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第一話

本日の反省会、そして・・・

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本日の反省会、そして・・・

「それでは、私は彼らを連れて行きますので、これにて・・・そうそう。先ほど50gpほど入手しておられましたようですので、よろしければ、それで武器の方、聖別しておきましょうか?」

「聖別?」

「はい。この世界には魔法の武器でなければ傷つかないタイプのモンスターが結構います。悪霊とか悪魔とか悪い妖精とか、そのようなモノに対抗する手段の一つです。魔法の武器や銀の武器などと比べると効果は限定的ですが、資金的に厳しい人にとって常套手段ですね」

「やってもらえるならありがたいんだけど、確か、この世界の最低の魔法武器+1ですら1万gpとかするはずなのに、随分安いな」

「はい・・・そうですね。現代日本の感覚ですと、神社で買うお守りぐらいのイメージでしょうか? 貴方のいた現代日本では目に見える程の効力は感じられなかったかもしれませんが、こちらでは当然、そのようなものにも効力が発生しますので」

「なるほどなぁ・・・日本の民間伝承でやってるようなヒイラギ+イワシとかでもある程度効果がある、みたいな感じか」

「はい。で、聖別すると、効力としては、本当に、ある種の魔物に対してもダメージが与えられる以外の効果を持たない。魔法消去などの手段を受けた場合、確実に消去される。あまりに強力な存在だった場合は効力がない。通常、1季節分ほど効果が持続するが、あまり多用すると持続時間前に効力を失う場合もあり得る、とこんな所でしょうか」

「という事は、もう1本、別で武器を持っといた方がいいってやつか」

「そうなりますね。武器を複数持っておいて、相手によって使い分けるのは、ファイター系の人の基本ですね」

「50全部持っていかれるのは少々つらい気もするが、あった方がいいだろうから頼んでおくか」

「はい、それでは確かに。明日にでも取りに来てください。それでは私はこれにて」

 と、ミリアは去っていった。

「さて。我々もそろそろ解散するとしよう。最低でも一晩ぐらい考える時間は必要だろうし」

 リッチパイセンもその場を立ち去る。

「やな・・・さて、オレらはどうしよう」

「ボク達は、お風呂に入ってから帰るよ。さすがに一度、あったかい場所でゆっくりしたい」

「せやな。ここの方が施設が充実しとるからな…ぎんちゃんも今日はゆっくりしていきや」

「は・・・はぁ・・・そうですね。あまりのんびりしている時でもないのですが、今日はもう遅いですから仕方がありませんわね」

「ぁぁ~風呂かぁ・・・確かにここの風呂は大したもんだよなぁ・・・オレもひとっぷろ浴びてから、と言いたいけど、ちょっと下で腹の中に何か入れてからにするわ」

「うん、じゃあまたウチで」

 クライン達と別れた君は、下の大広間をブラブラと散策する。

 この近隣ではほぼ唯一の遊ぶ場所であり、冒険者や魔物狩り、賞金稼ぎ、その他、武力を必要とする人達にとって必須組織である魔術師組合と神殿が存在する最北端。しかも、今の時期は魔物発生率が上昇する=仕事が多い、とあって、いつも以上の盛況である。

 今の君は、ここでたむろしている彼らの足元にも及ばない、取るに足りない存在かもしれないが、とにもかくにも生きて帰って来られた。この喧噪をブラブラしていると、ようやくそれを実感できる。

 今回、簡単な依頼と思って引き受けたものの、今の君の実力では野生動物と戦う程度の事でも危険であった。とはいえ、どうにかそれを切り抜けられた。こういうのを繰り返していくうちに、強くなっていくものなのかと、改めて思い起こしていると

「よお、外に行ったんだって?」

 オーバーマイソロジー・ヒーローがいた。

「ははは、いやぁ~・・・全然、ダメでしたよ」

 彼の方に視線を移すと、その隣に、これまた見目麗しの美女が2人いた。

「!? 日本人? ですよね。2人とも」
「ああ、那由多と阿庾多のことか。ウチのvs強敵用秘密兵器。今年はちょっと冷える=魔物多そうなんで、念の為に呼んでおいた」

 1人は白小袖に緋袴。腰に太刀、1本歯の高足下駄といういで立ち。全体的には巫女さんのそれに近い。
 もう1人も基本的には白小袖に緋袴だが、太刀ではなく祓串。
 身長を除くなら、全体的な雰囲気は似通っているあたり、恐らくは姉妹なのだろう。ちなみに、太刀を佩いている方が背が高い。
 君に軽く会釈して、半歩ほど下がった場所で控え直す。

(いやしかし、これはまた。黒髪巨乳の和装美人って、どんな場所でも一人はいるもんな・・・とはいえ、日本人。こんな時代に? まぁ~、この人の場合、ある意味なんでもありかもしれんけど…)

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訳注:この時代。既にシルクロードは存在しており、東西の交流もごく普通に行われていた。後漢書の中に「大秦国王の安敦(ローマ帝国のアントニウスの事と言われている)が使者を遣わせた」という記述が存在している。
 中国側からは主に絹、鉄、ニッケル、毛皮、茶、神、火薬などを輸出しており、中国は逆に、毛織物、絨毯、宝石、馬、などを輸入していた。絹は特に、金と同様の価値があった。
 そして、シルクロードの東の終着点は日本である。当時の日本は、魏志倭人伝などに少々名が出てくる程度でしかないものの、その少ない資料から推し量れる範囲で言うのであれば、中国王朝の権威を以って自分の国の権威を高めよう(金印貰ったり)としていたり、中国や朝鮮半島の動乱に対する情報を入手し対応するなど、我々が想像している以上に外交を行っている節がある。
 以上の事から、記録としては残っていないかもしれないが、恐らく、日本から西洋世界へ赴いている人間もいると判断できる・・・この世界は、魔法あるしね。バケモノも出るけど。

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(はい、解説ありがとうございます)
「どうした?」
「いやいや・・・しっかし、この世界。敵、強すぎでしょ…」

 苦笑いを交えつつ答える君。2人して適当に空いている席に腰かけ、料理なんぞをつまみつつお話の態勢に入る。

「いや、まぁそんなモンだって。現代日本みたいに命の危険なんざほぼ考えなくてもいいような世界からやってきて、生きて帰ってきただけでも合格だよ」

「それはそうかも、っすけど・・・」

「もっと『カッコよく』戦って美しいお話にできたんじゃないかってか? いや、無理だって。そんな最初っから何でもかんでもが思った通りにうまくはいかんって」

「まぁ~、そらそうなんでしょうけどねぇ…でも、もうちょっとこう~…そう、そうだよ。この世界も、どうも『ステ』とか『スキル』とか『レベル』とか、そういうのがあるっぽいから、そういうのがオレにもあったら・・・」

訳注:「ステ」=ステータスの略。主に能力値を指すのだが、攻撃力とか防御力などの数値まで含む場合もある。作者やゲームによってそれが指すものの意味が変わるのに注意。この世界では能力値、アビリティースコアを指すものとする。

「スキル」=技能と訳される。これもまた世界や等によって適用される範囲が異なる。この世界ではそれまでの人生経験や生活習慣、学習等で学ぶ事で身に着けた様々な技術の相称。

「レベル」=主に強さの指標。ダンジョンの脅威度や魔法の強度などに使用される場合もあるが、人に対して使う場合、おおむね、その人間の総合的な戦闘能力を示す指標になる。

「あるよ」

「へっ!?」

「ぁぁ~・・・そういや、現代日本人だったな、おめぇは・・・その~、あるにはあるけど、おめぇが思ってるような形であるわけじゃねぇって所だな」

「ちょっと詳しく聞きてぇっす」

「そうだなぁ…まぁ、ここから先の話はメッチャ怪しい話なんで、参考程度で聞いてくれると助かるんだが・・・」

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 そもそもが、「レベル」にしろ「ステ」にしろ「スキル」にしろ、なんで数値化するのかって話なんだが・・・
 例えばステ。力の数値が~とかって話だが。10kgの物を持ち上げられる奴と、20kgの物を持ち上げられる奴だったら、そら後者の方が、力の数値が高いって思うよな。

 でも、例えば10kg持ち上げられる奴はその状態を20分維持できるけど、20kgの奴は一瞬しかできねぇってなったらどうだ?
 例えば10kgを肩まで持ち上げるのに1秒だったとして、20kgの奴は0.5秒だとしたらどうだ?

 みたいな感じでな、力、みたいな比較的わかりやすい数値ですら、そこまで単純じゃねぇってことだ。
 でも、やっぱり10kg持ち上げられる奴と20kg持ち上げられる奴だったら後者の方が力が強い、ってのも絶対の真理なわけで。

 なので、とりあえずの基準みたいなのを作って数値にして見える化するなら、その指標に従って比べる事ができるわけだ。そしたら、アイツはどれぐらいってのが何となくわかる。
 でも同時に、それが絶対の差じゃねぇってのもわかるよな。条件が変わったら、必ずしも指標通りの数値にならねぇんだから。

 だからまぁ、そういう事だよ・・・そうだなぁ…現代日本人だったら、車とかのカタログスペックを並べているようなもんと思ってくれりゃあいいんじゃねぇの。エンジンの馬力がある方が基本的には強い? 速い? かもしれんけど、でも絶対じゃねぇだろって。

 「スキル」とか「レベル」とかもおんなじ感じっちゃそうなんだが・・・「レベル」周りは特にひでぇな、と。

 なんかよ~知らんけど、他の世界に行った時にな・・・「オレはLv9999だ!!」とか、基準もなんもないのに言われてもな。言うだけだったら誰でも言えるわ、アホ、となるわけよ。君の世界の9999Lvが実は俺らの世界の5Lvにも劣る場合って往々にしてあるし。で、実際、戦ったらコケ脅しにすらなってないわ、クソが、みたいなのばっかりだし……

 「Lv」って指標は特にそうなんだが…順番が逆なんだよ。「Lvがあるから強い」じゃなくてな、「強いからそのLvになっている」なんだよ。この世界以外だったら、ここが逆になってる奴が大変多い。まぁ~、そもそもが奴らの言う「Lv」の指標そのものが、指標になってない場合がほとんどなんで、アテにならんのだけどな。

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「とまぁ、そんな感じ」

「ぁぁ~、なるほどなぁ…言いたい事はすげぇわかる」

「もうちょっとわかりやs」

 予備動作0 真正面から鉄拳攻撃

 当たり前の話として、君は全く反応できない・・・

「とまぁ、今のお前だったらこうなるわけだ。ちなみに、今ので大体、矢が飛んでくるぐらい(訳注:秒速100m前後。時速に直すなら約350~360kmぐらい)の攻撃なんだが」

 寸止めであった。

「いや、オレ初心者っすよ。いきなり奇襲とか無理に決まってるじゃないっすか!」

「と思うだろ。なら、次は今からさっきと同じぐらいの速さで攻撃するんで何でもいいんで何か反応してみな」

「ウッス」

 なんとなく構えのような物を取って、君は攻撃を待ち構える。

「いくぜ」

 攻撃!
 寸止めは寸止めだが、今度はコツンというぐらいには接触させる。

「へっ!?」

「とまぁ、こうなるわけだ。やっぱり何もできんかっただろ。それがフツーの人だから。来るってわかってても、そうそう攻撃に反応なんかできん」

 戦闘を経験した事がない人が、このように実際に攻撃に対して反応できるようになろうとした場合、たとえ攻撃が来るとわかっている状態からでも、反応することは非常に困難である。しかしながらそのような状態を想定できない読者諸兄も大勢いるだろうから、もう少し詳しく解説しておく。

 現代日本の日常生活において「攻撃」にさらされるような事態になるというのはほぼありえない。とはいえ、比較的近しい状態は多々存在する。主に突発的引き起こされる「事故」はそれに相当する状態であろう。思い起こして欲しい。自身が事故に見舞われた時、もしくは他人が事故に合いそうになった時、君たちは反応できたであろうか?
 少なくとも筆者は、単車で事故って崖から落ちた時、「あ、落ちる」と感じられても、そこから何か反応するより先に、単車ごと転がり落ちていた。フツーの人というのは、まぁそんなもんかと。

 また、来ると分かっていても反応できない類の状態というのは、学校のスポーツ等で例えばフライをキャッチする時とか、バスケで味方からパスを受け取る時とかが近いだろう。運動部出身の人とかがそれなりに反応し適切な動きをするのに対し、体育の授業だけでしか経験のない人だと、来ると分かっていても体が反応すらできてない事例をみた事があるだろう。

「でもなぁ・・・君ら、その~、『転生』とか『転移』とか何か知らんけど、そういう奴らってさぁ~。何か変な能力ゴテゴテ持ってるんか、なんでもいいんだけど『オレのこの即死魔法が当たりさえしたら勝つ!』とか『いや、オレ未来見えるんで攻撃とか当たらないです!』とか『達人の技をコピーできるからあの程度の奴、楽勝っす!』とか、まぁ、そういう『お前はアホか!』と言うしかねぇようなくっだんねぇ~理由で勝手に敵に突っ込んでいって勝手に死んでく奴ら、アホ程見てるんで」

1:即死魔法を「当てる」という工程がある時点で、近づくより前に飛び道具で死にます。

2:未来が見えても上記の理由により反応なんかできません。

3:達人の技をコピーできても、君の体はその達人とは「造り」が違うし、そもそも命のやり取りをするという心構えがない以上、動けません。

(う~む、フレイアの館で最初に何か渋ってたけど、そういうのを見てるからってのもあるっぽいなぁ…オレが思っているより転生とか転移とかしてる人いるっぽいし)

「と、横道にそれたな…でだ。これが修練を積んでいくと、攻撃が来た時に『飛びのく』『盾で受ける』『剣ではじく』みたいな感じで、正しいかはともかく、攻撃に対して何か反応できるようになる」

1:飛びのくにしても、後方にスペースがあるのか? 回避行動間に合うのか? 腕を動かすぐらいまでしかできないんじゃないんだろうか? 飛びのくにしても、後ろ、右、左、大胆にも前に飛んで距離を詰める?

2:盾で受けるのは確かに一番無駄が少ない方法ではあるが、相手の攻撃を盾が受けきれない場合、盾ごと粉砕されないか? その一刀を盾で受けられたとして相手が次の攻撃を繰り出すまでの間に態勢を立て直し、盾で受け流せるように戻せるのか?

3:剣で受け流すにしても、相手の攻撃が強すぎた場合、その攻撃で剣を叩き落されつつゴリ押しされる危険性はないのか? そもそも剣で攻撃を受け流そうと思ったら相手の攻撃をある程度見極められてないとできない。その1撃がフェイントで君が剣を受け流す為に無駄に空振りした所を狙って本命を打ち込んでくる可能性だって十分ある。

「とまぁ、ただ単にファイターが1vs1で殴り合いするだけっつっても、瞬間、これぐらいの判断を強要されてるわけだ。でしかも、戦闘するってったら、フツー1vs1じゃなくて多数vs多数になるだろ。だから、目の前の奴の事だけじゃなくて他の奴の様子だって見てないといけないし、仲間との連携だってある。ここに更に魔法とか特殊能力とかマジックアイテムとか罠とか増援とか、いろいろあるんだから。戦闘はおろかまともにケンカすらした事ねぇ奴が、ちょっと人よりスペシャルな力をもらった、程度でシャシャリ出て来るんじゃねぇよってな」

「あ…あぁ~うん。スンマセン、転生者とか転移者とかが、何かいろいろ迷惑かけてるようで…」

「まぁ~迷惑っちゅか、何ちゅうか。ちょっと『力』を手に入れたってだけで何であそこまでイキがれるのか、オレらには全く理解できねぇ、てそんだけ。勝手に死んで、1週間もしたら『ああ、そんな奴もいたなぁ』ってなってるだけだから」

「でだ。戦闘経験を積んでいくうちに、回避にしろ盾にしろ剣で受け流すにしろ、だんだん『正しい』反応ができるようになっていって気が付いたら強くなってる。そういうのを示す尺度的な意味合いで『Lv』みたいなのを数値化できるよな、って話。まぁ~オレもなぁ・・・」

 と言いながら、那由他の方を見やり

「あそこまで行くとよ~ワカラン世界に突入しちまうから」

「どういう世界になるんでしょ?」

「例えばさぁ、彼女が踏み込む→相手が半身を引きながらけん制攻撃を繰り出す→それをさばきつつもう1歩前進→はじかれた相手が態勢を立て直しつつしかしながら攻撃をはじかれた事によってある程度彼女の剣の軌道が固定できるから左手でそれに対して対応→・・・みたいなのを0.0001秒単位で組み立てて相手側と手順を指し合う、みたいなことをやっちまう、らしい」

 ちなみにファンタジー世界のヒーローの切り合いだから、ではない。ここまでの事は、いはいるゴールドメダリストレベルのフェンシングの選手とか剣道で免許皆伝レベルの人であれば程度の差はあれ、誰でもやる事である。人間の修練の力は、魔法とかに頼らなくてもその領域にまで到達する。いわんやこの世界は魔法ありモンスターあり、神や悪魔あり、何でもござれの世界なのだ。剣技を武器とする剣豪がどこまでやれるのか? いはいるアニメや漫画のスーパーヒーロー戦闘していても全くおかしくない、というのも想像に難くないであろう。

「はぇ~」
「まぁ、生き残ってりゃ、そのうち人並ぐらいにゃなれるだろ」


 同じ頃。神殿内大浴場。
 主に、有料の公共浴場部分と、(現代日本でいう所の大人のお風呂屋的に利用される)個人的に利用する部分、神殿関係者が利用する部分に分けられている。
 構造的にはローマ様式のそれをコピーした、プール並みに広々とした大理石張りの長方形の浴槽。その周囲を優美な柱が一定間隔で並び、2F部分は渡り廊下を形成し、さらに上層部をローマンコンクリートを利用した天蓋で覆う。
 魔法の力をふんだんに利用できる場所なので、水資源の循環、余熱などの風呂設備の運用に関しては現代のそれと大差ない。

 クライン達はこの神殿関係者が利用する部分で湯あみをしつつ、こちらはこちらで今回の外征についてのお話をしている所であった。
 といっても、そこまで討論とか議論のようなものではなく、ぼ~っとしている時に何となく口から出るような雑談のような形ではあるが。

「あ~っ、やっぱコレやな~。なんぼ魔法で守られとるっつっても、体の芯まであったまるんわ、やっぱええなぁ~」

 どちらかというとリアリストなシグトゥーナも、こういう時は素直に気分に従っている。

「そうだねぇ・・・こればっかりはここじゃないとできないからねぇ~・・・」

 クラインもいい感じに溶けてた。

「北溟の地(ローマ帝国側からみたスカンジナヴィア半島の呼び名。北の冥界の意味)とは聞いていましたけど、この施設。大したものですわね」

 自身が想定していたよりはるかに立派な施設だったのだろう。作りを確認するように見まわしながらイエズストニールが入ってくる。

 今、この場には彼女たち以外いないので、必然として三者三様の美少女が各々のやり方でくつろぎだす。

 クラインは石鹸を手に体を洗っている所だ。人生50年時代であるがゆえなのかまでは分からないが、第二次成長期を迎えたその体は見事なまでに発育していた。しかしながら、それ以上に発達する余地を残したライン。誰に気兼ねする必要もないこの空間で、それを惜しげもなくさらしていた。

 シグトゥーナはこの広い浴槽を利用して自然に浮かび上がりつつ、何をするでもなく漂っている所である。クラインが優等生的な優美というなら、シグトゥーナは愛嬌と表現するべきか。

 イエズストニールは、とりあえず冷えた体を温めるべく、2、3度どかけ湯した後、ちゃぽんと湯船に身を沈める。エルフ特有の華奢な体つきではあるものの、これまた女性特有の見事なS字のライン。

 女3人集まれば、とも言われるが、誰ともなく話が始まる。

「そういや銀ちゃんはなんでこっちまで来たねん?」

「その銀ちゃんというのはちょっと…」

「まぁええやん。そういう意味なんやし」

「それはそうですが・・・こう、距離感と言うか・・・まぁよろしいですわ。ここに来たかったのはこの辺の仲間が最近、ゴブリンの集団にちょこちょこ襲撃されているので、それに対してウプサラまで陳情をしにいって欲しいとのことでしたので…そういう貴方達はどうしてあそこであの方を探しておられたのです?」

「それは、『成人の儀』の課題としてやってたんだけど、まさか人が凍っている上に魔術書が持ち出されていたとは思わなかったよ」

「いやホンマに。けど、パイセンの感じからするなら、た~ぶ~ん、ウチらより強い人らにアレをやらせてたら、魔術書を見つけた時点で、それを持ち逃げして他の場所で高額転売するかも、みたいなのまで考えての事やったんやないかなぁと」

「そういうのもあったんだろうね。でも、ボクも今回やってみて思ったけど、夜の野外の危険性は思ってた以上だったなぁ」

「エルフではないのですから、それは仕方がないと思いますけど・・・それに、もう終わった事ですので生きて帰って来られた、それでよいではありませんの」


「勝ったとしても、次戦う時にもっとうまく立ち回れるかもしれない、負けたとしても、生きて帰って来られたなら、原因を見つけて再戦に備える。重要なのは勝った!負けた! だけで終わらない事。そこで終わるようでは成長はない」byマチルダ


「なるほど、それは確かにそうですわ」

「というのを踏まえて。今回、初めて夜の森に出たわけだけど、魔法があるからといっても、そううまくいかないものだなぁ、と」

「まず、狼の群れをもっと遠くから発見できていたら、そもそもの展開が違ったものになってたわなぁ。これはドルイドのウチが何か考える所やったな」

「あのクリエイトウォーター。あれはボクらにしたら盲点だった。普段生活で使ってるから「水を出す魔法」っていう固定概念にとらわれてしまっていた。彼がその概念を崩してくれなかったら危なかった」

 君の名前が出た所で、必然として、話題が君の評価に変わる。

「アイツなぁ…いつも寝とったから、どういう奴なんか全然知らんかったけど、今回、初めて一緒に行動したわけやが・・・」

「まぁ~、基本的にはAFO、アフォ、だよね……でも、何か光る時があるんだよねぇ…」

「そぅ・・・なもんで評価に困る」

 などとやってるとマチルダが入ってくる。
 ほぼ間違いなく仕事場から直接こちらに来たのであろう。黒ベースのチャイナドレスも後ろで纏めている髪もロングブーツも肘まである手袋も全て、何か粘つく液体にまみれ、下地が微妙に透けて見える。
 オスの本能を直撃する格好ではあるのだが、粘つく液体が放つ臭気のせいでそれが台無しになっている。ので、それらを綺麗に流して次の仕事に向けて準備するべくやってきたのだろう。

「あ~、まったくメンドクサ・・・」

 軽く見まわして、いつものメンバーだけでなくエルフがいるのを発見し、

「あ、一人増えてる」

 イエズストニール、軽く会釈しつつ

(どういう方ですの?)

(マチルダ先生。さっきからちょこちょこ話に上がってるボクらの先生)

(まぁ~、仕事が仕事やさかい、今日はまた客がハッスルしおったんやろうなぁ…と)

(? 失礼ですけど、ここでの教鞭とか冒険者とかがお仕事ではありませんの?)

(う~ん、それもあるんだけどね。ここで先生やってるのって、もののついでらしいし)

(そもそも、冒険者って仕事とちゃうしな)

(ぁぁ~、まぁ~、それはそうかもしれませんが…では一体・・・)

(詳しい内容はボクらもそこまで知らないけど、何か、男の人と女の人が医学的に言う所の生殖行為、ってのをする仕事らしいよ)

 ごふっ!!

(いや、こう言っちゃなんやけど、あんたらのボスはアレより多分ぶっ飛んでるでるで)

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訳注:イエズストニール登場時にも軽く触れたが、エルフ達の故郷であるアールヴヘルムの長はフレイ=フレイアの兄である。フレイ、フレイア、ニョルズ(フレイとフレイアの父)は3人で1纏まりの神なので、つまり、フレイアもエルフという種族に深いかかわりがある。
伝説上、エルフ族が暗に美男美女であるというのもこの辺から来ていると想定される。

そしてフレイアであるが、エッダ、ロキとの口論にて「すべての神々、妖精、小人、巨人の愛人だったではないか」とののしられるほど、また、彼女が身に着けている富の象徴たる首飾り「ブリーシンガメン」をドウェルグ達から入手する時、文字通り「身体で」支払ったりと、現代日本とは倫理観が違うとはいえ、結構、やりたい放題である。

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(あ~・・・ぁぁ~……うん…そんなお話もありましたわね…)

 そんな3人のヒソヒソ話を知ってか知らずか、マチルダがいろんな汚れでドロドロになった服をテキトーに脱ぎ捨てつつ、

「服の方は魔法でテキトーに処理しとくんで、どっちでもいいわ。体についてるやつをどうにかしたい・・・あのヤロー・・・」

 一人でやるのが大変なのはわかっているので、手伝う3人。
 身支度を手伝いながら今回の外征のお話になる。外を歩く時の難しさ、魔法の使い方の工夫、現代日本人である君に対する評価などなど。話しているうちに先ほど起こった

「・・・という事があって」

「ぁぁ、ミリアのアレ見たんだ」

「リッチパイセンから説明はされたけど、あれは?」

「まぁ~、アレはあんたらにはまたチト早いんで、軽い所だけになるけど・・・アレは『セイズ』っていう魔術になる」

「『セイズ』?」

「ぶっちゃけ『性魔術』」

 ぶほっ!

「まぁ~、魔法を発動させる時の意識の構築をする方法論の1つとして、手っ取り早いんで。例えば魔法の呪文を唱えたり、仕草をしてみたり、文様を描いたり、いろいろやるけど、ああいうのも結局、魔法の発動を助ける手段としてやってるわけで。そういうのがスッとできる人はそういうのがなくてもできる」

「専門用語で『変成意識』っていうんだけど。瞑想してみたり、延々踊ってみたり、場合によっては変なヤクやってみたりして、魔法を使える意識状態、みたいなのを作り出すの。で、ヤリまくって意識をぶっ飛ばすってのも方法論としてあるわけ」

「でま、フツーの人はその辺で終わっちゃうんだけど・・・『セイズ』の神髄は、そのもっと向こう側にあってね。魂の領域を扱う技術になる。広い意味では簡単な回復魔法だってそこにあたるわね」

「というぐらいでお話おしまい。こっから先は大人になってから、かな」

 イエズストニール、微妙に不信感は抱いていたものの、魔術の師としての能力は確かにあるのだなと納得し、

「はぁ~、という事は、この何か体に描かれてる文様類もそれなりに意味があるという事ですの?」

「ぁぁ、コレ? いんも~ん」

「ごぼぁっ!」

 予想の斜め上の回答でブッ叩かれ、再び、引き気味となる。

「いやぁ~、やっぱこういうの刻みたがる客、多いんだわ。この正の字とか、落書きとか。ゴチャゴチャしすぎると書くスペースがなくなるんで、テキトーな時にまとめて消すんだけどね~」

「まぁ~、中には性の神みたいな奴らが刻んでるホンモノあったりするんで、アレだけど」

(ええ~っと、質問しておいてなんですが、どう反応したらいいのか困るような答えですわね)

(ボクからは何とも・・・好きな人は好きなんじゃないのかなぁとしか。ずっとこの仕事続けてる人もそれなりにいるし)

(まぁ~、変な触手みたいなんがビチビチ跳ねてた時とか腹ボゴォみたいなんもあったりするんで、それよりはマシなんちゃうんかなぁ・・・)

(ぇぇ~・・・なにそれ、この仕事、コワスギ・・・)

 弟子たちのヒソヒソ話も聞いているのか聞いていないのか? 一人、勝手に愚痴り出す。

「いやまぁね、やってる時はいいんだよ、やってる時は・・・アホになって 白目剥いてアヘ顔ダブルピースからの IYAAAAA!! HAAAAAA!! ほおぅぅぅぅうぅ!! 感度3千倍!! とか、ね……」

「で、事が終わってさぁ~、こう、賢者タイムっての、でボ~っとしながら『ああ~、コレ掃除する人、大変だろうなぁ…』みたいなのを思ってたら、向こうもボツボツと自分語りっつう体で愚痴ってくるわけよ・・・」

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 オレ、悪魔59号。地獄の領主の下で日々、戦ってる。なんで戦ってるのかとか、もうわかんね~。
 地獄の領主同士の権力闘争で殴り合いしてるのか? それとも他の勢力と殴り合いしてるのか? はたまた地獄に変革を起こすだかなんだかだのか?
 理由なんかど~でもいい。ただ、目の前の敵を殴っておかないと生きていけねぇ、とか、倒したら倒しただけ強くなって昇進するとか、そんぐらいの意味ぐらいしかねぇ。

訳注:この世界において、悪魔の1軍団の数は6レギオンで1軍団。1レギオンは66大隊、1大隊は666中隊、1中隊は6666体の悪魔から成るので、1レギオンの構成員は、66×666×6666=2億9301万0696。これの6倍で総計17億5806万4176体。とにかく膨大な量の悪魔が地獄、冥府に存在することになる。

 で、そんなオレが楽しみにしてるのが、いつか地上に出て、この本に書かれているみたいに、人間の女騎士とかエルフとかを肉奴隷にしたりしてぇなぁ、と。人間なんてオレ達悪魔と比べたら取るに足りねぇ奴らなんだから、こんな永久に続く不毛な殺し合いの現場からとっととおさらばして地上でよわっちい奴らを相手に無双してぇ~・・・

 ある日、そんなオレに転機が来る。3千gpほど払ったら地上に連れて行ってくれるという話を持ってきた奴がいた。
 地上と地獄を行き来しようと思ったら、地上は異世界扱いになるから普通のテレポートでは移動できねぇ、テレポートより高度な手段か、任務を授かって強い存在の力で出してもらうか、地上とつながっている門を通るか、ってぐらいしかねぇってのは知っているから、ホントかよってなったけど、どうも地上慰安ツアーみたいな感じで、行く奴らを集めているっぽい。

 で、そのツアーに参加して、オレ達は地上に出たんだよ・・・その時は、まさか、こんな地獄を見るなんて、まったく思ってなかったけどな……

 ツアー参加客は66人。便宜上、1号~66号って数字を割り振られてた。
 で、地上に着いた時はうれしくて、わあ~っって感じでみんな思い思いに散ってったんだけど・・・周囲50kmぐらい、野生動物以外、何もいねぇんだよ・・・

 あの~、どうなってんっすかねぇ~、とツアーコンダクターっての? に話を聞こうと思って戻ったら・・・逃げられてた・・・

 「あの野郎!」となったけど、まぁ、ここ地上だし、オレら悪魔が地上の生き物ごときに遅れをとるわけねぇんだから。時間はたくさんあるし、ま、ゆっくり人間でも探そうぜ、と・・・

 それにしても、外は「太陽」てのがサンサンと照り付けてる場所、って聞いてたけど、何か、ずっと暗いよなぁ・・・どうせ夜目効くんで関係ねぇけど、ってやってたら、野営してる奴らを見つけたんで、意気揚々と向かって行ったわけよ。

 どうやら奴ら、重装ファイター系の男、軽装ファイター系の男、エルフの女射手、司祭っぽい女、格闘家、魔法使いの6人。エルフの射手と司祭っぽい女はまぁまぁイケてそう。よし、早速ひゃっはあするぜ、と襲い掛かったんだが・・・

 ドス!!

 アレ!? ・・・オレじゃないル・ロ・レ…

 百一年と一日後にまた会おう!!

「に・・・20号!!」

訳注:百一年と一日後にまた会おう、とは。悪魔は、地上で殺された場合、特殊な事例を除き、厳密には死ぬ訳ではない。地上から放逐され、百一年と一日の間、地上に戻って来られなくなる。もし、完全に滅ぼすつもりがあるのなら、冥府、地獄、魔界などまで行って、そこで殺す必要がある。
 とはいえ、百一年と一日の間、地上に戻れない、は事実上の死亡宣言である。しかも、そのような形で地獄に戻った場合、任務などを受けて本当に地上に行かなくてはならないような状態になっても、それができないので、その分、扱いが軽くなり出世の道も断たれるというオマケつきである。

 オレ達はこの時に、知る事になるんだ・・・人間は決して貧弱で一方的に遊び道具にできるような、そんなヤワな奴らじゃなくて、むしろ、オレ達みたいな下級悪魔程度ではどうにもならねぇ奴らだってのを…

 20号は、多分、エルフの矢玉でやられたんだと思う。後は、もう、一方的な虐殺に近かった。

「チッ!! なんで、こんな所に悪魔が出やがる!!」
「サウィンの日は過ぎてますからね、そう不思議でもありませんよ」
「ま、アレだ。オレの新しいマジカル(魔法の武器)の試し切りでもさせてもらうわ」

 奴らがそんな会話をしている間にも33号、44号、48号が

 百一年と一日後にまた会おう!!

「無駄口たたかずに、さっさと手を動かす!」
「ああ~、コイツらって、何、効いたっけ? 耐性持ちはなぁ…」
「それだったらオレとエルフを加速してくれ。手数で叩き潰す」
「OK」

 瞬間、倍速化したエルフの攻撃で更に、3,19,25,26,28,32,47,56号、とバタバタと倒されてって、ようやく接敵したと思ったら、加速したファイター2人の攻撃で1,4,24,35,38,43,47,60号まで

 百一年と一日後にまた会おう!!

 これはダメだと、せめてエルフと女司祭だけでも連れ去ってという風に作戦を切り替えて、取りつく所までは行ったけど・・・

「なん、だと!! 悪魔避けの護符、だと!!」

 女司祭には触れない!! じゃあエルフの射手はというと、とりつく直前に格闘家に取り押さえられて・・・その時まで格闘家の奴が女だって気づかんかった。

「うえぇ~~っ!! コイツ、女だったんか!!」
「いいか、悪魔Boy! そこの司祭はフレイア教の奴なんで、見た目がいるからまぁわかる。で、エルフの奴も、エルフっていうだけで見た目優遇されるんで、しゃ~ない。でもな、普通はな、オレらのAPP(アペアランス、見た目の美しさの数値)の数値が高いからっつうてもな、それで敵は殺せんのだ!! OK?」
「あ、はい・・・」

 百一年と一日後にまた会おう!!

「じ、じゅうごご~う!!」

 もうここまでボッコボコにされたら逃げるしかない。でも、脱出する間に14号が捕まって…

「よし、でかした!」
「コイツ、どうやったっけ? なんか有用なパーツ(体の一部の意)あったっけ?」
「とりあえず尻尾とか爪とかは毒ありそうやから、回収しとっか」

 ぶしゃあ!!

「ギギギ、ぎゃあああああ!!」

 もう、どっちが悪魔かわかんねぇよ

 後は散々だった。

 せっかく村を発見しても、そこかしこに妖精避けやら悪魔避けやらのお守りや護符があるせいでまともに屋内に入れねぇ

 せめて動物でも捕まえて食料に。まさかマジカル持ってない野生動物にまで負けるはないだろうと思ったら、狼の群れにウィンターウルフがいて、アイスブレスで叩きのめされ

 み・・・みず・・・だけでも・・・なんだけど、川も湖も凍結してるから水すら満足に手に入らねぇ・・・

 そして相変わらず、ひとがいなさすぎだろ、ここ!! 100km進んで村3つとか、どうなっとんじゃあ!!

 そんな時。オレ達に希望の光が・・・この町の灯が見えた時には感動したね。
 この町も、そこかしこに悪魔避けがあるっちゃあるけど、本当なら強固な結界で守られていそうな神殿が、何でか知らんけど悪魔も出入り自由っぽい。
 で、近づいてみて驚き。何だ、この神殿。ただの大人の遊び場じゃねぇか、と。そら、これだったら悪魔でも侵入OKだわ。

 ほかにもここまでたどり着けた奴がいて63号と合流できる。というか、ここしか大きな町がないので必然っちゃそうなんだが。

 で、2人で相談して、まぁ入るだけならタダだしと入って、また驚き、いや、もうこれはもう死んだと思ったね・・・地獄の侯爵様(Duke of Hell)がこんな場所におられるとか!

 速攻、ジャンピング土下座

 デューク様からしたらただのヒマつぶし程度のヨタ話ぐらいに聞いていたんだろうけど、オレらの身の上話を聞いて頂いて

「どこの手の物かは知らんが…これだけあれば、当面、困る事もあるまい」

 と、金貨100枚ぐらいを恵んで頂いて。これはもう、デューク様の一番の先兵として認められた証と、まずはこの金で遊んでからだぜ!!

(ゲッ!! しょっぱい悪魔の割に持ってると思ってたら、出資元はあの人の金かい!! あ~、ど~しよ、かなぁ…まぁ、私らが悪いわけじゃないんだけど…)

 で・・・派手に使って遊んだ後で言うのもなんなんだけど、この後、と〝・う〝・し〝・よ〝・う〝!!!

(いや、知らんがな!! そんなんで私に泣きつくなよ)

 とはいえ・・・このままでは埒があかないんで、私が一緒にデューク様の所に連れてって

「・・・余もな、ここに楽しむ為に来ておるのであってな、どこの誰の手の者かも分からぬ者の失態の尻ぬぐいをする為におるのではないのだが」

(はい、おっしゃる通りです)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 で、奴らがジャンピング土下座をしてる所を抜けてきた←今ここ

「いやぁ、悪いけど彼らじゃどこの世界でも無理だよ」

 愛想笑いを浮かべながら

(先生も大変だなぁ・・・)
(ウチ、ドルイドでよかったわ…そんな接客業、しとうないわ…)

 そんな事をやっていると、ミリア帰還。大浴場に入ってくる。

「やはりこちらでしたか」

「あ~・・・きょうはもうしんど~い」

「そうは言われましても。本日は那由多さんがヒーローのお相手をされてますので、我々の出番はありませんし、次の方がもう入室されてますので」

 ミリアの方も軽く湯あみをしながら身支度を整えつつ

「そういえば、次のお客様。『情弱から巻き上げた金で豪遊するのサイッコー!!』とか言ってたような……」

「・・・それ、ぜってぇ~乱闘になって、その後始末で今日が終わる奴」

「?」

「いやね、さっき・・・」

 軽く事情を聴いたミリア。表情は読めないものの、さすがの彼女もゲンナリ気味であるようだ。

「・・・ここでこうしていても永久に問題は解決しませんので・・・」

 外から コロシテヤルー!! の叫びが

「あやべ! 間に合わんかった」
「それでは私たちはこれで」

 大浴場から出る。

「そうそう。明日は民会がありますので、参加して下さい。議題は、最近、この辺を荒らしているゴブリンの集団についての対処についてだそうです」
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