僕と賢者の108日

三谷玲

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67日

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 年明けの朝、久しぶりにオスカーがミルク粥を片手にやってきた。

「今度の作戦は餓死させるつもりだったのか?」

 冗談のつもりで言ったが、オスカーは笑うどころか冷たい視線を向けてきた。ミッシャは自分でも笑えないのは分かっているが、沈黙に耐えられなかった。

「飢えで絶望するくらいなら、とっくの昔に絶望していたでしょう? 昔はこの粥すら食べられない日もあったのですから」

 久しぶりの粥は温かく、身体に染みた。
 これを食べ終えたら、またオスカーに抱かれるのだろうと思うと、ミッシャの手が止まった。時間を掛けたからといって、どうにかなるわけではないが、気持ちを落ち着かせたかった。
 オスカーはミッシャが食べるのをただ黙って見ていた。
 居心地が悪い。

「なんか喋れよ」
「食事中は静かにしろと言ったのはミッシャです」
「あれは子供の時の話だろ? お前喋り出すようになったらとたんに口数増えて、なんでなんでって聞いてきて飯食わなかったんだから」

 オスカーを拾ってから半年ほど経った頃だ。魔術を覚えはじめたオスカーはなんでも知りたいのだと、ミッシャにあれやこれやと尋ねた。
 器ってなに? どうしたら強くなれるの? ミッシャは誰に教わったの? なんで? なんで?
 可愛かったが、飯の時まで話始めるものだから、ミッシャが叱ったのだ。

「とにかく、なんか話はないのか? 研究は順調だーとか、僕に恨み言とかさ。なんでもいいから、話せよ。どうせまたこれ食べ終わったら……するんだろ?」
「魔力譲渡ですよ。それとも、セックスするって言ったほうがいいんですか? 嫌がるふりして、本当は愉しんでました?」

 ずきりと腹が痛む。

「今のは、効果あるみたいだぞ」
「そうですか、それはよかった。早く食べてください。まだ魔力は足りてないんですから」



 オスカーに組み敷かれて、ミッシャははじめて酔いしれた。素直に。

「オスカー、そこ……っいい、あっ……っ♡ だめ、あ、や……っ♡」
「やっぱり、素質、あったんじゃ、ないんですか?」
「ち、がうっ、あっ……おまえ、がっ……こうした、んだろ? ふ、ぁっ♡」

 ほとんど馴らしもせずに突き入れられたから、痛みはある。それなのに、オスカーの陰茎が中を探るように動くと、身体がぞわりとした。
 背後から腰を掴むオスカーの手は熱く、その温度にまで感じてしまう。ぐっと押し込まれて、魔力が奪われていく感覚に眩暈がする。
 オスカーはときおり、ミッシャを言葉で苛んだ。

――父親が、淫乱だって知ったら、悲しむでしょうね?
――まぁ、もう会うこともないでしょうが。
――育てた子に、女にされる気分は、どうです?

 一瞬心が、器が痛んだ。
 それでも、オスカーから与えられるものは、なんでも受け入れたいと思った。
 家族を捨てる決意をした。薄情な父親だと罵られようと、恨まれようと、オスカーの研究を完遂させる。なら、素直にオスカーを受け入れたかった。

 いや、我慢しなくてよくなった。

 ミッシャはなんだかんだ、言い訳をしてきた。
 年若いオスカーに自分はふさわしくない。捨てたことを恨んでいるのだ、これは復讐だと。家族のこともそうだ。彼らを見捨てるなんて、自分の親と同じことをするなんて……。
 すべてをいったん棚に置いてしまえば、残ったのはオスカーを愛しているということだけだった。
 ミッシャは、オスカーを愛している。
 家族として、ではなく、一人の男として。
 それは今この時気付いたことではない。
 あの晩、オスカーに『愛してる』と言われた時よりも、もっと前から。

「そろそろ、こっちでも、イけるんじゃないんですか?」

 ミッシャの陰茎の根本を押さえつけたオスカーが、トンと奥を突いた。

「……っさすが、に……むり、だろ……っ、ん、うっ♡」

 反対の手がミッシャの口の中に入り込んできて、舌を摘まんだ。人差し指で裏を掻かれて、吐き気と共に背がしなった。

「締まりましたね、きつ……。もしかして、痛いのも、良いんですか? はは、変態」
「あ、う……、んぁ♡ ふ、んっ♡」
「……喜んで、欲しくて、してるわけ、じゃ、ないっ、んですけ、ど……っ」

 痛みと快楽、そして奪われていく魔力。
 三つが一緒にミッシャを襲う。

「んん――っ♡」

 意識を手放すと同時に、ミッシャの身体は絶頂を感じていた。
 オスカーが言うように、射精もしないで達する感覚は途方もなく幸福感に満たされていた。
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