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第4部 妖精の森編
84 上級ダンジョン②
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ロウが咄嗟にアルビエールを押しのけ、その身代わりに蛇が放った紫色の霧を受けた。
私は瞬時に防御魔法を展開させて、霧の毒を防ぐ。
ロウは私のサポートが来ると知っていたのか、すぐに攻撃に転じて、流れるように魔法の力を込めた剣を振り上げた。
蛇はザッと真っ二つに切られ、ダンジョンの床で悶え苦しんでいた。
「……そうね、Aランクならこれくらい当たり前よね!」
アルビエールは自信満々に言う。
そうじゃなくて、命を助けてもらったのだから、まず感謝を言葉を言うべきところなのに……。やれやれ。
ロウはアルビエールの反応に期待していないのか、初めから耳を貸していない。
「ロザリー、悪いがこいつを処理してくれ」
ロウが指差す方を見ると、紫色の霧は辺りに広がり始めていた。
あれは毒か……。
これはいけない。吸い込むと体中に毒が回ってしまう。
私はすぐに浄化魔法を放った。
すると、毒の霧は消え去る。
アルビエールと男たちは拍手をした。
「すごいわ! Aランク冒険者ってこんなことができるのね! 私、感動しちゃったわ♪」
アルビエールはやはりカメラに向かって言う。
「……ロザリーが特別なだけだ」
ロウはため息を吐いて言った。
特別なのはロウも一緒だと思う。
ロウの魔法と剣術はSSS級、私の治癒力は元聖女のお手前。
そう、私たちはAランクの域を遥に超えている。
アルビエールと男たちは先に進むと言って私たちから離れたため、私たちはその後をついていくことにした。
さっきの蛇みたいなモンスターが現れたらどうしようかと思ったが、幸いにもそれはなかった。
「あの人たち、大丈夫かしら……」
私が呟くと、ロウが頷いた。
「ああ、最奥まではまだ距離があるが、ダンジョンは何が起こるかわからない……」
その時だった。
「きゃー!」
遠くから叫び声が上がった。アルビエールの声だ。
「まったく、勝手に行動するから……ロザリー、行こう」
ロウは素早く駆け出し、私はその後を追った。
◇
私たちが駆けつけると、そこは最奥へ続く裏道だった。
巨大な扉の前で、アルビエールとその仲間たちが怯えた様子で立ちすくむ。
開け放たれた扉の前には、ボスモンスターが鎮座していた。
それは二足歩行の龍のような姿をしており、鋭い爪と牙を持っていた。体は赤い鱗に覆われ、金色の目が光っている。
アルビエールは絶望してガクガク震えた。
「このモンスター、Aランクでも討伐が難しいじゃないの……。逃げるしか……」
「お嬢さま、俺たちに任せてお逃げください!」
二人の男たちが囮になろうと前に出たが、やはり足が小刻みに震えている。
「ロザリー、援護を頼む」
「任せて!」
私はすぐに防御魔法を展開し、彼女たちを救出しようとするロウの周囲に、魔法陣のバリアを張った。
アルビエールたちは一歩後退して、安全な距離を取る。
「カメラを貸して!」
アルビエールは男の一人からカメラを奪った。
「お嬢さま!」
「この絶好のチャンスを逃すものですか……!」
彼女はファインダー越しに、モンスターを捉えた。
ボスモンスターが咆哮を上げ、巨大な爪でロウに襲いかかる。
だが、ロウは一歩も引かず、その攻撃を受け流しながら、反撃に転じた。
ロウの剣が閃き、ボスモンスターの体に深い傷を負わせる。
モンスターは激しく動き、痛みに怒り狂った。
「ロザリー、右だ!」
ロウの指示に従い、右側に回り込んで、わずかな攻撃の隙を作った。
その瞬間、ロウが強力な魔法を放つ。
どこからか出現した稲妻がボスモンスターに直撃。
その衝撃で地面が大きく揺れた。
「シャインアロウ!」
私はその隙を逃さず、モンスターの急所である首に向けて光の矢を放った。
その光の矢は命中。
モンスターは「ギャウウウウウ……!」と最後に咆哮を上げ、やがて力尽きて倒れた。
アルビエールと男たちは、息を呑んでその光景を見守っていた。
「すごいわ……」
アルビエールは感動して呟いた。
ロウはため息をつき、剣を収める。
「俺たちが一緒で、運が良かったな。他のAランクの冒険者だったら、お前たちは重症を負わされただろうな」
「あのボスモンスターはS級討伐の案件くらいの強さよ。あなたがたは一体何者……!」
アルビエールが驚きの表情で尋ねた。
「ロウだ。本名はグロウだが、ロウで知られている」
「私はロザリーよ。勇者パーティにいたこともあるけれど、今はロウと二人で旅しているの」
アルビエールの目が大きく見開かれた。
「それって……大魔法使いさまと英雄さまではないですか! ああっ! 私ったら今まで大変失礼な態度を……申し訳ございませんでした!」
彼女は急に丁寧な言葉になり、膝と頭をくっつける勢いで頭を下げた。
ロウはやれやれと腕を組む。
「ロザリーの厚意でダンジョンまで着いてきてやったんだ。感謝するんだな」
「は、はい……!」
アルビエールは顔を赤らめて答えた。
ダンジョンの出口に着くと、アルビエールと男たちは深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとうございました! お二人がいなかったら、私たちの命は危なかったです」
「……次からは自分のランクに見合ったダンジョンに挑戦するんだな」
ロウは淡々と答えたが、その眼差しには厳しさと優しさが込められていた。素直な彼女たちが可愛く見えたのだろうか。
アルビエールは感激し、再度深くお辞儀をした。
「本当に、ありがとうございました。……あの、大魔法使いさまと英雄さまが映ったこの動画を私のチャンネルでアップさせていただいてもよろしいでしょうか。きっとバズ……ではなく、お二人の立派な姿を世間の人に知ってもらいたいのです」
私はロウと顔を見合わせた。
命を助けてもらっていて、動画をアップしたいとは……図々しいにも程がある。
「無理に協力する必要はないと思うが」
「そうね」
頷き合った私たちを、アルビエールは「そこをなんとか!」と必死に拝んだ。
「大魔法使いさま、英雄さま、どうかお慈悲を」
私は彼女の圧力に根負けした。
動画配信者ならではの、押しの強さを感じる。
「私は構わないわ。……魔獣を倒したところで、評判は広がっても、ちっとも顔を覚えてもらえていないの。それはそれで隠居のようで楽しかったけれど、この機会に広く一般に知られてもいいなと思ったのよ」
私がそう言うと、ロウは「そうか」と言って頷いた。
「ではアルビエール、その動画とやらをアップしても構わないよ」
「本当ですか!」
アルビエールは顔を輝かせた。
「絶対に良い動画にします! お二人のお姿は必ず後世に残る名場面として語り継がれるはずです!」
そう息巻くアルビエールたちと別れた後、私とロウは次の目的地、妖精の森へ向かうことにした。
緑豊かなその場所には、ロウの過去に繋がる出会いがあるだろう。
「ロザリー、あのアルビエールの動画が配信されたら、どうなるんだろうな」
「きっと、たくさんの人が見るわね。私たちの評判も上がるかもしれないわ」
その予感は的中した。その日の夜にアップされた、アルビエールの動画は大バズりし、寛大で最強な私たちの評判が一気に広がった。
しかし、コメント欄には予期せぬ反応もあった。
「大魔法使いさまの印象が違う、別人じゃないか?」
「髪型と服装が変わっただけで、こんなに雰囲気が変わるなんて、道端でご本人に会ったとしてもきっと分らないわ。……さすがご隠居ね」
ロウはその反応に苦笑いしながらも、あまり気にしていない様子だった。
「人は見た目に騙されるものだな」
私は笑って同意した。
「でも、それが私たちの強みかもしれないわね。見た目じゃなくて、実力重視だから」
こうして私たちは、次の冒険へと進んでいった。妖精の森に待ち受ける新たな出会いに胸を高鳴らせながら。
私は瞬時に防御魔法を展開させて、霧の毒を防ぐ。
ロウは私のサポートが来ると知っていたのか、すぐに攻撃に転じて、流れるように魔法の力を込めた剣を振り上げた。
蛇はザッと真っ二つに切られ、ダンジョンの床で悶え苦しんでいた。
「……そうね、Aランクならこれくらい当たり前よね!」
アルビエールは自信満々に言う。
そうじゃなくて、命を助けてもらったのだから、まず感謝を言葉を言うべきところなのに……。やれやれ。
ロウはアルビエールの反応に期待していないのか、初めから耳を貸していない。
「ロザリー、悪いがこいつを処理してくれ」
ロウが指差す方を見ると、紫色の霧は辺りに広がり始めていた。
あれは毒か……。
これはいけない。吸い込むと体中に毒が回ってしまう。
私はすぐに浄化魔法を放った。
すると、毒の霧は消え去る。
アルビエールと男たちは拍手をした。
「すごいわ! Aランク冒険者ってこんなことができるのね! 私、感動しちゃったわ♪」
アルビエールはやはりカメラに向かって言う。
「……ロザリーが特別なだけだ」
ロウはため息を吐いて言った。
特別なのはロウも一緒だと思う。
ロウの魔法と剣術はSSS級、私の治癒力は元聖女のお手前。
そう、私たちはAランクの域を遥に超えている。
アルビエールと男たちは先に進むと言って私たちから離れたため、私たちはその後をついていくことにした。
さっきの蛇みたいなモンスターが現れたらどうしようかと思ったが、幸いにもそれはなかった。
「あの人たち、大丈夫かしら……」
私が呟くと、ロウが頷いた。
「ああ、最奥まではまだ距離があるが、ダンジョンは何が起こるかわからない……」
その時だった。
「きゃー!」
遠くから叫び声が上がった。アルビエールの声だ。
「まったく、勝手に行動するから……ロザリー、行こう」
ロウは素早く駆け出し、私はその後を追った。
◇
私たちが駆けつけると、そこは最奥へ続く裏道だった。
巨大な扉の前で、アルビエールとその仲間たちが怯えた様子で立ちすくむ。
開け放たれた扉の前には、ボスモンスターが鎮座していた。
それは二足歩行の龍のような姿をしており、鋭い爪と牙を持っていた。体は赤い鱗に覆われ、金色の目が光っている。
アルビエールは絶望してガクガク震えた。
「このモンスター、Aランクでも討伐が難しいじゃないの……。逃げるしか……」
「お嬢さま、俺たちに任せてお逃げください!」
二人の男たちが囮になろうと前に出たが、やはり足が小刻みに震えている。
「ロザリー、援護を頼む」
「任せて!」
私はすぐに防御魔法を展開し、彼女たちを救出しようとするロウの周囲に、魔法陣のバリアを張った。
アルビエールたちは一歩後退して、安全な距離を取る。
「カメラを貸して!」
アルビエールは男の一人からカメラを奪った。
「お嬢さま!」
「この絶好のチャンスを逃すものですか……!」
彼女はファインダー越しに、モンスターを捉えた。
ボスモンスターが咆哮を上げ、巨大な爪でロウに襲いかかる。
だが、ロウは一歩も引かず、その攻撃を受け流しながら、反撃に転じた。
ロウの剣が閃き、ボスモンスターの体に深い傷を負わせる。
モンスターは激しく動き、痛みに怒り狂った。
「ロザリー、右だ!」
ロウの指示に従い、右側に回り込んで、わずかな攻撃の隙を作った。
その瞬間、ロウが強力な魔法を放つ。
どこからか出現した稲妻がボスモンスターに直撃。
その衝撃で地面が大きく揺れた。
「シャインアロウ!」
私はその隙を逃さず、モンスターの急所である首に向けて光の矢を放った。
その光の矢は命中。
モンスターは「ギャウウウウウ……!」と最後に咆哮を上げ、やがて力尽きて倒れた。
アルビエールと男たちは、息を呑んでその光景を見守っていた。
「すごいわ……」
アルビエールは感動して呟いた。
ロウはため息をつき、剣を収める。
「俺たちが一緒で、運が良かったな。他のAランクの冒険者だったら、お前たちは重症を負わされただろうな」
「あのボスモンスターはS級討伐の案件くらいの強さよ。あなたがたは一体何者……!」
アルビエールが驚きの表情で尋ねた。
「ロウだ。本名はグロウだが、ロウで知られている」
「私はロザリーよ。勇者パーティにいたこともあるけれど、今はロウと二人で旅しているの」
アルビエールの目が大きく見開かれた。
「それって……大魔法使いさまと英雄さまではないですか! ああっ! 私ったら今まで大変失礼な態度を……申し訳ございませんでした!」
彼女は急に丁寧な言葉になり、膝と頭をくっつける勢いで頭を下げた。
ロウはやれやれと腕を組む。
「ロザリーの厚意でダンジョンまで着いてきてやったんだ。感謝するんだな」
「は、はい……!」
アルビエールは顔を赤らめて答えた。
ダンジョンの出口に着くと、アルビエールと男たちは深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとうございました! お二人がいなかったら、私たちの命は危なかったです」
「……次からは自分のランクに見合ったダンジョンに挑戦するんだな」
ロウは淡々と答えたが、その眼差しには厳しさと優しさが込められていた。素直な彼女たちが可愛く見えたのだろうか。
アルビエールは感激し、再度深くお辞儀をした。
「本当に、ありがとうございました。……あの、大魔法使いさまと英雄さまが映ったこの動画を私のチャンネルでアップさせていただいてもよろしいでしょうか。きっとバズ……ではなく、お二人の立派な姿を世間の人に知ってもらいたいのです」
私はロウと顔を見合わせた。
命を助けてもらっていて、動画をアップしたいとは……図々しいにも程がある。
「無理に協力する必要はないと思うが」
「そうね」
頷き合った私たちを、アルビエールは「そこをなんとか!」と必死に拝んだ。
「大魔法使いさま、英雄さま、どうかお慈悲を」
私は彼女の圧力に根負けした。
動画配信者ならではの、押しの強さを感じる。
「私は構わないわ。……魔獣を倒したところで、評判は広がっても、ちっとも顔を覚えてもらえていないの。それはそれで隠居のようで楽しかったけれど、この機会に広く一般に知られてもいいなと思ったのよ」
私がそう言うと、ロウは「そうか」と言って頷いた。
「ではアルビエール、その動画とやらをアップしても構わないよ」
「本当ですか!」
アルビエールは顔を輝かせた。
「絶対に良い動画にします! お二人のお姿は必ず後世に残る名場面として語り継がれるはずです!」
そう息巻くアルビエールたちと別れた後、私とロウは次の目的地、妖精の森へ向かうことにした。
緑豊かなその場所には、ロウの過去に繋がる出会いがあるだろう。
「ロザリー、あのアルビエールの動画が配信されたら、どうなるんだろうな」
「きっと、たくさんの人が見るわね。私たちの評判も上がるかもしれないわ」
その予感は的中した。その日の夜にアップされた、アルビエールの動画は大バズりし、寛大で最強な私たちの評判が一気に広がった。
しかし、コメント欄には予期せぬ反応もあった。
「大魔法使いさまの印象が違う、別人じゃないか?」
「髪型と服装が変わっただけで、こんなに雰囲気が変わるなんて、道端でご本人に会ったとしてもきっと分らないわ。……さすがご隠居ね」
ロウはその反応に苦笑いしながらも、あまり気にしていない様子だった。
「人は見た目に騙されるものだな」
私は笑って同意した。
「でも、それが私たちの強みかもしれないわね。見た目じゃなくて、実力重視だから」
こうして私たちは、次の冒険へと進んでいった。妖精の森に待ち受ける新たな出会いに胸を高鳴らせながら。
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