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第二話

ノイズィーノイズィー

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ノイズィーノイズィー

 一方その頃。59号達は、闇市のオヤジと雑談しつつ陳列してある魔法の品を物色していた。

 もっとも、その大半が役に立たないジャンク品か、正規品と比べると値段が高すぎるか、そもそも戦闘ではまず使わない雑貨であったりと、取り扱っている品自体はいろいろあれど、素人ではお目当ての物を見つけるのは難しそうな場所である。

(シャチョーサン シャチョーサン)

 ふと、どこからともなく「声」が聞こえた気がする。

(ヤスイ ヤスイ)

 まるで59号の心の中に直接語り掛けているような……そうでないような……

(センエン センエン)

 いや、これは確実にそこに立てかけられた剣から聞こえている!
 思わず、それを注視する。

「なんだ、ソイツが気になるのか?」

「えっ・・・ああ~」

 剣の柄から値札と簡単な説明書きが書かれている板が引っかかっていたので、目を通してみる。

「おっ、ラテン語読めるのか? 思ったより優秀じゃねぇか」

「ああ~、まぁ~、地獄の方でヒマつぶしがてらいろいろと読んでたもんで……」

 そこに書かれていたのは以下の通り


名前:ノイズィーノイズィー
基本性能:剣+3
インテリジェント・ディバイス

インテリジェント・ディバイスとしての基本能力

基礎インテリジェンス:専門性を有する人間並み

マジカルオーラによる投光能力(魔法のエネルギーが自然に発光するので、それにより周囲6m程が行動に支障がない程度に明るくなる)

剣自身の視覚、聴音:周囲20m。人間が感知する視覚及び聴覚と同等。ただし、人間のように「目」や「耳」のような感覚器官を使っている訳ではないので、剣を中心とした20m全てが対象となる。なお、探知したからといってそれを剣の使用者に教えるかどうかは別の問題。

言語能力:この剣自身は「古代ギリシャ語」「ゲール語」「ラテン語」「古北方ドイツ語」「スラヴ語」「ペルシャ語」「アングロサクソン語」「サンスクリット語」「ロマンス諸語」「ハイランド語」「漢語」「カタカムナ」「ヘブライ語(ゲマトリア、テムラー、ノタリコンによる一連の変換を含む)」「神代文字」「エノク語」「地獄(西洋)」「地獄(東洋)」「アルザル語」「ナーロッパ標準語」「エルフ語」「ドワーフ語」「ゴブリン語」「オーク語」「各種巨人語」「各種ドラゴン語」「ミュルミドン語」「地水火風精霊語」の会話、及び、もし該当言語に文字があるなら読み書きも可能である。一部、言霊的な言語を含んでいるが、ノイズィーノイズィー自身に呪文使用能力はない。

スペシャルアビリティー
「Before Babel(ビフォアーバベル)」:1日3回発動可能。ノイズィーノイズィーが現在、使用できない言語が使われた場合、使用する。ビフォアーバベルとは、ノアの大洪水以前、人類がバベルの塔を建設していた時代。言葉は一つであった。という由来に基づくマイソロジーマジック。この魔法の力をもってすれば、それが地球上で作られた言語である限り、過去現在未来、いかなる時代のいかなる言語であったとしても解読可能となる。

自身を動かすための微妙なテレキネシス(念動能力)

売価:5000gp

以上


「はっ? ・・・うっそ! +3がたったの5千gpって・・・前の稼ぎがあるんで買えてしまうんだよな……」

「いや、ありえんっすよ。ぜってぇ、なんかウラがありやすぜ」

 2人の考察をよそに、おやじが一言。

「ノークレーム、ノーリターンだ」

 どうやらそれ以上は答えるつもりがないらしい。

 通常の+3ウェポン(武器の基礎形状による値段の差異はマジカルエンチャントメントによる付加価値からするならほぼ無きに等しい。なので、それらを包括的に含む表現としてウェポンという表現になる)の相場は、特に何か特殊能力を持っていない場合でも4万gp。それが、超強力なスペシャルアビリティーを有するこの武器がたったの5千gp。
 このオヤジが世間知らずだから、とか、これに価値を見出していないから、とか、そういう事もありえない。そんな程度の目利きしかできないような奴では、こんな場所で闇市なんかできない。
 といっても、これ以上は商品の価値を見極めるのに必要な情報は得られないだろう。値段の割に破格の性能を持っているのはたしかだし、今、ここで買い逃すと恐らく、2度とお目にかかれない。

 判断の時である。

(この、デメリットをあえて言わない辺りがちょ~あやっしいんだよなぁ……っつっても、確か、ここの品って上では売れんけど、ギリ使っても大丈夫な奴だったよな……)

(……+3……+3……ツヨイ……ツヨイ……)

(もえっつううの! ・・・しかし……+3は確かにオレらからしたら神装備だしなぁ……)

「なんだ、買わねぇんだったら、別にいいんだぜ。客はお前だけじゃねぇしな」

「ぁぁぁ……いや、確かに欲しいけど5千全部出してしまうと……」

「金はな、また稼いだらええねん。でもな、その金を稼ごうと思ったら、いい装備がいるってもんだ。まぁ先行投資って奴だ」

「えええ~~~……ぁぁぁぁ~~っ、もう~~~!!」

 気づくと、それを手にしていた。
 「強い力」が伝聞とかではなく、今、目の前の届く場所にあるという魅力には、やはりそう抗えるものではない。
 それに、しがない雑魚悪魔にすぎない彼が上にのし上がろうと思うなら、リスクがあったとしても、チャンスをつかみ取るしかない。そして可能性に過ぎなかったとしても、それが今、目の前にある。

「まいどあり」

 すかさず5千gpを受け取るオヤジ。

 そんなやり取りをしている時に、君は帰ってきた。

「あ、それ買ったんだ」

「お、おぅ。+3やで」

「強い、んだろうけど、実感は湧かんなぁ……そろそろ帰るか」

 そのまま君達は帰路に着いた。地下街の独特な賑わいが感じられなくなった頃。どこからともなく声がする。

「ふぅ~……やれやれ。これでやっとまた動き回れるってもんだ」

「? なんだ?」

「ああ~、多分、この剣の奴でっせ」

「HAHAHA、オレにゃ『ノイズィーノイズィー』って立派な名前があるんだ。新しい使い手になったんだから『この剣』なんてよそよそしい呼び方なんてするなよ」

「ノイズィーノイズィー?」

 そう。オレはノイズィーノイズィー。生まれはもう忘れた。世界中、あらゆる時代、あらゆる場所をめぐり、幾多の戦友達と歴史を動かすような激戦の数々を潜り抜けてきた由緒ある伝説の一刀だ。
 例えば……あれは、バベル以前の時代。オレは、古都ウルの近くでフンババの奴と戦っていた。
 まぁ~フンババの奴の言い分も分かるんだよ。暴れてた原因はそもそもが人間共が奴の住処だったレバノン杉の森をどんどん狩りつくしてしまったせいでどうもならんくなったからだしなぁ~

 倒したから言えるんだが、奴はやっぱり強かった。腐っても神・・・神格相当だからなぁ・・・おっと、こいつはイギリス人的自画自賛のそれとは違ってだな・・・奴らは「〇〇はこれこれこういう感じで強かった。我々はそんな強い相手にこういう苦戦を強いられた。だが、そんな強い奴らを結局は打ち負かした我々はより強かった」と持ち上げる手法を使うんだよ。

 どこまで話したっけか? まぁいいや。
 アレは確か、トロイア戦争最終局面の時。かのトロイア側の勇者ヘクトルの・・・

(なんか、9割ぐらいはフカシっすよね)

 あの戦争、ギリシャ神話の終わりなんで、結構、雑に英雄が死ぬんだけどなぁ~……

(だよなぁ~、そんな超スゴイってのがあんな場所に転がってるわけねぇよな~……+3ソードって部分が本当でなかったら、あのオヤジ、一回、シメるけど)

 でだ。ヘクトルの装備が戦後、行方不明でな。まぁそこまでの英雄の装備でなくても、あいつら、ギリシャの神の血を引いてる奴らがゴロゴロおるもんで、親からの贈り物とかで結構な装備を……

(というか、こいつ、ずっと話続けてね?)

(そういや…)

 まぁ~そもそもがアレなんだけどなぁ~・・・ほら、まぁ~「お話」としての美しさ、とかいろいろあるんかもしらんけど、雑に親子やら兄弟やらが敵対して殺し合いしました、悲劇でしょ、みたいなクソ話、多すぎんねん。なんかこう、悲劇だったら芸術点高い、みたいなお高い意識系、っつうの? あの風潮は

 と、その時。君達の立てる騒音を聞きつけたのか? あの時のキャリオンクローラが再び目の前に立ちはだかったのだ。

「うげっ!!」

「くっそ、そういう事か!! こいつのしゃべりのせいでモンスターが勝手に寄って来やがるんだ!!」

 厳密に言うと、隠密行動ができなくなる、なのだが。今の君達にとってはそのような差異はどうでもいい。今、目の前に再びあの無敵に近いバケモノがいるという事実。

「くっ、そ! ちけぇ! 逃げ…」

 向こうも君達を覚えていたのか? 猛烈な勢いで突進!

 とてもではないが避けられない!

「おいおい! なにひよってんだよ!!」

 ノイズィーノイズィーが煽る!

「いや・・・

 次の瞬間、59号の身体が勝手に構える。恐らく、ノイズィーノイズィーが表層意識を乗っ取ったのだろう。

 ほぼ同時に、突進してきたクローラーを真っ向から叩っ切る!!

 スパーン!!

 漫画やアニメなら間違いなくこの効果音がどこかに描かれていただろう。それぐらい綺麗に真っ二つになったクローラーだったもの、が転がっていた。

 何が起こったのか? 君達は今しばらく理解ができなかった。しかし、初期の思考の痺れから回復し、事態を正確に把握するに至った時。

「+3、TUEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」

「ナニコレ! YABEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」

「マジカ!!」

 そこから先、異様な高揚状態から童心に帰った3人は、そのテンションのまま地下から帰ってくる。
 よくある修学旅行とかで土産物の木刀を振り回して喜んでいる中学生のノリである。

「IYEEEEEE~~~I!!!」

 当然、そんな状態だと前方不注意で誰かにぶつかる。それは強面の冒険者だった。

「ヤッパはオモチャじゃねぇんだ、きぃつけろい!!」

 ・・・

「・・・さ~せん」

 まぁ、君らが悪い。
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