タカと天使の文通

三谷玲

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天降る天使の希い

終の月 その一

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 終の月は文字通り、今年最後の月だ。
 雪が降るほどではないが、冷え込む朝。ソルーシュは珍しく蒼鷹より先に目が覚めた。
 自分の腕の中で眠る蒼鷹に安堵しつつ、その少し疲れた顔色を案じた。

――最近とても忙しそうだ。

 トルナヴィエからの荷が届かないことで、パルサへ確認を取った。
 パルサからの返事には、トルナヴィエの隊商は数ヶ月前に出たきり、戻ってきてはいない。とのことだった。
 やはり、砂漠を越えた先でなにかあったのだろう、というのが賢高の朝議の結果だった。
 せめて夏場なら、砂漠へ使者を派遣することも可能だが、これから冷え込む冬には命の危険が伴う。
 それなら犲の邑へ確認を取るのはどうか? という話になった。

 犀登へ渡り、草原を超え、高い山を超えた先の谷にある邑だ。かつて、舜櫂が十年を過ごした、異国の土地である。

 地の利のある舜櫂を派遣するのが妥当だという長老たちを蒼鷹は制した。
 危険極まりない土地に舜櫂を送ることは断じてならない。舜櫂はこの後宮になくてはならない存在だと強い言葉だった、らしい。
 結局、派遣されることになったのは犲の一派で道案内を生業にしている市井の人となった。
 それもまた朝議は難航したらしく、蒼鷹は忙しい日々を送っていた。

――ワタシは見守るだけしかできないんだろうか?

 ぐっすり眠っている蒼鷹の顔にかかる髪を払い、その頭をそっと撫でた。
 気持ちがいいのか、その身体を押し付けてきた。
 まるでアービやオーランのようだと、気が和んだ。



 寒さが厳しくなり、院子ではなく広間で食べる朝餉は、粥といくつかの薬味が並ぶ簡素なものだ。
 温かい粥の湯気から鶏の出汁が香る。
 いくつかある薬味の中でソルーシュが一番気に入っているのは油条と呼ばれる揚げパンだ。
 トルナヴィエでパンといえば平たい丸いパンで、味はほとんどない。それに野菜や肉を挟んで食べていた。
 油条を手に取り、まずはそのまま食べる。
 揚げたての香ばしい匂いとさくさくとした食感が楽しい。
 今度はそれを千切って粥に浸す。
 油が粥に馴染み、柔らかくなる。
 ふにゃりとした油条に鳥の出汁が染みて、味に変化が出る。

「ソルーシュは本当に油条が好きだな」
「米も美味しいとは思うんですけど、粉のほうが馴染みがあるからでしょうか?」

 こちらに来て米食にもだいぶ慣れた。
 はじめは箸の使い方もままならなかったが、今では豆粒ひとつ掴むこともできるようになった。
 その箸でザーサイをひとつまみ、粥に落とすとレンゲで一口。辛味の効いたザーサイが口の中でこりこりと音を立てた。

「いつも気になっていたのですが、舜櫂や峰涼は朝餉はどうしてるんですか?」
「もちろん、先に頂いていますよ」

 ふたりとも、ソルーシュたちが起きる前には食べ終えているそうだ。それもとても早い時間に。

「少食の舜櫂はいいとしても、峰涼はお腹が空いてしまいそうですね」
「大丈夫だ。こいつはときどき菓子を食ってる。私の執務室には峰涼専用の菓子箱があるくらいだからな」
「陛下、バラさないでください」

 専用の菓子箱には腹持ちと日持ち、両方を兼ね備えた菓子がいくつも用意してあるらしい。
 舜櫂はどうしているのか尋ねると、一瞬、場の空気が変わった。
 不思議に思ったソルーシュだったが、舜櫂はへらりと笑った。

「拙はもう年ですから、峰涼のように馬鹿食いしなくても問題ないのですヨ」
「馬鹿食いとはなんだ、馬鹿食いとは!」
「いや、馬鹿だろう? だいたいお前がそんなに大食いだから御膳部のやつらに嫌われているんだ」
「嫌われてなどおりません! あれはアービが!」

 以前、選り好みする鷹に苦労したことを引き合いにだされ、峰涼が慌てて反論した。
 それを聞いてソルーシュが謝ろうとしたため、峰涼はまた慌てて弁解を始めるのだった。

 さっきの静まり返った雰囲気のことはすっかり消え去っていた。
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