見とれていると――ふいに視線が絡んだ。
「甘いね」
至近距離での呟きにドキリと心臓が跳ねる。
距離を取るように、ばっと慌てて顔を上げてしまった。
セドリックは、びっくりしたように目を見開く。
---ああ、しまった。
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