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~二章 献身の聖女編~
十話 遥かなる旅路
しおりを挟む「パウロ神父……。今までありがとうございました──」
「──神父様。安らかに眠って下さい」
町から離れた見晴らしのいい丘に私達は神父のお墓を作って、黙祷を捧げる。木で作られた十字架の下に花を添えて私は今までの神父との思い出を頭の中で反芻しながら、涙を流した。
「サビオラ。神父様はきっとこれからも見守っていてくれる筈だ。そのためにも俺達は神父様のためにも強く生きなくちゃならん……」
「うん……そうだね……。ずっと泣いてばかりじゃ私、また叱られちゃうね」
涙を拭って、ゆっくりと私は立ち上がる。ふと、お父さんの顔を見るとその目頭は赤くなっていた。辛いのは私だけでは無い。その事を胸に刻み、私達は神父のお墓に一礼をして町へと戻る足を動かした。
浮かない顔で私はとぼとぼと歩く。父はそんな私を見て声をかけてくれた。
「……サビオラ。あいつの言ってたこと、気にしてるのか」
「……気にしてない──と、言えば嘘になるかな……。でも、あの人は──」
先の戦いで、私は大きな疑問を抱えた。彼が死んだ後、私は町から離れた場所にお父さんとその遺体を運んで埋葬をした。
しかし、その時に彼の衣服の裏側にとあるバッジがついているのを見てしまった。それは教団の関係者にしか配られないバッジである。それも普通の信徒のバッジでは無い、教団の中でも地位の高い者にしか与えられないバッジ。
最初はパウロ神父のバッジを盗んだのかと思ったが、神父にはちゃんと自分のバッジがついてあった。
──音速のキエーザは、自分の事を聖ミカエル教団の暗部と言っていたが……その真偽はわからない。少なくともあのバッジを見るまでは私もお父さんも嘘だと思っていたが、いま私の心は強いショックを受けていたせいもあってか、その心はほんの少しではあるが揺れていた。
「裁きの門とか言ってたな、あいつ。ふざけた名前だぜ。なんで俺達が教団に狙われなきゃならないんだ」
「……そうだよね。教団の人なら私達を襲う理由なんてないもんね。たぶんあのバッジも、誰かから奪ったのかな……」
「ああ、そうに違いねえよ。世の中にはとんだ悪党がいたもんだな。あんな逸脱がいるから世間の風当たりが厳しくなるんだ。俺達のように平和に生きてる逸脱もいるのによ……まったく」
お父さんはどこか物悲しい顔をしてうつ向いた。
月明かりが背中を寂しく照らしながら、その影を引きずるように私達は帰路へとついた──。
・
宿へと着くと同時に私はベッドに倒れこむ。離れたベッドにはお父さんが大きな図体をごろりと預けている。身体は私が完璧に治癒したが、精神的にかなり疲れていたようで父はすぐにいびきをかきながら寝てしまった。
私はなんだか寝つけなくて、ベッドの横の窓から外を覗く。ポツポツと点く町の灯りと、夜空の星がとても綺麗だった。それを眺めていると先程までの戦いが嘘のように思えてくる。
私達は導を失った。もう行方不明者を探す依頼を報告することもできない。あのキエーザが犯人かどうかもわからないが、一つの疑問が生まれた。
その疑問を晴らす事こそ、この事件の解決に繋がるであろう。私はそう信じてやまない。明日からはこれまで以上に大変な日々が始まるであろう。そう予感せざるを得ない、神からの啓示のような念が頭をよぎり私は目を閉じた。
──朝の訪れが来る。小鳥が楽しそうに鳴き声を出すと、私はむくりと起き上がった。
「おはようサビオラ。……ちゃんと眠れたかい?」
「おはようお父さん。大丈夫だよ。身体は休めたよ」
私はさらりとした髪を耳にかけて、いつもより冴えた顔つきで父に返事をした。
「サビオラ、これからのことだが──」
「お父さん。私、やっぱり昨日の事が気になる。だから『バイエル』に向かおう」
西大陸最大の首都──『バイエル』そこは聖ミカエル教団の総本山があるとても大きな街だ。
「バイエル……。本気で言ってるのか?」
「私達はまだパウロ神父の依頼を達成してない……。この事件の真相を知るために、バイエルの大聖堂にいる『マテウス教皇』に会いにいこうよ! もしかしたらマテウス様なら何か知ってるかもしれない。仮に会えなくてもバイエルの街なら様々な人から情報が得られると思う」
「そうか──そうだな。よし! かわいい娘が行くと決めたんだ! パパが一緒に行って守ってやらなきゃな!」
「ありがとうお父さん!」
親子の行くべき導は運命った。それが神の意志なのか、己の意志なのかは分からない。しかし、二人はこれから待ち受ける未来が幸せなものと……そう信じて進むのだ。
この時より、物語の歯車は誰も意図せぬ方向へと進み始める。遥かなる旅路は、ふとした瞬間に現れる荒野の道だ。願わくば、親子の幸せを見えぬ何かに切に願う。只々──祈るのみである……。
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