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第二話

その日 2

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オートガード:プロテクションエナジー「ファイアー」

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オートガード:一定条件が達成された時、あらかじめ設定していた魔法を自動で発動させる魔法の1つ。元は宝箱に仕掛けるトラップ魔法から発展した。

プロテクションエナジー「」:「」内に防御したいエネルギー(ファイアー、ライトニング等)が入る。持続時間中、該当のエネルギーを完全防御できる。持続時間中に同じ魔法(だが別種のエネルギーを防ぐ)がかけられた場合、後からかけた魔法で上書きされる。同じエネルギーを防ぐ場合は持続時間が延長される。
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 突然の襲撃だった。
 いきなりファイアーボールで襲われるなんて全く想定していなかった君達が、その範囲に入らなかったのは全くの幸運としか言いようがない。

「クッソ! 使わされた!!」

 闇市おやじが悪態をつく。条件を満たしたのでオートガードが発動し、防御魔法が展開されたのだ。
 恐らく、もしもの時に自身の身を守るために大枚を叩いて誰かにかけてもらっていたのだろう。
 もっとも、このような時に役立つのを見越してかけてもらっていたのだから「使わされた」までは言い過ぎ感はあるが。

 初撃の衝撃から立ち直るよりも早く、事態は秒単位で推移する。炸裂したファイアーボールの一撃によって周囲の燃えやすい家屋が着火、延焼をはじめる。

「みんな! だい」

 突然非日常に叩き込まれ麻痺した思考を無理やり現実に引き戻し、君が意味のある言葉を紡ごうとした時、容赦ないファイアーボール、2発目!

「な!!」

 身構える暇すらなく着弾! 炸裂!

 君達を狙って放たれたわけではないのか? 単に、このドヤ街全体をどうにかするのが目的なのか? そこまでは分からないが、今回のファイアーボールも君達を襲う事はなかった。
 が、ドヤ街に対する被害は確実に蓄積していく。

「無事か!!」

 返答を期待しない掛け声。無事なら何かアクションがあるはず。

「なんじゃこりゃあ!!」

「ボクらは…でも!」

「わたくしもなんとか、ですが…」

 君達が徐々に思考麻痺から回復しているように、ドヤの人々も自身の置かれた状況にボツボツと気づきだしたようだ。
 我先に逃げ出す者、友人、家族などを助け出そうと死に物狂いになる者、単純にパニックに陥った者、呆然となり立ち尽くす者、魔法が直撃して純粋に瀕死となっている者、延焼しつつある住処の消火を試みようとしだす者、魔法が飛んできた方向に対して命乞いの叫びをする者……etc。

 混乱を極めるドヤ街に対して、問答無用の3発目のファイアーボール!!

「なにぃ!!」

 炸裂する轟音と爆炎。

 この一連の攻撃からわかる事。少なくとも、ドヤ街に対して悪意を以って攻撃を加えている存在がおり、それを止めるつもりなら相応の力を以って相対するしかない。

「これは・・・」

 クラインが何やらちょっとした違和感を感じたようだが、とにもかくにもまずは現状把握だ。恐らく、曲がりなりにも戦闘訓練を受けている君達以外でこの状況に対応できる者達はいないだろう。いかなる判断を下し、行動するか? それが例え最適解でなかったとしても、自身の判断を信じてやるしかない。

「使っちまったモンはしゃ~ねぇ、オレは生き残りがいるかどうか見て回って、逃げるように言って回ってくるぜ!」

 それは現状、火に対して無敵状態である闇市のおやじにしかできない役目だ。

「たのんます」

「ああ、出し惜しみはなしだ」

 君の返事を待たずに炎の中に消えていく。

「しっかし…どうなってやがる」

 一応、黒よりのグレーな人達もいるような場所ではあるので、攻撃を受ける謂れがない、とまでは言わないが、それにしても。無関係な人達を巻き込んで大々的に攻撃を加えてくるのは完全に想定外である。

「ちょっといい?」

 高速思考に突入しつつある君に、クラインが話しかける。

「? ・・・手短に頼む」

「うん…3発目の奴。あれ、幻術」

「・・・は?」

 彼女に指摘されて3発目のファイアーボールが着弾したと思われる場所を目を凝らしてよく見てみると、確かに、燃え盛る炎はなく、無傷の家屋がそのまま残っていた。とはいえ、どっちにしても、延焼する炎が迫ってきているので、危険には違いないのだが。

 続いてクラインが引っかかっていた事を話し出す。

「最初の奴はかなり本気で打ち込んできてたと思う。でも、2発目は1発目のおかげで目標が狙いやすくなってるにも関わらず、随分、狙いが甘かった上にまるで脅しをかけるような感じで人より建物を狙った感じだった。そして3発目に至っては幻術でそれっぽくごまかしただけの攻撃・・・ボクが分かるのはここまでだけど」

 今、目の前で繰り広げられた一連の攻撃に対する評価はその通りなのだろう。しかし、それが意味する所=敵側の意図を推し量るには情報が足りない。

 その時、みんなが逃げ出した方角から新たな叫び声と怒声が響く。叫び声は、逃げ出したドヤの人が襲われたと想像がつく。そして怒声の方は、君達にとって悪い意味でよく知っている人物の物だった。

「おい! おまえ!! なんで外してるんだよ!! こっちはたっかい金払ってんだ!! ちゃんと働けよ!!」

 声しか聞こえてこないが、それがあのグローリエなのはすぐにわかった。

(ふ~む・・・奴の目的はともかく。今、何をしようとしてるかは分かった。これは追い込み漁だな)

 まず一方向から奇襲攻撃を仕掛け、敵が攻撃から逃れる為逃げ出した先に待ち構えていたもう1隊が更なる打撃を加えるという典型的な戦術の1つである。今回のように逃げる方向がある程度固定されてしまうような場合、特に効果が高い。
 このような場合。単に脱出するだけなら、案外、つついてきた側の方が包囲が緩い(ただし、火力は高い)ので、そこを突破するなら脱出できる可能性が高まる。
 しかし、今回はドヤ街の人達が脱出するまで君達が殿を務め、しのぎ切らなければならない。もっとも、君達が生き残るだけなら「見捨てて逃げる」が正解なのは言うまでもないが・・・

 そこまで思い至れば判断し、行動するだけである。

「一応、みんなに確認しておく事が1つ。オレらだけだったらこの状況からあっさり脱出できる手段はある。ただ、ここの人らを全員見捨てる事になるけど」

「はぁ? アンタ、それ本気で言っとんのんか!!」

「いや、だから、一応確認、って言ったやん」

「どう、どう…そうですわね・・・私達は確かに、ここの方々とは初めて触れ合ったばかりですが……それでも、無意味に殺されるのをただ黙って見過ごすのはできませんわ」

「グローリエはともかくとして、攻撃してきてる他の人達は間違いなくボクらより強い。それでも、何もせずに諦めたくはない。それこそ、何のために今まで訓練してたのかわからなくなる」

「つよ、きやなぁ~……まぁ、こっちの意思の統一は大丈夫だろう…59号達は?」

「ええっ!! オレら……オレらは・・・」

 右見て、左見て・・・
 現状、目標から外れてはいるものの、相変わらず、何かの攻撃魔法が撃ち込まれ、崩壊しつつあるドヤ街。泣き叫び、逃げまどい、悪態をつき、祈りを捧げる人々。
 59号達としては逃げ出したいのは山々だが、ただ逃げ出すだけではほぼ間違いなく、敵の優先目標。何てったって最下級とはいえThe悪魔、なのだから。
 この状況下で助かる確率を少しでも上げるのであれば、彼らに協力して戦う以外、方法はない。

「・・・ま、まぁええよ!! こっちにはノイズィーノイズィーもあるし~」

 嘘でも自分を奮い立たせる為のカラ元気。

「よし、なら作戦を説明する」

 君達と59号達で隊を2つに分ける。
 君達4人がより強力と思われる、現在、圧を掛けている側に対して抗する。
 59号達はグローリエ側に向かい、彼らを何とかする。護衛がいないなんてことはないだろうから、撃破は恐らく無理だろう。なので、できるだけ時間を稼ぐ。
 で、これ以上は無理と判断したらこれで逃げる。

 以前、パイセンとオーバーマイソロジーヒーローから貰ったテレポートの粉を出す。

「ぁぁ、なるほど。そういう意味では確かに逃げられる手筈は確かにあったんでやすな」

「そゆこと。確実に逃げられるんだったら、やれる所までやってから逃げた方が得ってもんだろ」

 君達は君達で準備をしつつ、テレポートの粉の1つを63号に渡す。

「59号はノイズィーノイズィーを持っているんで、組打つのはほぼ間違いなく59号になるだろうから。手数が余る63号がタイミングを見計らって使ってくれ」

「合点」

「という事で、生きて上で会おう!」

 手筈通りに2手に分かれ、各々の持ち場に向かった。
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