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三人用台本

愛の語り手【男:女=1:2・GLファンタジー・30分程度】

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愛の語り手

※世界観を壊さない程度のアドリブ可

 
女船長(台詞:101) 女
 金髪碧眼の女船長。少女に一目惚れされた。作者のカッコいい女性を全て詰め込んだ結果。

少女(台詞:64) 女
 女船長に一目惚れして、無理矢理女船長の海賊船に乗ることに。フィジカル最強格。

ゲイル(台詞:39) 男
 女船長の信頼する航海士。女に飢えている。男性、水夫兼役。

男性(台詞:2) 男
 長文長ゼリフ二つのみ。ゲイルが兼役。

水夫(台詞:1) 男
 セリフ一つのみ。ゲイルが兼役。


【基本的配役】
女船長 (101) : 
少女(64) : 
ゲイル・男性・水夫(42) : 











 




男性 : ああ、また来たのか?昨日親御さんに怒られてただろ…見つからなければいいって、そういう問題じゃないだろ。はぁ、お前ら双子の親御さんは大変そうだな。だって、二人揃って問題児だからな…うっ、いてっ!そうやって暴力に走るのも十分問題児たる所以だろうが!本当にお前らは…こんな海岸線のボロ屋に何のようなんだ?俺の話が聞きたいって言っても、いつも同じ話しかしてないだろ。それに、もうお前ら関連で怒られるのは懲り懲りなんだ、分かったら早く……そんな目で見ないでくれよ…仕方ない、今日で最後だ。早く座れ、じゃないと気が変わる。…これは、俺があるものと一緒に灰にした少女の日記の物語だ。最初のページは、少女が海賊の乗組員になるところから始まる。


    とある町のさなか、女海賊の船長はふと声が聞こえたことに気づく。

 
女船長 : あん?なんだい。アタシに何か用でもあるのかい?
 
少女 : 私を……あなたの船に乗せて頂きたいの。
 
女船長 : …はぁ?何アンタ、わざわざ海賊専属の娼婦にでもなる気かい?
 
少女 : しょ、しょう…!?
 
女船長 : やめときな、あんたはまだ若い。見たところ十三、四くらいか?アイツらがどう扱うかなんて見なくてもわかる。
 
少女 : あ、いや、違くて…し、娼婦になりたいとかじゃなくて…。
 
女船長 : そもそもだ。そんなヒラヒラしたドレスなんて着込んで、死ぬ気にしか見えないね。そんなの海に落ちた途端見世物になるだけだ。男を誘うにしてもそこまでしっかり固められてりゃ、数えるくらいしか寄り付かないだろうし。
 
少女 : わ、私は!の、乗組員になりたいんです!
 
女船長 : …アンタみたいな?女の子が?…っく、ははははは!
 
少女 : なんで笑うんですか!
 
女船長 : 絶対に無理だね、だったら娼婦になりたいという方が全然なり得るよ。そんな体も出来上がってない、船に乗りなれてる訳でもない、動きにくい服で取り繕ってる女の子が海賊の乗組員に?笑わせるんじゃないよ。
 
少女 : 私は本気です!
 
女船長 : ああ、そうかいそうかい。勝手に言ってな。

少女 : 本気なんですから!どうしても聞いてくれないのなら…。
 
女船長 : …っ……!

 
   少女が女船長の腕を掴みあげそのまま地面に引き倒す。その上、女船長の腕を掴んだまま上に座り込む。

 
女船長 : 何をしやがんだい、このクソガキ。
 
少女 : 貴女が私の言ってることを聞いてくれない…からじゃないですか。
 
女船長 : …ぐぅ…!
 
少女 : ほ、ほら見てください。私、他の人より力強いんです。自分の身くらい、自分で守れます!お願いします、乗せてください。じゃないとこの腕折りますから。
 

  真剣な表情のまま力を強める。

 
女船長 : うぅ…!わ、わかった、わかったから離せ。そんで早く降りろ!
 
少女 : ほんとですか!?ありがとうございます!
 
女船長 : 半分脅しにかかったくせに何言ってんだ。クソガキが…はぁ、いいだろう。一度言っちまったし、船に乗せてやる。だがいくつか条件がある。
 
少女 : 条件、ですか?
 
女船長 : ああ、もしそれを破ったら問答無用で縛り上げて海に投げ込んでやるからな。
 
少女 : はい、キャプテン!
 
女船長 : クソ…なんでアタシがこんなクソガキの思いどおりにならなきゃ…。



女船長 : まず一つ目に、アンタが年端もいかない女の子だろうが、労働量は他の奴らと一緒だ。


 
女船長 : さっさと働きな!役立たずはサメの餌だぞ!
 
水夫 : アイ、キャプテン!
 
少女 : あ、アイ!

 
   少女は呼吸を荒らげながら甲板の掃除を続けている。しかしその周りの水夫はそれをジッと眺めながらそれぞれの仕事をしている。

 
女船長 : おい、なに見てんだこの役立たずども!サメの餌より鉛玉で風穴を開けられたいんだな?

 
   銃を掲げる女船長に水夫らは顔をひきつらせながら仕事に戻る。

 
ゲイル : あの女の子、大丈夫なんですかい?面倒事起こされかねませんよ。
 
女船長 : お前だって狙ってるくせに何を言ってる。
 
ゲイル : おっと、ばれてらぁ。だって可愛らしい女の子なんて久々ですぜ?狙うなって言う方が無理です。
 
女船長 : 一等航海士としては優秀なお前の欠点だ。欲望に忠実なのはいいが、それで身を滅ぼしてもアタシは手を貸さんからな。それだけは覚えておけ。
 
ゲイル : アイアイ、キャプテン。

 
   ゲイルはゆるりとその場から離れ、舵を取り始める。

 
女船長 : それにしても、思ったよりへばらないな。アイツ。



女船長 : 二つ目だ、他の乗組員に襲われようがアタシは助けない。降りたければ自分で船から降りるんだな。


 
少女 : つ、次は、どこを、掃除、すれば。
 
女船長 : 随分とへばってるじゃないか。残念だが休憩はまだだ。次は掃除じゃなく、武器と食料の確認だ。この風なら嵐に突入することになりかねん。
 
少女 : わかり、ました。


   少女は残念さを出さずに武器庫へと入っていく。そしてそれを追いかけるようにあくどい笑みをしたゲイルが入る。


女船長 : …ありゃダメか。あそこはもしものことを考えて1箇所にしか扉がない。もうひとつ出る場所はあっても、その先は海の底だしな。…丁度いいか、武器の量的に一度付近の港によらなきゃいけな―
 

   ガタンッと船に響くような大きな音が鳴る。

 
女船長 : …っチィ!火薬のあるところで暴れられたらろくな事にゃならない!なんでアタシが止めなきゃ行けないんだい、たく。

 
   苛立ちに任せて軋む木製の扉を蹴破る女船長。

 
女船長 : こんなとこで暴れてんじゃねぇ!この、ばかもの、共が…?

 
 その先には倒れたゲイルと困ったような表情をした少女、さらに今の揺れで落ちたであろう武器たちが波に合わせて揺れている。

 
女船長 : …あ?
 
少女 : ご、ごめんなさい!この人が後ろからいきなり抱きついてくるから、思わず投げてしまいました!大切な武器が…。
 
女船長 : …お前が、こいつを投げたってのかい?本当に?
 
少女 : は、はい。
 
女船長 : …ック、ははは!マジか、この船一番体格のいいこいつを投げられるなんてな。おいゲイル、いつまでそこで寝てんだい?
 
ゲイル : ………っは!あ~、一瞬意識が飛んでたぜ…って、キャプテン!
 
女船長 : 女に飛ばされた罰だ、そこ片しときな。ついでに武器と食料の確認、お前ならすぐ終わるだろう?
 
ゲイル : あ~、アイアイ、キャプテン。
 
女船長 : それにしても…まさか、本当に自分で身を守っちまうなんてな。ックク、これはお前よりアイツらの心配をした方が良さそうだ。
 
少女 : え?
 
女船長 : そうだ、お前名前は?
 
少女 : 名前、ですか?
 
女船長 : そうだ。あった頃のあの格好からみて、アンタなかなかの貴族様だったんだろう?名前くらいあるはずだ。
 
少女 : クルメ……です。
 
女船長 : クルメ?変な名前だね。まあいいさ、アンタに剣の使い方を教えてやろう。海賊として生き残るには必要な力だ。
 
少女 : …!ありがとうございます!


 
女船長 : そして最後に三つ目だ。これが何より重要だ。弱音を吐かないこと。海の上で泣き言なんて聞きたくないからね。シャワーなんて大それたもんは浴びれないし、飲み物は酒だけだ。分かったな

 
    少女と女船長が甲板で剣の扱い方を学んでいる。周りはまるで見世物を見るかのようにガヤガヤと騒いでいる。

 
少女 : …ハッ…ハァッ…えい!
 
女船長 : そんな剣じゃ相手を殺すどころか傷つけることすら出来ないよ。おら、もっと勢い強く。
 
少女 : は、はい!
 
女船長 : そんなんじゃなぁ、こうなるぞ。
 
少女 : うわっ!

 
   女船長の剣の技に絡め取られ、地面に倒される。その際に剣は少し離れたところに落ちた。

 
女船長 : で、わかったのかい?
 
少女 : な、何となく…なら。
 
女船長 : そうか。じゃあお前ら、相手してやりな。まずは剣を使う事に慣れなきゃな。
 
少女 : が、頑張ります

 
   女船長は甲板からさらに上がり、舵を取っているゲイルの横に立ち止まった。

 
ゲイル : キャプテン自ら剣を教えるなんて珍しいですね。そんなんじゃ、お気に入りだとか言われても仕方ないですぜ。
 
女船長 : まあアイツなら大丈夫だろう。それに、あれ以来襲おうとする奴も減ったらしいしな。
 
ゲイル : ああ、あの時は俺もびっくりしましたしね。でもまだ命知らずはいましたよ。反撃されたり船から落ちたりしてましたから。
 
女船長 : 何人かいないと思ったらそれのせいか。ま、そんな学ばないやつはいらないけどな。
 
ゲイル : はは、言いますねぇ。
 
女船長 : アンタはどうなんだい?
 
ゲイル : 何がです?
 
女船長 : アイツ…クルメのこと。
 
ゲイル : まるで俺が惚れてるみたいな言い方ですけど、別にそんなことないですからね?
 
女船長 : 女に飢えてんのは間違いないだろ?
 
ゲイル : まあそうですけども。だからって見た目だけのゴリラに欲情は出来ないですね。だったらその辺の港まで我慢して適当な女捕まえた方が楽です。
 
女船長 : へぇ。ああいうタイプが好きなんだと思ってたよ。
 
ゲイル : だったらもっと清楚で従順な女の方が好きです。
 
女船長 : …そうかい。
 
ゲイル : 自分で話振って引くのやめてくれません?
 
女船長 : 他の奴らは言ってたよ。ああいうタイプは支配欲をそそるってな。
 
ゲイル : いや?俺的には支配欲よりも庇護欲のが湧きますけど。女らしい力の持ち主だったらな~。
 
女船長 : 気持ち悪いね。
 
ゲイル : ちょっと。

 
   その瞬間、一斉に外野が沸き立つ。少女が水夫の一人の喉元ぎりぎりで剣を構えていた。

 
女船長 : ヒュー、意外とやるね。飲み込みが早い。
 
ゲイル : そうは言っても実践で役に立たなきゃ意味ないですけどね。
 
女船長 : 確かにそうだな。…気分が乗った、次はアタシだ!殺す気で来な?アタシも殺す気で行くから。
 
少女 : こ、殺す気でですか!?
 
ゲイル : あーあ、あんなに笑っちゃって。羨ましくなんてないけどさぁ…。
 

   ふと見上げた空は僅かに曇り始めている。

 
ゲイル : こりゃ、一雨きそうだ。


 
女船長 : さあほら立ちな。次だよ。
 
少女 : も、無理です…一旦、休憩…。

 
   女船長が剣の先を少女のすぐ側に突き立て、ニッコリと笑っている。しかしそれを向けられている少女は随分と疲れた様子で座り込んでいる。もう既に日は傾いてチラホラと黒い雲がたちこめ始めている。

 
女船長 : おっと、いつの間にか賭けしてた野郎共もいなくなってるな。どうせあっちで酒盛りでもしてるんだろう。
 
少女 : キャプテンは、あんまりお酒飲まないですよね。
 
女船長 : いや?アタシがいつも飲んでるアレは全部酒だぞ。最初に言ったろ。飲み物は酒だけだって。
 
少女 : え!冗談とかじゃなかったんですか?
 
女船長 : ……お前、本当にわかってなかったんだな。
 
少女 : だ、だって私お酒なんて飲まなかったですし。
 
女船長 : お前が甘いって喜んでたあれ、あれだって酒だ。
 
少女 : でも私、他の人みたいに酔ったりしませんでした!
 
女船長 : そりゃお前が強かっただけだろう。アタシもなかなか強いとは自負していたが、多分お前には負ける。
 
少女 : えぇ~…。
 
女船長 : そもそもだが、なんでその状態で海賊船に乗ろうと思ったんだ。
 
少女 : …。
 
女船長 : それなりにいい生活はしてたんだろう?それなのにこんな不自由しかない船の中の生活を選んだ、なんでだ。
 
少女 : …えっと…。
 
女船長 : 言いたくないならいいさ。どうだっていいしな。

 
   女船長は剣をしまい、甲板の手すりに腕を掛けて海を見つめる。

 
少女 : …その蒼く凪いだ瞳、それに私は魅入られたから、ですかね。
 
女船長 : はあ?
 
少女 : 確かに私は、一般的にいい生活をしていたんだと思います。でも、不自由で、暇だった。本当に何も無かったんです。綺麗な服を着て、美味しい食べ物を食べて、ふかふかなベッドで寝る。敵なんか居なくて、ある程度は許してもらえる。でもつまらなかった。
 
女船長 : 裕福な人間の不満だな。
 
少女 : だから私は街に出たんです。誰にも何も言わず、一人で。その時に貴女の船を見た。色付いた木製の船体に、黒い帆、そして忙しなく動く人に指示を出す鋭い海の色。綺麗で、綺麗で…私、それを目の前で見たくなっちゃったんです。だから貴女に船に乗せてくれと頼んだ。
 
女船長 : 変なやつだね。アタシの目が宝にでも見えたのかい?だったらその目、抉り出しちまった方がいいと思うんだが。
 
少女 : そんな怖いこと言わないでください!…私、この船でたくさんの男性に襲われました。全部返り討ちにしたけどちょっぴり怖かったのは本当です。
 
女船長 : へぇ、じゃあ降りるのかい?
 
少女 : いいえ!恐怖よりももっと素敵なものが多いこの船を、降りる気なんて全くありません。つまらなかった日常が、なんだかんだ色々教えてくれる彼らで塗られました。黒だったり赤だったり、変な色も多かったかもしれませんが、それも私にとっては新鮮そのもので、とても楽しかったんです。女としてしか見られていたはずなのに、いつの間にか仲間として認められた気がしたんです。
 
女船長 : じゃあその礼としてアイツらにご褒美でもやったらいいんじゃないか?喜ぶぞ。
 
少女 : それじゃ仲間じゃなくてただの娼婦じゃないですか。そんな扱いされるのは嫌なので、初めては、絶対守りきってみせます。それに…。
 
女船長 : はぁん、なるほどな。ハジメテを決めた人がいる感じか。

 
   女船長は体を翻して手すりに体重を任せて少女を見た。いつの間にか少女も立ち上がり、真っ直ぐと女船長を見ている。

 
少女 : 私がここにいるの、それだけが理由じゃないです。
 
女船長 : へぇ、他にもあるのか。酒の味にハマったかい?それとも男を侍らせる楽しさを覚えたのかい?
 
少女 : …いつもキリッとした海が、ふと静かに揺れるだけ姿が好きです。他の場所では見られない、波の揺れ方があるのが好きです。大きな波のように鋭い音が好きです。
 
女船長 : なるほど、海を愛したわけだ。
 
少女 : 冗談を言う時に小さくなる波が好きです。
 
女船長 : あん?
 
少女 : 舵を取るときのキラキラした海が好きです。何日も水を浴びなくて少しパサついた金が好きです、帽子から覗く三つ編みが好きです。
 
女船長 : ちょ、ちょっと待て!今まで海の話してたんじゃ…。
 
少女 : いいえ?私はずっと貴女の話をしてました。貴女の蒼い瞳も、その美しい髪も、その指だって好きなんです。愛してます。
 
女船長 : は、はあ!?よ、よく分からないんだが。

少女 : ええ、知ってます。だから、こうやって私が手を握っても何も反応してくれないんでしょう?
 
女船長 : ……っ!

 
   少女に両手を握られ、固まる女船長。

 
少女 : ねぇ、キャプテン。私は貴女が好きです。愛してるんです。貴女は…。
 
ゲイル : キャプテン!背後に敵戦らしき船が!
 
女船長 : なんだと?ゲイル、詳しく話せ。
 
少女 : キャプテン!
 
女船長 : アタシのことを愛してるんだろう?じゃあこの一戦で生き延びろ。そうしたら少し考えてやる。
 
少女 : が、頑張ります!ので…。
 

   女船長の前に走って跪き、その手を取ってキスをする。

 
ゲイル : お~。
 
少女 : これくらい、お許しくださいね。キャプテン。
 
女船長 : 随分とキザな野郎だな。
 
少女 : ふふ、絶対に生き延びて役に立ってみせるって誓いですから。
 
ゲイル : つーか、早くしないと追いつかれますよ?
 
女船長 : ああ、分かってるさ。待たせたね、ゲイル。状況は?
 
ゲイル : ええ、距離と速度からして…。

 
   ゲイルと女船長の向かった先を見つめ、少女は一人呟く。

 
少女 : 私、絶対に死にませんから。

 
   そしてゆっくりと腰に差しっぱなしだった剣を抜いた。


女船長 : 向こうの方が早いか。
 
ゲイル : そうですね。しかもなかなか船もデカいんで面倒な相手になるでしょうね。
 
女船長 : 何が言いたい?
 
ゲイル : や?これが初参戦って可哀想な子だと思いましてね。例え戦い慣れててもこれなら何人かは死ぬでしょう。
 
女船長 : だから?アタシに手を貸してやれって言ってんのかい?
 
ゲイル : いいえ。ただ、本当にいいんですか?って。冗談抜きでお気に入りでしょ。あの子。
 
女船長 : …アイツな、アタシに好きだって、愛してるって言いやがったんだよ。
 
ゲイル : はぁ……。
 
女船長 : その”愛”が本物なら、生き残れるんじゃないかい?アタシはそれに賭けてみたい。それに、この程度の戦いは一度や二度じゃない。鳥みたいに囲っても足でまといになるだけだ。だったら今のうちに消しちまえってことだよ。
 
ゲイル : はは、なるほどね。鳥は鳥でも飼い鳥か野生の鳥かを見極めたいってことですか。こんなに突然に。あーあ、愛してる人からそんな扱いされちゃあ、報われないですね。あ、ちなみにキャプテンはどっちだとお思いで?
 
女船長 : 飼い鳥が野生で生きようと必死になってるんじゃないか?
 
ゲイル : 違ぇねぇや

 
   甲板に何人もの水夫たちが集まる。その手には剣やら銃やら鉤縄を持ち、今から起こることに関してワクワクしたような表情を浮かべている。雨がぽつりぽつりと降り出す。

 
女船長 : お前ら、今日は久々のでかい戦いになりそうだ。アタシらのモットー覚えてるよな?死にたくないなら戦え!それだけだ!分かったらさっさと位置に着け!役立たずども!!
 
ゲイル : アイ、キャプテン!

 
   雨は小ぶりから大ぶりに変わり、雷もなり響いている。その中でそれぞれが騒がしく位置につく。大砲に着くもの、マストに登って眺めるもの、獲物片手に甲板で待っているものがいる。ゆっくりと船が近づき、横についた。

 
女船長 : 横付けされたぞ!今だ、(撃)てー!!
 

   大砲の音が響き、それぞれの叫び声と足音が鳴る。戦いの火蓋は切られたのである。


   幾分かマシになった雨の中、ゆらゆらと黒焦げが目立つ船が波に紛れて揺れる。女船長は赤い血を腕から滴らせて舵を握っていた。

 
女船長 : ゲイル、いるのか!?
 
ゲイル : アイキャプテン。ここにいますよ。
 
女船長 : …アンタもこっ酷くやられたね。足は?
 
ゲイル : あ~、まあ大丈夫です。きちんと治療すれば、って言われましたけどね。
 
女船長 : ウチの船医はそこまで知識があるわけじゃないからね。そもそも、そんな知識持ってるやつが海賊になんてなるわけがない…悪いが、ちょっと変わってくれないかい?止血したい。
 
ゲイル : はいよ、キャプテン。

 
   船の手すりを背にして止血を試みる。

 
ゲイル : 俺やりましょうか?そこじゃ、届きにくいでしょう。
 
女船長 : 余計なお世話だよ。いいから黙って舵とってな。
 
ゲイル : へいへい。
 

   数分の格闘の末に止血が完了し、女船長は適当なボロ布を傷口に当てる。

 
女船長 : で、現状は?
 
ゲイル : ……。
 
女船長 : 現状は?
 
ゲイル : そうやってすぐ剣を出すの良くないですよ。キャプテン。
 
女船長 : アタシが聞いてるのに無視してるアンタが悪い。
 
ゲイル : 黙ってろっつったのアンタでしょう…まあいいです。生き残った乗組員はほとんど負傷してます。そん中でも酷いのは十二、三くらいだったか。んで、死んだやつは二十四名。まだ使えそうなものを剥ぎ取って海に捨てました。
 
女船長 : まあ上々か。感染症だけは気をつけろって伝えとけ。
 
ゲイル : …じゃ、止血は済んだみたいですし、俺はお暇させていただきますね。お邪魔みたいなんで。
 
女船長 : はあ?なに急に。
 
ゲイル : ま、後ろの子とよく喋るといいですよ。俺は他の奴らの治療に回りますんで。じゃ!

 
   ゲイルは逃げるかのように船内へと駆け込んでいく。

 
少女 : キャプテン、約束通り生き残りましたよ。考えてくださるんですよね?
 
女船長 : …よくあの中を生きのびたな。
 
少女 : 教わりましたから、剣の使い方。
 
女船長 : よくやった。褒めてやろう。
 
少女 : ありがとうございます、でもそれよりも私は…ご褒美が欲しいです。
 
女船長 : っは!ご褒美なぁ?そんなもんでもらって嬉しいか?
 
少女 : ……。
 
女船長 : お前は、一体何になったんだ?なあ、今のお前はなんだ?
 
少女 : え。
 
女船長 : 答えな。
 
少女 : えっと、乗組員?
 
女船長 : 確かにそうだな。それ以前にもっと大きな括りがあるだろう。
 
少女 : ……海賊。
 
女船長 : そうだ、海賊だ。海賊はなぁ、欲しいものは奪ってなんぼなんだよ。だから奪ってみろ。体ででも、心ででも、そのサンムーンみたいな宝石ででも。好きなものでいい、奪えるものならな。
 
少女 : …焚き付けたの、貴女ですからね。絶対に奪ってみせます。
 

   少女はゆっくりと女船長の前でぐっと拳を握る。

 
少女 : 愛してる貴女を、心ごと。
 
女船長 : 勝手にやってな。…あ、でもご褒美位はやろうじゃないか。
 
少女 : え、本当―

 
   女船長がゆったりと近づき、少女の頬にリップ音を鳴らす。

 
女船長 : 今回はここまでだ。だが…もっと頑張れば唇にもしてやってもいいぞ。もっと頑張れば、な。

 
   女船長はゆらりとその場を後にし、少女一人が甲板に残される。

 
少女 : うぅうぅうう~…それは、狡いですよ…絶対に奪ってやりますから!何をしてでも!!


  現代へ帰ってくる。


男性 : こうして、少女は新たに海賊としての道を歩んでいくってこった。めでたしめでた…あだだだだ!おい、髪引っ張るんじゃねぇ!いつもと話が違うって?ああ、最近の巷ではハッピーエンドってのが流行ってるって聞いたからな。こっちの方がハッピーエンドらし…ででででで!次引っ張りやがったらそこの崖から突き落としてやるからな!その下は断崖絶壁だし、海にはゴツゴツとした岩が露出してる。いてぇどころじゃないだろうな。…怖いだろ?ほら、さっさと帰れ。もう日が傾いてきた。あん?明日はいつもの話をしろって?来るなって言ってんのがわかんねぇのか。おいおい、そこに座り込むなって!高そうな服汚したら俺が怒られんだから!わかったわかった!話すから立て!…あーもう、しゃあねぇな。ん?ああ、この痣な。あ~…転んだだけだ。気にすんな。じゃあっ、な!…うるせぇうるせぇ、コケたわけじゃねぇよ!じゃあな!
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