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~三章 復讐の乙女編~
十七話 二人……!
しおりを挟む日は沈み暗闇深まる森の中、私達は先行するサンゴーの後を追いながら森の奥へ奥へと走る。
その視線の先──十数メートルほど離れたところを必死に走る犯人の背中を見つけて追っているのだが、地面は先日雨でも降っていたのか大きな水溜まりがそこら中にあったりして、柔らかくなったぬかるみをみせる悪路のせいで中々見えている敵に近付けない。
「待ちなさーい! 逃げても無駄よ!」
「……くそっ! しつこいやつらだ!」
「だぁ、はぁ、はぁ、ちょっと止まりな、さいよぉ……」
「犯人ハ疲レヲ見セテマス。ファイトデス、バラコフ」
諦めをみせない犯人は、疲れをみせながらもどんどんと深い森へ後戻りを考えることなくひたすらに走る。
しかしこのまま走り続ければスタミナの差で私は犯人を捕まえることができるだろう。仮に私のスタミナが尽きたとしてもサンゴーがいる。彼は機械故に疲れというものを知らないらしく、そのスピードが落ちることは無い。
距離が詰まるのは時間の問題。しばらく走ると森の道が切れるように開けた場所が現れた。犯人が慌てるよう突っ走った先、そこはちょっとした大きな池があり、これ以上は先に進めない……ようはどん詰まりな場所である。
「観念しなさい! もうこれ以上は逃げられないわ!」
「コノ池ガ袋小路デス。アナタヲ、捕獲シマス」
「はぁ、はぁ……。疲れたわぁ……。やっと終わるのねぇん。こいつ捕まえてさっさと町に戻りましょうよぉ」
私達が詰め寄ると、犯人は池を背にしてこちらを振り向いた。頭上には怪しく光る大きな丸い満月が犯人を照らす。青白い髪と白い肌、華奢な細い線をした身体で黒いタイツのような服を着た若そうな男であった。
「…………くく。ふふははは!」
男は自分が追い詰められておかしくなったのか、不気味に笑い始める。
「なにがおかしいのよ?」
「──理解不能。感情ガ壊レタノデショウ」
私は呆れた顔で言うと、男は片手を上げて言った。
「観念するのはお前らの方だ。この池に来た瞬間、お前らの負けは決定した」
「はぁ? この池がどうしたってのよぉ?」
「まだわからんか? ──この水の渦巻く音が!」
その言葉で、男の後ろの池が中心から大きく渦を巻き始めた。渦はみるみるうちに巨大な水柱となって逆巻きながらまるで塔の如くそびえ立ったのだ。
「池の水がぁ!?」
「コレハ──」
「あんた──逸脱ね!」
竜巻のようにぐるぐると回る池の水。今までにあったことの無い、自然の力を使うタイプの能力者に私達は驚き身構えた。
「そうだとも。俺は水芸師『アッピア』! 水を自由自在に操れる能力だ! ここに追い込んだのはお前らじゃない……追い込んだのはこの俺の方だ! 撃ち抜け! 『竜巻の水銃』!」
アッピアは上げた片手をこちらに振りかざすと、荒ぶる竜巻の如し水柱から無数の水の弾丸が勢いよく放たれた。
「速い! みんな気をつけて!」
「わわわわぁ!」
「バラコフ! 私ノ背中ニ隠レテクダサイ!」
無数の長細い水の弾丸を私は紙一重で避ける。サンゴーはとっさにバラコフを庇うと、いくつもの攻撃が彼の鉄の体に跳ね返るように当たる。
「サンちゃん大丈夫!?」
「──問題アリマセン。デスガ──」
バラコフが心配すると、サンゴーの体は敵の攻撃により所々がまるで蜂の巣のようにへこんでいた。
「俺の攻撃を食らって死なないだと!? お前も逸脱か? 本来なら鉄板さえも貫通する俺の『竜巻の水銃』を耐えやがった……。なるほどな、攻撃を避けたそこの女といい、少しはできるわけだ」
敵は少し動揺しつつも次の攻撃に移ろうとしている。状況は悪い。あの水の銃撃をどうにかしないと迂闊に敵の懐には潜り込めない。それに私はギリギリで避けられても、サンゴーはまたあの攻撃を食らえば今度は穴が空くかもしれない。
──短期決戦で行くしかない。勝負は一瞬だ。私が覚悟を心に秘めると、敵がまた片手を上げて水の竜巻がうねりをあげる!
「死ねえ! 『竜巻の水銃』!」
放たれた攻撃は先程よりも多い! 光線のような水の弾丸が避ける私の服をかする! 一方でサンゴーは両手でガードを固めながらバラコフを庇って耐える。
ガン! ガン! ガァン!
サンゴーの鉄の体に穴を空けんと水が襲う!
「ボディ損傷38%、防御継続不能マデ、アト20%──!」
「ひえええっ! サンちゃん頑張ってぇ!!」
バラコフは情けなくもサンゴーの後ろに隠れてこの猛攻を耐えるしかない。
「いつまで持つ! その体、穴ぼこだらけにしてやるよお!」
敵は己の優位に笑う。──そしてそれが油断、逆転のチャンスでもあると私は知っている!
「おおおおッ!」
私は水の銃の雨あられの中、舞うように避けながら距離を徐々に詰め──敵の懐へと一気に飛び込んだ!
「なんだとっ!」
「そこよッ!!」
まさかあの猛攻の中を切り抜けて突っ込んでくるとは敵も度肝を抜かれた。──私の拳が敵の顔面へと触れるあと少し、水芸師はとっさに叫んだのだ。
「こぉい!! バティータ!!」
叫ばれた名前、それに呼応するようにアッピアの後ろの水の竜巻の中から何者かが飛び出し、私に腹に蹴りをいれた──!
ゴッッ!!
「ぐっ……なっ……!」
鋭い衝撃と共に私は吹っ飛ばされ、そのまま離れた木にぶつかった。
「ヴィエリィ!」
「新タナ熱源反応有リ! 新手デス!」
私を吹っ飛ばした何者はストンと地面に降り立つと、こちらを細い目で見下ろした。
そいつは狐のような細くしまった顔でタンクトップのような道着を着ている。つんざくような髪をした金髪の筋骨隆々な男がふんと、鼻を鳴らした。
「なんだあ? アッピア、苦戦してんのか?」
「別に苦戦って訳じゃねえ。ただ二人の方が早い話しだ。そこの女、すばしっこくてな。お前に任せていいか」
「……いいぜ。ちょうど退屈してたしな。今宵は満月──楽しく戦えそうだ」
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「……もう一人いたとはね。油断してたわ」
私は木を杖の代わりにして、まだ身体に響くダメージを我慢してよろりと立ち上がる。
「女のくせに中々タフだな。いいね、嫌いじゃあない」
「──女のくせに? 私の嫌いな言葉ね。人を見かけで判断するんじゃないわよ」
「……気に入ったぜ。気の強い女は好きだ。なぜなら屈服しがいがあるからなあ!」
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