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第二話
ミリア、悩む
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君達が地下から帰り、ひとっ風呂入ってさっぱりした後であった。
神殿の受付の方から、誰かが悪態をつき責め立てているような不快な叫びが聞こえてきた。
君は、その声の主に何となく覚えがある。以前、民会の際、食ってかかってきていたどこぞの貴族のおぼっちゃんのようだ。
クレーマーと関わりあいたくないのはいついかなる時代でもそうなのだが、建物の構造上、神殿の受付=魔術師組合の受付=娼館の受付なので、そこを通るしかない。
いやでも会話の内容がある程度聞こえて来る中、できるだけ目を合わさないようにしつつ、足音を殺し、死角から死角へと、こっそり動く。そのかいあってか何とか相手には気づかれずにすんだようだ。
「てめぇ・・・オレは名門ラントシュトラーゼ家の次男グローリエ様なんだぞ! そのオレがヤレと言ってるんだから、とっとと明日にでもやれってんだ!」
現在、相手をしているミリアは元々表情が読みにくい人ではあるが、その彼女をしてもめんどくさいのを相手にさせられている、というのが雰囲気から伝わってくる。
「ですから、先の担当の方も説明しましたが……我々は現在、vsバロン戦のダメージからの回復を優先しないといけませんので、お披露目の儀式にまで人員を割いている余裕は……」
「前は前で『まだ成人していませんので…』みたいな言い訳並べやがって! 成人の儀はこの前のゴブリンの奴で終わらせたんだろうが!」
(やれやれ……遠まわしに「貴方ではふさわしくない」と言っているのが分からない……のでしょうねぇ……どうしたものでしょうか……圧を掛ける? 魔法で追い払う? 親後さんに回収してもらう? どれも微妙な所ですねぇ……)
ミリアが考えを巡らせている時、ギルドの奥からクライン達がフラフラになりながら出てきた。恐らく、ようやく今日のノルマが終わったので風呂に入るつもりなのだろう。vsバロン戦からこっち、回復魔法乱打→ポーション作り+スクロール作り+矢弾作り+ワンド作り→ブラック企業顔負けの労働時間の後、風呂に入って家に寝に帰る、という生活を強いられているのだ。
vsバロン戦自体は一区切りついたとはいえ、次またああいうのが出て来るか分からない以上、消耗品系の補充は必須。と言っても、生産量、生産力というのはいきなりは上がらない。なので、今回のようにいきなり在庫が落ち込むと、生産者に負荷がかかるのは必然である。結果として学徒動員レベルの人材でも使うしかなくなるのだ。
名門の次男を名乗る彼が、そんな彼女を目ざとく見つけ
「なんだ、いるじゃないか! 金はもう10万ぐらい払っているんだ。儀式とかどうでもいい! 今、この場で」
勢いで押し切ればどうとでもなるとでも考えたのか? ミリアを押しのけ横を通り抜けようとした時。澱むことなく彼の腕を掴み、
「それはさすがにいただけませんね」
(!? う、うごけ、ない)
「これ以上の狼藉は、誘拐として処断する事になりますが、それでもよろしいようでしたら」
苦々しく腕を振り払う。
「クソが・・・ちょっと強いぐらいであんまりいい気になってんじゃねぇぞ!!」
と、捨て台詞を残し、引き下がっていった。その気はなかったが、一部始終を目撃してしまった君を見つけたミリアが話掛けてくる。
「これは、少々お見苦しい所をお見せしてしまいましたね」
「いやまぁ~、オレもそれなりにはここで働いてるんで、ああいうクレーマーはそこそこ見てるし・・・と言いたい所だけど、そいつらとはちょっと違う感じだったよなぁ」
「はい。実は込み入ったお話になるのですが・・・以前、私がした神殿娼婦のシステムのお話は覚えておられますか?」
立ち話もなんなのでと適当な席に座りつつ、
「ああ~、あの時はこっちの世界に来てあんまり間がなかったから、そこまではっきりとは覚えてないけど・・・確か、男側が金を稼いできてお目当ての女を初日でいきなり落として身請けしてしまう、みたいなお話だったはず。んで、アホな親が資金力にモノを言わせて青田刈りみたいな事をやりやがるんで大変困る、とかなんとか……」
「そこまで覚えていただいているなら十分です」
「で、さっきのが、その資本力にモノを言わせて青田刈りしにきた奴ってか」
「まぁそういう事です・・・神殿娼婦の本来の意味から考えるならそうじゃないのですがね・・・少し解説しておきましょうか。貴方は『王権神授説』という思想についてはご存じですか?」
「ああ~、アレって確か・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
訳注:王権神授説とは、王の権威の正統性とは、神より与えられた不可侵のものであるという思想。それが思想として具体化したのは絶対王政国家において、その体制の正統性を主張する理論としてである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい。その通りです。その根底にある思想『神によって与えられた不可侵の権利』の部分。実の所、古代メソポタミアのイシス神殿の神殿娼婦達からきているのですよ」
「ふむふむ」
「神殿娼婦達の本来の役割は『女神の代理人たる神殿娼婦がその財貨と知識と知恵を以て、王の権威を保障する』事なのですよ。だからこそ、我らの女神フレイアも己の財貨の象徴たる『無限の富を生み出すブリージンガメン』を持ち、知識と知恵を授ける魔術の神としての権能を持っているわけです。文化人類学の観点からするなら、人がごく初期の社会システムである原始共産制の時代、女神たる女性が群れを率いていた時代の名残なのではないか? とも言われていますが」
(・・・社会の教科書の勉強かな・・・)
「ともあれ、今回。クラインさんは女神フレイアの神官としての資格を持っていますので、他の方のお披露目とは重さが違うのですが……現実的にはその役割は形骸化してしまっていますからね……資本力の殴り合いで決まってしまい、選ばれるべき王の器とか関係ねぇ、みたいな状態なのは……」
「何となく問題点は理解できたけど・・・これは確かに難しそうだ」
「現実的な話として。力ある王侯貴族が己の王朝の正統性の維持、という目的の為、子孫に国を継がせるというのは一般的です。そして、そのような方はその目的をより確実に達成する為、正妻だけでなく何人か側室を持つというのも当たり前のように行われています。この時代の乳幼児の死亡率は恐ろしいぐらい高いですからね……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
訳注:ちなみに、この時代。0~5歳までの死亡率は概ね50%。そこから更に成人するぐらいまで(14、5歳ぐらい)の間に50%ほどの子供が死亡する。言い換えるなら10人子供を産んでも成人できるのは2,3人しかいないという事。
魔法を利用できる分、王侯貴族の子孫達の死亡率はある程度緩和されるとはいえ、劇的に改善されるわけではない。
常識的に考えて、血族に引き継ぎさせたいと考える王侯貴族であれば、何人か側室を持つというのも理解できるだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(まぁ~、オレの時代でも墓参りにいった時、江戸時代の年号の先祖は7男8男、当たり前だけど、明治、大正ぐらいになってきたら4男ぐらいまでになって戦後世代は3男止まり。オレの代とかにまでなるんだったら多分、長男、次男までになるだろうなぁ……)
「そのような事情がありますので、王侯貴族の血族者が複数人の女性を、その資産で連れて行く事自体は合法ですので、フレイア神殿としては、それ自体を止められません。とはいえ、そんなヤリ捨て目的で食い荒らすような真似をされてしまっては、たまったものでは……そんな事の為に彼女を今まで育ててきた訳では……」
「まぁ~、あんな感じの奴だったら、ある日、いきなり王者の資質に目覚めるとかないだろうしなぁ……もうちょっと、こう、マシな奴はいないの?」
「私達の考えでは、それが貴方、だったのですが・・・貴方が育つまで敵は待ってくれませんからねぇ……」
「『敵』って言ちゃったよ……言いたくなる気持ちはわかるんでアレだけど・・・う~む・・・これは確かに難しいな・・・オレがオーバーマイソロジーヒーロー、とまで言わないにしても、リッチパイセンみたいに1点特化で何か勝負できる武器があったらいきなり解決するんだろうけど・・・申し訳ない」
「人間がいきなり急成長する事はありません・・・我々が一時期やってたように」
よ~し、今日からドラゴン週間やで。
白、トカゲ
黒、沼から出てこい
緑、雑魚
青、アイテム壊れる
赤、強い!
月月火水木金金・・・アレ、1週間って何日だったっけ?
うがあ!! うるらああ!!
マチルダがまたさらわれた!
もうええって!! アイツ、狙われ過ぎ!!
連れてく奴らも「ウホ~!」じゃねぇよ!
モンスター出すぎで隣町にたどり着けん!!
おかしい、ここ街道のはずなのに、オレ達は一体、どこを歩いているんだ?
たまにマチルダがさらわれなかったと思ったら、今度はミリアかよ!
もええって! あきらめた!
どうせアヘ顔ダブルピースキめてるやろから、その間に準備していくぞ!
ちょ、もう~那由多さんまでかっさらわれるのヤメテ!
貴方、強いんでしょ! 自力でどうにかしてくれよ~!
アホが! またさらいおったわ!
送り狼してお前らのアジト、叩きつぶしたらあ!!
・・・・etc
「という生活を、5年程も続けていたら勝手に強くなるのですが……それでも5年かかりますからね」
(なにその地獄。そらあんだけ強いわ。というか、5年かかりますからね、じゃねぇよ、フツー、全滅してるからな)
「ともあれ我々としては、どうにかして優秀な人材であるクラインさんをアホ貴族のボンボンではなく、真っ当な人に、と考えてはいますがそして……現状、最有力候補なのは貴方なのですが……リスクを考えるなら無理強いはできませんからね。そもそも第三者の視点から見て、彼と直接対決する以外の手段で彼に勝てる目がありませんし……」
「直接対決って、そんな事できるの?」
「何らかの手段で『決闘』に持ち込むのなら、あるいは。ただ、彼もアホじゃないので100:0で勝てる状態でもない限り、そんな決闘に応じる事はないでしょう。彼のナリや体格を見て分かったと思いますが、まともに武術なり魔術なりの稽古をしていないですからね。今の貴方でも直接一騎打ちで対峙するなら簡単に倒せるかと」
「でも、その感じだと、奴との直接対決まで持って行くのが難しいってところだな」
「そうですね。そもそも決闘の概念についてですが…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
訳注:現代のような科学捜査の技術などがほぼ存在しなかった時代。物事の白黒をつける為に用いる為、神名の下、互いの主張を掛けて一騎打ちで決着をつけるという手段が用いられた。
これが国同士のいざこざの決着、まで発展するような際は己が国のチャンピォンが出て来る(この時代のウプサラ、もしくはフレイア教全体に対してであればポン=コツさん)事になる。
決闘で取り扱う案件としては、いはいる刑法犯の無実を証明する為だけでなく、傷つけられた名誉を取り戻す、不当に扱われた貴婦人を救い出す、等、モラルや倫理、名誉、のような物が該当する。場合によっては日本の江戸時代的仇討ちのような手段も該当するだろう。
基本的には当事者同士で決着をつけるのだが、明らかな社会的弱者(女性、子供、老人など)を狙い撃ちして決闘を仕掛けるような輩も存在するので、立てられるようであれば、代理人を立てる事も可能である。日本の仇討ちも代理人を立てる事が可能だが、そのようなものととらえてくれて構わない。
ただ、代理人を立てられるという事は、結局の所、権力、人脈、資産力のある方が有利に働くのは言うまでもないだろう。よくある中世騎士物語などでは、そのような瞬間、主人公たる騎士が颯爽と助けに入るものなのだが、現実とは非情である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、いう事です……クラインさんが代理人を指定するのであれば相手も代理人を指定できる。向こうは腐っても4大貴族の一員なので、資本力と人脈を利用して強力な人間を雇われたらそれで終わりです。その辺りの事が分かっているので、あえて火中の栗を拾いに行く方は……」
「公衆の面前で一騎打ちな以上、ある種、ダマシは効かんしな」
「それでもなお『10月10日』まで使うなら、覆す事も不可能ではないのですが・・・」
「『10月10日』?」
おっと、会話の流れで勢いから出たとはいえ、少し話過ぎた、となりつつ
「いえ。まぁ今の貴方では選択肢として取れない手段ですのでとりあえず忘れて下さい」
「まぁ、まぁ……そういう意味では線は薄そうだけど、どうにかしてオーバーマイソロジーヒーローの手を借りるとかできないのかなぁ? 戦闘力であの人に勝てる人はまぁいないだろうし」
「という訳にも……そもそも彼には既に私がいますし……」
「まぁそれもそうだ」
「そもそも我らがヒーローは現在地獄でバロン追跡中です。お披露目の日の延長もそろそろ限界ですので、そこまでに帰ってこれないでしょう。そもそも、彼なら『自分の女ぐらい自力で何とかしろ』と言われるのがオチでしょう」
「耳は痛いが実際、その通りなんだよなぁ……何日ぐらい猶予がありそうですかね?」
「そうですね……まぁ持って後1週間といった所でしょうか」
「それまでに何か必勝の秘策、みたいなのを思いつけって事か・・・まぁ、オレもクラインがあんなワケワカランクズ男の所に嫁ぐとか、ないんで、何か考えてみる」
「よろしくお願いします、と言いたい所ですが……関係の方は進んでおられます?」
「えっ!? それは・・・そのぅ~」
「ええ~! 成人の儀も終わらせましたし、短いながらも死線を超えて苦楽を共にした仲でしょうに。もうとっくの昔に開花してズブズブの共依存になって(ばきゅ~ん)(ずきゅ~ん)(ぽぴーーーーー!!)(ミセラレナイヨ)(あなたは18歳ですか YES)みたいになっているものかと」
「いやいやいやいや、確かにメッチャ美人やし、性格ええし、何かいろいろとイケてるんはそうやけど、オレらの時代に換算したら2年ぐらい前はランドセル背負ってた人でしょ!!」
「そうとも言いますね」
「あの~、さすがにね、もう2,3年ぐらいは、どっかな~、と思うんですよ、オレは」
「そうですか。それは残念です。せっかく、そろそろセイズを教えられる頃かと思っていたのですが……」
ぶほっ!!
神殿の受付の方から、誰かが悪態をつき責め立てているような不快な叫びが聞こえてきた。
君は、その声の主に何となく覚えがある。以前、民会の際、食ってかかってきていたどこぞの貴族のおぼっちゃんのようだ。
クレーマーと関わりあいたくないのはいついかなる時代でもそうなのだが、建物の構造上、神殿の受付=魔術師組合の受付=娼館の受付なので、そこを通るしかない。
いやでも会話の内容がある程度聞こえて来る中、できるだけ目を合わさないようにしつつ、足音を殺し、死角から死角へと、こっそり動く。そのかいあってか何とか相手には気づかれずにすんだようだ。
「てめぇ・・・オレは名門ラントシュトラーゼ家の次男グローリエ様なんだぞ! そのオレがヤレと言ってるんだから、とっとと明日にでもやれってんだ!」
現在、相手をしているミリアは元々表情が読みにくい人ではあるが、その彼女をしてもめんどくさいのを相手にさせられている、というのが雰囲気から伝わってくる。
「ですから、先の担当の方も説明しましたが……我々は現在、vsバロン戦のダメージからの回復を優先しないといけませんので、お披露目の儀式にまで人員を割いている余裕は……」
「前は前で『まだ成人していませんので…』みたいな言い訳並べやがって! 成人の儀はこの前のゴブリンの奴で終わらせたんだろうが!」
(やれやれ……遠まわしに「貴方ではふさわしくない」と言っているのが分からない……のでしょうねぇ……どうしたものでしょうか……圧を掛ける? 魔法で追い払う? 親後さんに回収してもらう? どれも微妙な所ですねぇ……)
ミリアが考えを巡らせている時、ギルドの奥からクライン達がフラフラになりながら出てきた。恐らく、ようやく今日のノルマが終わったので風呂に入るつもりなのだろう。vsバロン戦からこっち、回復魔法乱打→ポーション作り+スクロール作り+矢弾作り+ワンド作り→ブラック企業顔負けの労働時間の後、風呂に入って家に寝に帰る、という生活を強いられているのだ。
vsバロン戦自体は一区切りついたとはいえ、次またああいうのが出て来るか分からない以上、消耗品系の補充は必須。と言っても、生産量、生産力というのはいきなりは上がらない。なので、今回のようにいきなり在庫が落ち込むと、生産者に負荷がかかるのは必然である。結果として学徒動員レベルの人材でも使うしかなくなるのだ。
名門の次男を名乗る彼が、そんな彼女を目ざとく見つけ
「なんだ、いるじゃないか! 金はもう10万ぐらい払っているんだ。儀式とかどうでもいい! 今、この場で」
勢いで押し切ればどうとでもなるとでも考えたのか? ミリアを押しのけ横を通り抜けようとした時。澱むことなく彼の腕を掴み、
「それはさすがにいただけませんね」
(!? う、うごけ、ない)
「これ以上の狼藉は、誘拐として処断する事になりますが、それでもよろしいようでしたら」
苦々しく腕を振り払う。
「クソが・・・ちょっと強いぐらいであんまりいい気になってんじゃねぇぞ!!」
と、捨て台詞を残し、引き下がっていった。その気はなかったが、一部始終を目撃してしまった君を見つけたミリアが話掛けてくる。
「これは、少々お見苦しい所をお見せしてしまいましたね」
「いやまぁ~、オレもそれなりにはここで働いてるんで、ああいうクレーマーはそこそこ見てるし・・・と言いたい所だけど、そいつらとはちょっと違う感じだったよなぁ」
「はい。実は込み入ったお話になるのですが・・・以前、私がした神殿娼婦のシステムのお話は覚えておられますか?」
立ち話もなんなのでと適当な席に座りつつ、
「ああ~、あの時はこっちの世界に来てあんまり間がなかったから、そこまではっきりとは覚えてないけど・・・確か、男側が金を稼いできてお目当ての女を初日でいきなり落として身請けしてしまう、みたいなお話だったはず。んで、アホな親が資金力にモノを言わせて青田刈りみたいな事をやりやがるんで大変困る、とかなんとか……」
「そこまで覚えていただいているなら十分です」
「で、さっきのが、その資本力にモノを言わせて青田刈りしにきた奴ってか」
「まぁそういう事です・・・神殿娼婦の本来の意味から考えるならそうじゃないのですがね・・・少し解説しておきましょうか。貴方は『王権神授説』という思想についてはご存じですか?」
「ああ~、アレって確か・・・」
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訳注:王権神授説とは、王の権威の正統性とは、神より与えられた不可侵のものであるという思想。それが思想として具体化したのは絶対王政国家において、その体制の正統性を主張する理論としてである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい。その通りです。その根底にある思想『神によって与えられた不可侵の権利』の部分。実の所、古代メソポタミアのイシス神殿の神殿娼婦達からきているのですよ」
「ふむふむ」
「神殿娼婦達の本来の役割は『女神の代理人たる神殿娼婦がその財貨と知識と知恵を以て、王の権威を保障する』事なのですよ。だからこそ、我らの女神フレイアも己の財貨の象徴たる『無限の富を生み出すブリージンガメン』を持ち、知識と知恵を授ける魔術の神としての権能を持っているわけです。文化人類学の観点からするなら、人がごく初期の社会システムである原始共産制の時代、女神たる女性が群れを率いていた時代の名残なのではないか? とも言われていますが」
(・・・社会の教科書の勉強かな・・・)
「ともあれ、今回。クラインさんは女神フレイアの神官としての資格を持っていますので、他の方のお披露目とは重さが違うのですが……現実的にはその役割は形骸化してしまっていますからね……資本力の殴り合いで決まってしまい、選ばれるべき王の器とか関係ねぇ、みたいな状態なのは……」
「何となく問題点は理解できたけど・・・これは確かに難しそうだ」
「現実的な話として。力ある王侯貴族が己の王朝の正統性の維持、という目的の為、子孫に国を継がせるというのは一般的です。そして、そのような方はその目的をより確実に達成する為、正妻だけでなく何人か側室を持つというのも当たり前のように行われています。この時代の乳幼児の死亡率は恐ろしいぐらい高いですからね……」
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訳注:ちなみに、この時代。0~5歳までの死亡率は概ね50%。そこから更に成人するぐらいまで(14、5歳ぐらい)の間に50%ほどの子供が死亡する。言い換えるなら10人子供を産んでも成人できるのは2,3人しかいないという事。
魔法を利用できる分、王侯貴族の子孫達の死亡率はある程度緩和されるとはいえ、劇的に改善されるわけではない。
常識的に考えて、血族に引き継ぎさせたいと考える王侯貴族であれば、何人か側室を持つというのも理解できるだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(まぁ~、オレの時代でも墓参りにいった時、江戸時代の年号の先祖は7男8男、当たり前だけど、明治、大正ぐらいになってきたら4男ぐらいまでになって戦後世代は3男止まり。オレの代とかにまでなるんだったら多分、長男、次男までになるだろうなぁ……)
「そのような事情がありますので、王侯貴族の血族者が複数人の女性を、その資産で連れて行く事自体は合法ですので、フレイア神殿としては、それ自体を止められません。とはいえ、そんなヤリ捨て目的で食い荒らすような真似をされてしまっては、たまったものでは……そんな事の為に彼女を今まで育ててきた訳では……」
「まぁ~、あんな感じの奴だったら、ある日、いきなり王者の資質に目覚めるとかないだろうしなぁ……もうちょっと、こう、マシな奴はいないの?」
「私達の考えでは、それが貴方、だったのですが・・・貴方が育つまで敵は待ってくれませんからねぇ……」
「『敵』って言ちゃったよ……言いたくなる気持ちはわかるんでアレだけど・・・う~む・・・これは確かに難しいな・・・オレがオーバーマイソロジーヒーロー、とまで言わないにしても、リッチパイセンみたいに1点特化で何か勝負できる武器があったらいきなり解決するんだろうけど・・・申し訳ない」
「人間がいきなり急成長する事はありません・・・我々が一時期やってたように」
よ~し、今日からドラゴン週間やで。
白、トカゲ
黒、沼から出てこい
緑、雑魚
青、アイテム壊れる
赤、強い!
月月火水木金金・・・アレ、1週間って何日だったっけ?
うがあ!! うるらああ!!
マチルダがまたさらわれた!
もうええって!! アイツ、狙われ過ぎ!!
連れてく奴らも「ウホ~!」じゃねぇよ!
モンスター出すぎで隣町にたどり着けん!!
おかしい、ここ街道のはずなのに、オレ達は一体、どこを歩いているんだ?
たまにマチルダがさらわれなかったと思ったら、今度はミリアかよ!
もええって! あきらめた!
どうせアヘ顔ダブルピースキめてるやろから、その間に準備していくぞ!
ちょ、もう~那由多さんまでかっさらわれるのヤメテ!
貴方、強いんでしょ! 自力でどうにかしてくれよ~!
アホが! またさらいおったわ!
送り狼してお前らのアジト、叩きつぶしたらあ!!
・・・・etc
「という生活を、5年程も続けていたら勝手に強くなるのですが……それでも5年かかりますからね」
(なにその地獄。そらあんだけ強いわ。というか、5年かかりますからね、じゃねぇよ、フツー、全滅してるからな)
「ともあれ我々としては、どうにかして優秀な人材であるクラインさんをアホ貴族のボンボンではなく、真っ当な人に、と考えてはいますがそして……現状、最有力候補なのは貴方なのですが……リスクを考えるなら無理強いはできませんからね。そもそも第三者の視点から見て、彼と直接対決する以外の手段で彼に勝てる目がありませんし……」
「直接対決って、そんな事できるの?」
「何らかの手段で『決闘』に持ち込むのなら、あるいは。ただ、彼もアホじゃないので100:0で勝てる状態でもない限り、そんな決闘に応じる事はないでしょう。彼のナリや体格を見て分かったと思いますが、まともに武術なり魔術なりの稽古をしていないですからね。今の貴方でも直接一騎打ちで対峙するなら簡単に倒せるかと」
「でも、その感じだと、奴との直接対決まで持って行くのが難しいってところだな」
「そうですね。そもそも決闘の概念についてですが…」
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訳注:現代のような科学捜査の技術などがほぼ存在しなかった時代。物事の白黒をつける為に用いる為、神名の下、互いの主張を掛けて一騎打ちで決着をつけるという手段が用いられた。
これが国同士のいざこざの決着、まで発展するような際は己が国のチャンピォンが出て来る(この時代のウプサラ、もしくはフレイア教全体に対してであればポン=コツさん)事になる。
決闘で取り扱う案件としては、いはいる刑法犯の無実を証明する為だけでなく、傷つけられた名誉を取り戻す、不当に扱われた貴婦人を救い出す、等、モラルや倫理、名誉、のような物が該当する。場合によっては日本の江戸時代的仇討ちのような手段も該当するだろう。
基本的には当事者同士で決着をつけるのだが、明らかな社会的弱者(女性、子供、老人など)を狙い撃ちして決闘を仕掛けるような輩も存在するので、立てられるようであれば、代理人を立てる事も可能である。日本の仇討ちも代理人を立てる事が可能だが、そのようなものととらえてくれて構わない。
ただ、代理人を立てられるという事は、結局の所、権力、人脈、資産力のある方が有利に働くのは言うまでもないだろう。よくある中世騎士物語などでは、そのような瞬間、主人公たる騎士が颯爽と助けに入るものなのだが、現実とは非情である。
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「と、いう事です……クラインさんが代理人を指定するのであれば相手も代理人を指定できる。向こうは腐っても4大貴族の一員なので、資本力と人脈を利用して強力な人間を雇われたらそれで終わりです。その辺りの事が分かっているので、あえて火中の栗を拾いに行く方は……」
「公衆の面前で一騎打ちな以上、ある種、ダマシは効かんしな」
「それでもなお『10月10日』まで使うなら、覆す事も不可能ではないのですが・・・」
「『10月10日』?」
おっと、会話の流れで勢いから出たとはいえ、少し話過ぎた、となりつつ
「いえ。まぁ今の貴方では選択肢として取れない手段ですのでとりあえず忘れて下さい」
「まぁ、まぁ……そういう意味では線は薄そうだけど、どうにかしてオーバーマイソロジーヒーローの手を借りるとかできないのかなぁ? 戦闘力であの人に勝てる人はまぁいないだろうし」
「という訳にも……そもそも彼には既に私がいますし……」
「まぁそれもそうだ」
「そもそも我らがヒーローは現在地獄でバロン追跡中です。お披露目の日の延長もそろそろ限界ですので、そこまでに帰ってこれないでしょう。そもそも、彼なら『自分の女ぐらい自力で何とかしろ』と言われるのがオチでしょう」
「耳は痛いが実際、その通りなんだよなぁ……何日ぐらい猶予がありそうですかね?」
「そうですね……まぁ持って後1週間といった所でしょうか」
「それまでに何か必勝の秘策、みたいなのを思いつけって事か・・・まぁ、オレもクラインがあんなワケワカランクズ男の所に嫁ぐとか、ないんで、何か考えてみる」
「よろしくお願いします、と言いたい所ですが……関係の方は進んでおられます?」
「えっ!? それは・・・そのぅ~」
「ええ~! 成人の儀も終わらせましたし、短いながらも死線を超えて苦楽を共にした仲でしょうに。もうとっくの昔に開花してズブズブの共依存になって(ばきゅ~ん)(ずきゅ~ん)(ぽぴーーーーー!!)(ミセラレナイヨ)(あなたは18歳ですか YES)みたいになっているものかと」
「いやいやいやいや、確かにメッチャ美人やし、性格ええし、何かいろいろとイケてるんはそうやけど、オレらの時代に換算したら2年ぐらい前はランドセル背負ってた人でしょ!!」
「そうとも言いますね」
「あの~、さすがにね、もう2,3年ぐらいは、どっかな~、と思うんですよ、オレは」
「そうですか。それは残念です。せっかく、そろそろセイズを教えられる頃かと思っていたのですが……」
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