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第二部 極北の修道院編

51 潜入開始

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 いざ、修道院の裏口のドアを開けようとしたライザが手を止めた。
 
「よろしければ、修道女の服が余っていますので持ってきましょうか」
 
 旅装束を身につけた私たちに、ライザがそのように申し出てくれた。
 私と第一王子は潜入に合わせて動きやすい黒い服を着ているが、修道女の集団に入ると服装の違いから、こちらがよそ者と一発でバレてしまうだろう。
 ソニアに操られている修道女がウヨウヨいるのだ。多数に無勢で圧倒的に不利だ。
 
「は? 修道女の服だと――?」
「お願いします! 二人分ね!」
 
 第一王子の戸惑いの言葉に重ねて言う。この修道院は男子禁制だから、手段は選んでいられない。
 
「はい、分かりました」

 ライザが快諾してくれて、衣装を取ってきてもらうことになった。
 隣からギロリと睨まれる視線を感じるが、無視することにした。
 
 それほど時間が立たないうちにライザは戻ってきた。私たちのために急いでくれたのだろう。
 洗濯物のバスケットの中に、修道女の服が紛れ込ませてあった。
 黒いローブを着て頭巾を被れば、二名の修道女の出来上がり。
 
「修道女のふりをするのはわかるが……さすがに俺は無理がないか……?」
 
 第一王子の短髪は頭巾によって隠されている。違和感と言えば、女性にしては背が高いぐらいだろう。
 私はニッコリと笑った。
 
「いいえ、とてもお綺麗ですよ。お姉さま」

 そう言うと、第一王子の美しくも眉間に皺のある顔が引きつる。
 
「そう言われるのも複雑な気分だが……」
「身支度も整ったことですし、さあ行きましょう」

 敵が待ち構えているのは怖い。けれど、自分を奮い立たせた。
 ライザが大魔法使いさまのいる地下牢まで案内すると言ってくれたが、戦闘に巻き込むと危ないので、その申し出は断った。地下牢への行き方はしっかり聞いておく。
 
「どうかご無事で」
 
 ライザと別れ、廊下を歩く。
 修道女が歩いてきて、すれ違う。変装の効果があるのか、バレていないようだ。良かった。
 と、安心したものの、誰かがドアを開けた拍子に突風が吹いてくる。

「あ、頭巾が……!」

 私が叫ぶ間に、あれよと頭巾が落ちる。第一王子の金髪の短髪が顕になった。慌てて彼が拾い上げるが遅かった。

「……男。……不審者ハ、排除スル……」
 
 すれ違ったはずの修道女は、ブツブツと呟きながら、くるりと踵を返してこちらに向かってきた。

 これはマズい……!

 その修道女は私たちを感情のない目で見るなり、手を振り上げる。魔法使いではないのに、その手には攻撃魔法のエネルギーが溜まっていく。
 第一王子は腰に隠してある剣にサッと手をかけた。

「待って、私がやるわ!」

 操られている修道女を傷つける訳にもいかない。
 私は無詠唱の攻撃無効の魔法を打ち、さらに修道女に浄化の魔法をかけた。

 修道女は一瞬目の光を取り戻すと、その場に倒れた。魔法使いでないのに、無理に魔法を使ったせいで体に負荷がかかったのだ。数時間もすれば目覚めるだろう。

 騒ぎを聞きつけてやって来た数名の修道女も攻撃魔法を発動しかけるが、同じように攻撃無効と浄化の魔法をかけておいた。バタバタと修道女が倒れていく。
 ふう。この場の鎮静化は成功だ。
 
「さすがロザリーだな。だが、修道院の全員を一気に浄化できないのか?」
 
 第一王子の疑問はもっともだ。
 うん。それができたら最高だよね。敵を一掃できるし。
 
「魔力の消耗が激しいので、できたとしても数人ずつが限界です」
「そうか……」
「こんなことが起きないように、さらに目眩しの術をかけておきますね」

 私たちから注意を逸らす魔法をかけておいた。これなら風のイタズラが起きても安心だ。
 
「目眩しの術が使えるのなら、そもそも変装は不要では……?」
「いいえ、修道女の服にかけるからこそ、相乗効果で術の強度が増してるんです!」
「それならいいが……」
 
 そう言いながらも納得しきれない第一王子。
 その後は他の修道女をやり過ごしながら、ライザに聞いた地下牢への階段へ向かう。

 周囲を警戒しながらやっと階段を見つけたところで、後ろから声がかかった。
 
「あなたたち――見ない顔ね」
 
 振り向くと、女性の眼鏡がキラリと光った。中年の女性で修道服を着ている。おそらく修道院長だろう。
 
 マズい! 敵に見つかった! この人には目眩しの術が効いていない!?
 
 焦りで手が震える。どうする。どうすればいい?
 答えが見つからないまま、チラリと第一王子の顔を見る。すると、驚いたことに冷静な顔をしていた。
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